ひねくれ者の旅路   作:はらぺこあおむし

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第六話

 新たな仲間ピジョンを連れ、迷路で名が高い13番道路を抜けたのは午前が終わり、午後に差し掛かったお昼時だった。

 

 ──ぐぐぅぅぅ……。

 

 そこでふと、空腹を知らせる音が由比ヶ浜から鳴った。

 ただ俺は気を使って聞かなかったことにして釣り人が集まる桟橋。サイレンズブリッジと呼ばれる橋の上を歩こうとすると。

 

「……なんだよ」

 

「いえ、別に」

 

 ケンタロスに乗り続けて腰を痛めたのか、背中から降りた雪ノ下は俺の袖を人差し指と親指で摘んできた。

 今や彼女の視線は足元の橋の下、海に繋がっている川に向いていた。

 

「はは〜ん。さてはお前怖いんだな?」

 

「っ……そんなことないわ。足元がしっかりしているのに私が恐怖を覚えるわけないじゃない。馬鹿馬鹿しい」

 

「お、おう。ごめんね?」

 

 目で人を殺してしまいかねない眼光で睨みつけてきた雪ノ下の剣幕に圧されて萎縮する俺。

 ここは空気を和ませる為にバックの中から数個あるうちの焼きそばパンを一つ取り出して由比ヶ浜の目の前でそれはとても美味しそうに食した。

 

「うぅ〜……ヒッキーがいじめるよゆきのん〜……」

 

 三人分の昼飯を持ち歩いていた由比ヶ浜は道に迷わない為に13番道路で食パンをちぎっては投げてを行っていなら、昼飯そのものを全て落としてしまったようで今や彼女達の昼食はシオンタウンにたどり着くまでお預けとなっている。

 

「比企谷くん、大人気ないわよ」

 

「安心しろ。俺は大人じゃないから。子供だから」

 

「うっわ〜……先輩人としてどうなんですか、それ」

 

「一色さん。コレに人間性を求めては駄目よ。コレが可哀想よ、ね?」

 

「ですね」

 

「気を使ってる風を装って俺を傷つけるのはやめろ」

 

 そんなやり取りをしつつ、お昼時ということもあって休憩を提案すると三人はあまりいい顔をせずに承諾してくれた。

 休憩することで雪ノ下達がまたケンタロスの背中に乗れるのならそちらの方が時間的余裕が生まれる。

 

『ブイ!』

 

「あ、おい……。はぁ……ちょっと待ってろ」

 

 食べてた焼きそばパンの半分はイーブイに強奪されたところで止めた自転車のカゴからバックを持ち上げて中から旅に出る時の為に所持していたパンを全部取り出した。

 

「あんぱん、蒸しパン、クリームパン。どれがいい?」

 

 この流れになるなら食パン、カレーパン。そしてジャムとバター用意してた方が良かったかもしれん。そうすることで愛と勇気だけが友達のキャラクターを知っているという知識で共通の話題を作れてキャッキャウフフできただろう。

 はいそこ、俺に話し相手が居ないくせにとか事実を思いうかべんな。

 

「いいの?」

 

「ここで分け与えなかったことを後で小町に知られたら怒られるのは俺だからな」

 

「ヒッキー……!」

 

「行動原理が小町さん中心なのよね……」

 

「ありがとうございま〜す。私は蒸しパンをいただきますね〜」

 

 さすが一色。お礼を口にしつつなんだかんだ悪感を抱かせずにそれとなく話を有利に進めるとは。俺じゃなかったら見逃しちゃうね。

 

「ほれ、お前らも」

 

「そうは言っても……比企谷くんの分は?」

 

「さっき半分食ってたし、ここに来るまで細かいのちょくちょく食ってたからな。腹減ってないんだよ」

 

「そういうのなら、頂くわ。由比ヶ浜さんも一緒に食べましょう」

 

「う、うん。ありがとう、ヒッキー。それと本当にごめんね、ゆきのん、いろはちゃん」

 

「もうすぎたことよ。次に活かせばいいのよ」

 

「ですです。先輩のご好意には甘えるのが吉です」

 

 ややあって昼食を各自行い、俺は改めてバックの中を確認しておく。

 

(キズぐすりはあらかた使い切っちゃったしなぁ。あとは空きのモンスターボールが四つに、進化のいしが三種類に、タウンマップ、ポケモンのふえ。んでもっておいしいみず……)

 

 バックの中を漁るだけでも分かる物資の無さ。

 これはひとまずシオンタウンで旅路の支度を一度整えた方が良さそうなんだけど……。

 

「貰っておいてなんですけど、先輩のパンのチョイス全部甘いものですね」

 

「世の中が俺に甘くないんだ。食うもんくらい甘くていいだろ」

 

 雪ノ下さんが俺に押し付けてきたポケモンのふえを手に持ってじっと見下ろす。

 あの人が意味無く貴重な道具を与えて来るだろうか。何かしらの事情を知り、使い道がある事の暗示なのではないか。

 そんなことを勘ぐってしまう辺り、あの人は本当に底知れないし怖い。

 

「比企谷くん、それは……ポケモンのふえかしら」

 

「ん? ああ、お前の姉ちゃんがくれた新品らしいぞ」

 

 本当に新品かどうかも怪しいですけどね。

 

「……本当に?」

 

「……言葉通り信用するならな」

 

 雪ノ下と俺は手に持っている笛を眺めて訝しげに見てしまう。

 あの人のことだから俺たちで遊ぶために疑心暗鬼になる言葉を使っていてもおかしくはない。むしろこれを使ったと知った時に、実は使用済みでした〜、とその時の初心な反応をするであろう俺を指さして大笑いしそうでもある。

