シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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お久しぶりです。
ライスの新規サポカが発表されたので初投稿です。


見ましたか皆さん。
私はライスの通常勝負服がウェディングドレスモチーフなんだから別衣装で白のウェディングドレスとか解釈違い侍だったのですが今回のサポカ絵は宗旨替えを余儀なくするレベルで可愛いですね。安易に純白にするのではなくライスのパーソナルカラーである青っぽい色合いなのがチョベリグです。髪飾りのバラも白っぽいものに変えているところもディモールトベネ。昨今のソシャゲにありがちなやたら露出の多いドレスではなく肩ひものついたワンピースタイプ(であってる?)によってライスの少女的可愛さを演出しつつバラから伸びるヴェールと首飾りが大人っぽさも両立していてグラッツェ。そしてなによりも三つ編み! 三つ編みですよ奥さん。ただ髪形を変えるのではなくライスの目隠れと跳ねのある特徴ある前髪を残しつつ後ろの髪は三つ編みにしてしかもそれを前に出すことで艶やかさはさらにドン! 3倍は軽く跳ね上がるでしょう。今回のイベントにライスを起用した人とサポカ配布にしようと言い出した人とサポカ絵をデザインした人は2億年無税にしてあげてもいいと思うんですよ私は。何が言いたいかというとライスめっちゃ可愛いヤッターってことです。

とりあえず秋天まで毎日投稿します。





チーム始動編
6話 ライスと後輩たち


 日本ダービーが終わり、世間の関心が宝塚記念へと向かう中、トレセン学園はとあるチームが話題に上がっていた。

 チーム・マルカブ。漆黒のステイヤーの異名を持つライスシャワーが所属する、三代続くそれなりの歴史こそあれ、人数不足から解散の危機にあった零細チーム。

 そんなチームに二人のウマ娘が新たに入った。それだけなら数あるチームの動向の一つとして記憶の片隅に残る程度だが、入った二人がグラスワンダーとエルコンドルパサーとなれば話は別だ。

 どちらも入学早々に頭角を現し、かの皇帝やスーパーカーを思い起こさせる速さで選抜レースへの出走。間違いなく次代のスター候補として注目されていた二人だ。

 それが解散寸前のチームへの加入。最強のリギルでも、個性派ぞろいのスピカやカノープスでも、歴史あるシリウスでもないことが様々な憶測を呼んでいた。

 いかにしてスカウトしたのか。あのチームに何を感じて加入したのか。中には下卑た妄想を垂れ流す輩もいたが、当人たちを知るものたちによって直ちに否定された。

 それでも雑音を止めないものは悉く、笑顔を張り付けた緑の秘書と対峙することとなった。

 経緯はともかく、これでマルカブは他のトップチームと並んで注目されることとなる。

 そしてそれは、良い点ばかりではなかった。

 

「それじゃあ、二人に今のマルカブの状況を教えるね」

「はい」

「お願いしマス!」

 

 放課後、人のいない空教室で三人のウマ娘が机を囲んでいた。

 四つの机をくっつけ、その上に大きな紙を広げるライスシャワー。紙にはチームに関する規則やおおよそのレーススケジュールが書かれていた。

 伊達メガネをくいっと上げて、ライスシャワーが口を開く。

 

「チームの結成や存続は五人以上の所属メンバーが条件。でも理事長の方針もあって、これはかなり融通が利くの」

「実際マルカブも私とエルが入って三人ですけど、存続が許されていますよね」

「うん。これはチーム全体のこれまでの実績のおかげだけど、こういった優遇措置には非難する声もあるんだ」

 

 そうだろうな、とエルコンドルパサーは思った。

 結果でルールを覆すといえば格好よく聞こえるが、GⅠウマ娘がいるから人数不足でもチームとして認めますでは、正しくルールを守っている者たちはたまったものではないだろう。

 

「とりあえずは凌いだけれど、このままだとまた存続のための条件を示される。だからライスたちは結果を示すしかない」

 

 それがさらなるメンバーの追加か、特定のレース勝利か分からない。

 分からないから、こちらからぐうの音も出ない実績を積み上げる必要がある。

 

「具体的には、今年中にGⅠを獲るよ」

 

 ぞわり、とグラスワンダーは自身の肌が粟立つのを感じた。

 GⅠ。出走できただけでも名誉であり、勝利すれば未来永劫その名が歴史に刻まれる、レースにおける最大の栄誉。その一つを獲るためにウマ娘とトレーナーが文字通り生涯を賭けるタイトル。

 それを今年中に獲ると、容易く言ってのけるライスシャワーに戦慄する。

 

(これが菊花賞ウマ娘。一時代を築いたスターウマ娘……!)

