シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
番外扱いにしても良かったかもですが、グラスも出るので。
そのウマ娘は、世間でいうところの良血の出であった。
母親はGⅠを複数制した一時代の王者。その血を引く娘もまた、戴冠を当然のように期待されていた。
黄金世代の一角ともてはやされ、華のクラシックでの活躍を夢見ていた。
しかし、
『逃げ切った、逃げ切ったぞセイウンスカイ! 皐月賞を制したのはトリックスター、セイウンスカイだ!!』
『黄金世代のダービーウマ娘は―――スペシャルウィーク!! スペシャルウィークです!! 夢を掴んだのは、スペシャルウィークだ!!』
『グラスワンダー一着!! クラシック最後の一冠、菊花賞を勝ったのはグラスワンダーだ!! ジュニア級王者が今完全復活!! 不死鳥のごとく蘇りました!!』
蓋を開けてみれば本人含めて周囲が想い描いていた栄光はどこにもなく、栄えあるクラシックの冠は友人たちが分け合っていた。
それだけではない。黄金世代と持ち上げられた五人の内、彼女だけが未だGⅠ戴冠に至っていなかった。
同時に走り出したはずなのに、友と大きく差を開くこととなった。
「ごめん、ごめんね……キング……」
その謝罪に何の意味があるのか。菊花賞が終わった後、彼女のトレーナーは涙ながらに続けた。
「私がトレーナーになったばっかりに……もしも、私じゃなくてお父さんがキングの───」
「その先を言ったら許さないわよ」
彼女は自身のトレーナーに、ある種のシンパシーを感じていた。
知って担当契約をしたわけではない。が、トレーナーもまた親が一流故に同様の成果が期待されていた。
互いに親が一流。故の期待、故の重責。奇しくも同じものを背負っていた二人は導かれるように出会い、互いに誓った。
───私は、私の名を轟かせてみせる……!
誰それの娘、などという肩書ではなく、自身の名を。むしろ一流である親が、キングヘイローの親と呼ばれる。そんな存在になってみせると。
「キング……」
「私があなたをトレーナーに選んだのは、あなたのお父様が一流だからなんかじゃない……!」
クラシックの結果は散々だった。
すでに世間は期待外れと肩をすくめることを通り越して、誰も彼女たちを見ていない。注目されるのはクラシックで勝ち抜いたウマ娘たちのことばかり。
それでも、キングヘイローが俯くことは無かった。
「一流の道を歩む覚悟をあなたが示してくれたからよ。だから、顔を上げなさい」
「まだ、私をトレーナーにしてくれるの?」
トレーナーへと手を差し伸べるキングヘイローに訊ねると、彼女は不敵に笑った。
「当然でしょう。結果だけを見て、その過程を無視して契約切るなんて一流のすることじゃないわ」
差し出された手を取る。若きトレーナーの瞳に、再び炎が点いた。
◆
その日、キングヘイローは一人グラウンドを走っていた。トレーナーと定めたトレーニングまでまだ時間がある。だからと言ってだらけていられる性分ではなく、自主トレに当てていた。
秋から冬に変わりつつあるとはいえ、身体を動かしていれば体温も上がってくる。浮かんだ汗を拭いながら走る彼女は今年のレースを振り返っていた。
クラシック三冠のうち、皐月賞はセイウンスカイに振り切られて二着。日本ダービーは十四着という大敗。菊花賞は走り切るも五着に終わった。
GⅡ以下の重賞も勝ちきれず、クラシック級になってから未だ勝利は無い。
不甲斐ない結果に憤慨しつつも、キングヘイローはある結論に至りつつあった。
───自分は、長い距離への適性がないのではないか。
要は向き不向きの話だ。芝とダート、短い距離と長い距離。ウマ娘には生まれ持って自分に合ったバ場と距離がある。
傾向としては血統による遺伝が大きなウェイトを占めるとされる。母がスプリンターなら娘もスプリンター、母がダート巧者なら娘もダート巧者と言った具合に。
