シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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61話 挑戦者たち

 ジャパンダートダービーで大敗を喫したアグネスデジタル。気を取り直して夏合宿に参加したものの、どうにも身が入らない状態であった。

 チームでのトレーニングが終わった後も、いつもなら自主練をするか他のウマ娘たちの様子を観察に行くはずが、一人浜辺で黄昏ていた。

 脳裏にドミツィアーナの言葉が蘇る。

 

───芝で勝てなかったからって、ダートならいけると思ってる?

「あたしは……」

 

 違う。そんなこと思っていない。では何故言い返せなかったのか。もしや、心のどこかで無意識にでも思っていたのではないか。

 迷いが、自分への不信が、少女の脚を鈍らせていた。

 

「あ、いた!」

 

 アグネスデジタルの背中に声がかかる。

 

「デジタルさーん!」

 

 ライスシャワーだった。

 トレセン学園のジャージ姿に、両の手には飲み物の入ったボトルを持って駆け寄ってくる。

 

「ひゃあ!?」

「おおっと!?」

 

 ライスシャワーの脚が砂に取られてつんのめる。手から離れ、宙を舞うボトルをアグネスデジタルがなんとかキャッチした。

 

「えへへ、ドジしちゃった……」

「ライス先輩、いったいどうしたんですか?」

 

 アグネスデジタルが記憶する限り、ライスシャワーはウィンタードリームトロフィーに向けてハマルの面々と座学があったはず。

 自主練ならともかく、自分に用があるとは思えなかった。

 

「えっとね、ちょっとだけお節介に」

「へ?」

「隣、座るね」

 

 よいしょ、と砂地に座るライスシャワー。アグネスデジタルには先輩の意図が分からなかったが、見下ろすままなのも失礼かと隣に腰を下ろした。

 

「ドミツィアーナさんに言われたこと、気にしてる?」

 

 心臓が跳ねる。ええまあ、と平静を装ったものの、やがては言葉が漏れていく。

 

「あたしのやり方は、他のウマ娘ちゃんたちにとっては半端モノで、迷惑なのでしょうか」

「…………」

「芝かダート、どちらかしか見れないのは嫌でした。観客としてなら両方見れますけどレースに出る以上はそうはいかないです。芝に拘れば、ダートの方を見ている暇はありません。その逆もしかりです」

「だから二刀流を目指すんだね」

「はい。でもドミツィアーナさんのように思われていたのなら、あたしの選択は間違いだったんでしょうか」

 

 縋るような問い。否定して欲しいと思う反面、生半可な言葉では納得できないだろうと、面倒くささを持っていた。

 何度か潮騒が響いてから、ライスシャワーが口を開いた。

 

「ライスはそうは思わないな」

「……どうしてですか?」

「ライスはその場にいたわけじゃないけど、ドミツィアーナさんの言葉はある種の激励だったんじゃないかなって思うな」

「激励……?」

 

 そう、とライスシャワーは頷いた。

 

「デジタルさんは、ライスがヒールって呼ばれてたことを知ってる?」

「それは……知ってます。有名な話です」

「そっか……アレは、ただ二人の夢を壊したせいだけじゃない。今ならそう思える」

 

 沈んでいく夕陽を眺めながら、少女の言葉が続く。

 

「菊花賞でブルボンさんに勝った後、天皇賞でマックイーンさんに勝った後、ライスは負けちゃいけなかったんだ」

 

 ミホノブルボンのクラシック三冠を阻んだ後、ライスシャワーは有記念で大敗を喫した。メジロマックイーンの天皇賞(春)三連覇を阻んだ後は一年以上の長いスランプがあった。

 

「最強を倒したからには最強でないといけなかったんだ。ブルボンさんやマックイーンさんに勝ったライスはあの二人と、二人を応援してた人たちの期待も背負っていたから。

 ドミツィアーナさんから見たデジタルさんは、あの時のライスと同じだったのかも」

「あたしが……?」

 

