「どうなってんだよ!ちい!切っても燃やしてもキリがねえ!」
「妹紅姉ちゃん…。怖いよう。」
「へっ!大丈夫さ!ねえちゃんが何とかしてやる!」
その業火は人々を焼く事なく、見事に変異種だけを包んでいた。とはいえ、地面からは異常なまでの成長速度で花が咲き誇っているのだ。流石の妹紅でも人里中に炎を踊らせる事は難しい。
ーこいつぁ、他の場所はもっと酷えだろうな。この子たちの親も、もしかしたら…ー
「皆、とにかく屋根の上に登りなさい!今梯子を掛ける!大丈夫さ、皆が登る時間くらい妹紅ならどうって事ない!」
「サンキュー!慧音!」
慧音の大声というものは寺子屋の子供達にとって恐怖の象徴であったがこの時ばかりは頼もしい限りであった。
「よし、登りきったな!皆!落ちるんじゃないぞ!」
「慧音先生は!どうするの!」
「此処に結界を張った後、逃げ遅れている人々を救助する!」
それを聞いた妹紅が呆れたように肩をすくめる。
「慧音、おまえ阿呆か。ガキンチョ共には良き教育者がセットてもんだろ?私が行く。結界は五重にしておけ。」
妹紅が飛び立つと火柱が次々とあがり、器用に炎を操りながら、寺子屋を後にした。
人里を見下ろせば、白く、綺麗な花畑が人骨と共に栄えていた。しかし、意外なことに多くの人々が屋根の上に上がり事なきを得ていたのだ。何故かと妹紅が思考を巡らせているとその疑問をかき消す声が聞こえてきた。
「まだ花に飲み込まれていない人は自力で上がって!動けない人から先に引き上げていくわよ!」
アリスであった。彼女は精気を吸われ、動けなくなっていた人々を魔法糸で引っ張り上げていたのだ。
「ハイハイー!もう大丈夫だよぉー!アリス引っ張り上げてー!」
妹紅は驚愕した。触れれば精気を吸われるというのに、平然と花の上に立って逃げ遅れている人を救助している金髪の少女がいたのだ。彼女はモーヴ・マーガトロイドである。この日、アリスと一緒に人形劇を披露しに来ており、その人懐っこい性格で里の子供たちの間では人気者である。彼女は人形であり、生体エネルギーを持たないため変異種の上で逆立ちしようが関係ないわけだ。
「おい!危険だぞ!」
しかし、妹紅は彼女のことを知らなかった。すぐさますっ飛んでいくと衰弱している人間ごと彼女を引っ掴んだ。
「ちょっと何するのよ!まだ里の人間全員助けられてないんだよ?」
「馬鹿野郎!てめえまで死ぬ気か!力ぁ吸われてお陀仏だぞ!」
「私人形だからそんなの関係ないもん!いいから離してっ!」
モーヴが妹紅の腕を強引に引きはがすと「絶対みんな助ける!」と勢いよく地へ向かって飛んだ。
しかし、その意思も無駄となる。
急に人里中の花々が魔法にでもかかったかのように家屋の何倍もの高さまで急成長したのだ。茎は異常に太くなり、その周りには那由他の数にも思える花が咲き誇っていた。その姿は植物の理を大きく外れ、ただただ人々に恐怖を与えるものであった。
「おいおい!冗談だろ!」
「まずい!モーヴ、それから離れなさい!」
そうアリスが叫んだ時、既に手遅れとなっていた。まるで意思を持っているかのように蔓を伸ばしてきたソレにモーヴの手足は雁字搦めとなってしまった。
「な、なにこれ!」
「モーヴ!!」
「畜生!!」
アリスが巧みに人形たちを操り、モーヴに絡みつく蔓を切断していくがすぐ再生し、妹紅が焼き払おうとしてもすぐに再生し、ソレの周りをぐるりと周り同じ事を試しても完全な無駄となり、完全ないたちごっことなってしまった。そればかりか、段々と蔓は増え、モーヴの頭と胴体少しを残してすっかり飲み込まれてしまった。
「アリスー!助けてよお!」
「どうやって生きてるんだよ。これ…。」
『地に伏せよ』