ポケットモンスター。略してポケモン。
この世界には多種に渡る人間以外の生命体が存在する。
衣類のポケットに収まる程の小さなカプセル、モンスターボールと呼ばれている世の科学者が作り上げた高気密性能機械によって捕まえることが可能となっているこのご時世。
自慢なるポケモンを捕まえ、育て、戦わせる。
そうして己の技を磨きに磨いてポケモンリーグという名の大会に出場し、名を残すもの達まで現れている。なめとんのか。
名声、地位。それら社会の闇もといビジネスにまで発展しているポケモンバトルはこの世に深く浸透して人々を盛り上げる行事の一つとも言えるだろう。
そして俺達子供はトレーナーズスクールを卒業後、もしくは親に許可されたら究極の二択に迫られる。
一つ、誇るべき己を殺して上司にペコペコする社畜となるか。
二つ、ポケモンリーグにてチャンピオンを本気で目指す為に旅を出るか。
この二択が世間での子供に与えられる選択肢。
まぁ基本的に子供はチャンピオンになるべくして旅に出るのがお決まりで。
かく言うこの俺もまた旅に出ることにした一人の少年ってわけだ。働きたくないからね。
【ポケモンリーグ! 今年度にこそチャンピオンワタルを打ち倒す事ができるのか!?】
でかでかと至る所にこの地方のポケモンチャンピオンが腕を組んでいる姿とその隣に腰に両手を置いているカイリューが並んでいるチラシが貼られている。
そんな街中を親に買ってもらった自転車をこいで颯爽と道路を進むと、モゾモゾ、と衣類の中で動く生命体がひょこっと首を出して銀色の毛並みの頭から生えている耳が視界を妨げてきた。危ねぇな、おい。
『ブイッ』
「もうちょっとだから我慢してね」
セキチクシティの中を自転車で移動し、心地よい風が全身を撫でて髪と胸の中から顔を出した生命体の耳と毛を風向きに沿って倒れて目潰しを繰り出してきた。どろかけ並に視界が奪われる。しなやかな耳が目に入って超痛てぇ。
向かう先、それはセキチクシティにある一店舗、その名もポケモンセンター。
負傷、状態異常、瀕死状態のポケモンを無償で治療を施してくれる施設のようなもの。
そのにあるボックスと略されて呼ばれている機会を使うとテレビ通話もできるという素晴らしい機械だったりする。
「おーいっ、ヒッキー!」
目的地に到着した後、駐輪場にて自転車を止めると先に到着していたであろう同級生が大きく腕を振って俺の軍名を呼んできた。ヒッキーが軍名とか俺嫌われすぎだろ。
「待ってたわよ、由比ヶ浜さんと一色さんは」
「自分は待ってなかったって暗に言わなくていいから」
「私は先輩のことちゃ〜んと待っててあげてましたよ? 嬉しいですか?」
「嬉しい嬉しい」
ポケモンセンターの入口付近で待ち合わせをしていた俺たち。
後輩に当たる一色いろはに同級生の雪ノ下に由比ヶ浜。
なぜ待ち合わせをしたかと言うと、由比ヶ浜の申し出によって旅に出る日を被らせた為である。
これから別の町に向かった時の自己紹介は苗字の代わりに自身が生まれ育った町を口にするようになる、はず。誰かに自己紹介する時があればの話だけどね。
「てか先輩なんですかそれ、いつも私にあざといとか言うくせに先輩の方があざといんですけどっ!」
あざといと口にしてきた一色は俺と首元から顔を出している俺の相棒を見てそう言っていた。
彼女は一色いろは。先程言ったように俺たちの一つ後輩に当たり、あざとい小悪魔系女子。亜麻色の髪に可愛いを精一杯詰め込んでいながら旅に適したThe女の子のような服装だった。
「それで、誰よりも遅く到着した比企谷くんはもう決めているの?」
髪に何も装飾することなくしなやかで手入れのされていて、通気性が良さそうなワンピースの上からブランケットといった最低限の服装の雪ノ下。こいつはその都度環境に合わせて服装をこまめに変えるタイプだ。通気性が良さそうとは言ったが隣に由比ヶ浜が立っているせいで余計に際立つ。何がとは言わないけどね!
