15番道路と14番道路を難なく抜け、この旅の第一難関所だと思っていた北東の13番道路へとたどり着いた。
海沿いの爽やかな 道。ただし、ごく一部の先から迷路のように道がなっていて、一同迷ったらここで相当な足止めを余儀なくされる。
(雪ノ下という方向音痴がいる訳だが、ほか二人は大丈夫だろうか)
雪ノ下は完璧主義でもあるがなんだかんだなかなかポンコツな部分が垣間見える時が存在する。
地図を見るはいいものの逆さまに見て逆方向に向かうとかいう行為をやらないか心配である。
『ブイ?』
「あ、そうね。いくか」
何か不都合があるのかと心配して様子を伺ってきたイーブイによって思考を巡らせることをやめ、自転車を漕ぐことに専念し、いざ迷路の中に身を投じようとするが。
足元等をよく見ながら進むとケンタロスの無数の足跡が伺えたことできっと沢山往復したんだろうなと理解させられる。
(なんかあれだな。迷わないためにちぎったパンの生地とか……)
冗談で思った迷った時の対処法が既に実践された痕跡を見つけた。
けれど、野生のポッポやピジョンが通路に置かれているパンの生地を食していることで彼女達の痕跡は次々と消えて行く。
その光景を見て言葉を失ったことと、迷路に突入しようとした俺の足を止めさせた存在達が現れた。
「ゴールっ! やっと出れたねっ! あとは12番道路経由してシオンタウンに行くだけだよ!」
景気よく両腕を上げて高らかに宣言したのはケンタロスに乗って現実を受け止められない由比ヶ浜だった。
「あっ、ヒッキー! 間に合ったんだね!」
「「「……」」」
由比ヶ浜以外が俺を見て自分達の置かれた状況を把握し、盛大なため息をこぼしてしまった。
「………………一緒に、いくか?」
「ええ……」
「はい……」
「え? 、え?」
ここで迷いに迷い続けた知り合いを置いてくことは俺には不可能だった。
この場での唯一の救いは由比ヶ浜がとても楽しそうだったことかもしれん。
「……お前、幸せそうだな」
『ブイ……』
「なんかヒッキーとブイちゃんにバカにされた気がする!」
ややあって俺を先頭にいざ進み、イーブイには守ってくれたご褒美に適当なきのみやら自分のパンやらを与え、お互いに間食いをしながら自転車を押して自然にできあがった土壁にそって進んでいく。
決して雪ノ下達がちぎって地面に落としたパンを食べてるわけじゃない。
「先輩先輩」
「ん?」
「ロケット団は大丈夫だったんですか?」
「ああ……もうあのしたっぱは大丈夫じゃないと思うぞ」
「えっ!? ヒッキー何したの!?」
「由比ヶ浜さん、一色さん。犯罪谷くんから離れて」
「俺が何かした前提で話すのやめない?」
全くもって失礼である。整えられている砂利道を歩きながら二匹のケンタロスに同情の視線を向けられている気がしてくるし、イーブイなんて頭の上で笑ってる。あ、おい。パンカス頭にこぼすな。
「俺が何かしたとかじゃなくてだな。雪ノ下の姉ちゃんが飛んでやってきたんだよ」
「「「あ……」」」
あ、って。あ、って言っちゃったよ三人とも。
雪ノ下でさえお察しで、一色までも雪ノ下さんって知っただけでも追求してこなくなった。
「誰かに頼まれたんだとよ。ロケット団が怪しい動きしてるって知って、仕方なしで動いてるって」
「姉さんに頼み事をするなんて、その人は何者なの?」
お前の中の実姉の雪ノ下さんは一体どんな位置にいる強者なのか知りたくなってきた。絶対あの人に逆らうのはやめとこう。あとが怖い。
「怖くて聞いてない」
「ヒッキー、陽乃さんのこと怯えすぎだよ……」
「ふふ。比企谷くんのその気持ちはとてもよく分かるけれど。恥を忍んでそのお方に弟子入りでも申し込もうかしら」
「それな。あの人の下にいるだけでもなんかもう怖いし。そのうち〝あの時手を貸してあげたでしょ? 〟とか言いながら顎で使ってくるかもしれん」
「雪乃先輩と先輩の苦労が分かる会話は置いといて……。あの、先輩。道分かってるんですか?」
「事前情報は頭に入れてるし問題ない。ただ──」
土壁によって迷路になってる道を阻むひこうタイプのポッポとピジョンの壁。
