15番道路を抜けケンタロス達の休憩を挟む形で俺は一色とその相棒のサンダースと戦うこととなった。
「あなたの口に合うか分からないけど、運んでくれてありがとう」
全てのポケモンに人の言葉が通じる訳では無い。
けれど、雪ノ下は自身を運んでくれるケンタロスに感謝してきのみを口元に添えて与えていた。
(ポケモンには素直なのね、君)
ついでにと怪我の経過を確認している雪ノ下を横目に、由比ヶ浜は「頑張ってねっ、いろはちゃん!」と俺からしたら正面の奥にサンダースをボールから出して準備万端の一色に声援を送った。
「雪ノ下の時と同じ形式でいいか」
「はいですっ!」
きゃぴるんとウインクした目にピースを添えた一色の声を聞き、ならば合図をと由比ヶ浜か雪ノ下にお願いすると、真っ先に由比ヶ浜が「じゃあ、開始!」と言い出した。適当すぎるでしょ。
「サンダースっ、イーブイにでんきショック!」
かっこよく人差し指を突き出して指示を出すがサンダースは後ろ足で顎下を掻き、いうことをきかない。
「イーブイ、すなかけ」
『ブイ!』
その隙を見逃さず、俺はすぐさま指示を出す。
すると体を反転させたイーブイら地面の砂を後ろ足で強く蹴りあげてサンダースの顔面に砂が直撃。
「んなっ!」
一色が驚いている間に「かげぶんしん」と指示を出し、高速で分身体を作り上げたイーブイは顔に着いた砂を落としているサンダースの狙いから外れ。
『シャー!』
全身の毛が逆立つと体内から稲妻が迸ったときにはイーブイの分身目掛けて、でんきショック、を放つが当然本体には当たらず。
「にどげり」
アクロバティックに隙だらけのサンダースの顎下へと滑り込み、後ろ足で一度強く押し上げ、二本目の足で横顔を強く蹴り飛ばした。
なんか普段より一層容赦ない気がするんですが、気のせいですかイーブイさん。
「サンダース!?」
流しでの戦いだということだったことと、一色の戦意喪失を伺えたことでイーブイに戻れと指示を出してこの戦いは幕を閉じた。
「はぁ……全然ダメでしたね」
近づく俺を察知していながら、目を回しているフリをしているサンダースをモンスターボールへと戻す一色。
そのため息には様々な感情が混ざっているような気がした。
「だめだったね、いろはちゃん」
「はいー。私とサンダースは何がいけないんでしょうか……」
人から貰ったポケモンはなかなか自身のいうことをきかないケースが多く存在する。
中には野生のポケモンを捕まえて、育て、進化した途端反抗的になりいうことを聞かない時も多々ある。
それはポケモンが自身を所有しているトレーナーのことを認めていない証拠で、人で例えるといわゆる反抗期のようなものに近い。
「先輩みたいに信頼し合ってる〜、ていうのはまだ求めてませんが。せめて何がダメなのか教えてくれないかな〜」
片手に収まるサイズのモンスターボールを持ったままその手に視線を落として呟く一色。
こればかりは一色とサンダースの問題だから他者があーだこーだ言うのはきっと違うのだろう。
参考にはなれど、解決にはならない。そんな気がする。
「ところで先輩は最初からイーブイちゃんと仲良かったんですか?」
「いいや。こいつは最初の時はすげぇ暴君だったぞ」
肩の上に乗っているイーブイの頭を撫でると嬉しそうに目をつぶり、撫でられていることに満更でもない様子でちょっと可愛らしい。
「嘘っ! 全然想像できないんだけど!?」
「わかる」
「ヒッキーが共感してきた!」
由比ヶ浜の驚きはきっと誰もが抱く驚愕だ。
こいつは最初は何度も噛んできたり引っ掻いて来たり人を恐れている様子で威嚇し続けてきた。
「……ま、俺たちにも俺たちなりの過程を挟んで今みたいな関係になってるのは確かだな。だからそう気にすることでもないと思うぞ」
「分かりました。まだ出会って数日でなんでもかんでもいうことを聞いて貰えるほうがおかしいと思っておきます」
「その方が間違いない」
考えても見ろ。元々の主人はあの雪ノ下陽乃なるものぞ。
立てば芍薬、座れば牡丹、口を開けば新喜劇みたいな心身支配を得意としそうな化け物だぞ。
その人から解放された反動は凄まじいに違いない。
サンダースの性格上媚びを売ることで生存できると根に定着していることから雪ノ下さんの元にいる間は生きた心地がしなかったと見た。
「でもいつか先輩とイーブイちゃんみたいな関係になってみせますから、覚悟してくださいね?」
怪しく笑う一色は人差し指をピンッと立てて上目遣いとなって言ってくるあたり今回のバトルは決して悪いものではなかったようだった。
「すなかけ、かげぶんしん、にどげり……あと一個は何使う予定だったの?」
「ん? ああ、とっておき、だよ」
「秘密ってことだね! わかったっ、聞かない!」
「そういう意味じゃなくてだね?」
技の四つ編成となると限られてくる為、俺たちは予め決めてある。
にどげりを使うか、でんこうせっかを使うかはその時の指示によるが基本的のバトルだとすなかけとかげぶんしんは固定枠だ。
「思ったより陰湿な戦い方しますね、先輩……」
かげぶんしん、すなかけで攻撃が当たらないようにするのはいいことだろ。
自分のポケモンが痛みを受けた顔を見るのはできる限り控えたいんだからしょうがないだろ。
「戦略的と言え」
バトルは数分で終わったことで大した休憩になっておらず、雪ノ下はちょっと不安顔をしている。
それを見た由比ヶ浜は「ヒッキー……」と何が言いたいのか分かってしまうほどに苦笑いを浮かべていた。
「連戦、行けるか」
『ブイブイ』
問題ない。そう訴えてくる強い頷きの後に肩から飛び降りたイーブイは俺の足を前脚で何度も踏んできたことから何を言いたいのかがよ〜くわかった。
「戦いたいってよ、最後まで」
「いいの?」
この、いいの? 、はきっと最後まで戦ったら次のポケモンセンターにたどり着くまで自分は戦えないことを暗示している言葉なのだろう。
「イーブイが不完全燃焼みたいでね。お願いできる?」
「うんっ、いいよ!」
今度は流しではなく、本格的なポケモンバトルをすることとなった。
「イーブイ、めんどくさいんだけど?」
俺のこの二言目はイーブイに完全無視を決められたが、どうも本人は自分の行動と発言は取り消したくはないらしい。
やっぱり昨夜と朝のほか三匹のやり取りに怒ってんじゃねぇか。
「よろしくねっ、ヒッキーとブイちゃん!」
『ブイブイブ〜イ!』
よろしくしない方がよかったかもな、うん。