シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
おっす、あたしの名はアグネスデジタル。つい先日、レースとは違う大イベントから帰還した平凡なウマ娘。いやー今年も珠玉の作品が集まるイベントでしたね。
プロアマ問わずウマ娘ちゃんたちへの愛が集まった作品が大量大量! ため込んでいたお小遣いがまとめて吹っ飛んでしまいましたが一片の悔いなし! というものです。
さてさて有馬記念を無事グラス先輩が勝利したマルカブ。今年の成績はGⅠだけでも七勝! これ学園のチーム全体から見たらとんでもない成績じゃないですかね。おかげで年末ぎりぎりまで取材取材のオンパレード! 一時期は関連雑誌の表紙が全てマルカブメンバーで埋め尽くされるなんて面白現象まで発生してしまいました。
とまあ一躍有名になったあたしたちですが、さすがに学生。年末年始はゆったりと余暇を楽しみました。
あたしは先ほど言った通りイベントへ。先輩がたやドトウさんも各自で少し遅めのクリスマスを楽しんだり、実家や学友と毎年恒例のテレビ番組を見たりして過ごしていたようです。
そして年が明け、皆で初詣も済ませてそろそろ学園も再開する頃、マルカブは揃ってチームルームに集まっていました。
「………」
「………」
先輩方、特にグラス先輩とエル先輩の表情が険しいです。
トレーナーさんも珍しく眉間にしわを寄せ、目の前に置かれた電話を睨みつけていました。
……そう、今日はURA賞、そして年度代表ウマ娘が決まる日なのです。
昨年はグラス先輩だけが最優秀ジュニアウマ娘に選出されたそうですが、今年は先輩方全員になにかしらの賞を受賞する可能性があります。
最優秀クラシックウマ娘ならグラス先輩とエル先輩のどちらかでしょう。お二人とも今年はGⅠを二勝。同期に三勝以上したウマ娘ちゃんはいませんからまず間違いありません。特にエル先輩はジュニア級でURA賞を取れなかったことが悔しかったようなので、今年は一層意識しているようです。
一方でシニア級のライス先輩にはライバルが多いですね。先輩と同じくGⅠを二勝しているウマ娘ちゃんが何人かいます。
大阪杯、宝塚記念と春シーズンを大逃げで盛り上げたサイレンススズカさん、安田記念と欧州GⅠを制したタイキシャトルさん、そのタイキさんを真っ向から打ち破ったサクラバクシンオーさんの三人です。
とはいえライス先輩も天皇賞春秋制覇しています。同年に両天皇賞を勝利したのはタマモクロスさん以来ですからね、成績としては他の三人にも劣りません。
そして既にお分かりでしょうが、ここまで挙げたウマ娘ちゃんたちは揃ってGⅠ二勝なんですよね。つまりはクラシックかシニアから年度代表ウマ娘が出るだろうということです。一応、短距離路線から年度代表ウマ娘が選出されたことはありません。ですが、今年候補に上がるだろう二人は格が違います。なんせ日本のウマ娘レースが熱望する欧州GⅠ勝利と、その勝者を打ち破ったウマ娘ちゃんですからね。史上初の事態が起こることも考えられます。
よく考えたら一チームから候補が三人も出てくるとか、まさしくマルカブ飛躍の一年でしたね。
……え? あたしたちですか? 最優秀ジュニアの可能性? いやー連帯率百パーセントのドトウさんはともかくあたしなんて……一応GⅠ勝てましたけれどダートですからね。どうしても中央でのダートの地位は低いので。やっぱりジュニア級からは朝日FSとか阪神JFとかホープフルステークスとか芝の方で活躍したウマ娘ちゃんが選ばれるんじゃないですかね。
───トゥルルルルル……!
