シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
一応、前アンケ取ったイベントもあります。
トレセン学園に通うウマ娘たちのほとんどが寮生活であるように、勤務するトレーナーたちにも寮が宛がわれている。が、その寮を出て自宅を持つトレーナーはそれなりにいる。
理由としてはトレーナーというのが金銭的余裕のある社会人だからだ。数ある国家資格の中でも最難関とされるトレーナー資格を手にトレセン学園で働く彼らは世間から見ても高給取りだ。都内に自宅を持つことは難しくない。
学園が用意する寮に不満があるわけではない。しかしやはり寝ても起きても職場のすぐ近く、同僚が身近にいるという環境を離れたがるトレーナーはいるものだ。
さらに言えば、トレーナーもウマ娘も毎年多くの新人がトレセン学園へとやってくる。ウマ娘ならば卒業という形で毎年一定数が学園を去る。しかしトレーナーは入ってくる数こそ少ないが、在籍期間は長く一定期間は増加の一途をたどるもの。学園としてもトレーナーが寮を離れ、空きができることは都合が良かった。
三年から五年。
規則として決まっているわけではないが、概ねそれくらいの年月が経ったら寮を出て自分の城を持つというのがトレーナー間での慣習であった。
それは、トレーナーとしての見習い期間が終わったことを暗に示すものでもあった。
そんなわけで、チーム・マルカブを率いる彼もその例に漏れず、学園の寮を離れ都内のマンションに部屋を持っているのだ。
「へぇ~お兄さんって結構いいところに住んでるんだね」
目的地を見上げながらトウカイテイオーが言った。
彼女の言う通り、たどり着いたマンションは一等地、とまでは言わないまでもそこそこ上のランクに相当する物件だった。
パラメータの一つでしかないが、彼がトレーナーとして優秀な部類である証左であった。
「あの、大丈夫なんですか? 結局OKの返事来る前に着いちゃいましたけど……」
「大丈夫大丈夫! もしもの時はライスたちにフォローしてもらうから!」
「おーい、迷惑かけないっていうから許したんだ。あいつがNGつったら大人しく帰るからな?」
「えー!? そこはトレーナーが大人らしく交渉してよー!」
マンション前には、錚々たる面子が集まっていた。
発起人であるトウカイテイオーを筆頭にメジロマックイーン、サイレンススズカ、スペシャルウィーク、ゴールドシップ、そしてスピカのトレーナー。
そしてライスシャワー、グラスワンダー、エルコンドルパサー、アグネスデジタル、メイショウドトウのマルカブメンバーだ。
手にはスーパーのロゴが入ったポリ袋。中には食材や飲み物が詰まっていた。
ほとんどがGⅠタイトルホルダーという異様の面子。伊達メガネや帽子で顔を、コートで尻尾を隠してなければ即ファンに取り囲まれて写真撮影会が始まるところだ。
エントランスに入り、ポストに記された氏名を探す。
彼女たちの前に立つ台座にはキーを通す溝とゼロから九の数字が刻まれたボタンがあった。その向こうにある電動扉が行く手を阻んでいた。
「これは……鍵がなければ向こうから開けてもらうシステムではありませんの?」
「じゃあトレーナーさんがLANEに気づくまで待つしかないデス?」
「ううん、それは大丈夫」
そう言ってライスシャワーが鞄から引っ張り出したのは、テープで厳重に封をされた包装紙の塊だった。開けられた穴から伸びる複数のチェーンが鞄の奥へ続いており、位置情報を知らせる発信機までついていた。
絶対に失くしてたまるかという、ライスシャワーの意地が見て取れた。
慣れた手つきで封を解いていく。紙を剝がすと革袋が姿を現す。袋からは一枚のカードキーが出てきた。
「合い鍵、あるから」
「「おお~」」
後輩たちの謎の感動の声を背にライスシャワーが台座に向かう。
「合い鍵、だよ?」
