シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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65話 ドトウと菊花賞

 トゥインクルシリーズの秋シーズン、そのGⅠ戦線が始まる一方でジュニア級のメイクデビューも始まった。

 マルカブのメンバーも順当に勝ち上がり───何人か初戦を躓いたりもしたが───シャカールに至っては早々に重賞に挑戦できそうだった。

 

「今年の新人たちはやる気に満ち溢れてるね。ギラギラしたものを感じるよ」

「エルコンドルパサーの影響だろうね。みんなが、彼女の栄光に続けとばかりに活気づいている」

 

 学園に出入りする記者がそんなことを言っていた。

 エルの凱旋門賞制覇は同期やチームメイトだけでなく、未来あるウマ娘たちにも光をもたらしたのだ。

 そして今日も、彼女に触発されただろうウマ娘たちがレースを駆ける。

 

『最後の直線に入ってトップロード先頭、トップロードが先頭! 突き放す! メイショウドトウはまだ後方だ!』

 

 GⅡ神戸新聞杯。クラシック三冠最後の一戦、菊花賞のトライアルにあたるレースだ。

 脚質を先行から追込みへ改造しているドトウにとって本番を想定しつつも今の実力を測る一戦だ。奇しくもナリタトップロードが出走していることから、彼女との実力差、そしてアドマイヤベガに近づけているかを確かめる絶好の機会。そう心にして挑んだのだが、

 

『ナリタトップロードが今ゴールイン! 菊花賞へ向けてその実力を示しました! メイショウドトウはなんとか二着!』

 

 二バ身差の二着。正直、苦戦は覚悟の上だったがこの差は想定以上だった。

 

「ま、こっちだけレベルアップなんて都合のいい話は無いよな」

 

 シャカールの無情な言葉が突き刺さる。ナリタトップロードもまた、夏を経てその実力をさらに伸ばしていた。

 しかもダービーでの伸びを見るに、ナリタトップロードは長距離向き、ライスと同じステイヤータイプだ。さらに距離が延びる菊花賞では確実に脅威となる。

 

「方針を変えるなら今だと思いますが」

 

 控室に戻ったところで奈瀬トレーナーが進言してきた。

 ドトウは夏を脚質を改造に費やしたため、他のウマ娘たちに比べて成長が鈍化している。それは今日の二バ身差の敗北という形で如実に表れていた。

 菊花賞までの残り期間、脚質を先行に戻して準備したほうが勝機はある。魔術師と目された才女はそう言っているのだ。

 

「もとはうちのアドマイヤベガのためでした。ありがたいことでしたが、そのためにメイショウドトウのレース人生を棒に振るわせることはありません」

 

 一生に一度のクラシックだ。彼女の言うことは正しい。けれど───

 ドトウを横目で見る。自主性に任せるか、こちらで道を整えるか。

 

「詰めるべき課題は見えました。このまま菊花賞に行きます」

 

 背中を押す。いや手を取り引っ張る。せっかくドトウが自分の意思で決めた道だ。共に歩んであげたい。

 

「よろしいんですね?」

「そも先行策に切り替えても勝てる保証もないでしょう。単に慣れているかの違いですし、先行は競り合う相手が多い」

 

 ナリタトップロードはもちろん、あのテイエムオペラオーも先行か中団差しだ。バ群の群れで揉まれるより、後方待機の方が良いという見方もあるだろう。

 そのためには、終盤に発揮できる鋭い末脚と仕掛けのタイミングを計るレース勘。

 

「併走を中心としたトレーニングかな。ドトウ、時間は限られてるから追い込んでいくよ」

「は、はいぃ……!」

 

 震えながらも、しっかりとドトウは頷いた。彼女はまだ、諦めていない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「神戸新聞杯を勝ったのはナリタトップロードか……」

 

 スマホに届いたレース結果通知を見て、ナリタブライアンは顔を上げた。

 トレセン学園のトレーニングコース、ちょうど走り終えたテイエムオペラオーが足を止めるところだった。

 

「菊花賞、目下の強敵はナリタトップロードのようだな」

「そうとは限りませんよ」

 

 汗を拭いながらテイエムオペラオーは続けた。

 

「夏を越えて力をつけたのは皆同じ。今日はトップロードさんが目立っただけで、静かに牙を研いできた者は多いでしょう」

「珍しく真面目なことを言う」

「ええ、今は等しく挑戦者ですから!」

 

