シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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51話 進路と栄冠

 

「イーヤーデースー!! トレーナーさんもエルと一緒にフランスに行くんデスー!!」

「エル、わがままを言うのは止めなさい。今年はライスさんのトゥインクルシリーズ最後のレースもありますし、デジタルさんやドトウさんのクラシックもあるんですよ?」

 

 私の胸に縋り付いていたエルが、グラスの言葉に振り返る。

 

「グラス、そこで後輩や先輩の名前を出すのは逃げデス」

「な、なにを言うんですか……!」

「トレーナーさんに、自分の春天を見てほしいって言えばいいのに」

「そ、それは……」

「エルは構わず言いマース! トレーナーさん、エルと一緒にフランス行きましょう? 一緒に世界の頂点に挑むんデース!」

「エル、それは……」

 

 思わずライスの方を見てしまう。が、頼りのチームリーダーは静かにほほ笑むだけ。自分でちゃんと決めなさいと言われているようだった。

 蘇る過去の記憶。セントライト、函館、う……頭が……なんて言っている場合じゃない。

 

「……エル、黒沼さんは素晴らしいトレーナーだ。欧州でレースの研究をしてきたし、トレセン学園のトレーナーで一番欧州レースに詳しいと言っていい」

「それは分かりマス! ミホノブルボンをダービーウマ娘にしたトレーナーですから。でも、それとこれとは話が別なんデス!」

「私は海外の経験がない。エルの夢を考えたら黒沼さんと行った方が───」

「わからず屋ー!」

 

 エルの頭突きが胸に刺さる。痛みはない。ないはずが、確かな衝撃を受けた。

 

「エルは……勝ちたいデス。凱旋門賞で勝って世界最強。それが夢だから。

 ───でも、勝てれば誰でもいいわけじゃないデス」

 

 私の胸に頭を擦りつけたままエルが続ける。

 

「トレーナーさんと勝ちたいデス。ホープフルやNHKマイルを勝って、ダービーで負けて、ジャパンカップを勝った、マルカブで勝ちたいデス」

 

 エルが顔を上げた。青空のような瞳が私を見た。

 

「エルはトレーナーさんと勝ちたいから、マルカブを選んだんデス」

 

 それは、いつか私がグラスに行った言葉に似ていた。

 強いから、勝算があったから。そういう理由でグラスをスカウトしたわけではない。同じように、エルも勝てるチームだからマルカブを選んだのではないのだ。

 

「エル……」

 

 彼女の願いを叶えてあげたい。が、だからと言って他の四人をおいてフランスへは行けないのも確かだ。

 ライスは次の春天がトゥインクルシリーズ最後のレースだ。メジロマックイーンとの長距離での再戦になる以上は万全を期したい。

 グラスもシニア級最初の年。これから百戦錬磨の強豪たちを前に気が抜けない。

 デジタルとドトウもクラシック級だ。キャリア的に一番重要な年になる。

 身体が二つあれば。そんなことを考えてしまう。

 

「案の定、迷ってるようだな」

 

 第三者の声に振り返ると、黒沼トレーナーがいた。横でデジタルが申し訳無さそうにしている。

 

「す、すいません! 扉の前にいらしたので、勝手にご案内してしまいました!」

「いや、それは別に構わないけど……どうしたんです黒沼さん」

「なに、さっきの話の続きだ。理事長は追って詳細を詰めるとはいったが、俺たちで決めれるところはさっさと決めてしまいたい」

 

 黒沼トレーナーから資料を渡される。

 

「エルコンドルパサーの欧州でのローテーション案だ」

「早いですね……」

「その方がいいだろう?」

 

 ちらり、と黒沼トレーナーの視線がエルに向いた。

 立ってする話でもないので、ミーティング用のテーブルに案内する。

 私の後ろから、ライスたちが資料を覗き込む中、黒沼トレーナーが説明を始めた。

 

