47年前、一人の吸血鬼が起こした異変。『紅魔郷異変』
代々の巫女の中でも稀に見るぐうたら巫女とされていた先代の博麗霊夢。まだこの頃は『普通の魔法使い』であった霧雨魔理沙。この二人によってこの異変は解決された。
しかし、三人目の異変解決者が在るはずだった。それが沙月麟。彼女はその存在を抹消された。しかし、消しきれてはいなかった。彼女は世界を覗いた者により見つかり、小さな意思達は虚しい空間に漂う彼女に姿形を与えてしまった。
「さぁ、弾幕ごっこと洒落込もうじゃぁないか!君達は、今!私を討ち倒すべき役と成り果てた!君達はこの劇で良い役回りを演じられているよ!」
それがこのザマだ。存在と嘘っぱちの狭間にいた哀れな少女は今や、新しい博麗の巫女と手を組み大異変を起こしている。
「だが、君達は主人公じゃない。さぁ来なよ。君達はどう私を討ち倒すのか見せてよ。」
「五月蝿い!弾幕ごっこ云々なんざ知るか!弱いもの同士仲良く馴れ合ってくたばれ!」
「よせ、濡羽!」
とうとう痺れを切らした濡羽が二人の真正面へ突っ込む。鴉天狗である彼女は、文ほどではないが異次元のスピードを誇り、他の二人も同様に鴉天狗のスピードを活かした立ち回りが得意である。それを活かした連携こそ彼女らの一番のウリだ。しかし、濡羽は自らが嘲笑した相手に挑発されたという事実が許せなかった。我を忘れ、一人霊夢と麟を殺しにかかったのだ。
「全く、こっちは二人だと言うのに一人で突っ込むなんて、本当に頭が悪いのね。」
霊夢は今までのお返しと言わんばかりに彼女を嘲笑い、お札を構える。
突如として濡羽が二人の視界から消えた。と思いきや彼女は持ち前の素早さでフェイントをかけ真後ろに回っていたのだ。
「まずはお前だ!博麗霊夢!命を奪った奴らにあの世で詫びろ!」
濡羽は小刀を抜き、霊夢に突き刺した。刃が肉を掻き分ける良い感触が手元に伝わ…らない!
確かに刺さった。ただ、何か感触がおかしい。何か野菜を切っているような、植物を切るときのような感触が手元に伝わる。
「あづっ!」
後ろから濡羽の腹にお祓い棒が突き刺さされた。熱い痛みが腹から伝わってくる。
「あ、あああああ!私の腹にぃ!」
濡羽の視界には彼女自身の血で真っ赤に染まった紙垂が見えていた。
ーう、後ろからやられた!一体誰が!まさか、まだいるのか?異変の首謀者が!ー
濡羽の目の前に存在する霊夢がほろほろと崩れてゆく。
「なっ!」
霊夢の形をした何かが段々と白い花の塊となってゆく。これが濡羽の疑問に対する答えだ。
「正解は〜?『私が精巧に作ったレームちゃん人形にまんまと食いついてしまって後ろから本物のレームちゃんにお祓い棒でグサリ』でした〜!」
「あははははは!本当に本当に愚かで滑稽ね。どんな気持ち?自分よりずっと格下だと思って嘲笑って奴が自分より一枚上手でした。だなんて。ザマァ無いわ!」
「何故、いつ入れ替わった!」
「馬鹿ね、博麗の巫女は結界術を嫌と言うほど叩き込まれるの。始めから私は結界を織り込んでその中に身を潜めていただけ。」
霊夢は自分のこめかみを人差し指で軽く叩いて見せた。
「貴女達とはここの出来が違うのよ。」
「貴様ぁ!」
濡羽はお祓い棒を抜こうと全身に力を込めた。だが何故だか力が入らない。濡羽は直感で嫌な予感がした。自分の腹からとても嫌な予感が。
恐る恐る再度自分の腹に目をやると植物がお祓い棒の刺さっている傷口から飛び出していた。それに気づいた瞬間、植物は濡羽の体中に蔓を伸ばした。彼女は自分の結末を悟ってしまう。
「あ…あ、あああ!やめろ!やめろ!」
「んー、君達はバケモノを叩き起こしたんだから。そのツケは払わないと。」
麟が無邪気に笑う。そして白い蕾が花を咲かせんと一斉に顔を出す。
「助けて!助けてェ!檳榔!相済!みんなぁ!助けてぇ!」
「叫んだってぇ〜無駄!無駄!無駄ァ!なんでさっきからあの2人は助けに来ないと思う?」
濡羽は檳榔、相済の方を見てみると呆けた顔をしたままその空間に留まっているばかりであった。
ーそういえばそうだ。あの2人は微塵も動いていない。何故だ!私を見放す訳がない!ー
レームちゃんが隠れていた様に、私達は今折り重なった結界の中にいるんだよ。だから、何処からも、誰からも見えないし、聞こえない。
麟がそう耳打ちすると濡羽の目から光が消えて無くなってしまった。
「リン。少し肉体は残しておこうよ。いい見せしめになる。」
「レームちゃんそれはいいアイデア!分かったよ、やってみる!」
麟が指を鳴らすと濡羽の体中にある植物から白い花々が一気に開花する。
「や…め、…。」
濡羽はか細い声で抵抗したがそれは無駄に過ぎなかった。
『結界解除』
霊夢と麟がまたいきなり現れたかと思えば、檳榔、相済。この2人に突然汚らしいナニカが投げつけられる。檳榔はそれを抱き抱える様に受け止めた。それは血塗れて肉は所々剥げており、右腕は今にも千切れそうになっている。顔面は所々骨が見えており、目だったと思われる所からは白い花が咲いていた。
「それなーんだ?」
麟は無邪気な笑みを浮かべていた。
「濡羽…なのか?これは?」
「だぁいっ正解〜!まともに殺し合いをすればこうなる。だから私達は弾幕ごっこで勝負しようと言っているんだよ。」
「私達は貴女達に有利な条件で戦おうとしているのよ?もう劇の幕は貴方達が開いたんだから。討ち倒したり討ち倒されたり、この出し物を楽しむしかない。」
霊夢はいつか、優香に言われた事を思い出す。
『貴女のその曇りきったどす黒い目は、残念だけど貴女自身で晴らすしかない。とっても残酷な話だけどね。自分の過去は自分で討ち倒さないと前に進めないのよ。』
これは復讐か?
否、
全くもって否。
弱い自分を討ち倒せよ、私。
紅い月は我こそが女王だと言わんばかりに輝いている。まだ夜は眠らない。
「さぁ!弾幕ごっこだ!スペルカードは無制限!クライマックスはまだまだこれから!」
「楽しい夜になりそうね。」 「長い夜になりそうだ。」