 

 ライスシャワーがレーススケジュール表を指す。時期は秋。

 

「ライスの当面の目標は天皇賞(秋)。グラスさんとエルさんも、早ければ九月にはデビューできる。二人ともマイル適性があるからジュニア級レースの選択肢も多い。だから、二人が目標とするのは……」

 

 秋から冬へ指が動く。

 狙うはGⅠ、ならば当然レースは限られる。

 

「ジュニア級の王者を決めるGⅠ。阪神JF、朝日FS、ホープフルステークス。このうちのどれかを二人には獲ってきてほしい」

「それはなんとも……」

「簡単に言ってくれますデス」

 

 言葉とは裏腹に、二人の顔には笑み。

 二人とも目指すのは片や頂点、片や最強。その道のりにGⅠへの挑戦がある以上、昂ぶりこそあれ怖気づくなどありえなかった。

 

「エルが目指すは世界最強! ならば目指すは王道の中距離(ミドルディスタンス)、ホープフルでしょう!」

「では私は、クラシック級の登竜門と呼ばれる朝日FSへ!」

「よーし、じゃあチーム・マルカブ、秋のGⅠに向けて頑張るぞー……」

「「「おーー!!」」」

 

 

 

 

「……今更ですけど、こういうチームの指針ってトレーナーさんが調整するものでは?」

「おにい……トレーナーさん、あんまりこういうのに頓着しないから」

「「あー……」」

 

 君たちの夢を支える方が大事だから、そんなことを迷わずいうトレーナーの姿が容易く想像できた。

 ウマ娘だって、トレーナーの夢を支えたいと思うのだが、それに気づけるのはまだ先のようだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「はい。グラスワンダーさんとエルコンドルパサーさん、二名のチーム・マルカブへの加入を確かに受理しました」

「ありがとうございます。色々お手数おかけしました」

 

 学園の事務局にて、私はたづなさんへ書類を渡していた。

 なぜ理事長秘書である彼女がいるかというと、この時期はトレーナー契約やチーム加入が立て続けに起きるため、事務員の手が足りないのだとか。

 あと、私のようになにかと注意を受けるトレーナーヘの対応もある。

 二人の加入に合わせて必要な事務手続きも済ませていく。

 秋シーズンに向けたレース登録、夏合宿への参加要望、メンバーが増えて必要になった備品の申請。トレーニング関係はこちらで吟味するので予算の申請もしておこう。

 トレセン学園も電子化が進み、昔に比べて一々手書きの書類を出す量が減ってきているのは良い変化だ。もっとも、最低限の紙の書類は未だ残っているのだが。

 

「これで最後。申請をお願いします」

「はい……あら、これは」

 

 私が出した書類を見て、たづなさんが驚く。少し困ったような、微笑むような表情だ。

 

「少し早くないですか?」

「時間の問題ですよ。たづなさんだってそう思いませんか?」

「……まあ、そうですね。了解しました受理します」

 

 申請書を手に取るたづなさん。そしてなぜか、空いた手で私の手を掴んできた。

 

「え?」

「話は変わりますが、なぜ二度目の選抜レースを見にこられなかったのですか?」

「えー……理事長からのチーム存続条件は二名のスカウトですよね?」 

「二名以上、ですよ。チームの成立と存続が五名以上であることは変わりません」

 

 にこり、と微笑むたづなさん。なんでだろう、美人の笑みのはずがなんか怖い。

 

「えっと……うちはほら、少数精鋭なんですよ」

「それは厳しいトレーニング故に残る子が少ない場合ですよね。黒沼トレーナーのような。マルカブのところは違いますよね」

 

 そうですね。うちはケガ無し病気無し、無事是名バがスローガンですので。

 