無論例外もある。しかし定説が崩れるには至らなかった。
キングヘイローの母に長距離の実績は無い。だがそれはレースに出ていないだけで可能性は十分にあった。
なによりも、母が勝っていない長距離GⅠを勝つことはキングヘイローにとって大きな意味があった。母を超えるという意味が。
(でも、菊花賞は五着で皐月賞は二着……日本ダービーは失策だから当てにならないとして、悔しいけれど私の適性はお母さま譲り……)
勝ってこそないが、着順をみれば距離が短いほど成績が良い。自身の適性はギリギリで中距離まで、長くとも2,000m程度なのだろうと推察した。
長距離も走れないことはないだろうが、おそらく掲示板入りが精々で勝ち目はない。
天を仰ぐ。長距離適性がないということはそれほど大きなハンデではない。日本のレースの主流は中距離だ。
しかし、
(……スカイさんにグラスさん、スペシャルウィークさん。菊花賞に出たみんなはおそらく天皇賞(春)を目指すでしょうね)
それは数少ない長距離GⅠ。けれどもこの国で最も歴史と権威のある八大レースの一つだ。長距離適性がないということは、天皇賞(春)に出ないということ。
そして同時に。友人たちとの競争から離れるということでもあった。
適性に従い王道から逸れること、夢と掲げた一流への道。堅実か夢か。キングヘイローは人生の岐路に立たされていた。
「キーングーー!!」
懊悩するキングヘイローの耳に届くのは、彼女の担当トレーナーの声だった。
富永裕子。
トレーナーとして偉大な父を持つ若き女性トレーナー。まだ目立った実績はないが、一流の親への反骨心のような感情には共感できた。
「どうしたのトレーナー。まだトレーニングまで時間があるけれど?」
「ついさっきたづなさんから連絡貰って! 居ても立っても居られなくて……これ!」
バッ、と広げたのは何かのリストだった。ウマ娘の名前の横に番号が振ってある。
レースの出走表と思ったが数が多すぎる。
「これは?」
「人気投票! 有馬記念の! キングが十位なんだよ!」
「ええ!?」
年の瀬のグランプリである有馬記念。昨年はライスシャワーが復活GⅠ勝利を果たした大レースだ。普段のレース成績だけでなく、ファン投票の上位に優先出走権が与えられる。
キングヘイローの順位は、ギリギリその優先出走権を得られる位置だった。
「ど、どうする……?」
「どうするって……」
恐る恐る聞いてくる富永。即答できないキングヘイロー。
有馬記念は2,500m。中距離に近いが、区分としては長距離に当たる。
ついさきほど自身の長距離適性を疑問視していたところにこの知らせは、固まりかけた決意に迷いを生んだ。
リストを今一度よく見る。ライスシャワーやエアグルーヴと言った昨年に引き続きのメンバーに加えてセイウンスカイ、グラスワンダー、スペシャルウィーク。同期でありクラシックの三冠を分け合った、所謂三強も名を連ねていた。
(スペシャルウィークさんは菊花賞以降は休養と言っていたわね。他の二人は……)
おそらくは出るだろう。セイウンスカイもグラスワンダーもはっきりと口にはしないが、レースへの栄光に拘る二人だ。
(もしかしたら、みんなと一緒に走るのはこれが最後になるかもしれない。それに……)
今一度、自分の適性を確認するチャンスかもしれない。
2,000mは走り切れた。2,400mは失策により大敗したから分からない。もしも2,500mで結果を出すことが出来たなら、自分はまだ王道の路線にいられるかもしれない。
「出ましょう。せっかくこのキングに投票してくれたファンを悲しませることは出来ないわ!」
「そ、そうだよね! よーし早速登録だ。頑張ろうねキング!」
「ええ! 今度こそ、私たちが一流であることを証明してみせるわよ! おーほっほっほっほ!」
高らかに響く笑い声。それがカラ元気であると、彼女以外に気づく者はいない。
◆
そして、ついにその日がやって来た。