『────────!!』
なんて言っていたら固定電話が鳴り響きました。全員の視線がトレーナーさんへ、そして電話へと向かいます。
ゆっくりと、トレーナーさんが受話器を取りました。
「もしもし……はい、マルカブです。はい……はい……」
ウマ娘は耳も良いですが、流石に受話器からの声までは拾えません。これがスマホとかなら聞こえるんですが。とにかくあたしたちはトレーナーさんの反応から察するしかありません。
「……はい! ありがとうございます!」
トレーナーさんが喜色を顕にしました。思わず腰を浮かせてしまいます。
誰もいない方向へ何度も頭を下げるトレーナーさん。無言になった受話器を置いたその表情は晴れやかでした。
「みんな……!」
少し瞳を潤ませて、トレーナーさんがあたしたちへ結果を告げるのでした。
◆
年度代表ウマ娘 :ライスシャワー
最優秀ジュニアウマ娘 :アドマイヤベガ
最優秀クラシックウマ娘:エルコンドルパサー
最優秀シニアウマ娘 :ライスシャワー
最優秀短距離ウマ娘 :サクラバクシンオー
最優秀ダートウマ娘 :─────────
URA特別賞 :サイレンススズカ、タイキシャトル
URA賞表彰式の会場に掲げられた大看板。その頂点に刻まれた名前を見て、私は胸の奥からこみ上げるものがあった。
私がトレーナーとなってから長く共に歩んできたライス。GⅠを勝っても疎まれ、レース中の大ケガという悲劇にあっても屈することなくレースに復帰した彼女が、ついにその活躍を称えられることになったのだ。思わず目頭が熱くなるというものだ。
「もう、お兄さままた泣きそうになってる……」
「ライス……」
声を掛けられ、目元を拭う。
振り返ると、着飾ったライスたちが揃っていた。昨年も似たような光景を見たな。違うのはデジタルとドトウがいることと、メインとなるのがライスとエルの二人ということだ。
ライスは深い青のドレスに、胸元にはトレードマークである青バラのコサージュが目を引く。
エルは対照的とも言える赤と黄という太陽のように明るい色合いのドレスだ。活発なエルに合わせたように、ライスに比べて丈が短く、白い脚が露わになっている。
他の三人も、目立ちすぎない程度におめかししていた。グラスは薄い青、デジタルは桃色、ドトウは青と白の二色のドレスだった。
「みんな似合っているよ」
「ありがとうございます。ですが……叶うことなら受賞者としてこの場に来たかったですね」
しゅんとするグラスに見せつけるように胸を張るエル。去年と受賞出来た側と出来なかった側が入れ替わる形だ。親友ながらも競い合うライバル関係であるだけあって、二人にとっては重要なことだ。
「まあ、部門は違っても二年連続ってのはまずないからね……」
「そう言ってもらえると救いです」
グラスもエルもGⅠ二勝。受賞の決め手になったのはエルがNHKマイルとジャパンカップという海外のウマ娘も出走するレースに勝ったことだと言われている。グラスもクラシックとグランプリの二勝なので格という面では劣っては無いと思うが、決定づけたのはグラスが去年最優秀ジュニアウマ娘を受賞しているということだろう。
……春の全休が響いたとは考えたくない。
「おや、また会いましたね」
会場に入ると早速声を掛けられた。
奈瀬文乃トレーナーと、彼女が担当するアドマイヤベガ。そして彼女が率いるチーム・ハマルのリーダー役であるスーパークリークだ。彼女たちもこちらに負けず劣らず着飾っていた。
「ライスシャワーにエルコンドルパサー、ともに受賞おめでとうございます」
「ありがとうございます。ハマルこそ、アドマイヤベガの最優秀ジュニアウマ娘の受賞おめでとうございます」
「ありがとうございます」
互いに、メンバー揃って頭を下げる。
「ハマルの他のメンバーは?」
「うちは全員となると十数人になりますからね。彼女たちには悪いですが留守番ということで」
「代表として私が来ました!」
スーパークリークが大きなカメラを掲げながら言った。
どうやらハマルのカメラマン役は彼女らしい。ちなみにうちのカメラマンはデジタルが立候補したので任せている。
「昨年はマルカブに話題を持っていかれましたが、今年はそうはいきませんよ。ハマルのアドマイヤベガがクラシックを席巻します」
「これは強敵ですね……ですがマルカブのクラシック級だって負けてはいませんよ。だろうデジタル、ドトウ……あれ?」
振り返ってみれば、二人揃って残像が出るほどの速さで首を横に振っていた。
視線を戻すとハマルの三人が苦笑いしていた。
「……ま、まあまずは自信をつけることからですかね。急がず焦らずで……」
背後で、首を振る方向が横から縦に変わった。
うーん世代ごとに性格がまるっきり違うな。これがグラスやエルだったら「勝つのは私だ!」くらい言うんだが。
「では、またレースで」
「はい。いずれレースで」
そう言って奈瀬トレーナーたちと別れる。
六人で会場を進んでいくと、また知った顔を見つけた。チーム・リギルの東条トレーナーと、サクラバクシンオーのトレーナーだ。
声を掛けようとしたが足が止まる。様子を見ると、東条トレーナーはどこか不機嫌で、サクラバクシンオーのトレーナーが申し訳なさそうに頭を何度も下げていた。
どうやら二人の間で何かあったらしい。あの間に入るのは火中の栗を拾うようなものか。
挨拶は後にしよう。
踵を返して進んでいけば、今度はまた賑やかな一団に出会った。
「お、マルカブの……! ライスシャワー、年度代表ウマ娘おめでとうさん」
「ありがとうございます。……スピカもサイレンススズカの特別賞おめでとうございます」