 言われてアグネスデジタルは自身の戦績を思い返す。

 ジュニア級でダートGⅠを勝利し、ダート界の新星として期待された。しかしその後は芝に転向し、NHKマイルカップでは掲示板外。そして今度はジャパンダートダービーへ。

 変則的なローテーションは明らか。アグネスデジタルもその上で選んだ二刀流。

 だが、覚悟はしていなかった。敗北した者たちの想いを背負うということを。その想いの大きさを。

 

「ドミツィアーナさんが怒っていたのは、あたしが彼女の期待に応えられなかったから?」

「想像だけどね。……それで、デジタルさんはどうする?」

「どうする、とは……?」

「次走の話。まだ決めてなかったでしょ?」

 

 そういえば、決めていなかった。またダートか、今度は芝か。

 芝なら距離適性からマイルだろうか。

 

「ドミツィアーナさん、次走は南部杯だって」

「南部杯……マイルチャンピオンシップ南部杯ですか!?」

 

 盛岡で秋に開催される1,600mのダートレースだ。ダートでは数少ない国内GⅠ級。ジャパンダートダービーを制したドミツィアーナが挑むに相応しいレースだ。

 

「今度こそ、デジタルさんの想いを見せるときじゃないかな」

「あたしの……想い……」

「夢。諦められないでしょ?」

 

 気づけば拳を握っていた。

 アグネスデジタルの夢。芝もダートも走ること。それは決して、勝率を求めたからではない。

 

「……出ます」

 

 立ち上がる。

 アグネスデジタルはウマ娘を愛している。それは胸を張って言える。

 自分の走りがウマ娘に対する無礼であるのならやめたかもしれない。しかし、ただ伝わっていないのなら、未熟さゆえにレースを軽視していると思われたのなら。

 

「今度こそ、ドミツィアーナさんに失礼のない走りをしなければ……!」

 

 言葉にしても言い訳にしか聞こえないだろう。

 だから示す。走りで示す。奇妙でも、非常識でも、アグネスデジタルは本気だと証明する。 

 

「不肖、アグネスデジタル。南部杯でリベンジさせていただきます!!」

 

 少女から、迷いは消えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 デジタルのことはライスに任せることにした。

 他でもないライス自身がそう言ったのだ。ここは長年連れ添った相棒パートナーを信じる。

 目の前、マルカブ・ハマルの合同トレーニングスペースでグラスとドトウによる併走が行われていた。

 日本ダービー後からのドトウのトレーニング成果を見るためのものだ。

 

「やあああっ!!」

 

 蹴り上げた脚と共に砂が舞う。ドトウが裂帛の気合と共に前を行くグラスを抜き去り、ゴール地点を駆け抜けた。

 

「はぁ……はぁ……どう、ですか?」

 

 呼吸を整えながら、タイム計測とビデオチェックをしていたシャカールを窺う。

 ちらりとシャカールが後ろにいた私と奈瀬トレーナーを見る。計測していたのはシャカールだが、成果を判断するのはトレーナーである私たちだ。

 奈瀬トレーナーと目配せ。口にして議論するまでもない。結論は同じだった。

 

「フォームは及第点。仕掛け時も悪くなかった」

「や、やったぁ……!」

「でもタイムはまだまだだね」

「あうぅ……」

 

 落ち込むドトウ。だが現実は受け止めねばならない。

 彼女が菊花賞で相手するのはテイエムオペラオーにナリタトップロード。そして雪辱を誓うウマ娘たち。

 スタミナは本来の距離適性もあって十分。だが、決め手に欠けると言わざるを得ない。

 

「そもそもドトウ本来の走りは前方に位置取ッての粘り勝ちだ。終盤の末脚勝負は向いてねェ」

「それでもやるしかない」

 

 ドトウ本人が決めたことだ。彼女が諦めない限り、私たちから打ち切るような真似はしない。そしてメイショウドトウが諦めることは決して無い。

 

「ステイヤーとして何か意見はあるかい?」

 

 共に併走を見ていたスーパークリークへ話を振る。ライスがここにいないので、長距離の経験値が最も多いのは彼女だ。

 