 

「……私が、預かるわ」

 

「マジか! 超助かる!」

 

「喜びすぎよ」

 

 姉妹なら間接的粘膜接触、もとい間接キスなど気にすることないだろうし、これこそまさに最適解。いや、あの人の場合だとこのこともコミコミで考えてそうだからさらに怖い。

 

「てか、実物が初見なんだが。これって何に使えんの?」

 

「え? ……そうね。代表的な一例を上げるなら深く眠っているポケモンを起こす……かしらね」

 

 笛を受け取ってくれた雪ノ下は記憶の中から情報を引っ張り出す様に顎を人差し指と親指で摘むように添えて教えてくれる。

 さすがはユキペディア。その頭脳AI並の情報量。旅のお供に是非一台! なんてキャッチフレーズがあったら買う人多そうだなぁ。なんせ誰がどこから見ても身を奪う整った容姿だしな。

 ただし、常日頃から毒舌のんに耐えられる人しかお供になれないだろうが。その場合はアレだな。ポイ捨て禁止令まで発令されちゃうな。雪ノ下さんに。

 

(やだなぁ、怖いなぁ)

 

 どこかに雪ノ下をポイ捨てしたら雪ノ下さんが飛んでくるとか想像しただけでも死に直結する。

 

「なにかしら」

 

「いや、べつに。てか、野生のポケモンが襲われるとか危惧したりするだろ。それなのに深く眠ったりすんの?」

 

「ええ。襲われてもたいした痛みを受けないポケモンとかなら平然と寝ているらしいわ」

 

「例えば?」

 

「……カビゴン、ね」

 

「ああ……」

 

 カビゴンなら俺だって知っている。

 このカントー地方では有名で、ノーマルタイプのポケモンだ。

 一匹いるだけで相当な食費がかさむだけでなく、基本寝ていて起きる時は空腹時に食べ物の匂いを嗅いだ時が多いとかなんとか。

 

「嫌な予感していいか」

 

「なに?」

 

「お前の姉ちゃんが渡してきたのって、この先の道でカビゴンが寝てるとか言わないよね?」

 

「比企谷くん。もう一つだけ教えておいてあげるわ。ポケモンのふえで起こされたカビゴンは基本、近くにいるトレーナーに襲いかかるらしいの」

 

「へ、へぇ……」

 

 聞いてもいないことを怪しい笑みを浮かべてこちらを見てくる雪ノ下雪乃。

 彼女が何を思い、考え、俺に無償で教えてきたのかを考えるだけでも何となく察せてしまうからこの無駄に発達した思考力は俺を不幸を感じさせるには充分なものだった。

 

「……俺に戦えって?」

 

「どう捉えるかはお任せするわ」

 

 ここに来るまでに由比ヶ浜のブースターはイーブイによって一撃でダウンし、ポケモンセンターで回復しない限りたたかえない。それは新たな仲間のピジョンも同じ。

 シャワーズは元気だとしても、サンダースは地味に戦闘を挟んでいるから不安が大きい。

 それなら戦ってはいるがダメージを受けていないイーブイだけが今のところ戦力として計算される。

 

「ま、まぁ……なに。道を塞いでるカビゴンなんてこの先にいるわけがないだろ」

 

 そう思っていた時期が俺にはありました。

 

「道を塞いでるカビゴンなんてこの先にいない、だったかしら?」

 

「ほえ〜……。気持ちよさそうに寝てるね〜」

 

「せ〜んぱい。どうしますか?」

 

 昼食を終え、再出発。そしてシオンタウンは今日中に着く。そんな希望が目前に差しかかったのだが。

 11番道路に続く道と、このまま橋にそって歩けばシオンタウンに着く道を静かな寝息を吐いて大の字で眠っているカビゴンが道を阻む。

 

「……どうする。迂回する?」

 

「それはあまり現実的ではないわね」

「またあの迷路歩くの……?」

「寝込み、襲っちゃいますか?」

 

 一人だけ野蛮な奴がいる。

 

「はぁ……だよなぁ。やるしか、ないよなぁ……」

 

 俺の焼きそばパンの半分を食って満足して自転車の籠に入れてあるバックの上で健やかに眠っているイーブイの銀色の毛を撫でてそう呟く。

 

「起きろ、イーブイ。ちょっと全力で戦わないといけないかもしれん」

 

『ブイ〜……?』

 

 俺の言葉に意識を戻したイーブイは欠伸をしつつ体を伸ばしてバックの上から肩の上に飛び乗り、俺の目の前で道を塞ぐカビゴンを見上げてため息のような重たい息を吐く。

 

「いけるか」

 

『ブイー』

 

 あらやだ。気合いのない返事ね。まさか勝てそうにないのかしら。

 

「え、なに。勝てな」

 

『ブイ!』

 

「痛い……」

 

 限りなく速い可愛らしい肉球のあるビンタだった。

 けれど力は当然ポケモンということもあって野球ボールが顔面にぶつかって来た時のような勢いと衝撃があった。

 

「ふふ……比企谷くんの頬に、肉球の痕が……ふふっ……」

 

 雪ノ下のツボに入ってしまったようで。

 俺の左頬には可愛い可愛いイーブイの肉球痕が存在感を放っているせいでどうも緊張感が四散した様子だった。

 

「やっぱり雪ノ下さん超怖い」

 

「遺憾ながらそればかりは同感ね」

 

「……んじゃ、起こしてくれ」

 

「分かったわ。比企谷くん達も気を付けて」

 

「おう」

『ブイ!』

 




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