「なぜ二回言うんですか……」
カードキーを溝に通すと電子音が鳴り、扉が開く。総勢十一名がぞろぞろとマンションの中へと入っていく。
「この人数だとエレベーターだと一度に行けないですね」
「階段でいいんじゃない? そんな上の階でもないんだし」
「先輩、トレーナーさんから返信は?」
「まだみたい。寝ているのかも」
ぞろぞろと階段を登る少女たちが言葉を交わしていく。
「体調がまだ悪いのかもしれませんわね」
「流石にそんな様子だったら帰るぞー」
「んーそれならしょうがないか……ライスたちは?」
「様子だけでも見ておこうかな。明日も出てこれないなら予定とか練り直さないと」
「それもそっか」
「そのまま看病していこうかな……」
「ライス先輩」
「抜け駆けは無しデスよ?」
「そ、そんなことしないよー」
「声ちっさ」
そうこうしているうちに目的の部屋にたどり着く。
ライスがLANEに部屋に着いたことを打ち込んでいく。
そして、
「あ、既読ついたよ」
「お、じゃあ今起きた感じかな? お兄さーん元気ー? お見舞いに来たよー!」
呼び鈴を押しながら、トウカイテイオーが声をあげた。
扉の向こうからバタバタと慌ただしい音が響く。
少しの沈黙ののち、ついに扉が開いた。
暗がりの向こうから現れたのは男性の顔。起きたばかりなのか所々跳ねた黒髪。グレーのスウェットは普段のスーツ姿の印象とは大きく離れていた。
「えっと……これはどういう状況?」
マルカブのトレーナーが困惑の声を発した。
◆
「これ、お土産というか見舞いな」
「わざわざありがとうございます」
品の入った紙袋をスピカのトレーナーから受け取る。
ライスからのLANEにも驚いたが、こんな人数で来るとは面食らってしまった。
「しかし“
「と、あんたの見舞いな。秋には世話になったし礼だと思って受け取って欲しい。……いや、当然迷惑ならすぐにでも引きあげるが」
「別に構いませんよ。一応薬を飲んで休んで熱も下がってますから。ただ万が一があってもいけないのでホストらしいことは何もできませんが」
「いいってそんなの! こっちが押し掛けたんだし、あんたは引き続き休んでてくれ」
「おーっし! あんちゃんからOK出たな。行くぞ皆の衆、突撃晩ご飯じゃあ!!」
「あ、こら待ちなさいゴールドシップ! すみません、お邪魔いたしますわ」
「ど、どうぞ……あ、書斎と寝室には入らないでもらえると……」
ぞろぞろとウマ娘たちが通っていく。彼女たちの手には食材の入ったスーパーの袋。材料持ち込みで夕食を取るつもりらしい。
「ここがトレーナーさんのお部屋なんですね……」
「うーん……普通デス!」
「いえいえ、一人暮らしにしては結構広いと思いますよ!」
「わ、私は迷惑かけないように隅にいますね……」
「あっ、大きなテレビ! えーっとこの時間なら……」
「テ、テイオーさん? 一応お見舞いに来たんですからいきなり寛ぎだすのはちょっと……」
「ライスー、道具とか調味料どこにあるか知ってっか?」
「え、えっとね、包丁なら右手の戸棚にね……」
「男の人のキッチンてこんな感じなのね……」
音の洪水が聞こえてくる。キッチンやリビングなら特に自由にして構わないのだが。しかしこの家にこれほどヒトの声が溢れたのは初めてだ。
「一応俺も見ているから、あんたは休んでてくれ。……心配かもしれんが」
「そ、それじゃあお言葉に甘えて……」
「お兄さーん! ここにあるレースのDVDってボクらも見て良いヤツー?」
「…………」
「……すまん」
私が床に就けるのは、もう少し後になりそうだ。
◆
トントントン、と包丁がまな板の上でリズムよく音を立てる。
長ネギ、白菜、ニンジン、豚肉、その他諸々各自が買った材料が一定のリズムで動く刃によって切りそろえられていく。
キッチンに立つのは二人、グラスワンダーとゴールドシップだった。
