ひねくれ者の旅路   作:はらぺこあおむし

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第四話

 雪ノ下の心身の休憩を込めた小休憩中。

 一色との仮バトルはサンダースとの不仲により俺たちの勝利となった。

 だが、ここ最近ではまともにポケモンバトルをせず、不完全燃焼となったイーブイは満足していないため、運が悪くも由比ヶ浜のブースターがそのサンドバッグに選ばれてしまった。

 

「手加減しろよ。絶対にしろよ」

 

『ブイブーイ』

 

 離れた場所には由比ヶ浜がブースターをモンスターボールから出して準備完了している中、俺はイーブイの体格に合わせてしゃがんで注意を促した。

 今のイーブイは攻めの姿勢を見せており、俺が出す普段の戦い方は嫌がる状態になっている。

 さしずめこの状態を欲求不満モードと俺は命名──。

 

「痛った……!」

 

 欲求不満モードのイーブイはまるで俺の思考を読み取ったかのように地面を蹴って俺の顔面にたいあたり。

 メコォ……! と顔面に凹凸ができたらどうするの。俺は人間よ? 即死しちゃうのよ? 

 

「……わかったよ。やるよ、やればいいんだろ」

 

 このままでは俺VSイーブイに発展しそうだし、勝ち目がないからしぶしぶその場から少し離れて体の向きを戻し、改めて由比ヶ浜とご対面。

 

「準備はいいですか、先輩」

 

「おう」

 

 ごめんね、ブースター。

 きっと戦い慣れてないのにイーブイが満足する戦いをしたいらしいからその礎になってくれ。

 ありがとう、ブースター。これまでのお前との出会いをここに来て心より感謝する。後で好物のきのみ掻き集めておくからな。

 

「それじゃあ、開始です!」

 

 掲げた腕をそのまま振るった一色による合図でバトルが開始された。

 

「ブーちゃんっ、ひのこ!」

 

『ブー!』

 

「イーブイ、あなをほる」

 

『ブイ!』

 

 ブースターの口から放出された小さな火玉は地面の中に潜ったイーブイには当たらずして地面に落ちて鎮火する。

 その間にイーブイが地面の中を泳いでブースターの足元へと向かい、地面が隆起するとそのまま腹部に頭部が直撃。

 ほのおタイプのブースターにとってじめんタイプのあなをほるは効果がばつぐん。

 さて、ブースターは耐えてくれるだろうか。耐えてくれ、頼む。

 一撃で戦闘不能になったら俺がサンドバッグになってしまう。

 

「ブーちゃん!?」

 

 経験の差か、そもそもの力量の差か。

 今の一撃でブースターは確実に目を回してしまって戦闘不能の知らせ。

 

「……おい、おいおい。ちょっと待って」

 

 イーブイがとてつもない形相で俺に猛突進してくる。

 迷いのない一直線。あからさまに俺に八つ当たりをする気迫。

 おいおい、あいつ死んだわ。

 そんな感情が芽生えてきた。てかあいつって俺自身じゃねぇか。なに他人事みたいに判断してんだよ、俺は。

 

「やめてっ! 痛いのやめて!」

 

 頭部はせめて守ろうとして両腕を顔の前に持っていく。

 でんこうせっかの如く近づいてきたイーブイ。

 死を覚悟した俺。一体全体何事なの? 

 

「比企谷くんっ! 後ろ!」

 

「え?」

 

 遠方からの張りのある声を拾い、流れで振り向くと体毛が青にも見える紫色の体毛の前歯が立派なポケモンが襲ってきていた。

 

『ブイッ!』

 

 俺を通り過ぎたイーブイは襲ってきていたコラッタを弾き飛ばしてから地面に着地。

 凄まじい怒気がその小さな背中から滲み出ていることから俺を襲おうとしていたコラッタに怒りを覚えてくれたのかもしれない。

 だとしたら今夜はイーブイにご馳走だな! 

 

『ブイブイ!』

 

 こちらに振り向かずに警戒を濃くしたイーブイの鳴き声。

 コラッタが飛んで行った先の茂みからは黒い帽子に黒いスーツの胸にでかでかと赤い文字で〝R〟の刺繍の入った男が現れた。

 

「お前たちが消耗する時を待っ──」

 

「イーブイ、すなかけ。そこから続けてコラッタに、にどげり」

 

「ちょっ、待て!」

 

 俺たちの思考は限りなく一致していることだろう。

 奴らが雪ノ下たちに余計な事を口走る前に封殺し、撃退する。

 それが俺以外の三人が平和に旅をする為に必要な事だ。

 俺たちは下っ端だろうと幹部だろうと憎きロケット団を許容しない。

 

『ブイッ!』

 

 イーブイのでんこうせっかを受け、吹き飛びながら受身をとったコラッタは主人の指示を待っていたら容赦なく砂が顔面にかかり、視界が奪われている間にイーブイによる後ろ足二本の蹴りが顔面に炸裂。

