ポケモンセンターから出て徒歩数分。
町から繋がっている15番道路に移動して道端でポケモンバトルをすることにした。
「ジャンケンっ!」
由比ヶ浜の合図によるジャンケン大会。
三人の中で勝者のみが俺のイーブイと戦うことができる仕様で、残りの二人が残った者同士で戦うことにするそうだった。
ぶっちゃけ俺のイーブイなら連戦できなくもないが俺がめんどくさいのとあまりイーブイがダメージを受けている光景を見たくない。
『ブイ?』
俺を見上げて首傾げないの可愛いな。
「なぁ、イーブイ。なんで俺だけ信用してくれてんの?」
『ブイブイ、ブイブイブイ』
「……あ、そう」
何言ってるか全く分からないが、跳ねたり前足を必死に動かして何かを伝えようとしているのはわかったし、可愛すぎて俺が死にかけたからこれ以上は危険だ。命に関わる。
「小町とか母ちゃんとかやっぱりまだ駄目?」
『ブイッ』
ツン、と他の人は許容しないとそっぽを向いてしまった。
昔からこういう訳じゃなく、昔は昔で俺のこともダメだったんだが。
過去のことを振り返かけたところでイーブイの両耳の中心に手を置いてぐしぐしと撫でると嬉しそうに瞼を下ろすからやめ時が分からなくなってきた。ずっと触ってたい。ええ、なにこれ可愛い。
「……比企谷くん、そろそろいいかしら」
「ん、あ。おう」
イーブイと戯れていたらジャンケンの勝者となった雪ノ下が声をかけてきてくれたおかげでなでなでタイムは終了を迎えた。
「ポケモンには優しいのよね……」
「ポケモンだけにじゃない。自分にも優しいわ」
「そこは厳しくするものだけれど。まぁいいわ」
まず先にジャンケンで勝利したことによる余韻に浸っている雪ノ下は拳を作って喜んでいるのを俺は見逃さなかった。
「負けちゃったね、いろはちゃん」
「負けてしまいましたね〜。それじゃあ私達は私達でやりましょう!」
「だね!」
敗者は敗者同士で問題なく戦いに入ろうとしていて、俺達もまた少し離れて手持ちのポケモンであるイーブイとシャワーズを繰り出した。
「技は四つ。戦闘不能になる前に終了。それでいいか」
「そうね。流しが目的なのだからそうしましょう」
ルールを作り、承諾されたことで俺達は俺たちの条件の元で戦いに入ろうとしていた。
「んじゃ、お先にどうぞ」
ムッ、と表情を歪ませた雪ノ下。
もしかしたら先手を譲られたことが手を抜いたと判断されたのかもしれない。負けず嫌いの雪ノ下のことだからそんな気遣いはかえって煽りに感じることだろうから。
「シャワーズ、みずてっぽう」
『シャワッ!』
讓渡された先手を渋々受け取った雪ノ下の指示によってイーブイ目掛けて水の弾丸が降りかかる。
「かげぶんしん」
『ブイ!』
水の弾丸は無数にも残像を見せるイーブイの動きによって命中せず、本体を見定めるようにシャワーズは首を振って状況を見定めるが本体は特定のされず。
「すなかけ」
「後ろよ!」
俺の指示に従い、声で反応することなく分身全てが本体と同じ動きを行い、後方に回っていたイーブイによって地面の砂が飛来。
雪ノ下の指示に反応しようにも雪ノ下自身もイーブイの残像に惑わされて遅れ、シャワーズの顔面へとかかって視界を悪くさせる。
「シャワーズ、なきごえ!」
『シャワー!』
なきごえによって戦闘の気が緩んでしまったイーブイ。
その一瞬の動作を雪ノ下は見逃すことなく「たいあたり!」と新たな指示を出すが。
『ブイ』
視界が悪くなっている状態かつかげぶんしんが残っている状況でのたいあたりはまず当たることなく。
「イーブイ、すなかけ」
もう一度シャワーズに地面の砂をかけて命中率をさらに下げる。性格悪いって思うだろ、雪ノ下。そんなこと、うん。知ってる。
「くっ……!」
握りこぶしを作った雪ノ下は感情を押し殺して深呼吸し、肩の力を抜いてこう言った。
「……負けたわ」
珍しい。そんな感想が芽生えつつも。降参を言い渡した雪ノ下は顔に着いた汚れを前足で必死に落とそうとしているシャワーズに近寄って綺麗にハンカチで拭き取っていく。
「……ごめんなさい。私がもっと上手く指示を出せなかったものだからこうなってしまって」
いつでもどこでも脳内シュミレーションをしてきたであろうが、想像と実戦はやはり違っていて、臨機応変な対応を要求される。
それを今知って学んでいくであろう雪ノ下は確実に強くなっていきそう、そう考えてしまう。