「そうですねえ、私も先行タイプなので追込み(アヤベちゃん)の走りに詳しいわけじゃないですけど、やっぱり終盤のキレはもっと欲しいと思いましたね」

「具体的にどれくらいとかあるかな?」

 

 奈瀬トレーナーからの問いに、う~ん、と人差し指を口元に当てて考え込むスーパークリーク。

 出てきた答えは、

 

「イナリちゃんくらい?」

「トップクラスじゃねェか!」

 

 思わずシャカールが吼えた。

 

「じゃあ……オグリちゃんくらいでしょうか?」

「レベル上がってない……?」

 

 思わず空を仰ぐ。考えれば、その強豪と真っ向から競いGⅠを勝利したスーパークリークの実力を思い知った。

 

「流石に他の出走ウマ娘がそこまでとは思えないけど」

「言ってもクラシック級ですから。クリークの証言はシニア級のものですからね」

「だからって楽観視も出来ねェだろ」

 

 シャカールがチクリと釘を差す。

 

「合宿で実力を伸ばすのはどいつも同じだ。なのにこっちは脚質から矯正してんだからな。それに───」

 

 鋭い視線が私を捉えた。

 

「ウチはもうすぐトレーナーが不在になる」

「ああ、そうでしたね……。もうすぐフォア賞です」

 

 フォア賞、九月始めにパリロンシャンレース場で開催されるGⅡレースだ。

 距離もコースも同じことから、凱旋門賞の前哨戦に位置づけられる。

 

 凱旋門賞。

 

 そうだ。エルの悲願が近づいていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 光陰矢の如しとはよく言ったもので、夏合宿はあっという間に時間が経った。

 ライスはハマルの面々とともにウィンタードリームトロフィーに向けて調整を開始。グラスも天皇(秋)を目標に定めてトレーニングに励んでいる。

 デジタルは吹っ切れたようで熱心にトレーニングに重ね、マイルCS南部杯への出走を表明。ジャパンダートダービー惨敗の汚名返上を目指す。

 ドトウは京都新聞杯をステップに菊花賞を目指す。

 今年からマルカブに加入したウマ娘たちのデビュー時期も続々と決まっていく。

 

 そして八月の終わり、私はフランスに行くため空港にいた。

 エルのサンクルー大賞以来、およそ一月ぶりの飛行機。だが今回はレースが終わったらすぐ帰国とはいかない。

 九月のフォア賞が終われば三週間後には凱旋門賞だ。エルの半年間に及ぶ長期遠征の成果が試され、彼女の夢の成就がかかっている。私もエルの最後の調整に付き合うべく、しばらく日本を離れることになる。

 

「ハマルとの同盟があって助かったな」

 

 川畑君(サブトレーナー)も優秀だがやはりまだ経験が足りない。奈瀬トレーナーにサポートしてもらえるのは僥倖だ。

 ……本音を言えば、合宿中のライスたちを置いて日本を発つのは後ろ髪を引かれるものがある。しかし凱旋門賞という大一番で担当を黒沼トレーナーに任せっきりにするわけにはいかない。

 

「今は、エルの夢に付き合うべきだ」

 

 迷いを断ち切り、私は搭乗口へ向かった。

 

 

「よう。遠路はるばるご苦労さん」

 

 飛行機に揺られること十数時間。フランスの空港で出迎えてくれたのはいつもの格好をした黒沼トレーナーだった。

 

「元気そうだな」

「ついこの間も会ったじゃないですか。どうしたんですか」

「気安く日本語が通じるというのは気楽だと思ってな」

 

 黒沼トレーナーらしくない言動、どうしたかと思ったのを察したのか、本人が深く息を吐いた。

 

「本番が近い。流石に緊張しているようだ」

「黒沼さんでも緊張しますか」

「当たり前だ。むしろお前の方こそどうなんだ。堂々としているが」

「担当を信じてますから」

「言うじゃないか」

 

