結び付ける鎖の恐怖~東方鎖藭録~   作:生おろしのレンコン

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開幕

アリスが永遠亭に運び込まれ1週間、人里はその話で持ち切りだった。

博麗の巫女でも適わない妖怪だとか、神出鬼没の厄災など、話に尾ひれを付けすぎて元が何なのか分からないぐらいだ。

流石の巫女も動くべきと判断した様で、永遠亭へ足を運んでいた。

 

被害者であるアリスへと話を聞こうとしたのだが、永琳から拒否される。なぜ話を聞きに行けないのか、永琳へ尋ねてみると、難しそうな顔をしながら答えてくれた。

 

「今行ったところで、パニックになる可能性が大きいの。彼女は目を覚ましたばかり、記憶も混濁していて、精神も不安定、一応対面する事も出来はするけど、まともに話が出来るとは思えないわ」

 

良く考えれば至極当たり前の事。病み上がりの人に押し掛けるようなものだからだ。だが、巫女としてこの状況をいち早く鎮圧させたいため、無理にでも情報を仕入れたかった。

 

「アリスには申し訳ないけれど、とにかく情報が欲しいのよ。彼女を落ち着かせる為にも、会わせてちょうだい」

 

それを聞いた永琳は若干唸ったあと、了承の言葉を呟き、アリスの病室へと歩いていく。霊夢も身を引き締めてついて行く。

 

 

アリスが居る部屋の前に立ち、永琳がゆっくりと襖を開ける。

精神安定の為のお香が焚かれており、甘い様な匂いが霊夢の鼻を突く。それと同時に、中に居たアリスの姿が見える。

傷は完全に治癒されていたが、首に巻かれている鎖は今もアリスを蝕んでいるように感じた。

霊夢と永琳は部屋の中に座り、アリスと目線を合わせる。そして、永琳が喋り出す。

 

「霊夢、一つ言っておくけど、彼女は喋る事が出来ない状態なのよ。十中八九首の鎖が原因..なのだけど、解く事も出来ないし、壊す事も出来ないようなの」

 

そう言われ、霊夢はアリスの首に目を向ける。

当たり前のようにその鎖は巻かれているが、簡単に解けそうな見た目であった。その鎖を確かめようと手をかけた瞬間、身の毛もよだつ程の寒気に襲われる。

反射的に手を離し、自分の手を見る。まるで熱々の薬缶に触った時の様に焦ってしまったが、特に霊夢の体に影響は無く、ただ鎖の力を受けただけだった。

呼吸を落ち着け、冷静に分析を始める。

 

「...いきなりで驚いたけれど、この鎖は呪力が詰まってるわね。それはもう飛びっきりの、そこら辺の人間や妖怪が出せていい出力じゃないわ。それはもう..紫の様に何百年も生きた妖怪でも無い限りね。..後、アリスは大丈夫?こんな力をずっと受けてる訳だけど..」

 

霊夢がそう言ってアリスは大丈夫、と言わんばかりに首を縦に振る。

 

「そう..ならいいのだけど、無理はしない事ね」

 

霊夢がアリスの顔を見る限り、決して健康的な状態では無かった。

アリスから感じられる妖力も少し心もとない。

霊夢はアリスの手を握りながら、話しかける。

 

「私がその鎖をどうにかしてやるから、今はしっかり休みなさい。魔理沙が見つけてなかったら、最悪死んでたかもしれないんだもの」

 

アリスは笑顔で頷く。それを確認した霊夢は立ち上がり、永琳に後は任せて病室から出る。

 

永遠亭の庭に出て、神社へ飛んで帰ろうとした所、近くで知った声が聞こえてきた。

 

「あ〜あ、異変の取材を書こうとしたんですけど..アリスさんがあの調子じゃ取材はできませんよねぇ..。霊夢さんの反応からして、会えない可能性の方が大きいでしょうし...」

 

霊夢が視線を声の方へ向けると、縁側に座り、メモ帳を広げている鴉天狗の姿があった。その天狗を若干睨みながら、霊夢は声をかける。

 

「いつの間にそこに居たのよ...。それより、今日はアリスの調子からして取材は無理よ。個人的には、この異変を広めて欲しいって気持ちもあるけど..文々。新聞には任せたくないわね」

 

「なっ..!なんでですかぁ!?この清く正しい射命丸!デマなんか流しませんよ!.....テコ入れはしますけど...」

 

「..そのテコ入れが駄目だって言ってるでしょうが」

 

霊夢はさらに呆れた目で射命丸を見る。この天狗は新聞を出すのは良い事なのだが、その内容が偏っていたり、大幅に改変されていたりと信用に欠けることが多々あるのだ。

 

「いっつもろくな事を書かれる前に止めようと思うけど...貴方逃げ足が速すぎるのよ..」

 

「ま..まぁまぁ...今回は真面目に書くつもりなので...久しぶりの大きな異変になりそうですからね。早く収束させる為にも、情報を仕入れたり、届けたりは任せてください」

 

果たしてその言葉を信じていいのか、分からないものだが、今はいち早く情報を拡散し、共有しなければ行けない。その点でいえばこれ以上ない人材なのだが...