「大したものね、比企谷くんも。長年のパートナーとなるとやっぱり違うのかしら」
「……まぁ。俺達は戦う時が多かったし、慣れだわな」
シャワーズに着いた汚れを落とし終えたところでイーブイは『ブイブイ!』と鳴きながら駆けつけてきて肩へと飛びとってきた。
「でも、次は負けないわ」
「お、おう」
でもやっぱり負けたことは悔しいようで。次の戦闘を踏まえて対策を練らなければならない様子があった。本当にこいつ超怖い。
「でも、どうしてダメージを与える技を使わなかったのかしら。二度目のすなかけの時はいい隙だったもの。あなたのイーブイなら覚えていないなんてことはないのでしょう?」
ぎく、と突かれたくないことを指摘され顔を逸らす。
「……貰ったばかりのポケモン、傷ついてる姿見たくないだろうなと」
あ……ふふ。全く貴方は。そう言って微笑む雪ノ下は今の回答で納得してくれたようで。
傍でバトルを繰り広げていた由比ヶ浜と一色の方へと意識を向けた。
そして──。
「だあー負けた〜。いろはちゃん強いね〜」
「いえいえたまたまですよぉ。結衣先輩の方が上手かったじゃないですか」
勝者は一色で、敗者は由比ヶ浜となっていた。
どうやら運良くたまたま急所に入ったようで、それで均等の強さだった二人の勝敗の決定打になった様子だった。
「ゆきのん、ヒッキー。そっちはどうだった?」
「私の完敗ね。最初から最後まで手加減されていたものだから降参したわ」
「そっかー。ヒッキーのブイちゃんはあたし達より一緒にいる時間が多いもんね」
「そこは長いだと思うのだけれど……」
時間が多いってなると俺のポケモンじゃないってなっちゃうでしょうが。俺とイーブイは共有してきた時間はお前達より長いの。それなのに手加減しなかったり、負けてたまるか。
「ふふーん、せーんぱい。私勝ちましたよ? もしかしたら先輩とそのイーブイより強いかもしれないですよ?」
「イーブイ、一色に。あまえる攻撃」
ぷーくすくす、と口元を片手で隠しながら言い切ってきた一色にイーブイによるあまえる攻撃を繰り出そうとしたが、俺以外にあまえるをする気にはならないようで言うことを聞いてくれない。その代わり。
「うわっ、ちょちょちょ!」
一色の足元に降り立ち、あなをほる、を繰り出した為に慌てて距離を取った。
『ブイ』
「なっ! 今先輩のイーブイ舌打ちしませんでした!?」
「調子にのんな、だってよ。あと舌打ちはしてたわ。俺のイーブイの性格怖っ」
「先輩も同じようなものですよ!」
ポケモン技を人間様に使おうとするとは末恐ろしすぎてイーブイの性格を疑ってしまう。あ、飼い主に似るのか。なら可愛い。
「んで、これからお前たちはどうすんの」
戦闘不能になったブースターをモンスターボールに戻すことなく、抱き抱えた由比ヶ浜は四人集まったこの場で唯一発言力があるため警戒をしておかなければ。
「あたし達はジム戦の為にニキビシティ? ていうところに行くの」
そんな町の名前やだ。なんだよニキビシティって。その町に向かうとニキビできたとかいう風評が回ったら誰も来なくなんぞ。
「ニビシティ、よ。由比ヶ浜さん」
「あはは……」
「え!? あ! 嘘!」
どうやら三人は一緒に行動するようで。俺は俺でこのまま一人でニビシティに向かおうとしていたし、きっと問題はない。
「んじゃ、ここでお別れって訳だな」
「ええ、そのようね」
「ダメだよ、ヒッキー。お腹減ったからって雑草とか食べちゃ」
あたかも今まで食べてきたんだからみたいな酷い言い分である。
由比ヶ浜なりの注意喚起なのだろうが子供のお使いかなにかかよ。
「先輩。寂しくなったら電話してきていいですからね?」
「おう、わかった。そのうちイタ電するわ」
「それはやめてください」
キッパリと断られたところでそろそろポケモンセンターへと向かいだし、俺は駐輪場に止めてある自転車を持ち出した。
「比企谷くん、気をつけて」
「それじゃあヒッキー、またね」
「先輩、変な女性には気をつけるんですよ〜」
「へいへい。お前らも気をつけろよ。この世の中俺みたいに優しい男ばかりじゃないしな」
「「「……」」」
「何が言いたいかその無言でよくわかった。じゃあな」
自転車に跨って三人に見送られながら俺は一人でニビシティへと向かう為の道路へと向かって行った。