 用意されていた車に乗り込み、トレセンへと向かう。

 

「出走予定のフォア賞だが、今のところは四名立ての見込みだ」

 

 移動中、黒沼トレーナーからの情報に思わず声を上げた。

 

「四名って……レースとして成立するんですか?」

「これも日本との違いだな。

 フォア賞自体は凱旋門賞の前哨戦とされるが、ここ数年はフォア賞を勝ったウマ娘が凱旋門賞を勝ったことはない。そのせいか凱旋門賞を狙う有力所は他のレースに向かう傾向にある」

「それでも私たちには同じ条件で経験を積めるチャンスです」

「そういうことだ。それに他の出走者を見ても出る価値はある」

 

 リストを見る。

 なるほど、イスパーン賞でエルを破ったウマ娘がいた。意図せずして欧州初戦のリベンジマッチとなるようだ。

 

「少数だけど油断はできない。けれど勝てば気持ち的にも得られるのは大きいですね」

「それもあってエルコンドルパサーも今まで以上にやる気だ。フォア賞を勝って、この勢いのまま凱旋門賞に向かう」

「はい!」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「たあああっ!!」

「───はあっ!」

 

 シャンティイのトレセンに気合の声が響く。

 エルとシリウスシンボリ、そしてミホノブルボンの三人がコースを駆けていた。

 シーキングザパールが立つゴール地点まで残り三ハロン。併走のはずだが、先行する二人が力を緩める様子は無い。

 

「──────」

「──────」 

 

 二人の視線が一瞬、エルの方を向く。

 このくらい差し切って見せろ。一度は世代の頂に立ったウマ娘がそう言っているようだった。

 

「やあああああっ!!」

 

 それに応えないエルではない。

 翼が生えたかのように加速し、二人を差し切ってシーキングザパールの前を駆け抜けた。

 

「いい調子ですね」

「ああ。欧州(こっち)の芝にも適応できてる」

 

 エルの走りは日本で見せたそれと遜色ない仕上がりでだった。本気駆けだっただろうシリウスシンボリたちを差し切れたのも良い。

 

「あ! トレーナーさーん!!」

 

 こちらに気付いたエルが、今走ったばかりだというのに駆け寄ってきた。

 

「一ヶ月ぶりデース!! 今の併走見てましたか!?」

「見てた見てた。バッチリじゃないか」

「当然! これでフォア賞も勝利確実デース!!」

 

 エルはいつも通り元気いっぱいだ。サンクルー大賞の疲労残っていないようだし、これならフォア賞でも実力を発揮できるだろう。

 

「あんまり調子に乗らないことだ」

「シリウスシンボリ……」

「フォア賞は所詮は前哨戦だ。凱旋門賞を目指すなら勝って当然。そういうレースだ」

 

 敗北は許されない。この海外遠征の目的を忘れるな。シリウスシンボリの眼光がそう告げていた。

 

「もう! シリウス先輩は心配性デス! エルならバッチリ! 万全! パーフェクトデース!!」

「はっ、それが強がりじゃなきゃいいがな」

 

 シリウスシンボリは今回の遠征チームの中で凱旋門賞を経験している唯一のウマ娘だ。

 時が経とうと、彼女の記憶に刻まれているのだ。世界の頂点に立つにはどれほどの力が必要なのかを。そんな彼女がまだ警戒しているということは、そういうことだ。

 

「学ぶ必要があるんだ」

「ケ?」

「仕掛け処、走りやすい位置。ロンシャン2,400mのコースを知るためのフォア賞だ。勝ちを狙うのは当然だけど、勝つことに集中しすぎて情報を何も得られないのは本末転倒、そういうことだよね?」

「…………分かってるならそれでいい。本番までこっちにいるんだろう? 担当トレーナーとしての仕事を全うしろ」

「ああ。分かってる」

 

 四月から、黒沼トレーナーに任せてしまっていた本分を私が行う。

 フォア賞、そして凱旋門賞まで一月を切った。無駄遣いできる時間はもうない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そして、フォア賞当日。