 ダービーウマ娘アドマイヤベガの長期離脱に加え、3,000mという長丁場は誰もが初挑戦。となると頭一つ抜けての存在がいない。

 トライアルの勝者か、ダービーで上位に入ったウマ娘が注目されるだろう。どちらにしろ、テイエムオペラオーは警戒される側であることに違いないが。

 

「それにドトウもいます」

「……メイショウドトウ?」

 

 ナリタブライアンの脳裏にメイショウドトウの戦績が浮かんでくる。

 善戦はしている。GⅠ戴冠こそしていないが間違いなく素質は上澄みだろう。時代さえ違えばとも思う。だが、少なくとも今は脅威になるとは思えなかった。

 事実、彼女は未だテイエムオペラオーに先着したことはないのだから。

 

「それほどのウマ娘か?」

「おや珍しい。ブライアン先輩がそんなことを言うなんて」

「以前と同じ先行策なら一矢報いることもあり得ただろう。だが付け焼き刃の後方大まくりなんて上手くはいかん」

 

 メイショウドトウの陣営は失策だ。そう三冠ウマ娘は切り捨てた。だがテイエムオペラオーは、違いますよと首を振った。

 

「付け焼き刃なんかじゃありませんよ。今夏から鍛えだしたのならその刃ならなまくらでしょうが」

「? 実際そうだろう」

「いいえ。アレは、何年も何年も熱され、鍛えられ、研がれた刃。それをドトウは受け取った……まあ、それを真っ向から受け止め、打ち倒すのが僕ですが!」

 

 再び走り出す。陽が沈みだした空をちらりと見上げると、彼方に瞬く星が見えた。

 

「罪な星だ。僕から彼女をも奪ってしまうなんて」

 

 去年の春に出会ってから慕ってくれる少し臆病な少女。それが夏以降、パタリと近寄ってくることは無くなった。本音を言うのなら、少し寂しい。けれど、その分期待する。

 この時間が、彼女を強くしているのだと。

 

 

 ◆

 

 

 ナリタトップロードはロードワークとして学外を走っていた。

 神戸新聞杯を制して数日、本番の菊花賞に向けた最後の追い込みだ。

 

(私の強みは、豊富なスタミナからの鋭いスパート! 皐月賞ではオペラオーちゃんの末脚に差し切られたけど、菊花賞なら……!)

 

 トライアルの勝利はナリタトップロードに自信を持たせていた。

 しかし、脳裏に青い箒星がちらつく。日本ダービーで己を抜き去ったウマ娘。けれどアドマイヤベガはいない。

 なのに、

 

(神戸新聞杯で見たドトウちゃんの走りは、アヤベさんをなぞったものだった)

 

 意図は分からない。皐月賞と日本ダービーの敗北から作戦を変えただけなのか、それとも……。

 前走ではまだアドマイヤベガには及ばない。あのままなら、菊花賞でも負けはしない。驕りではなく、経験からくるものだった。

 

(でも───!)

 

 考えてしまう。もしも、今回の敗北を糧にメイショウドトウが飛躍したら。あの巨星が、形を変えてターフを駆けたとしたら。

 一抹の不安を振り払うように速度を上げる。

 最速は逃した。最優にはあと一歩で届かなかった。だからこそ最後の一冠、最強の称号は譲れない。

 

 

 ◆

 

 

 そして、その日はやって来た。

 菊花賞。春から続くクラシック三冠レース最後の一冠であり、クラシック級のウマ娘たちにとって未経験の長距離レース。故に過去、多くのドラマが繰り広げられ、今なお語り継がれている。

 三冠を成し遂げ伝説となったシンボリルドルフ。惜敗の二冠に終わったミホノブルボン。執念の一冠を掴み取ったビワハヤヒデ。

 今年は一体どんなドラマが見られるのか。京都レース場にやってきた観客はそんな期待を胸に、まだかまだかとその時を待っていた。

 

「すう……はあ……すぅ」

 

 地下バ道でメイショウドトウは深呼吸を繰り返す。震える手、縮こまった足をほぐすように。

 やれることは全てやった。やりきった上での今だ。やるしかない。そう自分に言い聞かせた。

 

「ドトウちゃん! 今日は頑張りましょうね!」

「ト、トトトトップロードさん……! そ、そうですね、頑張り───」

「そこは『私が勝つ』と言うところじゃないかな」

 

