主人公は霧雨魔理沙   作:魔王ヘカーテ

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第二十話 あの日に私がいたら

「全く、全て台無しだよ。」

 

そう言いつつも、沙月麟は無邪気な笑みを浮かべていた。異変解決者4人に対し黒幕ただ1人。こういう場合、大抵の黒幕は強がってみせたり引き攣った澄まし顔をするものだが彼女は冷や汗一滴もかかない。その態度を魔理沙は不気味に感じていた。

麟の得体の知れぬ雰囲気に圧倒され、アリスとモーヴはすぐさま構えた。

 

「おや、遅れて入場してきたのがいるね。初めまして、私は沙月麟。君たちがいう『黒幕』に定義される者だ。」

 

麟の言葉からおぞましく、禍々しい負の魔力が漏れ出ているのを感じた。言葉から漏れ出るほどに魔力を蓄えるなど一体いくつもの生命を食らったかわかったものじゃない。魔法糸を構えるアリスの指が小刻みに震える。

霊夢が麟の喉元にお祓い棒を突き立て、静かに、怒気を含ませ口を開いた。

 

「いったい、どれほどの命を吸った?」

 

「覚えてなきゃいけないほど命なんてものは重くないさ。」

 

麟は自分へ向けられたお祓い棒を掴むと指を鳴らした。その瞬間、麟と霊夢が白い花弁の吹雪に包まれ、3人の目の前から姿を消した。

 

「ひとつ聞きたいことがある。」

 

無邪気で禍々しいその声は魔理沙達の頭上から聞こえた。

見ると相変わらず笑みを浮かべる麟と白い花々が纏わりつき、縛られている霊夢が佇んでいた。

とどのつまりは脅しだ。いつでも博麗の巫女を無惨な姿に出来るぞというメッセージである。

 

「魔理沙!こんな奴さっさと…」

 

魔理沙は気が立ったアリスを片腕を上げ制する。彼女は冷や汗を垂らしているアリスとは反対に余裕の笑みを浮かべていた。

 

「いいさ。答えてやる。」

 

「おお。流石『幻想郷一の異変解決者』だ。台詞も与えられない脇役とは訳が違う。安心して。ちゃんと答えてくれたら巫女に纏わせた『花』は脅しのままだ。」

 

「なんですって!?私が脇役?減らず口を!」

 

「アリス、ストップ!ストーップ!」

 

侮辱され暴れて始めたアリスをモーブが羽交締めにして抑えた。

 

「あのバカは放っておいて…改めて何だ?答える義理は無いが答えてやる。」

 

魔理沙は麟の魔力に応えるように殺気を放った。

 

「何故、あの一回の接触で私が巫女に『憑依』ではなく『魔法の脈に潜んでいる』とわかった?」

 

麟と魔理沙は天馬の屋敷の中で接触している。麟はちょっとからかうつもりで霊夢の脈から顔を出したが、並の奴では憑依としか見えないはずである。しかし、霧雨魔理沙は違った。正解を導き、黒幕を引きずり出した。

さぁ、一体どんな素晴らしい推理から答えを導き出したのだろうかと麟は心を踊らせていた。

 

 

「んなこたぁ私にわかると思うかぁ?」

 

 

「「「「へ……?」」」」

 

その場にいた魔理沙以外の全員が気の抜けた声を漏らしてしまった。丁度よく吹いたそよ風がそれまで張り詰めていた空気を何処かへ流してしまった。

焦燥感たっぷりのアリスが魔理沙に問いかける。

 

「ホラ!じゃぁなんで『魔法の裏返し』を霊夢にかけたのよ!黒幕が潜んでいるってわかってたからじゃないの?」

 

「いや、一応候補にあったんだけどよくよく考えて流石にないわ〜って思ってたんだよなぁ。」

 

「だったら尚更なんでよ!」

 

「いやぁ、この前紅魔館から『借りてきた』から試したくなっちゃって…。」

 

「通常の人体に魔法の裏返しなんてやったら魔法の脈がめちゃくちゃになって何が起こるかわからないから『禁忌魔法』事項として書いてあったじゃない!てかアレ紅魔館の魔導書だったの!?」