そも一人暮らしの男の台所だ。約十人で押しかけたもののキッチンスペースは二人程度入るのが精々だった。
他のメンバーはもう一つの目的である“
「ほいよ。グラス、こっちの材料切り終わったぞ」
「ありがとうございます。……失礼ながら意外でした、ゴルシ先輩がお料理できるなんて」
「なにをー。ゴルシちゃんはな、ゲート練習以外ならなんでもできるんだぞ!」
「それは……かなり致命的では?」
苦笑いしながら、用意していた土鍋へ鍋用調味料を注ぐ。コンロを点火し、青い炎の上へ土鍋を乗せて切った具材を投入していく。
人数が人数、しかもほとんどがウマ娘だ。一つで足りるわけがなく、次の鍋をセットしていく。
「カセットコンロを持ってきてよかったですね」
「だよなー。あんちゃん一人暮らしだからコンロが二つも三つもあるわけないっての」
「……ゴルシ先輩は、トレーナーさんと親しいんですか?」
「んあ? ……ああ、あれはゴルゴル星を飛び出したばかりのゴルシちゃんが卑劣なスーガイーンの魔の手から逃れるため地球にきた頃───」
「先輩?」
「んだよ睨むなよ。……別に、ライスがマックイーンと春天で競ってた頃にちょいと絡んだくらいさ。あんときゃライスも色々あって、テイオーと一緒にからかい半分でお兄さま呼び真似してたらそのまま定着したんだよ」
「そう、なんですね……」
「んな気にすることじゃないぜ? つーか、あんちゃんといる時間はとっくにお前らの方が長いってえの」
心の内を見透かされ、グラスワンダーは歯噛みした。
「……ま、何悩んでんのか知らねえけど。夕飯の時までそんな暗いとあんちゃんにあることないことチクっちゃうぜー」
「ゴルシ先輩!」
「おーし鍋の第一レース出走! おらー! 鍋将軍ゴルシちゃんのお通りだ、テーブル空けろー!」
器用に三つの鍋を盆に乗せてゴールドシップはリビングへ向かっていく。
燻る想いを抱いて、グラスワンダーも後に続いた。
◆
扉をノックする音で目を覚ました。
脳がゆったりと動き出す中、寝起きの声で返事をすると扉が開いた。
「お兄さま、調子はどう?」
入ってきたのはライスだった。彼女の手にはお盆があり、お盆の上には湯気を上げる茶碗とお茶の入ったコップ、レンゲがあった。
「雑炊持ってきたんだけど、食欲あるかな?」
「そうだな……せっかくだしいただこうかな」
寝起きだが空腹感があった。思い返せば、病院から戻って寝てから何も食べていなかった。
体を起こす私の傍までライスがやってくる。そこでようやく茶碗の中身が見えた。
卵の黄身が絡み、鍋つゆを吸って柔らかくなった雑炊飯。具は葱に人参、豚肉も見えた。鼻をくすぐる香りはまろやかで、味噌や醬油とは違ったものだった。
「今ってお鍋の素も種類が沢山あるんだね。これは豆乳鍋で作った雑炊なんだ」
「豆乳……そうか、その匂いなのか。みんなも同じ鍋を食べたのかな?」
「ううん。色んな種類を買ってきて、それぞれ自由に食べたよ。キムチ鍋とか豚骨醤油とか味噌とか鶏がらとか」
「全部ライスが?」
「ううん、手分けしてみんなの。ライスが作ったのは豚骨醤油と味噌かな」
うーん、病み上がりには少し濃い味かな? だからもってこなかったのだろうが。
「エルはキムチだっただろう」
「正解! あとドトウさんも食べてたよ。意外と辛い物が得意なんだね」
ライスが雑炊を軽く混ぜ、中身を掬う。
「ふー、ふー……はい、お兄さま。あーん」
「……ライス?」
笑顔でレンゲを差し出して来るライス。レンゲを受け取ろうとすると躱され、また目の前に差し出される。
少女の笑顔は変わらない。
「お兄さま、あーん」
「ライス、自分で食べられるから……」
「あーん」
「……あ、あーん」
頑ななライスについに屈する。
口を開けるとレンゲが差し込まれた。口に広がる豆乳と卵の甘味。うん、美味しい。
