主人公は霧雨魔理沙   作:魔王ヘカーテ

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第十三話 終わりの始まり

朝日が昇りかけている明け方。外から聞こえてきた一筋の悲鳴で魔理沙は目を覚ました。

 

「ふごっ!!」

 

すっかり眠りこけてしまっていた魔理沙は数秒間、いつの間にか空になっていた部屋をボーッと見つめていた。

 

「そうだ!霊夢…がいない!」

 

ようやく思考を取り戻し、部屋の中に重傷で看病していた霊夢がいない事を認識した。この状況は魔理沙にとって最悪だった。

 

「まさかさっきの悲鳴は!」

 

最悪の事態が頭によぎってしまい、廊下に飛び出す。

 

激しい静寂が彼女の恐怖心を掻き立てる。

 

魔理沙は勢いよく外に出ると、最悪の事態よりもタチの悪い光景が広がっていた。

 

「なんてぇこったい…。こいつぁ!」

 

あの憎ったらしい三馬鹿トリオ鴉が天魔の屋敷の真ん前で磔にされていたのである。

 

「ま、魔理沙さん!これ!」

 

腰を抜かし、か細い声で磔を指差しているのは、昨夜永遠亭に薬を貰いに行っていた早苗だった。どうやら先程の悲鳴は早苗のものであるようだ。

 

「早苗!どうなってやがる!何が起きた!」

 

「知りませんよお!やっとお薬の交渉出来て帰ってきたらこうなってたんですよお!」

 

彼女の周りには腰を抜かした時に落としたであろう八意印の薬が大量に転がっていた。

 

「ひでえな…。」

 

三馬鹿トリオのうちの2人は体のあちこちを切断された後に継ぎ接ぎされたようで一つの十字架にまるで多足の化け物が磔にされているようだった。杜撰な縫い目からは絶え間なく血が滴り落ち、血だまりがあちこちに出来ていた。更には所々にそのめくれた皮膚から白い花が咲いている。

 

「こいつは黒幕の仕業か。とんだ悪趣味だな。お前らをいつでもこうする事が出来るぞってか?」

 

「魔理沙さん!この人生きてます!」

 

早苗がそう言って指差した奴(檳榔と言ったか?)は虚な目で歯をガチガチと鳴らしていた。試しに手を振って見せてもそれに対し何も反応が無く、精神魔法の痕跡も感じ取ることが出来ない。

 

「精神が完全にイカれてやがる。どんな事をされたらこんなになっちまったんだよ。」

 

まあ、こんなキメラ紛いの物をデカデカと残して行くような奴にやられたんだ。誰でもこうはなるか。そう魔理沙は自分を納得させた。

 

 

 

「何々?どうしたの?」 「なんださっきの悲鳴。」 「うるさいなあ。」

 

先程の悲鳴を聞きつけ次々と天狗達があつまる。しかし、この惨劇を見た途端、皆青ざめた。早苗のように悲鳴をあげる者もいればその光景に耐えきれず嘔吐、逃げ出す者もおり、次第に感情は飛び移り連鎖を繰り返し、やがて大混乱となった。

 

「落ち着いて下さい!一体何の騒ぎです?!」

 

場を切り裂くような声を出して割入って来たのは白狼天狗、哨戒部隊隊長の犬走椛であった。

 

「いよう、隊長どの。見なよこの有様。」

 

「うぐっ、これは酷い。一体誰がこんな事を。」

 

椛の顔から血の気が引いていく。

 

「屋敷の前に堂々とこんなモノを…。完全なる愉快犯ですね、これは。」

 

「黒幕が本腰入れて攻めて来やがった。恐らく見せしめだよ。こいつぁ。」

 

しかし、内心魔理沙も椛もざまあみろという気持ちの方が勝っていた。惨たらしい殺され方をされたとはいえ、これまでの行いを見ていたらこれでは済まされない気もする。なのでサンプル採取と原因調査が済めば野良の妖怪の餌にでもしようと椛は考えていた。

 

「沙月麟がやった…」

 

「え?」

 

「沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!」

 

突如として檳榔が叫び出す。

 