 芝居がかった声に、メイショウドトウは口を噤んだ。

 近づいてくる笑顔の栗毛のウマ娘。豪奢な勝負服を着た、メイショウドトウの前を走り続ける者。

 

「オペラオーさん……」

「久しぶりだね、ドトウ。トップロードさんも。長かったクラシック三冠路線もついに最後、悔いを残さぬよう全力で───などとは言わない」

 

 柔和な笑みが消えた。

 

「最後だ。泣いても笑っても、これが最後。二度と走ること叶わない。だからこそ、僕が勝つ。

 ダービーは逃したが今度は負けない。アヤベさんがいなくとも、最強はこの僕だと証明しよう」

 

 テイエムオペラオーの宣言に地下バ道の空気が張り詰めていく。

 このレースに出るウマ娘全てが同じ想いだった。歌劇王の言葉に、各々内に秘めた感情を再確認し、血に熱を宿していく。

 

「わ、私も……」

 

 気づけばメイショウドトウは言葉を紡いでいた。

 

「私も、勝つために来ました。私なんかじゃ荷が勝ちすぎてるかもしれないけど……ま、負けません、か、ら! オペラオーさんにも、トップロードさんにも、他の皆さんにも!」

 

 響く決意表明にナリタトップロードは目を見張った。そこには、いつも気の弱い少女はいない。

 メイショウドトウもまた、最強の座を目指すウマ娘としてここにいた。

 

「はーはっはっは! 見事! 言って見せたなドトウ! 君との、君たちとの共演、楽しみにしている!!」

 

 一人、また一人とターフへと向かう。

 最後の大勝負が始まる。

 

 

 ◆

 

 

『耳をつんざく大歓声の中、菊花賞の出走ウマ娘がゲートインしていきます。

 長かったクラシックロードもついに終着点、菊花賞を制し最強の称号を手にするのは誰か……さあ行こう、頂点への道! 菊花賞、スタートです!

 

 十五人が綺麗なスタートを切りました。

 ハナを取ったジュエルアズライトがレースを引っ張ります。ナリタトップロードは内に位置取り四番手、皐月賞ウマ娘テイエムオペラオーは中団! おっとメイショウドトウは後方に位置取りました』

『皐月賞やダービーとはまるで違う位置取りです。前走でも似た位置取りでしたね』

『さあ作戦が功を奏すか、まもなく一周目の正面スタンド前に入ってきます』

 

 スタント前を通過するウマ娘たちへ、スコールのような歓声が降り注ぐ。

 ナリタトップロードへ、テイエムオペラオーへ、十五のウマ娘たちへファンたちが応援の声を投げ続ける。

 

「ドトウさーん!! 頑張れぇええ!!」

 

 客席で見ていたマルカブのメンバーたちも声を張り上げる。

 シャカールやハマルの面々が静かに見守る中、ライスがポツリと零した。

 

「少し、ペースが遅い……?」

 

 掲示板に点灯したタイムを見る。ライスが走った菊花賞に比べて三秒程度、一ハロンごとのラップにすれば一秒ほど遅かった。

 ペースが遅いということは、スタミナを温存しているということ。前に位置取ったウマ娘たちの息が持つということ。終盤の末脚勝負を望むドトウにとって不利な展開だ。

 こうなるのなら、やはり先行策で行くべきだったか?

 いや違う。頭から後悔を振りはらう。

 このレースはただ勝つことが目標じゃない。ドトウがこの戦い方を求め、私たちが背中を押したのだ。

 

「頑張れ、ドトウ……!」

 

 君が目指したものを、掴むために。

 

 

 ◆

 

 

 ジリジリとした張りつめた空気。そしてじれったさをメイショウドトウは感じていた。

 

(みんな、図ってるんだ。仕掛けるタイミングを)

 

 ペースが想定より遅い。後方に付き、脚を溜めることに注力しているが不安が募ってくる。

 未だメイショウドトウは最後方。前を行くウマ娘たちはまだ仕掛ける様子はない。

 おそらく、彼女たちが動くのは二度目の坂を越えてから。果たして、そこで仕掛けて先頭に追い付くのか。

 

(いや、でも、焦っちゃダメだ!)