一度食べてしまえば、年下の少女に食べさせられる恥よりも食欲の方が勝った。
ライスが差し出す雑炊を食べ続けていく。
「ふぅ……ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「美味しかったよ、ありがとうライス」
「作ったのはグラスさんとゴルシさんだけどね」
食べ終わり、一息つくとリビングの方から聞こえる声にようやく気付いた。リビングでレース映像を見ながら語り合っているのだろう。
よく響いてくるのはエルやトウカイテイオーか。
騒がしいとは思わなかった。今のマルカブのメンバーは大人しいウマ娘が多いが、少し前まではこれに負けないくらい騒々しい時代があったのだ。
「懐かしい賑わいだ」
「みんながいた頃を思い出すね……」
ライスの顔には郷愁の色があった。
師匠がマルカブを率いて、私がまだサブトレーナーだった時代。あの頃は今よりも多くのウマ娘がマルカブにいて、何かと理由をつけてこうして師匠の部屋やチームルームで騒いだものだ。
ドク、エリー、リンド、ビコー……当時マルカブに所属していたウマ娘たちの顔と名前が浮かんでは消えていく。
多くの勝利と栄光があった。多くの敗北と挫折があった。勝って笑う娘も、負けて涙する娘も、同じ空間に集まって讃え合い、支え合ってきた。あの時代こそまさしくチーム・マルカブの黄金期だ。
けれどもその黄金の時代も終わりを迎えた。
どんなものにも起こりうる栄枯盛衰。様々なマイナスがマルカブに降り注いだのだ。
師匠がトレーナーを引退し、チームが私に引き継がれた。
私はどうもスカウトが下手くそで、中々新しいウマ娘がチームに入らなかった。
エース級の引退や卒業が立て続けにあった……いや、これをマイナスとするのは適切ではないな。彼女たちはただ次の夢に向かっただけなのだから。
ライスがケガをした。
私は彼女の復帰に心血を注ぎ、チーム運営を二の次にした。
そんなところだ。
「お兄さま、暗い顔してる」
「あれ、そうだった……?」
ライスの手が私の頭に乗る。子供を励ますように、彼女の手が私の髪を撫でていく。
「聞こえてくる賑やかさが懐かしくてね。昔のマルカブを思い出していた」
「うん、ライスも思い出してた。……暗い顔をしていたのは、ライスのせい?」
「そんなことはないよ。ちょっと、自分の至らなさを思い返していただけさ」
マルカブの凋落も、私の失意もライスの責任ではない。運がなかったことと、私自身の力不足だ。
「なにより、今のマルカブがあるのはライスのおかげだよ」
ライスの復帰レースを見て、グラスとエルはマルカブに興味を持ってくれた。
ライスの有馬記念やグラスとエルの奮闘があって、師匠からデジタルを紹介してもらえた。
ドトウはライスの天皇賞(秋)を見て、変わるきっかけを掴みかけている。
今日の賑わいも、ライスが頑張ってきたことが実を結んだ結果だ。
彼女を中心にマルカブは最盛期にも劣らない成長を遂げたのだ。
「ありがとう。でもね、ライスが頑張れたのはお兄さまのおかげなんだよ」
照れくさそうにライスが言う。
「お兄さまがライスをずっと見ていてくれた。選抜レースも、メイクデビューも、菊花賞も、春の天皇賞も。ライスが辛かった時も、苦しかった時も、ずっと傍にいてくれた」
「ライス……」
「でもセントライト記念を見に来てくれなかったことはまだちょっと怒ってます」
「はい……」
「あの宝塚の後も、一緒にいてくれた。秋の天皇賞はライスの我儘を聞いてくれた。
ありがとうございます、お兄さま。ライスはあなたに出会えて幸せです」
「それは、私が言うべき言葉だよ」
失意の私とともにいてくれた。私を悪夢から覚ましてくれた。
サイレンススズカのために、君はその身を削ってくれた。
「ありがとう、ライスシャワー。私を君のトレーナーにしてくれて。君に出会えたことが、人生一番の幸福だ」
◆