「過去の実績だけで存続を許すのにも限界があります。人数規定だけでも満たしていただかないと、いずれまた条件を提示されることになります。

 そしてその負担はトレーナーさんではなく、担当するウマ娘に行くことをお忘れなく」

「そう……ですね」

 

 一人チームではなくなった。となると次求められるのは実績か。

 ライスたちの実力は疑っていないが、無理にプレッシャーを与えることは避けたい。

 

「マルカブが一人一人丁寧な指導を心掛けているのは分かります。そのためあまり多くのウマ娘を担当することができないのも。

 ですが覚えておいてください。ウマ娘は貴方が思っているほどか弱くはありませんし、一方的に支えられる存在ではないのです。人バ一体。トレーナーもウマ娘も、互いに支え合う存在です」

「肝に銘じますよ……」

 

 解放され、事務局を後にする。

 しかし、支え合う存在か。たづなさんから見て、私はウマ娘を……ライスを支えているように見えるのだろうか。

 

「いや、支えてもらっているのは私の方だ。ずっと、ずっと前から……」

 

 淀で咲き誇った時、非難に耐えていた時、散りかけても生き残り、再び咲いた時。

 いつだって私は、あの青いバラに支えられてきたのだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「おおっ!! ここが、トレーナーのついたウマ娘しか来店を許されないという、学園御用達のスポーツ用品店デスか!!」

「ええっ!? ここってそんなすごいお店だったの!?」

「いや違うから。専門性が高いからデビュー予定のない子が来にくいのは確かだけど」

 

 数日後、私たちチーム・マルカブ一同はトレーニングを休んで学園外に足を運んでいた。

 休日だがトレセン学園の学生としての活動のため三人とも制服だ。手にはトレーニングウェアを入れたバッグを抱えている。

 私もカジュアルながらもスーツを着て、胸にはトレーナーバッチをしっかりとつけている。

 目的地は他のトレーナーたちも良く使うスポーツ用品店だ。わざわざここを指定するのは、なんといってもその規模と多様性にある。

 かつてはレースファンが経営する一般的な規模の店だったようだが、当時のスターウマ娘が常連だったという評判が評判を呼び、なおかつ店側も期待に応えようとグレードアップを続けた結果、ショッピングモール級の規模を持つことになったという。

 トレーナーたちが多用する理由は規模だけでない。品揃えもそうだが、その場で蹄鉄やシューズの試走、場合によってはオーダーメイドで発注することもできるほどの設備と専門知識を持つ店員がいるのだ。

 とあるトレーナー曰く、この店に来れば何でもそろう。この店に無いものは存在しない。仮にあったとしても、その場で作ってしまう。のだとか。

 

「そんなわけで、今日はここでみんなのトレーニング用品やトレーニング用のシューズを揃えるよ」

「あれ? ライスのシューズはまだあるよ?」

「ライスのは昔使っていたものやリハビリ用も兼ねたものだろう。復帰も果たしたし、秋のシーズンに向けて今のライスにぴったり合ったものを揃えたいんだ」

「シューズですか。レース用なら分かりますが、トレーニング用なら学園で支給されるものでよいのではないですか?」

「あれも汎用性は高いんだけどね。誰にでもある程度合うから普段のトレーニングならいいけど、レース直前の追切だとやっぱり専用のものを使いたい」

「んーそこまで変わるものなんデス?」

「ま、それは実際に着けてみればわかるさ」

 

 まずはドリンクの粉末、タオルを買い漁る。三人に増えたので使用量も三倍だ。あ、新しい粉末が出てる。試しに買ってみよう。

 テーピング、蹄鉄をつけるための器具も調整用と合わせて購入。

 嵩張るので買ったものは店から学園へ配送してもらう。

 次が今回の本命、シューズだ。

 

「これは……!」

「すごいデスね!」

 

 シューズコーナーに足を踏み入れた瞬間、グラスとエルの二人から声が漏れた。

 壁一面に飾られた色とりどりのシューズと照明を受けて鈍色に光る蹄鉄。数百を超えるそれらが織り成す壁画が客を迎え入れた。

 目を奪われる二人の様子にライスと私に思わず笑みが浮かぶ。

 この店に初めて来た人はみな、彼女たちのようにこのシューズと蹄鉄の壁画に圧倒されるものだ。

 