「最終目標は秋の凱旋門賞。それまでの出走予定だが、欧州の環境への慣れと最終調整の期間を念頭に組んだ。

 四月に渡仏して、まず五月末のGⅠイスパーン賞。距離こそ違うが、場所は凱旋門賞と同じロンシャンレース場だ。

 次に七月にあるフランスのサンクルー大賞。九月、凱旋門賞と距離もコースも同じフォア賞を前哨戦とする。そして十月には大本命、凱旋門賞だ」

「凱旋門賞までの半年でGⅠ二戦、GⅡ一戦ですか……」

「シニア級に上がる時点でGⅠ三勝のウマ娘だ。これくらい強気でいい」

「それにこのレース時期は……」

「他のマルカブのウマ娘の目標と被らないようにしてみた。それほど的外れではないだろう?」

 

 黒沼トレーナーの言うとおりだ。

 エルが渡仏してからマルカブのみんなが出るとしたら、ライスとグラスの天皇賞(春)、デジタルとドトウのクラシック戦線、六月のグランプリ。余裕はないが、ギリギリ日本とフランスを行き来することができる。

 

「トレーニングの様子はネットを使えばお前も見れる。このローテーションならお前も間を縫ってレースを見に来れるだろう。大変かもしれんが、どうする?」

「やりましょう」

 

 即答だった。

 

「ありがとうございます、黒沼さん!」

「やったねエルさん!」

「ハイ!」

「構わん。これが俺の仕事だ。それに……礼でもある」

「……礼?」

 

 身に覚えがない。が、サングラスの奥で黒沼トレーナーの瞳が動く。私の後ろで成り行きを窺うライスに視線が向かう。

 

「ブルボンの欧州での戦績は最初は芳しくなかった。環境やバ場の違いもあるだろうが負けが込んだ状態で日本を離れたことを気にしていたのだろう。精神面で欧州のウマ娘に後れを取っていた。

 ……それが変わったのは、ライスシャワーの天皇賞(秋)の報道を見てからだ」

「ライスの……」

「ああ。今回のプロジェクトを引き受けたのも同じ理由だ。あのレースで奮い立たされたのは、お前たちが想っている以上に多い」

 

 意外だった。あの秋天では予測されたサイレンススズカを助けるため、ライスのアイディアを採用した結果だった。おかげでライスは同年の天皇賞春秋制覇を成し遂げ、年度代表ウマ娘にもなった。

 彼女の力を証明する偉業となったとは思っていたが、その影響は海の向こうにいたミホノブルボンにも波及していたとは。

 

「俺だけじゃない。きっかけがどれかは分からんが、エアグルーヴやシリウスシンボリが協力するのも似たような理由だろう。お前のこれまでの努力と成果が、今回の海外遠征に繋がった」

「それは、ライスたちが頑張ったからで……」

「自信を持て」

 

 黒沼トレーナーの手が伸び、私の胸を叩いた。

 

「学園が動いて、エアグルーヴやシリウスシンボリが協力するのは間違いなくこの二年のマルカブの活躍によるものだ。実際に励んだのはウマ娘たちだろうが、彼女たちを育てたのも支えたのもお前だ。

 胸を張れ。今のマルカブを築いたのはお前の功績だ」

「黒沼さん……」

「黒沼さんもっと言ってください!」

「トレーナーさんって未だに『頑張ったのは君たちだよ』とか言うんデスよ!」

「私たちも常々自信を持つよう言っているんですがこれが中々……!」

 

 後ろから飛んできた言葉の槍が背中に突き刺さる。

 苦笑する黒沼トレーナーが締めくくる。

 

「まああれだ、謙遜も過ぎれば嫌味ってな」

「そう、ですね。精進します……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「そうだ。他に渡すものがあったんだ」

 

 エルの渡仏の詳細を一通り詰めたところで、黒沼トレーナーが懐からUSBを取り出した。

 

「たづなさんからだ」

「たづなさん? 一体なんでしょうか」

「そこまでは知らん。お前、理事長室から急いで出ていっただろう。あの後このUSBも渡すつもりだったらしい」

 

 なんだろうか。業務用のタブレットPCに接続して中身を確認する。

 三つあるファイルのうち、真っ先に目に留まったのは名前が『トレーナーさんへ』となっていたテキストファイルだった。

 とりあえず開いてみる。

 