そこら一帯に何があるのかと思いながら原因を知ってそうな三人に体を翻して伺うと三者一同顔を逸らす。こいつら真っ黒だわ。
「……あたしがどこかでお昼ご飯のパンが入った袋落としちゃって」
「あ、そう……。え、お前達の今日の昼飯は?」
ここで無いと言われてしまえばちょっとのんびりしていられない。
昼が無いということは夜もないということ。この迷路を抜ける頃はお昼になっている頃合いだし、その後にシオンタウンに向かうところで夜にでもなってしまえば三人は晩飯抜きになってしまうことだろう。
「「「……」」」
無言の圧が俺に突き刺さる。合流し、共に向かうという提案をしたのは俺であって、彼女たちではない。
ゴクリ、と生唾を飲み込んで冷や汗が頬をつたう。
仕方ない、ここはちょっとばかり真面目に突破しなければならない。迂回するにも無駄な時間を消費するのはさすがにまずい。
「一色、お前のサンダース……あー」
ポッポやピジョンを倒すにしても有効打になりうるサンダースが一色の言うことを聞かないから戦うにしても不利なのは変わらない。
迂回する時間。三人の空腹事情。イーブイで道を作る選択。どちらの方が時間が短く、安全かを考えると……よし。
戦いたくないし時間とか気にせず安全第一に考えて迂回しよう。
「私のサンダース……ですか。言うこと聞いてくれるとおもいますか?」
「それはもう博打だした。それに出るのはさすがに俺たちと、一番はサンダースが危ないしな。迂回しようと思う」
「ですよね〜」
沢山の左折右折を繰り返し、三つあるうちの一つの通路がダメだとしても残り二つある。その道を使えばいいだけだしな。
「でもここはやっぱりサンダースに頑張って貰いましょう。先輩、頼みました!」
「は? え?」
俺が雪ノ下と由比ヶ浜に迂回の件を伝えようと一色の横を通り過ぎようとした時にサンダースの入ったモンスターボールをポッポとピジョンの群れに投げていて、ペロリン、と舌を出して拳を頭に添えていた。
「てへ、じゃないだろ。ってか、どうすんのっ」
「先輩に全て任せます!」
「超投げやり」
焦りながらサンダースの背後に立つ事で俺が指示を出すと知ったサンダースは気合いを入れてポッポとピジョンの群れの前に対峙。
『シャー!』
体毛が逆立ち、刺々しい黄色と白の毛並みが際立つ。
サンダースの戦闘準備完了の合図。
「はは……さすが一色のポケモンだけあるわ」
主人には媚びを売らず、他人に媚びを売って自分をよく見せるところとか一色にそっくりすぎてちょっと引くレベル。
でも、ここで撃退出来たなら時間が大幅に短縮できる。
ただし、俺はサンダースが何の技を使えるのか知らないんだよなぁ。
「サンダース、なきごえ」
『シャーッ!』
落ちている食材に集中していたポッポとピジョン達はサンダースのなきごえによって意識がこちらに向かった時にその瞳が鋭く光り、その視線は俺たちを捉えた。
「さすがに数が多い。イーブイ、行けるか」
『ブブイ!』
「いてっ!」
頭から勢いよく飛び降りた事の反動で首に重たい衝撃の負担がかかって俺がバトル中にダメージを受けた。
後でブラッシングしまくってやる。
「イーブイ。サンダースに、てだすけ」
『ブイ!』
フリフリと応援する姿勢を取ったイーブイの横で気合いが高まったサンダース。
その時にすかさず新たな指示を出した。
「サンダースは、でんきショック」
ポッポとピジョンの群れはサンダースから放たれたでんきショックを目視すると退避する為にピジョンだけ対応できたことで宙に退避し、ポッポ達は伝染するようにでんきの餌食となったのだが。
『ピッジョールル!』
ポッポの進化後であるピジョンには難なく避けられ、その数が明確にされ、俺たちは一緒に上空を舞う二体を見上げた。
「うわぁ……めんどくせぇ……」
二対二の野生のダブルバトル。
こちらの戦力はサンダースとイーブイ。向こうはピジョン二体。
こちらが面倒くさがっていたら一体が急降下してきて、サンダース目掛けて、かぜおこし、のモーションに取り掛かった。
勝手ながらこっちをピジョンAと名付けよう。
「イーブイ。サンダースの前に行って、まもる」
『ブイ!』