 バ場のコンディションを理由に一名が出走を取りやめ、エルコンドルパサー含めて三名という少数レースとなった。

 相手はイスパーン賞の勝者と、サンクルー大賞でも走ったウマ娘。負けられない一戦であることには変わりなかった。

 

『エルコンドルパサー好スタート! 先陣を切り、前に出た!』

 

 飛び出す三人のウマ娘。その中からエルコンドルパサーが一人飛び出し、逃げの形をとった。他二人はすぐに追ってくる様子は無い。ともに走ったことのある相手だ。下手に競り合うより、終盤の末脚勝負の方が分があると判断したのだろう。

 逃げは不利、それは欧州も変わらない。が、ここエルコンドルパサーに至ってその常識は通じない。

 彼女は知っている。その常識をぶち破った絶対的逃亡者の走りを。その絶対を超えた英雄の走りを。

 

(エルにスズカ先輩のような逃げはできないけれど───)

 

 先頭のまま、ロンシャンレース場特有のフォルスストレートへ入る。ここでようやく追走する二人が迫ってきた。

 しかし、

 

(ライス先輩のような覚悟なしに、エルを抜くことはできません!!)

 

 並びかけたウマ娘を振り切って、エルコンドルパサーは一番にゴール板を駆け抜けた。

 

『お見事エルコンドルパサー!! 前哨戦フォア賞を制しました。これほどの強さ、凱旋門賞(ほんばん)が今から楽しみです!!』

 

 拍手と歓声が巻き起こる。

 本番と同じコースでの圧勝劇。レースを見ていた日本の誰もが、凱旋門賞勝利の可能性を見ていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あれが極東からの挑戦者(チャレンジャー)か……」

「やるじゃないか。他の二人もGⅠに出れるだけの力があるというのに」

「日本のウマ娘もこれほど力をつけるとは喜ばしいな」

 

 貴賓席とされる展望室にて、スーツ姿の大人たちがエルコンドルパサーを称える会話が交わされる。

 表面上は勝者を祝うようで、どこか見下すような、いや児童の成長を喜ぶ大人のような言葉だった。

 確かに強い。けれど自分たちのウマ娘が負けるはずがない。ウマ娘レース先進国としての矜持からくる自信が彼らにはあった。

 

「甘く見てはいけない」

 

 若い女の声だった。大人たちよりも前に、ガラスに張り付くようにターフを見ていた。 

 

「彼女はこの一年を欧州遠征に費やしている。日本に留まっていればすでに倍の数GⅠを獲っていてもおかしくないだろう。それほどの器が凱旋門賞を目指している」

 

 素晴らしい。と、歓喜の声で彼女は言った。

 大人たちとは違う、心からの称賛だった。

 

「エルコンドルパサー、あれほどのウマ娘が己のキャリアハイに欧州を選んだ。日本でも、米国(ステイツ)でも、豪州(オセアニア)でもなく……。私はそれが誇らしい。欧州のレースが世界から目標とされることが。

 ───だからこそ」

 

 笑う。獲物を待ち焦がれる獣のように。

 

「全力で相対しよう。彼女たちの覚悟に恥じないレースを。結果に関わらず、彼女たちが生涯誇れるレースをしよう。それこそが欧州(わたしたち)の使命であろう」

「キミというウマ娘は……本当に根っからの王者だな」

 

 凱旋門賞という栄冠に挑むのは自身も同じであろうに。すでに目の前の少女は己が勝利を確認しているかのようだった。

 傲慢とは言うまい。それだけの偉業を彼女は既に成し遂げている。

 六度走って未だ敗北は一度だけ。それも二着の惜敗だ。そしてその敗北を塗りつぶすようにフランスとアイルランドのダービーを圧倒的強さで制した、自他ともに認める欧州の星。

 

「キミがどれだけエルコンドルパサーを評価しようと、僕たちの確信は変わらない。今年の凱旋門賞を勝つのは───」

 

 

───キミだ、モンジュー。

 

 

 

 

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