 そうして勢いよく吹き飛んで行く中で相手の「足元を崩すために、あなをほる」と即座に指示を出す。

 するとロケット団の下っ端は本気で動いているイーブイの速さにはついていけず、突然足元が崩れるだけでなく長身がすっぽりとハマる穴に落下してコラッタがその穴の中に落下する。

 

『ブイ……』

 

 銀色の毛が逆立つ。殺気さえ込めているであろうその眼差しはこの程度では済ましたくない。そんな様子が伺えてくる。

 だが、穴の中を見下ろし続けるイーブイは体を翻して俺の前でちょこん、と大人しく座った。

 

「よく頑張ったな。偉いぞ」

 

 前足の両脇に手を忍び込ませてそのまま抱き抱えると両腕の間にすっぽりと収まる。

 俺はイーブイに何があったかは知らない。けれどロケット団に何かされてきたのは間違いないのだろう。でなければこんなことになったりはしないはずだから。

 

「お前っ! 俺たちロケット団にこんなことしてただで済むと思うなよ!」

 

 にどげりはかくとうタイプの技。ノーマルタイプのコラッタには効果ばつぐん。そのおかげかコラッタもでんこうせっかとその一つの技で戦闘不能になったようで、ロケット団の帽子の上で目を回してる。

 対人にポケモン技を繰り出すのはあまりお勧めできないとしても、今から逃げる時間だけでもポケモンには協力してもらわないと追いつかれる。

 こっちには体力を付ける為の体力がない雪ノ下がいるわけだしな。

 

「せ、先輩。今この人ロケット団って言いませんでしたか?」

 

「言ってたな」

 

「ロケット団って人のポケモン奪ったり、ポケモンで悪さする人達だよね!? それなら早く逃げようよ!」

 

 緊急性とロケット団の存在を知っている二人はすぐさまこの場から離れるよう準備をするべく、離れて聞こえてなかった雪ノ下に説明するために駆け寄りに行った。

 

「誰だか知らない奴に罠が壊されるし、色違いイーブイを奪えない……! クソっ! 昇進できると思ったのに!」

 

 その嘆きは一時的に行動を共にしているケンタロスがかかっていた罠の犯人は俺が想像してた通りの存在で、今すぐケンタロスに言ってどうするかを決めようかと悩んだりはしたが。

 

「……いやいや」

 

 犯人はこいつです、とわざわざケンタロスに言って空気をこれ以上悪くするのは気が引ける。言わない方が後にも先にもいいはずだ。

 ケンタロスが人を殺めてしまう可能性も捨てきれないし? 

 ロケット団なんかのせいで人殺しポケモンにする必要もないし? 

 よし、このままシオンタウン行こう。

 

「事情は聞いたわ。ここは急いで離れましょう。援軍が来たら厄介だわ」

 

 雪ノ下とひとまとめにした荷物が一匹のケンタロスに乗り、由比ヶ浜と一色はもう一方のケンタロスに乗っていて俺には自分自身の自転車だけがその場に置かれていた。

 俺の自転車は折りたたみじゃないから手で持って運べないんだよなぁ。

 あ、これはアレだ。間違いない。やはり俺だけハブられるのはこの世の常識のようだ。

 

「そうしろ。俺は後から行くからそのままシオンタウンに運んでもらっとけ。なに、最初から別々に旅をする予定だったんだし、ここでお別れでいいだろ」

 

「でも……!」

 

「由比ヶ浜、もし良かったらブースターにたくさんきのみあげといて。あと、一撃で倒してごめんね?」

 

 由比ヶ浜の心配する声を気にせず、ブースターにやってしまった仕打ちを思い返すだけで罪悪感が半端ない。

 

「雪ノ下もそれでいいな」

 

 正直驚いていることは雪ノ下が冷静に悪党を前にしてこの場から去る選択をしたことだ。

 雪ノ下雪乃ならば更生するまで口説こうとしてもおかしくはないし、成敗を視野に入れてもおかしくはないと思っていた。

 けれど予想は大きく外れた。

 いや、そもそも更生できるような頭ならロケット団なんかに属してないとか思ってそうだわ。

 

「……わかったわ。比企谷くんも気をつけて」

 

「雪乃先輩!?」

 

「大丈夫よ、一色さん。それに比企谷くんの荷物はどうするの?」

 

「「あっ!」」

 

「その方法しか今はないの。甘んじて受けましょう」

 

 しぶしぶ承諾する二人は改めて俺を見てきて、気をつけて、という意味を込めた言葉を各々発言してきた。

 そうした後、二匹のケンタロスに感謝するかのような挨拶をする様にちょっとシャレにならない頭突きをされたが何とかその場では耐えて別れを済まし、三人と二匹の背中を見送った。

 

「うおおおっ……! 超痛てぇ……!」

 

 なんでこうも善意で痛いことばかり俺にするのだろうか。

 あのね、俺はスーパーマサラタウン人と言われる人材を産むマサラタウン出身じゃないのよ? 