俺の指示を予測していたイーブイの迅速な対応と行動によってピジョンの攻撃より早くサンダースの前へと忍び込み、攻撃によるダメージを全く受けず、ピジョンAの攻撃をやり過ごす。
「サンダース。その間に油断してる方のピジョンに、でんきショック」
ダブルバトルの面倒な所は二体の状況を把握し、指示を出さないといけないという厄介極まりない。
戦いという名の労働とその後の名誉という二つ。俺は欲張るのはいけないことだと思うので名誉だけをください。
『シャー……』
「そんな顔しない。俺はお前にも期待してんの」
俺だけに見える位置で、えぇーめんどくさいですぅ……、と表情を歪ませるサンダース。
お前やっぱり主人に激似してるわ。ここまで来ると一色とサンダースの出会いは運命だろ。
「それにここでまともに戦えばほか同期二匹との差が大きくなるぞ」
『シャッ!』
あぁ、うん。やっぱり一色相手してる気分になってくる。
やだわ、俺。一色を二人も相手するとか考えるだけでも疲れちゃうわ。
「なんで先輩の言うことは素直に聞くんですかっ!」
離れたところでの少し前に聞いた同じ悲鳴。
素直に聞いているように見せているだけで、こいつめちゃくちゃ渋ったからな。
しかも他の人に見えないように立ち位置を把握してるしお前と同じで計算高いよ、こいつ。
『ピジョ!?』
油断しまくって高みの見物をキメていたピジョンB。
でんきショックが急所に当たったのか、一発で目を回して落下している。
「ばっか……!」
サンダースとイーブイ、そしてピジョンAを気にすることなく急降下している気を失ったピジョンBの元へと全力で駆ける。
「ぬおおおおお!?」
俺のせいで野生のポケモンが死んじゃいましたなんてあったら嫌だし、眠れなくなっちゃうでしょうが。
というか体が咄嗟に動いてる時点で後先考えず突っ走ってしまったわ。
「どわっ」
何とか両腕で抱えられたものの、非力の俺が抱えられるほどの重さではなく。
何とかクッションの役割になる為に体をピジョンBの真下へと滑り込んで地面に背を向けてぶっ倒れた。
「痛っ……」
辺りに舞う土埃。背中と腹部に襲う熱を帯びた痛覚。
辛うじて死を免れたことで安堵するも、目を回したばかりのピジョンは気を取り戻して俺の体の上から咄嗟に降りると摩訶不思議そうに顔を伺ってくる。
「比企谷くんっ、何を……!」
「な、何をって言われても。咄嗟に動いちゃったなぁ……て」
幸いにも体を引きずってなかったことでジンジンとした痛みだけが体に襲っているだけで、継続した痛みは免れた様子。
もしかしたら俺はスーパーマサラ人の血を引いた男なのかもしれん。何それ超すごい。
「んもー! 先輩はなんでそうすぐに無茶するんですか! ポケモンがあの高さで落ちても怪我しませんよ!」
「恐ろしいやっちゃな、お前」
落下しても怪我しないんだから受け止める必要ないじゃないですかぁ〜って、言いたかったんだろう。てかそう聞こえてくる。これは幻聴だ幻聴。
「ヒッキーっ、大丈夫!? どこか痛いところない!?」
「由比ヶ浜さん、その質問は比企谷くんには酷よ。痛いところしかないのだから気を使いましょ?」
「あっ!」
「そうだな。お前が俺に気を使え?」
それに由比ヶ浜。あっ! 、じゃないだろ。
何その雪ノ下の言葉を肯定する反応は。
「って、バトル中だった」
痛む背中と腰。それらを我慢しつつこちらを伺ってたピジョンBを置いてピジョンAを伺うが戦闘体勢は消え、相方の隣へと舞い降りた。
これならイーブイに説得させる形で事が済むかもしれない。
「……イーブイ。道を通らせて欲しいって伝えられる?」
『ブイ……』
ため息を着くかのように深く息を吐き出したイーブイ。
俺が転んでから即駆け寄ってきてくれたのか誰よりもそばにいてくれていたようだった。
『ブイブイブイ』
そうして俺のお願いを聞き取ってくれたイーブイは縄張りのボスであろうピジョン二体に振り向き対話を試みる。
『ピジョ? ……ピッジョールル!!』
『ブイ!』
説得が上手く行ったのかイーブイと共に俺のバックを漁り始めて俺の仲間であるポケモンが闇落ちした瞬間に立ち合った。
いや、最初から仲間だと思っていたのは俺だけだったってこと?