『マルカブのトレーナーさんへ。

 直接お伝えできれば良かったですが、もしものこともあるでしょうからこちらにも書かせていただきます。

 まずは昨年、マルカブの活躍おめでとうございます。クラシック級での活躍も素晴らしかったですが、特筆すべきはライスシャワーさんの悲願でもあった中距離GⅠ勝利ですね。サイレンススズカさんとオフサイドトラップさんとの最後の対決は私も思わず走り出したくなるほど熱くなってしまいました。いえ、私はごく普通の秘書なのですが。

 さて、本題になります。既に幾度となく言われているかもしれませんが、一昨年からマルカブの評価は非常に高まりました。それこそリギルのようなトップチームにも引けを取らないほど。

 だからこそでしょう。ウマ娘さんたち、トレーナーさんたちからマルカブに入りたいという声が非常に多くあります』

 

 思わず、え? という声が出てしまった。

 皆の視線が突き刺さる中、読み進めていく。

 

『ウマ娘さんたちからは当然チームに入り指導してもらいたいということ。そしてトレーナーさんたちからは、サブトレーナーとして教えを請いたいというものでした。

 希望者を全員受け容れろ、などとは申しませんが、かつて貴方がマルカブのサブトレーナーとして修行したように、ライスシャワーさんと歩んできたように、新たな世代の方々を導いてはくれませんか?

 どうか、ご検討のほどよろしくお願いいたします』

 

 続けて残り二つのファイルを開く。

 片やマルカブへの入部を希望するウマ娘たちのデータが。片やサブトレーナーを希望する若き新人たちの経歴が纏められていた。

 一人や二人ではない。ウマ娘ならば二十人以上、サブトレーナー希望も十人近くいた。

 

「お兄さま、たづなさんからはなんだったの?」

「あ、ああ実は……」

 

 ライスたちに事情を話す。入部希望者の話を聞いて、ライスたちが歓喜の悲鳴を上げた。

 

「すごい、すごいすごいよお兄さま!」

「こんなにたくさん……! 一気に大所帯ですね!」

「ほわあ~~! 大勢のウマ娘ちゃんとチームメイトになるなんて! 今から興奮しちゃいますね!」

「いや待って欲しい。流石に全員なんて無理だよ?」

「そのためのサブトレーナーだろう」

 

 そう言う黒沼トレーナーも中身までは聞いていなかったのか、驚きの表情をしていた。

 

「メッセージにもあるんだろう、全員は受け入れる必要はないとな。ウマ娘なら五人程度、サブトレも一人くらいなら面倒見れるだろ?」

「ま、まあそれくらいなら……」

 

 師匠は私をサブトレに置きつつ、もっと多くのウマ娘を見ていたのだ。弟子である私が無理などとは口にできない。

 それについさっき、ライスたちに功績に対して胸を張れ、自信を持てと言われたばかりだ。ここで怖気づくわけにはいかない。

 

「じゃ、じゃあ入れる方はどうやって選ぶんでしょうか? わ、私の時見たいに面接とか……?」

「うーんドトウさんの時はエル先輩の推薦があったわけですからね……」

「普通は模擬レースとか、種目別競技大会の結果を見てスカウトされますよね?」

「あとは……レーステストとか? リギルはよくやっているよね」

「いえ───」

 

 エルの真剣な声に、皆の視線が集まる。

 

「───レースで決めるのはノー、デス……!」

「エ、エルさん……!」

「エル……!」

 

 思わず目を逸らす。約二年前、グラスとエルが競った模擬レースで勝利したエルではなく、二着のグラスへ声をかけたのは私だ。

 

「ま、まあライスやデジタルもレーステストしたわけじゃないし、拘る必要もないだろう」

 

 リストを見ていく。

 サブトレーナー希望の人たちは皆新人で、四月からトレセン学園に勤務する者たちだ。

 対して入部希望のウマ娘たちは入学済み。本格化も始まりデビューの見通しこそあるが、まだ担当トレーナーが付いていない子たちだ。

 ふと、目が止まる。

 

「彼女は……」

 

 初めて見る顔ばかりのリストに、見覚えのあるウマ娘がいた。

 鬣のような黒髪。獰猛な目つきは一度見れば忘れることはできないだろう。

 