さっきもしたような挨拶を交わす。
スピカもトレーナー含めて六人総出で会場に来ていた。受賞者であるサイレンススズカがライトグリーンのドレスに身を包み、他の四人も着飾っていた。そして、
「貴方のスーツ姿というのもなんだかおかしな感じですね」
「ここに来るまでに散々言われたよ」
同期ということもあって、やはりスピカが一番気楽に接することができる。メンバーの世代が近いというのもあるのだろう。
さっきまで私の後ろにいたライスたちも、スピカの面々と互いの近況を伝えあっていた。
ふとサイレンススズカに視線が向かう。元気そうな顔を見てから、視線は彼女の足元へと下がっていく。
「サイレンススズカ、もう大丈夫なんですか?」
「ん? ……ああ、十二月の頭には退院してな。ギプスも取れたし、あとは入院中に落ちた体力や筋力を戻せば復帰だな」
「そうですか。それは……本当に良かった」
安堵の息を零す。秋天のケガは大事ないと言っていたが、いざ復帰の目処を聞いてようやく安心できる。
「それについてはあんたとライスシャワーに礼を言わないとな」
「私は何もしてませんよ。頑張ったのはライスです」
「でもあんたが後押ししてくれたのも事実だろう。……素直に礼を受け取ってくれよ!」
肩を軽く叩かれる。よく見れば、彼の目元に隈が見えた。
担当ウマ娘がレース中に骨折。それがトレーナーの心にどれほどの傷を与えるか、私がよく知っている。
幸い大事には至らなかったが、それでも彼の心に暗い影を落としたことには変わらない。
「では、受け取っておきます。……どういたしまして」
私への礼が、彼の心の整理となるのならばと、大人しく受け取ることにした。
そして、表彰式が始まった。
まずはアドマイヤベガが壇上に上がる。栄えある最優秀ジュニアだというのに、彼女は特に感激する風でもなく、取って当然といった様子だった。テイエムオペラオーが既にクラシックを見据えて動き出している以上、ここで喜んでいる場合ではないということか。
続いては最優秀クラシックとしてエルが向かった。去年逃しただけに一際嬉しそうにしている。報道陣からのフラッシュを浴びながらトロフィーを天に掲げる姿は絵になった。
表彰式は続く。
最優秀短距離にサクラバクシンオー。スプリント、マイルともに最強と言われたタイキシャトルを真っ向から打ち破っての授賞だ。異論を挟む者などいなかった。
特別賞には海外GⅠを勝利したタイキシャトルと、春シーズンを大逃げで賑わせたサイレンススズカのダブル授賞だ。タイキシャトルはサクラバクシンオーとの勝敗が明暗を分けた形になる。ここでようやく先程の東条トレーナーのご立腹に合点がいった。マイルCSのあたりでサクラバクシンオー陣営と何かあったのだろう。それ以上のことは推測しかできないが。
サイレンススズカが壇上に上がる。秋天で傷ついた脚元に思わず視線が集まる。スピカのトレーナーの言葉を信じていなかったわけではないが、こうして支え無しで歩く姿を見てようやく彼女の完治したのだと分かった。
来年も、サイレンススズカは走るのだ。
そして、その時が来た。
最優秀シニアウマ娘、そして年度代表ウマ娘としてライスが壇上へ上がる。小さな体躯が進む姿に、フラッシュの洪水が起きる。
彼女がURA賞に選出されるのは、それこそ大ケガをした年の特別賞以来だ。しかもその時は入院中で式に出席できなかったため、こうして公の場で表彰されるのは初めてだ。
思い返せば、ライスとは今まで長い道のりを歩んできた。
菊花賞に天皇賞(春)、栄えあるGⅠを勝ったが素直に祝福されることは無かった。年単位のスランプを乗り越え、再び獲った春の楯。この勢いでと思った矢先、あの悲劇に襲われた。
白い病室。寝台の上で、九死に一生を得たライスは絶望していなかった。
『ライスね。もう一度走れるようになりたいんだ……』
あの時の彼女の言葉は今も胸に刺さっている。ライスを再びレースの舞台に立たせることが、トレーナーとしての使命になった。
ライスに二つのトロフィーが手渡される。報道陣からのフラッシュはさらに激しくなった。
光を浴びる彼女の顔は凛々しく、堂々としていた。
もうかつての弱気な彼女はいない。幾多の苦難を乗り越え、強くなったのだ。
その事実がこれ以上ないくらいに嬉しかった。
「最優秀ウマ娘を受賞したライスシャワーさんには、URAより新たな勝負服が贈られます!」
ライスに手渡される薄い青色の華やかな勝負服。海外で活躍する有名なデザイナーによるものであることが伝えられた。
二つのトロフィーと勝負服を手に、満面の笑みを見せるライスへ万雷の拍手が送られる。
バラの少女への祝福をもって、表彰式は幕を閉じた。
◆
学園に戻り、マルカブだけでお祝いをしていると来客があった。
「マルカブの皆さん、お楽しみのところすみませんが少しよろしいでしょうか?」
扉の向こうからたづなさんの声がした。
すぐに迎え入れる。
「たづなさん? 一体どうしましたか……?」
「実はですね、ライスシャワーさんにドリームトロフィーリーグへの移籍のお話があるんです」
音にならない声が漏れた。聞いていたグラスたち他のメンバーも驚きの表情をしていた。
「ライスが、ドリームトロフィーに?」
中央のウマ娘レースの基本はトゥインクルシリーズだが、その中で好成績を残したウマ娘だけで構成されたレースプログラムがドリームトロフィーリーグだ。夏と冬に行われる大レースがあり、マルゼンスキーやオグリキャップ、ナリタブライアンなど世代を超えたスターウマ娘たちが走るだけあってトゥインクルシリーズにも負けない人気がある。
そんな夢の舞台へライスが……?