ああ、ほら見ろ。あの三人からの可哀想な奴を見る目。
一色なんてサンダースをボールに戻しながらなんて言えばいいのか困った表情になっちゃってるよ。
「……なにしてんの」
『ブイブイ!』
『ピッジョールル!』
「わかんないんだよなぁ……」
チャックが上手く開けられないからかピジョンAが自転車のカゴからバックを足で持ち上げて俺の目の前に持ってきた。
「ああ、手当てね。それで手を打てってか」
バックを受け取り、その中から残りのキズくすりを取り出してピジョンBに近寄ってかけようとするが地面に置いたバックから駆けつけてきたイーブイに手を叩かれて道具を落としてしまった。
「え、なに。反抗期?」
するとイーブイはチャックを開けたままのバックへと顔を突っ込み、カプセルボール、もといモンスターボールを咥えてピジョンBに近づいた俺のもとへと駆け戻った。
「……はは〜ん。さてはこのピジョン捕まえた後にポケモンセンターでの治療をご所望なんだな?」
『ブイ〜……』
イーブイのまぁそれでいいや的な頷きを受け、なんて図々しいピジョンなんだ、と思ってしまった。
だがしかしある意味では頭がいい。
不本意ながら餌を与えられ、ポケモンバトル後の完璧な治療を人に施されることを期待してるとは。
将来有望待ったなしだな!
「まぁ、わかった。戦うって判断したのは結果的に俺な訳だしな。手当ての責任は持つよ」
するとイーブイはモンスターボールを咥えたまましびれているピジョンBの元へと近付き、目の前にボールを置くとスイッチの部分をクチバシで突いて自らボールの中へと入っていく。
すると数回の赤い点滅と同時に揺れるモンスターボールは動くことなくピジョンBが大人しく捕まったことを知らせた。
「ちゃんと野生に返すから待ってろよ」
『ピッジョールル!』
力強い返事。俺を真っ直ぐみるその鋭い瞳は俺を疑う様子はなく、信用して仲間を預けてきてくれた。
それなら俺はその期待に応えてしっかりとポケモンセンターに連れて行くとする。
「……ヒッキー」
「ん?」
「ピーちゃんに認めて貰えたみたいだね」
何そのバカっぽいあだ名。てか付けるの早くない?
「認めたっつーか、これは認める云々違うと思うぞ。俺に手当てしっ、痛い! えっ、ちょ痛い! やめて!」
由比ヶ浜の誤解を解こうとしていたらピジョンAが俺の脛を何度も突いてきて超痛い。何だこの嘴は鋭すぎる。やめて、本当にやめて。もう充分痛い思いしたから。俺がポケモンセンターで治療を施してもらうことになっちゃうから。
「どうやらあなたの旅に同行させて欲しいが為に自らボールに入ることを選んだようね」
「仲間のピジョンがそんな反応ですからそうみたいですね〜」
「……え」
初めてイーブイ以外のポケモンが増えてしまった。
なにこれ。俺はてっきりもっと熱烈的な、ポケモンゲットだぜ! 、があるかと思っていたのに勘違いからなし崩し的に仲間になってしまったピジョンにどう反応くればいいのだろうか。
ああ、あとはあれだ。ピジョンBなんて思ってごめんね?
「えぇ……いいの? 本当に俺なんかでいいの? イーブイとちゃんと話した? どんな扱いされるとか、そういうのも聞いた方が」
『ブイブイ!』
『ピジョ!』
「痛い痛い痛い」
俺をどついたり、突っついたり、噛んできたり、引っ掻いて来たりとまぁイーブイはかなり容赦ない。
残ったピジョンは痛みがない程度に調整してくれてる紳士的対応をしてくれてるのにイーブイだけが躊躇もなく。
『ブイ〜!』
「わかったわかった。わかったよ。連れてくから怒らないで」
「「「……」」」
ポケモンにも頭が上がってないこの状況で三人からの同情を込められた暖かな視線を注がられている。
「……なんだよ」
「いえ、なんでもないわ」
「うん、なんでもないよ」
「はぁ……人は見かけによりませんよねぇ」
ひょんなことから俺の手持ちが増え、新たな仲間としてポッポの一段階進化後のピジョンが加わった。
「……責任もって預かる。だから任せろ」
『ピジョ!』
群れのボスのピジョンは力強い返事の後、目を回したままのポッポを起こして何かを問いかけた。
すると道を開けるようにポッポは左右に別れて俺たちが通れる様に道を作った。
「盛大な見送りね」
「俺には身が余るっつーの」
気恥しさを抱きつつ、雪ノ下達はケンタロスに乗ったままピジョンとポッポの視線を向けられながら俺たちは迷路で有名な13番道路を抜けて行った。
いつもお読みいただきありがとうございます!