 

 おそらく、誰かが仕掛ければ周りを動く。引き絞られた弓が放たれるように。だからこそタイミングを誤れば勝機はない。

 慌てない。

 待つ。

 溜めたこの足を解き放つ瞬間を。

 そして、コーナーを回ったウマ娘たちは二度目の坂へと入った時、

 

「──────え」

 

 輝く星を見た。昼の晴天で、確かに光を放っていた。

 星も、認識されたことに気付いたようで、なんと軌道を描き出した。

 メイショウドトウは一瞬呆気に取られる中、星は青い光でコースをなぞっていく。

 

「あ、あなた、は───」

 

 それは所謂、シックスセンス的な閃きで、他の誰にも観測できないものだった。

 気づき、覚悟を決めた。

 星。

 もしも、彼女(ティコ)の導きだというのなら───

 

「ここからあああああああ!!」

 

 登り坂で、メイショウドトウは仕掛けた。

 

 

 ◆

 

 

 その動きに、観客から悲鳴が上がった。

 膠着状態のまま二度目の坂に入ったウマ娘たち。登坂の途中、ドトウが弾かれたように外に出て位置を上げ始めたのだ。

 

「なんてことを!?」

 

 奈瀬トレーナーが珍しく声を荒げた。仕方ない。淀の坂はゆっくり上ってゆっくり下るのが定石。坂の仕掛けなど、スタミナを捨てる悪手だ。

 だが、

 

「このまま待つよりはマシかもな」

「シャカールの言う通り。定石から外れた策だけど、これで勝ったウマ娘を私たちは知っている」

 

 その名はミスターシービー。シンボリルドルフの七冠に隠れがちだが彼女もまたクラシック三冠を成し遂げた猛者。追込走者として、今のドトウのようにタブーとも言える走りで菊花賞を制している。

 

「ドトウの課題は終盤の末脚だった。上りで加速して、そのまま速度を維持して下ることができれば……」

「前にいるウマ娘たちとの末脚勝負に迫れる!」

 

 実際、ドトウの動きに他のウマ娘たちは随分動揺したようだ。場は乱れだしている。

 ここからは、自分の走りに如何に徹することができるかだ。

 

「だがさっきの勝機も可能性の話だ。針に穴を通すようなごく僅かな」

「それでもいいデス!」

 

 シャカールの言葉に真っ先にエルが声を上げた。

 

「状況を打破するのを他人任せになんてするもんじゃありません! 世界は、運命は、自分から変えていくもの! ドトウーー!! いっけえええ!!!」

 

 先頭集団がまもなく坂を上り切る。

 

 

 ◆

 

 

 客席からの戸惑いの声にナリタトップロードは気づいた。後方の誰かが故障したか、転倒でも起こしたか。不穏な予感からちらりと後ろを見た。

 

(ドトウちゃん……!?)

 

 後方にいたはずのメイショウドトウがいつの間にか中団にまで上がってきていた。決死の表情で迫るメイショウドトウに、他のウマ娘たちも───あのテイエムオペラオーすら驚愕していた。

 スタミナを投げ捨てる自殺行為。だが、上位層はその中にある一筋の光明を見出したのだと察した。

 

(ドトウは最後までもつ算段か! ならば仕掛けるタイミングは───)

 

 今か。それとも。スローペースとはいえ走行距離はクラシック級が経験する距離を超えようとしている。思考に割く余裕を持つウマ娘は少ない。

 故に分かれた。メイショウドトウに優位を取らせぬと仕掛けた者と、尚早と待つ者に。

 

(僕は───待つ!)

(振り切る!!)

 

 ナリタトップロードは仕掛けた。下りの入りかけ、コーナーでの加速。小回りが苦手な彼女にとっても賭けではあった。

 そして、

 

『最終コーナーに入ったところで、先頭はナリタトップロードに変わった!!』

 

 彼女は賭けに勝った。

 

 

 ◆

 

 

 決死の登坂スパート。メイショウドトウの常識外れの仕掛けはスローだったレース展開を破壊した。多くのウマ娘たちが考えていた仕掛け時を狂わせ、続々とスパートを掛ける者が出た。

 その中から一人、ナリタトップロードが先頭集団から抜け出し先頭へ立った。色めきだす観客。メイショウドトウが起こした波乱の中、彼女もまた一筋の勝機を掴み獲った。

 これは幸運ではない。ナリタトップロードが今日まで積み上げてきた基礎と経験による成果だ。

 けれどまだチャンスはあった。メイショウドトウも先頭集団よりやや遅れて坂を上り切り、最終コーナーへ向かう。

 登坂でつけた速度を活かしたまま下りへと入ることで、目論見通りメイショウドトウの順位はどんどん上がっていく。

 