 

「..しょうが無いわね。取り敢えず、情報の改変は行わない事、それに加えて情報の拡散は全て任せるわ。今は注意喚起する事しか出来ないけれどね」

 

それを聞いた射命丸は待ってましたと言わんばかりに大きく翼を広げ、飛び立った。そして、上空から反応を示す。

 

「情報ならこの私に任せてください!風の噂だろうと掴んで見せますよ!では!!」

 

それだけ言い放ち、目にも止まらぬほどの速さで飛んで行った。霊夢は呆れた顔で空を眺め、ゆっくりと神社へと足を進めて行くのだった..。

 

 

次の日、文々。新聞が号外を出していた。

ありとあらゆる場所へ新聞を届けていく。紅い館に霊魂の集まる屋敷、大きな山に建つ神社にまで...。

 

~吸血鬼の住まう紅い館~

日光の入る事の無い部屋で二人の人間と吸血鬼が対峙している。人間はメイド姿で新聞を主であろう吸血鬼に渡した様だ。

 

「...新たな異変だなんて、結構早い段階で異変と言うのね。どう思う?咲夜」

 

吸血鬼が新聞を開きながら、咲夜と呼ぶメイドに語り掛ける。

 

「そうですね..。それだけ規模が大きくなる恐れがあるのでは無いのですか?..もし、お行きになるのでしたら、私も同行致します」

 

咲夜はそう答えた。それを聞くと吸血鬼は軽く笑い、椅子から立ち上がる。

 

「流石は私のメイド..と言いたいところだけれど、今回はパスね。好奇心猫をも殺す、少し嫌な予感がしてしまうの」

 

手に持っていた新聞をメイドに渡し、部屋の扉に手をかけ、つぶやく。

 

「万が一があるなら、動くけれど...今はまだどうでもいいわ」

 

メイドにそれだけを伝え、自室へと帰って行った。

 

 

~桜舞う霊の屋敷~

屋敷の中にて、白髪の少女が新聞を読み、団子を頬張る少女が横に腰掛けていた。

ほのぼのとした空間だが、白髪の少女はピリピリとした雰囲気を漂わせている。

 

「幽々子様、どうやら新たな異変が起きているようですよ?ですが、文々。新聞なので真偽は微妙ですね...」

 

白髪の少女は、幽々子と呼ぶ少女に話しかける。すると、幽々子はのほほんとした顔で返答する。

 

「新たな異変ね〜...。また博麗の巫女辺りが抑えてくれると思うけれど〜...念の為に妖夢も行ってみる?」

 

妖夢と呼ばれた少女は、一瞬悩む素振りを見せたが、行かない選択肢を選んだ。

 

「幽々子様の面倒を見なければいけませんし、別に行こうとも思いません。あちらから来るならば別ですが、特に情報も無く突っ込む馬鹿では有りませんので」

 

落ち着いた目つきでそう答え、二人は屋敷の中へと戻って行った。

 

 

~神の住む山奥神社~

 

「....面白そうな事が起きてたんだねぇ..。異変なんて何時ぶりか...。と言っても、私達からすれば誤差なんだがな」

 

後ろあるしめ縄が特徴的な少女が、胡座をかきながら新聞を読む。その部屋の中には、目の付いた帽子を被る少女と、巫女装束に身を包んだ少女が居た。

 

「..神奈子?もしかして首を突っ込もうと考えてないだろうね。今は大人しくしておくのが吉だと思うんだが...」

 

特徴的な帽子を被る少女がそう答える。若干神奈子と呼ばれた少女が驚いた様な挙動を見せたが、他2人は気づいていない様だった。

すると、巫女装束の少女がさらに返答する。

 

「まぁ..面倒事は関わらないのが一番ですからね...。前に痛い目見たのは嫌な思い出です..」

 

巫女装束はため息を着き、日課の掃除をする為に外に出ていく。

それに着いていくように帽子を被る少女も後ろを追う。

部屋に残された神奈子は、新聞を折り畳み、意味も無しに空を見上げに行くのだった。

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