「ライスシャワーさんは先日の天皇賞(秋)を勝ってGⅠ六勝、そして天皇賞春秋制覇を達成しました。これはドリームトロフィーリーグへ移籍するのに十分な成績だと判断されました。
当然これは強制ではなありませんが、マルカブさんにとっても意義のある話だと思います」
たづなさんが言う意義……距離か。思わず、ライスの方を見てしまう。
ライスはついに
中距離GⅠの度に秋天のような仕上げをしてはライスの身体がもたない。だからと言って、トゥインクルシリーズに長距離レースは少なく、ライスが万全の態勢で臨めるGⅠは限られている。しかしドリームトロフィーリーグへ行けばライスが得意とする距離を走る機会はずっと多くなる。
当然ドリームトロフィーリーグにも強敵は多い。長距離で活躍しているウマ娘と言われてぱっと思い浮かぶのはスーパークリークにビワハヤヒデか。
彼女たちと競うことは、巡り巡ってチームの育成ノウハウとして還元される。後輩たちにも良い影響を及ぼすだろう。
そこまで考えて、まず大事なのはライスの気持ちだと思い直す。私の意図を察したのか、ライスが声を上げた。
「……たづなさん」
「なんでしょう?」
「ドリームトロフィーへ移籍するのは今じゃないとダメですか? 例えばシーズンの途中に移籍はできないんですか?」
「……特に移籍のタイミングに規定はありません。ですが、例えば春シーズン中に移籍した場合はその年のサマードリームトロフィーには出走はできません。出走できるのはウィンタードリームトロフィーからになります」
「できないわけじゃないんですね?」
「はい。……春に走りたいレースがありましたか?」
ライスへ部屋にいる全員の視線が集中するなか、彼女が告げる。
「もう一度、春の天皇賞に……!」
その言葉の奥に、あのウマ娘の影が見えた。
「メジロマックイーンかい?」
「……うん」
天皇賞を至上と名誉とするメジロ家。その家名を背負うメジロマックイーンなら必ず出てくるだろう。秋の天皇賞以降、ジャパンカップにも有馬記念でも出てこなかったのだ。彼女はあの時点で次の目標を春に定めていたに違いない。
なにより、彼女はライスと天皇賞(春)の三連覇をかけて走ったライバルだ。互いにケガや病気により再戦はついこの間の秋の天皇賞までなかった。そしてその秋天も、サイレンススズカの件もあって真っ向勝負とはいかなかった。
「もう一度だけ、マックイーンさんと本気の勝負をしてみたい。今度はお互い得意な距離、ステイヤーの舞台で。それに……」
熱意を謳うライスの視線が動く。彼女が捉えたのは、栗毛のウマ娘。自分と同じ菊花賞を勝ち取った後輩、グラスだ。
「有馬記念、一緒に走れなかったもんね。もしグラスさんが来るのならそこで勝負してみたいけど……どうする?」
「──────」
グラスが息を呑むのが分かった。
秋天の激走でライスの有馬記念は回避となった。結果としてグラスが勝利したが、夏に話していた二人の激突は夢幻となった。
だからか、ライスは春の大舞台でかかってこいと言っているのだ。
同じチームなど関係なく、菊花賞ウマ娘として、頂点に挑んで見せろと言っていた。
グラスの答えは決まっている。
「───走ります。出ます、私も! 春の天皇賞に!」
ライスは笑っていた。エルも、デジタルも、ドトウも、たづなさんも、そして私も。
まだ冬だというのに、来春に巻き起こる激闘の火が点いていた。
バレンタイン回でのイベント相手は?
-
ライスシャワー
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グラスワンダー
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エルコンドルパサー
-
メジロマックイーン
-
サイレンススズカ
-
スピカトレーナー