「中庭には簡易なトラックもあるから、シューズを試着したまま試走までできるよ」

「おお。だからウェアを持ってきたんデスね!」

 

 壁に飾られたシューズに張られた性能表を基に、まずはライスのシューズを選ぶ。

 ライスは長距離が得意なステイヤー。スタミナを活かせるよう軽めのものがいい。

 今使っているものも同様の観点から選んだものだが、この手の技術は日進月歩。少し離れていただけで何世代も製品が進化しているものだ。

 探してみれば以前使っていた物の最新版があった。軽さを維持したまま新素材を使い耐久性を上げたらしい。シューズ内のクッションも改良し、脚への負担も軽減しているとか。

 まずはこれか。

 あとは近い性能の物を二、三個見繕う。ああそうだ。中距離だって走るのだからそちら向けもいくつか買わないと。

 蹄鉄も、トレーニング用はあとでまとめて買うとしてまずはレース用を見繕う。選んだシューズに合うものを取り、まとめて籠に入れてをライスに渡す。

 

「こんなに試すんですか?」

 

 シューズと蹄鉄でいっぱいになった籠を見てグラスが目を丸くした。

 

「こういうのはカタログスペックだけでなく、実際に走ってみないと分からないからね」

 

 次はグラスだな。

 強力な末脚を活かせるよう、軽さよりも耐久性が高いもの、脚への反動を和らげるものを選ぶ。ライスに比べてマイルにも適正はあるようだし、ここはマイル〜中距離、中盤〜長距離と対応するものにしよう。

 エルも対応距離は同じ。しかしグラスの物より軽めがいいかな。

 ……あ、マルゼンスキーモデル。ちょっと興味惹かれるがうちに逃げウマ娘はいないのでスルーだな。

 ライスに渡したのと同じくらいシューズと蹄鉄が入った籠を二人に渡す。

 ずしりと手にかかる重み。これがデビューを控えているということを実感させるそれに、二人の顔に薄っすらと興奮の色が浮かんでいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 中庭にあるのは一周800mほどのトラックだ。学園にあるものに比べれば小さいが試走するには充分だ。

 ウェアに着替えた三人と二人一組で準備運動する。身長の都合、エルは私と組んでもらった。

 その後は足元の柔軟を入念に。全体を通して身体が温まり、うっすら汗を掻くくらい行う。

 

「よし、じゃあ順番にさっき選んだシューズの試走といこう」

「はーい!」

 

 ライス、グラス、エルの順にトラックを一周する。シューズの感触を確かめ、次のシューズへ替えてまた一周。適宜蹄鉄の組み合わせも替えながら試走を繰り返す。

 

「ちょっとクッションが薄いかな」

「重い感じです。もう少し軽めのものを……」

「なんか違うデース」

「んー蹄鉄のバランスが合わないかも」

「程よい重さですが、ちょっと硬く感じます」

「なんか違うデース」

「うん、これが一番しっくりくるかな」

「強く踏み込めます。私にはこれでしょうか」

「なんか違うデース」

「……エル、もう少し具体的に言えませんか?」

「そんなこと言われても違うものは違うんデス!」

 

 数度の試走を経て、ライスとグラスは納得できるものが見つかった。しかしエルはそうもいかないらしい。

 持ってきたシューズは一通り試したがしっくりこないという。難しいのは、それをエル自身が言語化できないことだ。

 

「今まではこんな違和感なかったんデス……」

「学園支給のシューズも一般に売られているものに比べれば性能がいいからね」

 

 なまじ素質がいいだけに、あまり道具の差を意識したことがないのだろう。それが専用シューズを持とうとしたところで微妙な差異が気になりだしたか。

 とはいえ生まれ持った才能と素質だけでやっていけるほどトゥインクルシリーズは甘くない。カーレーサーが1mgでも車体を軽くしようとするように、こういった道具との相性を突き詰めてゼロコンマの勝負を制する必要がある。

 

「うーん、こういうのは専門家に聞いた方が早いかな」

 

 餅は餅屋。私もトレーナーである以上道具の目利きは鍛えているが、やはり知識や経験はトレーニングの方に偏っている。一方でこの店の店員はいわば道具の知識を鍛え上げた人たちだ。