「お! もう大丈夫なのか?」
「ええ、美味しいご飯もいただきましたからね」
既に熱は下がっていた。食事もとれたし、病人のまま皆を見送るのも気が引けたので、リビングに顔を出すことにした。
皆がテーブルを囲むなか、スピカのトレーナーが開けてくれたスペースに座る。
グラスがお茶を出してくれた。
「ありがとうグラス。雑炊を作ってくれたのもグラスなんだってね、美味しかったよ」
「ふふ、口に合ったのなら良かったです」
「ぐぬぬ……料理役も持っていく役も取られるなんて、エル一生の不覚……!」
「……なあライス、いつ見てもマルカブって面白い関係築いてるよな」
「そ、そうかな……?」
点いたテレビから聞こえる歓声に全員の意識が向く。テレビには録っておいた過去のレース映像が流れていた。
見慣れた中山レース場、熱狂する観客、先頭を争う二人の葦毛のウマ娘。タマモクロスとオグリキャップの葦毛対決となったいつかの有馬記念だ。
録画ゆえに結果は決まっている。しかしこの場にいる誰もが固唾を飲んでレースの結末を見守っていた。
オグリキャップがタマモクロスを抜き去り、誰よりも速くゴールした。中山に響く歓声。繰り返されるオグリコール。かつての伝説が液晶の向こうで再演されていた。
「やっぱりオグリ先輩って凄いウマ娘なんですね」
スペシャルウィークの言葉にサイレンススズカが頷いた。
「そうね。先輩のおかげでレース業界が盛り上がりだしたって聞くわ」
「オグリも凄いけどさー、次はカイチョーのダービー見ようよ!」
「そのレースは先ほども見たじゃありませんの! 大体、今日集まった意味をお忘れでは?」
メジロマックイーンの言葉で思い出す。
「“
「ま、そんなところだ。それっぽいレースを手当たり次第で見ているが、ヒントを掴めた様子は無い。
……なあ、病み上がりのところ悪いが、あんたの考えを聞かせてやってくれないか?」
スピカトレーナーの言葉に、考えを巡らす。私個人の見解はあるにはあるが、それは彼も同じだろう。先に聞いて持論を補強したいのか、既に皆には話しているのか。
まあ、別に話すのは構わないんだが。
「私個人の考えで良ければ。……“
「“領域”は一度きりのものということですか?」
「再現が難しいというほうが正確かな。限界を超えることで発現すると言われている以上、ウマ娘本人もきっかけを把握し辛い。どうして発現したかが分からないから二度目が確認できず、ものにできない。
けれど───」
リモコンを取り、テレビ───というよりその下のデッキに向ける。
巻き戻せば、丁度いいレースが再生されていた。
「“
再びレースが動き出す。向こう正面から、後方にいたタマモクロスが怒濤のロングスパートを仕掛けたところだ。周りが様子見していたところでの奇襲。小さな芦毛はぐんぐんと順位を上げていく。
「この有馬でも、前走のジャパンカップや秋天でも彼女は“
ライスたちが食い入るようにテレビを見ている。その中からサイレンススズカがこちらを見た。
「タマモクロス先輩の走りに“
「いや、おそらく“領域”発現の条件はウマ娘によって違うんだ。タマモクロスの走りをそのまま君たちに取り入れても意味は無い。これはあくまでゾーンを制御し、使いこなせるという実例だね」
「ええ~~! それじゃあ意味ないじゃん! 知りたいのは“領域”をいつでも使えるようになる方法なのに!」
「落ち着きなさいなテイオー。マルカブのトレーナーさんが言いたいのは、タマモクロス先輩が“領域”の制御に成功したということですわ」
そうですわよね? とメジロマックイーンの顔がこちらを向いた。
テレビを見ていたウマ娘たちが揃って視線を向けてくる。レースを左右する奥の手ともいえるものを手にしようとしているのだ。
一口お茶を飲んで、告げる。
「“
「……ルーティン?」
「習慣というか、決まりきった動作ということですか?」