 何故かマサラタウンのトレーナーはポケモンの技を受けても平然としていられる強い人が多く生まれるという風の噂は耳にするが、俺達人間をその戦闘民族と一緒にしないでいただきたい。

 

「……おりょ? 比企谷くんだぁ。ここで何してるの〜?」

 

 するとはるか上空から風を切る音と共に聞こえてきた脳天気な声。

 その場で蹲りながら何とか見上げるとドラゴンタイプのミニリュウの最終進化型と言われているカイリューに乗って舞い降りてきた人物。

 雪ノ下雪乃の姉である雪ノ下陽乃の声だった

 

「よっと……」

 

 土埃を起こし、着陸してきたカイリューの背から飛び降りた雪ノ下さん。

 現場を一瞥して穴に落ちているロケット団に、うずくまってる俺と、離れた場所にある荷物という状況を把握してから呆れたように一息ついた。

 

「怪しい動きがあるって聞いて動いてきてみたら比企谷くんが巻き込まれてたなんてね。お姉さん驚いちゃった」

 

 俺はあなたがカイリューを所持していることに驚いてます。

 あ、いやこの人の場合普通に有り得そうだからこんなことで驚いてたらキリがない。

 最悪この人の手持ち全部がカイリュー軍隊でも納得しちゃうぞ。

 

「それで、そこの穴に落ちてるロケット団は比企谷くんがやったの?」

 

「……うす」

 

 痛みが引いてきた頃合にお腹を擦りながら立ち上がると肩に腕を回されて「やるなぁ〜」と抱き寄せられた。

 

「私はある人にお願いされてね。仕方なしでロケット団を追ってるの」

 

 カントー地方を脅かす存在を仕方なくで追ってるのは雪ノ下さんくらいだろう。

 あとは正義感に駆られて動くやつとか、そんなのばっかりだろうなぁ。

 

「それで、雪乃ちゃん達は?」

 

「ああ、雪ノ下達なら助けた野生のケンタロスの背中に乗ってシオンタウンに向かわせましたよ」

 

「あ、そう? なら安心だね」

 

 この人がいう安心ほど不安なことはない気がする。

 けれど俺はその事を言ったりしない。俺だって自分の命は惜しい。

 

「私にロケット団のこと頼んできた人のこと知りたい?」

 

「いえ、微塵も」

 

 雪ノ下さんにお願い事するとかその人はきっと命知らずなのだろうから、俺はこの後死に行く人と知り合いになってしまったら悲しくなってしまいそうだから関わりたくない。

 

「そう言うと思った」

 

 しれっと肩に回した腕を離す雪ノ下さんは「じゃあ、これだけ」と言って俺の頬に人差し指を当てて押し込む。

 

「その人は私を負かした人よ、比企谷くん」

 

「この地方にそんな人いるんですか。ちょっとその人に弟子入り頼んで来ようと思います」

 

「言うね〜」

 

 まぁ、この人の場合は相手の力量さえ見切ってしまいそうだし、そんな雪ノ下さんが勝負して負けるとなればある条件を課されたバトルに違いない。

 ほぼ運要素がある場合とか、そんな感じだろう。

 ただし、その人は雪ノ下さんを倒したからにはその人の傍が俺達にとってこの世で一番安全なのは間違いない。

 

「それにお母さんのお願いもあってさー。断れなかったんだー」

 

「ああ、なんだ。大人の事情ってやつですか」

 

 雪ノ下さんの親は何かと娘には影響力がある。

 政治的問題がかかっているのなら雪ノ下さんは確かにしぶしぶ承諾するしかない。

 

「そっ」

 

 言いたいことだけ言って俺から離れた後に穴にすっぽりと落ちているロケット団を見下ろした雪ノ下さん。

 俺はこの場で凄惨な現場になりそうだと危惧してイーブイと共にそそくさと自分の荷物がカゴに入ってる自転車にまたがった。

 

「比企谷くん。後のことは私がやっておくからエンジョイしてくるんだぞ?」

 

「え、あ、はい」

 

「あと、君の色違いイーブイ。結構前からロケット団に狙われてるみたいだから気をつけてね」

 

「……うす」

 

 それは言われなくても昔からの被害を受けて知っている。

 その度うちの母ちゃんか親父が撃退してくれているから基本的に明るみにでなかっただけで。

 このイーブイは色違いってだけで狙われやすいのは知ってたけど、ロケット団のしつこさは呆れを通り越して尊敬するレベル。

 

「じゃあね」

 

 もう行けと言う意味を込めたであろう、もう行けの言葉を受けて俺は雪ノ下さんに背を向けて自転車を漕いで離れると。

 ロケット団を掴んでるカイリューの上に乗っていた雪ノ下さんが頭上からある物を落としてきて自転車のカゴの中にすっぽりと収まった。

 

「それ! 新品のポケモンのふえだから、無くすんじゃないぞ!」

 

 何が目的でこれを渡してきたのかは知らないし、返すにはもう既に距離ができてしまっていることから返却もできない。

 あの人はこのことさえ計算し、離れていったのだろうと思う他なかった。

 

「……ポケモンのふえ? どこで使えと?」

 

『ブイ〜?』

 

 その理由は嫌でも後から分かることとなり、こう思う他なかった。

 

(あの人間違いなく千里眼持ってる。確実に持ってる。そう確信した)




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