「遅れたわけじゃないし、そもそも時間ピッタリだからその言われようのない発言はスルーさせてもらった上で聞くぞ。何を?」
「あーほら、陽さんがあたし達に旅に出るポケモンを用意したって」
気を使うように話に入ってきてくれた由比ヶ浜は記憶の中を漁るように上を見ながら呟いてくれた。
彼女はいつも通りのピンクの髪にお団子が添えられていて短パンとTシャツ。そしてリュックを背負ったポケモントレーナーとして一般的イメージに居そうな格好だった。
「……聞いてないんだけど」
「そう……ついに比企谷菌の侵略が始まって姉さんを毒してしまったのね」
「なんで俺の比企谷菌がバリア効かないこと知ってんだよ。てか、あの人の場合はどんな菌でも理解が及ばない方法とかで容赦なく対処できそうだろ」
「否定できそうにないわね……」
雪ノ下でも苦手意識を持っている姉の雪ノ下陽乃がもはや人間やめてるみたいな発言を否定されなかった。あの人ついにその領域まで行ってんのかよ。
「それじゃあ中に行きましょうか。姉さんを待たせて何をされるかわからないもの」
「同感」
「賛成でーす」
「あはは……陽さんがここにいなくてよかった……」
四人と一匹はぞろぞろと歩いて自動ドアに俺だけが一度拒まれつつ。
店内でジャンクフードを食しながら読書していた雪ノ下陽乃が座って待っていた。このままUターンして帰っていいですかね。
「おっ、待ってたぞ〜」
入店した俺達を捉えた雪ノ下陽乃。獲物を狙うがごとく瞳を光らせて捉えてきた。本当に帰っちゃダメですか。
「姉さん、あまり大声は出さないで」
「ごめんごめん。雪乃ちゃんに会えたのが嬉しくてつい〜」
「そんな思ってもないこと言わなくていいわ。それより本題に入って」
刺々しい妹を軽くいなす姉。いつ見ても仲が悪い雰囲気が出ていて居心地が悪すぎる。でも雪ノ下さんの今のは本音っぽいんだよなぁ。
「んも〜、せっかちなんだから雪乃ちゃんは」
そう言った雪ノ下さんは持ち歩いていたアタッシュケースを足元から引っ張り出して蓋を開けると三つのモンスターボールと特定のポケモンが進化に使われる石が三つ備えられていた。
「まず比企谷くんにはこの三つがお姉さんからの贈りだよ」
進化に使われる石、かみなりのいし、ほのおのいし、みずのいしと言った貴重な鉱石でポケモンじゃなかった。てか、超荷物。
「君達には──」
三つあるモンスターボールのスイッチを次々と押していく雪ノ下さん。
そうしたことによって蓋が開き、中にいたポケモンが飛び出してきた。
『シャワ』
『ブースター』
『シャー』
「この子達の中から選んでもらうからね」
俺の相棒であるイーブイの進化系列であるシャワーズはクールに、ブースターは活気よく、サンダースは媚びを売るように鳴いた。もうこの時点で誰が誰の手元に向かうであろうかよく分かる。てかこの三匹は雪ノ下、由比ヶ浜、一色の三人の獣人化か何かですか?
「「「……」」」
それぞれが自分に似ている性格のポケモンに釘付けとなっていて相談することもなく雪ノ下さんから頂くポケモンが決まったようなものだった。
「比企谷くんは君のために石を集めてきた私を褒めて褒めて」
「これ売ったらいくらになります?」
「売るんじゃありませーん」
褒める、貶すことは酷いからしないとして。
人のご好意は素直に受け取って換金でもしておいたほうが安全だし、俺は嬉しい。
「君の相棒の〝色違い〟イーブイが進化したくなった時用の物だから大切に持ってるんだぞ?」
首元から顔を出していた俺のイーブイはそのまま肩の上に身を乗り出して三種の石を見下ろすが、ぷいっ、とそっぽを向いた。
この子は昔にも今みたいな状況になっても進化を拒んできてるから石を使って進化することはないだろう。
それ以外の進化方法があるかは知らんけど昔からのようにイーブイの好きにさせよう。
「ありゃりゃ。お姉さん嫌われちゃったかな?」
「雪ノ下さんに限った話じゃないですよ。こいつは小町とか両親にもこうなんで」
「へぇ……比企谷君だけが懐かれてる理由が知りたくなってくるなぁ」
「これは懐いてるとかそういうんじゃないですよ」
無限には入らずとも旅のお供になるスクールバックへと雪ノ下さんがくれた三つの石をしまい込んで背負い直す。
「てか、よく見つけてきましたね」
イーブイはなんだかんだ貴重だ。
野生ではなかなか出てこないし、出てきたとしても警戒心が強いからすぐ逃げられる。
それをこの人は少なからず三匹捕まえてきたということだ。
この人は普通にやろうと思えばチャンピオンワタルを倒してチャンピオンになれるんじゃないだろうか。
「ん、まーね。可愛い妹とそのお友達のためにお姉さん頑張っちゃった」
それには俺に託した三つの石も関係していることなのだろうが、あえて触れず視線だけで意思疎通を測っていた三人はどうやらそれぞれ自分の主人になる相手を把握した様子だった。
「思った通りだ。雪乃ちゃんはシャワーズでガハマちゃんはブースター、後輩ちゃんはサンダースね。三人ともその子達のことよろしくね」
気前よく、景気よく。それでも三匹の主人を決められたことに安堵した様子だった雪ノ下さんはアタッシュケースを閉じて立ち上がった。
「私はこれでも忙しくてね。先帰るね〜。旅、気をつけるんだぞ?」
怪しい人だっているんだから。そう付け加えてからこの場を去って行った雪ノ下さん。本当にいい所しか見せずに帰って行ったから逆に怖い。
「比企谷くん」
「ヒッキー!」
「先輩!」
雪ノ下はシャワーズを抱え。由比ヶ浜はブースターを抱っこし、一色はサンダースと共にあざとく身を寄せて来てからこう言った。
「ポケモンバトル申し込むわ」
「ポケモンバトルしようよ!」
「ポケモンバトルお願いします!」
三者共に要求することは同じで、俺とイーブイに勝負をしかけてきた。
「……だとよ、イーブイ。どうする?」
雪ノ下家、由比ヶ浜家、一色家。可愛い子には旅をさせよとはよく言ったものである。
初めてポケモンを手にしたことによるポケモンバトルに対する好奇心は計り知れず。三人は俺とイーブイで初めての戦闘慣れをしようと考えたようだった。
『ブイッ!』
しばしの沈黙を得て、我がイーブイは三人の要求を清く受けることにしたようだった。
試しに書いてみました!