 

通常、魔術とは一定の倫理基準がが存在する。その中で、いわばレッドラインとされる基準が『禁忌魔法』である。例えば、召喚魔法は生者を触媒に憑依させ使役、または魔法陣からの直接召喚を行うものであるが、死者を召喚、使役するいわゆるネクロマンシーは『禁忌魔法』である。もちろんこれが基準なので死神等の悪神に分類される者の召喚なんてものはもってのほかである。

しかし、そんな事は知ったこっちゃないとばかりに魔理沙は手を頭の後ろで組み、流暢な口笛を吹いていた。

 

「まさか、確証を持たずにほぼ好奇心で禁忌行為を霊夢にしたってこと!?答えなさいよ!」

 

魔理沙はアリスに両肩を掴まれ、前後に揺さぶられたことにより口笛が段々と掠れてくる。彼女の額には冷や汗が滲んでおり、遠くを見つめるその顔が全てを物語っていた。

麟は少し呆れた表情をしながら口を開く。

 

「博麗の巫女。やはり私と一緒に来ないかい?アレよりは少しマシな待遇だと思うが…」

 

「断るわ。それでも、それでも…!」

 

霊夢の目には涙が滲んでいた。それもそのはずである。いっつも事あるごとに魔理沙に理不尽に呼び出されたり、博麗神社に押しかけては茶を出せなど喚かれ、挙句の果てにはこの雑な扱いである。もうちょっと報われてもいいかもしれないこの子。

 

「そうか。なら交渉決裂だ。」

 

霊夢の頭上に魔法陣が現れる。魔理沙は一目見てその紋様が転移魔法のものであると理解した。

頭上の魔法陣を見た霊夢は焦りの表情を浮かべた。

 

「なっ!私をどうする気!?」

 

「特等席へのご案内だよ。」

 

ーこいつはまずい!霊夢を何処かに飛ばす気か!ー

 

麟は霊夢の腕を掴むと何かを呟き霊夢を魔法陣に向け投げた。霊夢が魔法陣に触れた瞬間、彼女は跡形もなく消え去っていた。

 

「私の舞台は、喜劇になんてならない。でも、長い長い物語だ。そのくらいの小休止は必要だったかな?」

 

「4人一気に相手出来ねえからって1人すっ飛ばしやがって!」

 

「まずい、何か変よ!」

 

いつの間にか妖精が魔理沙達を中心として辺り一変を取り囲んでいた。数は百…いや下手すれば千はいるかも知れない。妖精達の目に光は無く、まるで死んでいるかのように表情が無かった。

いつしか魔理沙が二日酔いでふらふら飛び回っていた時も妖精たちは同じような表情をしていた。

 

「アリス、防護結界だ。」

 

「言われなくても!」

 

アリスが器用に魔法糸を操るとそれに応えて無数の人形達が踊り出す。人形達が魔力を帯び、それぞれが呼応し合い、魔力で出来た壁を構築した。それは3人を囲むように球状となる。

 

「宣戦布告はとうにしている。まだ幕紐を引いてくれるなよ?黒幕は…私はここにいるぞ!」

 

次の瞬間、膨大な数のバレットが妖精達から放たれる。妖精ごときの弾幕ではアリスの防護魔法はびくともしないが、無数のバレットが魔法壁に当たっているため中では凄まじい轟音が響いていた。

 

「アリスとモーヴは妖精達をなんとかしておいてくれ。どうやら奴は私をご所望らしい。」

 

それを聞いたモーヴは魔理沙に向かってピシッと敬礼した。

 

「あいあいさー!」

 

「やられるんじゃないわよ?」

 

「バカ言え。」

 

「結界を解くタイミングは?」

 

魔理沙はアリスの肩にポンと手を置いた。

 

「お前に任せる。何年つるんでると思ってんだ?」

 

魔理沙はサーフィンをするように箒に乗り、魔力を込める。

眼前のバレットによる轟音と競うように、それは唸りをあげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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