――深夜、人里、鯢呑亭。
意気揚々と妖怪の山に向かえばもう解決したと門前払いを喰らい、せめて騒ぎの原因となった花を見せろと騒いだが『全部燃やした』と。やってらんねぇと魔理沙は一人寂しく吞んでいた。隣には大きないびきを立ててカウンターに涎を垂らしながら寝ている萃香がいるが、気にしたら負けである。
「あーあ。ったくよ。なぁんだよ、にとりの奴。『燃やせば万事解決だったよ☆騒ぐほどの事でも無かったし、原因解明はゆっくりやってくよテヘペロ☆』じゃねえよ!」
もう既に一升瓶五本分は飲み干したであろう日本酒をまたぐいとのどへ通し、猪口をカウンターのテーブルに叩きつける。顔が赤くなりながらも悲壮感漂う魔理沙の顔を見れば、理由がどうであれ誰もが同情するだろう。
「まあまあ、また異変起こってくれる時まで気長に待てばいいじゃないですか。(起こったらたまったもんじゃないけど)幻想郷一の異変解決者がそんなに泣きながら飲んじゃって、情けない。」
そう言いつつも魔理沙が久しぶりに鯢吞亭に来たのだ。クジラの被り物とその座敷童らしからぬふくよかな胸をいつも以上に揺らし、奥野田美宵は陽気に鼻歌を歌いながら失恋の中をさまよい歩く乙女のような魔理沙のために料理を作っていた。
「魔理沙さん、和食派でしたよね?これ、食べて下さい。」
美宵は魔理沙にとても細い魚の煮付けを出した。その煮付けはショウガと醤油の絡み合うとても心地良い匂いを出していた。それを見た途端、魔理沙の目が新しい出会いを果たした乙女のように輝く。
「アジメドジョウか!これはまたいい魚をだしてくれるじゃないか!」
口の中に運べばウナギより濃く、風味豊かな味がする。その味にいつしか魔理沙の口元もだいぶ緩んだ。
「かぁー。せっかく霊夢がらみの事かもしんねぇって思ったのによ。こんなんじゃ多分違うだろうなァ。」
「?、ああ。あの霊夢さんのことですか。」
魔理沙がこんなにも異変に執着する理由は単純な好奇心の他にもう一つある。それが失踪した博麗霊夢の手掛かりをつかむことだ。魔理沙は異変が起こるたびに霊夢の仕業じゃないかと心を躍らせ解決に向かうが、そんなものはただの幻想に過ぎなく、大体はそこら辺の妖怪が起こしたものであった。
「あーあ、いつ帰ってくるんだよアイツはぁ。早くしねーと霊夢もおめえ超えちまうっての。」
「いつ聞いてもその話、ややこしいですね。ダブル霊夢。まあまあ、すぐ帰ってきますよ。それまでに強くなっていればいいはなしですよ。」
そう言って美宵は魔理沙に自信作の天ぷら盛り合わせを差し出した時、彼女は目の前の光景に驚愕した。
魔理沙が寝ていたのである。
なんと彼女が喋った数秒間で寝たのである。萃香と全く同じ寝方をしており、鬼と魔法使いが二人そろって涎を垂らし寝ている光景ほど『シュールな絵面』という言葉が似合うものはない。
「やはり、ここにいましたか…。」
店の引き戸をガラガラと開けて入るな否や神妙な顔をしていたのは射命丸文であった。
「かなり、吞んだみたいで。」
「はい。」
文は頻繁に鯢吞亭を呑みに訪れているが、いつもと違う常連に美宵は質問せざるを得なかった。
「何か、あったんですか?」
魔理沙の隣にそっと腰かけると文は口を開いた。
「手遅れという言葉に片足を突っ込んでいるような状態になってしまった異変が今起きているのです。魔理沙さんを門前払いにしなければ事態はもう少しマシになったものを。」
「え?!それって人妖の力を吸う花がナントカってやつですか?今日魔理沙さんそのことで泣きながら呑んでましたよ?なんで解決させるんだー!って」
「魔理沙さん、かなり酷い形で門前払いを喰らったようでしてね。解決すらしてないのに。上のくだらないプライドのせいで。その結果、死人が出ました。それも、かなりの数。」
先ほどまでの、まるで喜劇を見ているかのような店の空気はすっかり消え失せてしまった。
「貴女も気を付けた方が良いでしょう。多分、これから人間も妖怪もたくさん死にますよ。」