 ライスとグラスには待ってもらい、エルを連れて先ほどのシューズの壁画まで戻る。

 トレーナーバッチとトレセン学園の制服を見て、女性店員は全てを察したようだ。さすがだ。

 

「なんといいますか、こっちのシューズはベタッと張り付くんデス。こっちは逆に浮くというか、薄皮一枚隔てた感じがあるというか……」

 

 エルがどうにかこうにか言葉をひねり出し、不満点を伝える。

 抽象的な例えにも店員は嫌な顔せず、むしろ興味深いとばかりにエルの話を聞いている。

 ふむ、と思案した後。

 

「おそらく、お客様は感覚が鋭敏な方なのだと思います。ですから僅かな違和感が気になるのでしょう。

 となりますと、当店の商品からピッタリなものを探すのは難しいですね」

「ケ!? そ、そんな~」

「ですから作ってしまうのはどうでしょう」

「ケケッ!?」

「いいですね。お願いします」

「ケケケッ!?」

 

 困惑するエルをよそに、店員が一度バックヤードに引っ込んで、いくつかの道具を抱えて戻ってきた。

 これぞ、学園のトレーナーたちが常連となる理由。品揃えだけではない。突発的なオーダーメイドにすら柔軟に対応してくれるのがこの店の一番の強みだろう。

 エルを椅子に座らせ、裸足にする。

 慣れた手つきで採寸、型取りを行っていく。

 

「得意な距離はマイルですか?」

「長距離だって行けるデース!」

「それは凄い……!」

「自慢の担当です。……店員さんも慣れていますね。職人さんでしたか」

「まだ修行中の身です。あ、ちゃんと製作はマイスターがやりますのでご安心を」

「店員さんもいい手際に見えますが」

「まだまだですよ」

 

 謙遜ではないだろう。何かを極めようとすればいつまで経っても己が未熟を感じるものだ。私が師匠の下でトレーナー修行していた時もそうだった。

 そして今も。求めるものは多く高く、手にあるものは少なく頼りない。

 

「これで型は取れました。試作品が出来ましたら連絡しますので連絡先の方を」

「分かりました」

 

 スマホの番号を紙に書いて、私たちは店を後にする。時間を見ればちょうどお昼時、ライスに電話して、フードコートで合流することにした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「それでオーダーメイドを頼むことにしたんですか?」

「ハイ! 世界に一つだけ、エル専用のスペシャルシューズデス!」

「やったねエルさん。このお店、すっごい職人さんもいるって有名なんだよ!」

 

 フードコートでテーブルを囲む、制服姿の三人の会話が花開く。

 三人の前には各々が選んだ昼食が並ぶ。

 エルは辛さが目玉の真っ赤なマーボー丼、グラスは香り立つ蕎麦に夏野菜の天麩羅、ライスは五目ラーメンと餃子と海老炒飯。当然、どれもウマ娘サイズである。

 私は手軽にきつねうどん。

 

「ライスはそれで足りる? 遠慮することないよ。ほらあそこ、新作のドーナツだってさ」

「だ、大丈夫だもん。朝いっぱい食べたし!」

「いやー前の歓迎会は凄かったデス。まさかスペちゃん並に食べる人がいるとは思わなかったデス」

「エル。先輩に失礼ですよ」

「そんなこと言ってー、グラスも目を丸くしてたデス」

「うう……やっぱ変なのかな」

「アスリートなんだし、たくさん食べられるのはいいことさ。小食の子は何かと苦労した話も多いし」

「そ、そうですよ。それにライス先輩はたくさん食べてらっしゃるのに体型が崩れませんよね。何か秘訣とかあるんですか?」

「秘訣……? んー特にはないかな。ライス、食べても太らない体質みたい」

「人によってはリアルファイトに発展しかねない体質デース」

 

 和気あいあいと食事が進む。

 エルは真っ赤な塊を口に入れるたびに汗を拭い、グラスは綺麗な所作で蕎麦をすする。ライスは均等に三種の皿を減らしていく。

 

