「静かすぎる。」
いつもは聞こえる土の中の魂のかけらのざわつきが聞こえなくなっていた。花たちのざわつきが消え失せていた。私は、その静けさで目を覚ましてしまった。何千、何万年と生きてきた私の妖生でこんなことは初めてである。
―くるみとエリーの気配が無い―
私は夢幻館の主である。配下の者達の気配は常に感じ取るようにしていた。たとえ今が夜中で二人ならとっくに眠っている時間であっても、だからといって二人の気配が感じ取れないほど私は弱くはない。館の隅から隅まで調べたが彼女らは何処にもいなかった。
―おかしい―
何かがおかしい。妙な胸騒ぎがした。私はいつもの服に着替えると館を出た。
館を出て目に映っていた景色は、なんとも醜いものであった。
目に映るもの全てが欲望に飲み込まれてる。全てが力を欲している。
これが自然の摂理が引き起こしたことではないことだけは理解できた。しかし、世界の根本が変わりかけているのも事実。
この狭間の世界であれ、現実であれ、世界というものは大いなる意思によって動いている。それは不変であるべきだ。今まで何度もこの世界に手を加えてきた小さな意思たちでさえも世界の根本を変えることはおろか手出しをすることさえ出来なかった。
―何が起きている?―
私はくるみとエリーを探しながら思考を巡らせた。館の周りの向日葵はまるで誰かに命じられているかのように土の中の魂の欠片を吸い続けていた。それだけではない。私からも力を吸おうと、うねりを手繰り寄せている。それだけの力を吸えばいくらかは成長するはずが、向日葵達は何も変わらない。ただただ、醜くなっている。それだけだ。ここで確信した。命達をこんな見るに堪えない無残な姿にした者にはそれ相応の罰を与えないといけない。
「くるみ?エリー?」
湖に出ると地面に横たわった二人がいた。湖は向日葵畑に比べて開けているため、二人が此処にいて安堵した。この時、私は静けさで目を覚ましたことを幸運に思った。なぜなら二人は体を崩壊させていたからだ。くるみは右足を先から膝まで、エリーは左手を完全に失っていた。その断面からは鮮血が少しずつ、閉めの甘い蛇口から滴る水のように流れている。地面は飽きることなく鮮血を吸い続けていた。
「なっ!」
二人に駆け寄ると、ずっと頭の中をぐるぐると回っていたあってほしくない事が起きているということを思い知らされる。恐らくは向日葵達に力を吸われすぎたのだろう。まだ残っている体が酷く痩せこけているところを見ればたやすく考えられることだった。
しかし、不幸中の幸いだ。二人とも微かに息をしている。虫の息よりも酷く弱々しいが、今打てる最大限の良き選択をせねばならない。
―こんなに命を冒涜して、魂を、在ることの美しささえも踏みにじったやつを、許すものか。―
私は二人を優しく抱えながら、当てのない復讐心を燃やしていた。