(私だって、このまま───)

 

 全て抜き去る。抜き去って見せる。

 

 しかしそう決意した彼女の横を、王冠が抜けていった。

 

「ッ! オペラオーさん!」

 

 思わず叫んでいた。

 颯爽と駆けていく栗毛、翻る外套。輝く王冠とともにテイエムオペラオーがナリタトップロードへと迫る。

 動揺するウマ娘が多い中、彼女は焦ることなく時を待った。そして自分の末脚が活きる瞬間にその武器を解き放ったのだ。

 そしてそれはテイエムオペラオーだけに留まらない。

 メイショウドトウも加速はしている。が、テイエムオペラオーとナリタトップロードという二強を始めとしたは上位五名のウマ娘はそれを上回る速度で淀の坂を抜け、最後の直線へと向かう。

 

(ダメ……なの? 結局私じゃ、アヤベさんの代わりなんて───)

 

 遠ざかる背中。力の差を見せつけられた形だ。

 登坂でスタミナを消耗した。諦観が脳裏を駆け巡る。

 

「──────ッ」

 

 同時、胸の奥から沸き立つものがあった。

 熱い。痒い。チリチリと内から身を焦がす情念。

 それは、

 

(そっか……これが、ライス先輩やアヤベさんが言っていた───)

 

 勝利への渇望。身を焼き尽くしてでも得ようとする貪欲な意志。今この場において、メイショウドトウの心はその域にたどり着いた。

 

(私は───)

 

 疲弊した身体に鞭を打つ。活を入れて脚を動かす。

 

(私は───)

 

 前を見る。先を行くのは五人、いずれも強敵である。だが、諦めることなどできない。

 

(私は───)

 

 導きの星は、未だ空に見えているのだから。

 

「あなたたち(・・)と───勝ちたい!!」

 

 決意の咆哮は、彼女が限界を超える引き金となった。

 

私は嵐の海を往く(アルゴナウタイ)

 

 強敵の待つ道へ、メイショウドトウは駆けだした。

 

 

 

 アドマイヤベガは見た。

 後方から上がってくるメイショウドトウを。

 ナリタトップロードに離され、テイエムオペラオーに抜かれた彼女が僅かに頭を下げたことを。

 

「ドトウ……」

 

 よく頑張った。もういい。そう思った彼女の瞳に青い光が映った。

 

「あれは……」

 

 メイショウドトウへ道筋を示すように動く青い光。他に見えている者がないそれは、きっと───

 拳を握り、浮かんだ弱音を封じ込む。

 

「頑張って……」

 

 そんな声量で彼女に届くわけない。

 身を乗り出して、息を吸って、もう一度。

 

「頑張れ、ドトウ───!!」

 

 そこにいられない、私の分まで。

 

 

 ◆

 

 

『最後の直線、先頭はナリタトップロード! しかしテイエムオペラオーが迫る! ラピッドビルダーも負けてはいない!! 四番手は……ああっと後ろからメイショウドトウ!! 常識破りの登りスパートをかけたメイショウドトウ! ここでさらに上がってきた!!

 四番手ブランブリモアを抜いて、メイショウドトウ四番手! 迫る! 迫る! テイエムオペラオーに並んだぞメイショウドトウ!!』

「ドトウちゃん!?」

「来たか、ドトウ!」

『レースは四つ巴となった! 先頭はナリタトップロード! 次点ラピッドビルダー、しかしテイエムオペラオーとメイショウドトウも上がってきた!

 悲願のクラシックGⅠまであと少しだナリタトップロード! ここで、ここでテイエムオペラオーが二番手! メイショウドトウが続く! ラピッドビルダー巻き返せるか!?』

「トプロいけえええ!!」

「もう少しだオペラオー!!」

「ドトウちゃああああん!!」

「諦めるなラピッドォ!!」

『間に合うかトップロード! 届くかオペラオー! ドトウが! メイショウドトウがオペラオーに並んだ! ラピッド、ラピッドここまでか!?

 メイショウドトウまだ上がる! トップロードを捉えるか!? オペラオー来るか!? オペラオー来るか!? 残り二百ゥ!!

 ドトウ!! ドトウ並んだ!! 先頭はトップロードとドトウ!! オペラオー三番手!!

 横並び、トップロードとドトウ!! 振り切るかトップロード!! 差し切るかドトウ!!

 

 横一線、ゴール!!! 勝ったのは─────────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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