今年最後のグランプリ、有馬記念。中山レース場には観客が溢れていた。
緑の豪奢な勝負服に着替えたキングヘイローは地下バ道にいた。
既に出走ウマ娘の多くが揃っていた。
クラシックを争ったセイウンスカイにグラスワンダー。エリザベス女王杯を制したメジロドーベル。メジロきってのステイヤー、メジロブライト。歴戦の強者であるエアグルーヴにマチカネフクキタル。
今年のGⅠ戦線を彩ったスターウマ娘たちが一堂に介していた。
「いや~まさか揃って有馬記念に出れるとはね。一年前は考えてもみなかったよ」
「あらそう? 私はこうして出ることになんの疑いもなかったけれど」
「キングさんは流石ですね……私は春に走れなかった分、こうしてみんなと走れることがとても嬉しく思います」
グラスワンダーの言葉に、セイウンスカイがおお~と声を上げた。
「流石グラスちゃん。ここまで来たらスぺちゃんやエルも出てきたらよかったのに」
「仕方ないわ。みんなそれぞれのローテがあるのだもの。また来年に期待しましょう」
それは強がりだった。
ファン投票のある有馬記念とはいえ、投票する側もハナから欠場を表明しているウマ娘に投票することは無い。
もしもスペシャルウィークかエルコンドルパサー、そしてライスシャワーのうち誰か一人でも出走を表明していたら果たしてキングヘイローはこの舞台に居られただろうか。
「しょーがない、じゃあ今日はグラスちゃんに菊花賞のリベンジといきましょうかね?」
「あら、セイちゃんから宣戦布告なんて珍しいですね」
「そりゃあねー流石に私もやられっぱなしではいられないのですよ」
飄々と笑うセイウンスカイに、受けて立とうとばかりのグラスワンダー。二人の目に、すでにキングヘイローは映っていなかった。
(当然ね……二人は既にGⅠウマ娘、対して私は無冠……)
もっとも同期の二人はそんな意図はない。キングヘイロー自身もそれは分かっている。しかし自虐的な思考は幾度も浮かんでくる。
(証明するのよ……! 私の力は、みんなに劣ってはいないと!)
浮かぶ自虐の言葉を闘志の薪に変えながら、キングヘイローは進む。
そして、有馬記念が始まった。
◆
『トゥインクルシリーズ芝のレース。クラシック級にシニア級、そしてジュニア級でも今年も多くの名勝負、スターウマ娘が誕生しました。黄金とも称され三冠を分け合ったクラシック級、二つの世代が激突したシニア級。そして歴戦のウマ娘に新星の輝きを見せたジュニア級、夢を見せてもらいました。そんな今年一年を代表するウマ娘たちが中山に集った大一番、有馬記念の始まりです!
出走するウマ娘たちをご紹介しましょう!
まずはこのウマ娘! GⅠウマ娘の称号は幸運ではなく確かな実力! 淀で魅せた末脚をマチカネて今日もファンは中山に集まった!
ラッキーガールもといスーパーガール マチカネフクキタル!!
淀で力を示したのは彼女も同じ。春の苦悩を乗り越えて不死鳥は今こそ羽ばたく! 黄金世代の三強が堂々出走!
青き不死鳥 グラスワンダー!!
麗しき彼女の走りも今日がラストラン! オークスウマ娘が中山を駆ける! 一時代を牽引した王者の走りを目に焼き付けよ!
強き女帝 エアグルーヴ!!
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遥か北、阿寒湖から彼女はやって来た。もうシルバーコレクターとは言わせない! 名前の通り狙うは一つ、金メダル!
黄金に至る道を往け キンイロリョテイ!!
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名家故、その重圧は一際大きなものでしょう。ですが彼女は挫けない! 諦めない! 栄光を求め、輝く舞台に立ち続ける!
吹き荒ぶ花信風 メジロブライト!!
空を漂う雲は平穏の象徴だけれども、一転して波乱を起こすのもまた雲というもの。見せるか奇策、魅せるか逃げ切り! 黄金世代最速が、再び中山に嵐を呼ぶか!