「馬鹿野郎!無闇やたらに叫ぶんじゃねえ!失血するぞ!」

 

ーちくしょう!天狗は磔にされている!サツキリンってなんだよ!霊夢はいない!何がどうなってんだ!ー

 

「んな事より椛!お前哨戒班だろ?霊夢を見てないか?朝起きたら何処にも居ねえんだ!」

 

「そんな、見てないですよ!あの傷じゃ何処にも行けないでしょう!……まさか魔理沙さん!」

 

「考えてもみろ。こんなトチ狂った状況、朝になったら博麗の巫女が姿を消している、サツキリンってのはおそらく犯人!怪しさ満点の状況だ!最悪そのサツキリンってやつが霊夢を…。」

 

ー霊夢の中に潜んでいた者。まさか、あいつが『サツキリン』なのか?だとしたら目的は何だ?精神操作か?洗脳か?ー

 

「私ならここに居ますよ?」

 

魔理沙の後ろからひょこっと霊夢が顔を出した。

 

「霊夢!何処行ってたんだよ!そんな動いちまって大丈夫なのか?!まだ傷は痛むだろ?」

 

「いやあ〜すみません。博麗神社に戻ってたんですけど、そこで寝ちゃって。…で、この騒ぎは何です?」

 

霊夢のすぐ後ろには歪み切った空間が佇んでいた。恐らく結界をねじ合わせて移動して来たのであろう。その空間の先には朧げながらも博麗神社が見えていた。

 

「成程、これは酷いですね。結構複雑なカンジですが…。」

 

霊夢は誰の答えも聞く事なく十字架へ歩み寄る。

 

「なぜ、彼女を下ろさないのです?」

 

「良いのかよ?昨日あんだけそいつらにやられたんだぞ?ざまあみろとか内心思ってねえんかよ。」

 

ー霊夢の魔法の脈はいつも通りだ。一つしかない。やっぱり霊夢の中に何かがいたのか。魅魔様に見張りを頼むかぁ?少し考えないとな。ー

 

「私は博麗の巫女ですから。どんな仕打ちを受けようと今は水に流しましょう。彼女から異変解決の手がかりが掴めるかもしれないですし。」

 

「あ、あ、あああああ!」

 

霊夢が檳榔に近づくにつれ、彼女はその発していた奇声をより大きくさせ、目からは大粒の涙が落ちており、終いには首を大きく横に振っている。まるでこれから自分を助けようとしている博麗の巫女に怯えているようであった。

 

ーったく馬鹿馬鹿しい。おそらくアイツは霊夢に報復でもされるって思ってんだろ。調子乗っといてこの末路か。情けねえ。ー

 

手枷が外された瞬間、檳榔はその震える手を霊夢に伸ばしたように見えた。しかしその腕には、一輪の美しく白い花が咲いていた。

 

「霊夢ちゃん!危ない!」

 

反射的に動いたのだろう。それを一番近くで見ていた早苗が霊夢を覆い被さるように庇った。

 

『あーあ。ほんとに生かしてあげるつもりだったんだけどなぁ〜。』

 

「や、やめて…。あ、ああ!」

 

『うるさいうるさーい!違反は違反!厳罰にぃ、処す!』

 

直後、檳榔の体が白い花に覆われ、無惨な姿に変わり果てた。精気を吸われ尽くされ、維持できなくなったその身体は朽ち果て、腕がぼとりと落ちる。

 

「全員、地面から離れろ!」

 

魔理沙が叫ぶと皆一斉にまるで空へ逃げるかのように飛び上がる。直後、それを見計らっていたかのように白く美しい花畑が辺り一体に出現した。

 

無惨な三天狗の死体を彩る花弁が吹雪き、その中から1人の少女が現れた。

 

「演者も、客人もお揃いかな?」

 

その姿は金髪ではあるものの、先代の博麗霊夢の巫女服の色調を真逆にしたものを身に纏っており後頭部には大きなリボンを身につけている。その少女は花畑から魔理沙を見上げ口元を緩め呟いた。

 

「満を持して舞台に上がる時だよ。愛しき…愛しき主人公。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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