「ライス先輩もよくこの店を使うんデス?」

「うん。初めての専用シューズもここで買ったんだよ」

「懐かしいな。あの時はまだマルカブもメンバーが多くて、師匠も一緒に買いに来たんだった」

「トレーナーさんの師匠……私たちと入れ違いで引退された、先代様でしたか」

「どんな人だったんデス?」

「優しい人だったよ。見た目はちょっと怖くて、あまりおしゃべりする人じゃなかったけど」

「古きよき人って感じかな。私には手取り足取り教えず、目で見て盗んでみろってスタンスだった」

「Oh……まさに職人って感じデス」

「そんな感じかな。結局、私があの人の技術をどれほど受け継げたかな」

「私もエルも、先代様のことは存じておりませんが……」

 

 思わず零れた弱音に、グラスが反応した。

 

「トレーナーさんの指導で、私もエルも日々成長を感じています。もっと自信を持ってください」

「そ、そうだよおにい……トレーナーさん! トレーナーさんのおかげで、ライスも菊花賞や天皇賞(春)を勝てたんだもん!」

「いやあれはライスが頑張ったからで」

「トレーナーさんのおかげなの!」

「んーこのやり取り何回目でしょう。本当に仲のいい兄妹なのデス」

「「え……?」」

 

 エルのつぶやきに私とライスが停止した。

 こちらの反応に、エルが戸惑う。

 

「あ、あれ? エル変なこと言いました? だってライス先輩、よくトレーナーさんのことをお兄さん? って呼ぼうとするデス。あれって兄妹だからじゃないんデス?」

「え、えっと……それは……」

 

 ライスがしどろもどろになる。

 何故そう呼ばれているのか、私は知っているが、果たして私から話してよいのか。

 

「も、もしや何か複雑な事情がおありなんでしょうか……?」

 

 あ、いけない。グラスまで勘違いしだした。

 意を決したようにライスが説明する。

 

「ち、違うの。……ライスの好きな絵本に出てくるお兄さまにね、似てるんだ。だからライスもお兄さまって呼んでるの」

 

 確か、幸せの青いバラ、だったか。

 色とりどりのバラが咲く庭で、ある日真っ青なバラが蕾をつけた。自然ではあり得ないとされる色をしたバラをみな不気味に思うが、ある日庭にやってきた『お兄さま』はその蕾を見てを素敵だ、綺麗に咲くに違いないとバラを買い取る。

 『お兄さま』は毎日その青い蕾に話しかけ、ついには青いバラが見事に咲いた。窓辺に飾られた青いバラの美しさに、道行く人たちにも幸せになった。という話だ。

 

「青いバラはライス先輩、そして先輩を見事GⅠの舞台で咲かせたのがトレーナーさんということですか」

「うん。自信が持てなくて弱虫だったライスをね、毎日毎日育ててくれたんだ」

「おお……ライス先輩のお兄さまにはそんな理由があったんデスね! ではエルも!」

 

 ぴょん、と席を立ったエルが私の真横につく。赤い唇が私の耳元にやってきて、

 

「にいに……♡」

「ええええエルさん!」

「ライス先輩みたいに、エルとグラスも咲かせてほしいデス!」

「で、では私も……お、お――」

「無理しなくていいからね?」

「――兄上!」

「そっち?」

 

 頬を紅潮させるグラスに、慌てるライス。それを見てケラケラと笑うエル。

 性格の違う三人、相性はどうかと思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。

 これ以降、ライスは二人の前でも私のことをお兄さまと呼ぶようになる。彼女たちに心を許した証だろう。

 

 

 やがてエルのシューズの試作品が出来たと連絡が入った。

 

「これが、エルだけのシューズ……」

 

 またガワだけのシューズを履いたエルの顔が輝いた。

 

「おお……おおおお!! これ、これこの感じデス!」

 

 嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね回るエル。

 どうやら満足のいく出来のようだ。

 それはそれとして、今はスカートなんだから跳ねるのは止めよう。色々揺れて危ないから。

 

「これさえあれば、エルは正真正銘最強デース!」

 

 数日後、完成したシューズを履いたエルは、トレーニングで見事自己ベストを記録した。

 

 道具は揃った。これで満を持して参加できる。

 

 夏の合同合宿に。

 

 

 

 

 

 








今後ライスがチームメイトの前でもお兄さま呼びするよという話でした。
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