「寝る前にストレッチするとか、起きたらまず水を飲む、みたいな?」
「そう。そのルーティンをレースに落とし込むことが必要なんだと思う」
ウマ娘たちが考え込んでいる。いまいちイメージが掴めないのだろうと、私は続ける。
「“
その条件は様々なんだ。最終コーナーで抜け出す、最後の直線で好位置にいる。残り数百mで競り合う、終盤で一気にまくり上げる。そんな自分だけの必勝パターンともいえるものを組み上げることで、彼女たちは“領域”を使いこなしているんだと思う」
推定だけどね、と最後に付け加える。
少女たちは引き続き考え込んでいるが、先ほどと少し様子が違う。私が言った必勝パターン、レースにおけるルーティンが何なのかを想像しているのだろう。
「いや~流石の解説! 俺じゃあこうはいかない!」
「……貴方、やっぱり同じ結論に達してたのに丸投げしましたね?」
「まずは自分たちで考え抜いて欲しかったのさ。ま、あんたに説明されれば納得しやすいかなとは思ったが」
日頃の行いかね、と少し気落ちした様子のスピカのトレーナーを見て察する。自分の判断に自信を持てていなかったのだろう。
理由は思いつく。サイレンススズカの負傷を予見できなかったことが、彼の中で影となっているのだ。私も同じ思いをしたことがある身、彼を責める気にはなれなかった。
「ね、お兄さま!」
ライスの声で、意識を彼女たちに向ける。
「ライスたちのレース映像、もっと見てもいいかな?」
「自分たちが勝った時の様子を確認したいデス!」
「お兄さんおねがーい! ね、いいでしょ? ね? ね!」
「わ、私も! もし映像録ってたら見せて下さい!」
ライスにエル、トウカイテイオー、スペシャルウィークが立て続けに言った。
周りにいる他のメンバーも目に火を灯していた。
スピカのトレーナーと顔を合わせ、思わず笑う。
「いいよ。時間が許す限り、存分に見ていくといい」
「やったー!! じゃあまずはボクのダービーを……」
「抜け駆けは厳禁デス! ここは平等にジャンケンで順番を───」
賑やかな喧騒は、まだ続く。
◆
そして夜は更けていき、皆も帰る時間となった。
「いや~有意義な時間でしたね!」
「はい。色んなレースを見れて勉強になりました!」
「あとは自分の走りで答えを見つけるだけね」
「ま、テイオーの提案もたまには役に立ちますわね」
「たまにはって何さ! ボクのアイディアはいつだって超名案だっての!」
「お兄さま、今日はありがとうね」
「みんなの役に立てたなら良かったよ」
学園までの道中はスピカのトレーナーに任せるが、私もマンションの入り口までは皆を見送ることにした。
「無いとは思うけど、もう遅いんだから自主練は無しだよ。特にエル」
「え、ええっ!? そ、そんなことは~無いですよ~」
「スズカもだぞ?」
「そ、そんなことは~」
「ご安心を! スズカさんが勝手に走りださないよう、しっかり見張ってますから!」
「エルの方も、安心してくださいね」
『うぐぐっ……』
会話を弾ませながら、ついに入り口についた。
ライスたちが振り返る。
「お兄さま、明日は学園に来れる?」
「うん。熱も下がったし、大丈夫だよ」
「良かった。……あ、そうだ! 忘れるところだった……」
ライスがゴソゴソとカバンを探る。それを見てグラスやエル、他のウマ娘たちも同様にカバンに手を伸ばした。
スペシャルウィークが手を上げた。
「トレーナーさん! 秋の天皇賞ではスズカさんのことを色々心配してくれたみたいで、ありがとうございます!
そして───」
『ハッピーバレンタイン!』
ライスたちから、色とりどりの贈り物をいただいたのだった。
いつの間にか鍋の素って種類スゴイ増えてましたね。あと鍋キューブ考えた人すごくすごい。
あ、イベントスチルは各自脳内保管でお願いします。
展開遅くて申し訳ないですが、また書き溜めに入ります。