「エアシャカール……!」

 

 昨年の夏、私たちに協力してくれたウマ娘がいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 二月の終わり。

 ついに有力チームに所属するウマ娘たちの、トゥインクルシリーズ春シーズンの予定が発表された。

 記者会見場では、チームトレーナーとウマ娘たちが並び、記者団に向けて情報を解禁していく。

 チーム・ハマルのアドマイヤベガは弥生賞を経て皐月賞へ。その後もクラシック三冠への挑戦を表明。

 チーム・リギルのエースであるタイキシャトルは昨年に続き海外遠征を発表。注目株のテイエムオペラオーは毎日杯を経て皐月賞に出走。やはりクラシック三冠への挑戦を表明した。

 チーム・スピカが発したサイレンススズカの渡米はメディアに大きな衝撃を与えた。日本での復帰がないことに批判的な声を上げる者もいたが、彼女の脚のためと言われては受け入れるしかなかった。シニア級ではメジロマックイーンが天皇賞(春)へ直行。スペシャルウィークは阪神大賞典をステップに天皇賞(春)への出走が発表された。黄金世代のダービーウマ娘とかつて連覇した名優の参戦にメディアは盛り上がった。

 そして、私たちチーム・マルカブの番となった。

 

「ライスシャワーは春の天皇賞へ直行します。昨年からの連覇、通算四つ目の春の楯を目指します。そして、天皇賞(春)を最後にライスシャワーはトゥインクルシリーズを退き、ドリームトロフィーリーグへと移籍します」

 

 おお! と声が上がると同時にフラッシュが焚かれ、光の洪水が私たちに襲い掛かる。昨年唯一サイレンススズカに先着し、年度代表となったウマ娘のラストランだ。しかも既にスピカの二人が出走を表明している。激闘の予感に、記者たちも奮い立ったのだろう。

 

「次にグラスワンダーですが、日経賞をステップに彼女も春の天皇賞に挑戦します」

「ライスシャワーとの二名出しということでしょうか!?」

「ライスシャワーのラストランに若手をぶつけるということですか!?」

 

 記者団から声が上がる。予想できた質問だ。慌てず答える。

 

「本人たちと話し合った結果です。ライスシャワーもグラスワンダーとの対決を楽しみにしておりますし、グラスワンダーも先輩と競う最後の機会ということでより一層気合が入っています。他の出走者を軽んじるつもりはありませんが、二人の走りに期待していただけたらと思っています」

 

 同チームから二人出るのは真っ向勝負のため。とりあえずは納得したのか、質問した記者たちも礼をしてから席についた。

 

「続いてアグネスデジタルですが、ニュージーランドトロフィーをステップにNHKマイルカップ、六月には安田記念への挑戦を目標としています。メイショウドトウは弥生賞をステップに皐月賞を目指します。メイショウドトウはその後もクラシック三冠へ挑戦します」

 

 先ほどに比べれば控えめなフラッシュ。クラシックについてはリギルやハマルの方が有力過ぎてあまり注目されていないのかもしれない。

 デジタルもティアラ路線の桜花賞に出るという選択肢もあったが、当のデジタルが、

 

「さ、さささ流石に一生に一度の三冠路線にあたしが出るなんて! あーいえNHKマイルを下に見ているという意味じゃないんですが───!」

 

 というので三冠路線はやめてマイル路線に注力することにした。実際、今のデジタルがオークスやダービーの2,400mに対応できるか難しいところなのでベストな選択、だと思う。

 

「最後になりますエルコンドルパサーですが、四月より欧州への長期遠征を予定しております」

 

 記者団がざわつきだす。質問が飛んでくる前に一気に言ってしまおう。

 

「期間は十月まで。滞在先、その他体制については後ほどトレセン学園広報より改めて発表させていただきます。ローテーションについては欧州重賞レースを四戦を予定。最終目標は───」

 

 記者団が息をひそめるのが分かった。欧州遠征と言った時点で察しているのかもしれない。

 心音が速くなる。渇いた喉から声を絞り出す。

 

「───凱旋門賞」

 