葦毛のトリックスター セイウンスカイ!!
無冠の大器とは言わせない! 彼女もまた黄金世代、その実力を目に焼き付けよ!
不屈の挑戦者 キングヘイロー!!
エリザベス女王杯を制し、時代の女王となったメジロの姫。次に狙うはグランプリ! 昨年に引き続き有馬記念に参戦です!!
新時代の女王 メジロドーベル!!
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以上、十六名出揃いました。有馬記念、出走です!』
パドック、ゲート入りは問題なく終わった。
観客が見守る中、ついにレースが始まった。
開くゲート、飛び出す十六のウマ娘たち。
『真っ先に飛び出したのはセイウンスカイ! 皐月賞ウマ娘がハナを取った! その後を追うのは───』
キングヘイローは後方に控えていた。背後にはメジロブライト含めて三名。彼女たちより前、中団にはグラスワンダーやエアグルーヴが位置取った。
無理をしてセイウンスカイを追うウマ娘はいない。菊花賞や天皇賞(春)ほどではないとはいえ、2,500mは長丁場だ。序盤は脚を溜め、仕掛け時を探るウマ娘がほとんどだ。
(スカイさん、逃げ難そうね……)
最内を走りたがる逃げウマ娘であるはずのセイウンスカイだが、今日は荒れた内バ場を避けていた。最短ルートを通ることが出来ずにいるせいで普段の走り後続との差が広がらない。
(スカイさんのことだから無策ということは無いでしょうけれど……)
今日は彼女にとって不利なレース。キングヘイローはそう判断した。
レースが動いたのは第三コーナーからだった。
中団に控えていたグラスワンダーが前に出たのだ。
エアグルーヴやキンイロリョテイも後に続く。後を追って他のウマ娘たちも動き出した。
(私も……!)
後を追う。歴戦のウマ娘たちに、同期たちに、これ以上差を開けたくなかったから。
しかし……。
「来たね、グラスちゃん……!」
「セイちゃん───勝負です!」
『最終コーナーを曲がってついにグラスワンダーがセイウンスカイを捉えた! 黄金世代の一騎打ちか!?
いや、後ろからエアグルーヴも上がってきた! キンイロリョテイも飛んでくる! 奥からはメジロブライト!!』
届かない。同期にも、上の世代にも。
これ以上ないくらいに脚を動かしているというのに、前との差は縮まらず、むしろ広がっていくばかりだ。
『抜けた! 抜けた! グラスワンダーが抜け出した!! グラスワンダー一着!! 有馬記念を制したのは黄金世代の不死鳥グラスワンダー!!』
先頭を駆け抜ける栗毛のウマ娘。春の不振が嘘だったかのような走りで、グラスワンダーは見事グランプリを制してみせた。
セイウンスカイは結局他の後続にも捕まり四着となった。
見事な末脚をみせたメジロブライトが二着、キンイロリョテイが三着と続いた。キングヘイローはエアグルーヴの後の六着に終わった。
強豪ぞろいのグランプリ。六着という結果は決して不甲斐ないということはないだろう。
(でも、今日のレースではっきりしたわ……私の道は、この先にはない……!)
受け入れるしかない。自身の適性を、己が才能を。時代の強さを。
敗北した少女は顔を下げず、勝利の賛美を受ける同期を見る。
春を捨てて、耐え忍んだ彼女は秋に花開いた。突然のケガにも腐ることなく励んできた結果だ。
心からの賛辞を込めた言葉が零れる。
「おめでとう、グラスさん……」
そして誓う。きっと、自分にも同じことが出来る。
才能は劣ってしまったけれど、この胸に宿す決意だけは決して劣っているはずがないのだから。
年末のグランプリは黄金世代の強さを見せつけて幕を閉じた。
そして彼女たちは次のステージへと上がるのだ。
バレンタイン回でのイベント相手は?
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ライスシャワー
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グラスワンダー
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エルコンドルパサー
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メジロマックイーン
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サイレンススズカ
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スピカトレーナー