 歓声と光の洪水が、私たちを飲み込んでいく。

 

「に、日本でのシニア級出走は無いということでしょうか!?」

「大阪杯や天皇賞へ出走せず海外に行くのですか!?」

「既にエルコンドルパサーはNHKマイル、日本ダービー、ジャパンカップで同世代やシニア級や世界の強豪相手に実力を証明しました。日本を代表するウマ娘として海外に挑む権利は十二分にあると認識しています」

「海外バ場への適性についてですが───」

「遠征に帯同するウマ娘は───」

 

 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。これもエルが皆に期待されていることへの証左だろう。

 そして口にしたことで背中にずしりと重圧がかかったようだ。

 そうだ。ついに、エルが世界に飛び立つのだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 三月になり、トゥインクルシリーズ春シーズンが開幕した。

 クラシックや天皇賞へのステップレースの結果から未来のスターを夢見る中、春シーズン最初のGⅠが開催した。

 二つのGⅠで、人々は度肝を抜かれることとなる。

 

 中京レース場 GⅠ高松宮記念

 

 ターフに釘付けになっている男がいた。二月に学園に取材に来たあの若い記者だった。

 カメラを向けることも忘れ、駆ける彼女の姿に心を奪われていた。

 高松宮記念は1,200mのスプリントだ。優位なのはスタートダッシュから前目につけること。一分程度で終わる電撃戦において、脚を溜めるなどと悠長なことはしていられない。

 故に、後方に位置取った時点で終わったと思った。

 なのに───

 

『外からキングヘイロー! キングヘイロー上がってきた! 届くのか! 並んだ、並んだ!』

 

 後方から追い上げる緑の彗星。王者不在のスプリントGⅠとはいえ、彼女の末脚は他の誰よりも鋭く、速かった。

 

『今ゴール!! 僅かにキングヘイローか!? ……キングヘイロー!! 一着はキングヘイロー!! 

 キングヘイローがまとめて撫で切った! 恐ろしい末脚! ついにGⅠに手が届きました!! 新時代のスプリント王者はキングヘイロー!!』

 

 最後の直線で外側からのごぼう抜き。その衝撃に胸を打たれた。

 我に返ってカメラを向ける。汗にまみれ、泥にまみれ、けれども高らかに腕を上げて勝利を謡う彼女は、間違いなく黄金の一角であった。

 幾度も敗北を経て、彼女は己が才能を証明したのだ。

 

 

 阪神レース場 GⅠ大阪杯

 

 阪神レース場はどよめいていた。

 冬シーズンから研鑽を積んだウマ娘たちの大舞台とも称される大阪杯。ここからシニア級で活躍するスターが出ることもあり、多くのレースファンが注目していた。

 しかし、

 

『二年ぶりの光景だ! けれどもやはり驚きしかない! 最後の直線、先頭を行くのは───』

 

 実況すら困惑していた。

 先頭を走り、十五人のウマ娘を引き連れるのは桃色の勝負服。

 

『サクラバクシンオー! サクラバクシンオー先頭だ!』

 

 中距離に専念するとは言っていた。二年前には中距離GⅢを勝っているのも知っている。

 けれど、GⅠは別だ。そこにフロックなどなく、心と体、そして思考力が伴わなければ勝ちえない。

 少なくとも、世間が知るスプリント以外のサクラバクシンオーには、それらが揃っているとは思っていなかった。

 しかし、目の前で起こっていることは現実だった。

 

『サクラバクシンオー!! サクラバクシンオーゴールイン!! まさに小水石を穿つ! 一念岩をも通す! ついに獲ったぞ中距離GⅠ!!』

 

 サクラバクシンオー、二バ身差での中距離GⅠ制覇。それは彼女とトレーナーが長い時間をかけて得た栄冠であった。

 そしてスプリント、マイル、クラシックディスタンスの三階級制覇を成し遂げた瞬間でもあった。

 

 

 驚愕、興奮、感動。猛る炎のような感情は燃え尽きることなく、四月へと持ち越される。

 春が来た。

 激闘の春がやって来たのだ。

 

 

 





 新メンバーは一人を除いてモブにする予定なので、あんまり出番は無いです。
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