第六回 ウマ娘短編合作 ウマ娘のお花見 作:BuddPioneer
とある曲を聴いて閃いた短編です。ヒントはこの話の中にあります。
桜が舞い散る4月。お花見をする絶好の天気が続いているものの、トレーナーである俺は花見とは全く無縁の仕事漬けの日々を過ごしている。
「お兄様、お手紙が届いてるよ。」
「ありがとう、ライス。………これ、ライスのご両親の名前だよね?」
「そうだよ………?」
この娘はライスシャワー、俺の担当ウマ娘だ。今まで様々な困難を乗り越え、二人三脚で歩んできた。最近は引退かドリームトロフィー移籍かの二択で悩んでいる。俺個人としては、本人の意思に任せるつもりではあるが、どちらの道を選んでも全力で応援するしサポートする。それがトレーナーとして、いや、一人の大人としての義務だから。さて、いったい何の用なんだ………?
「ライスの家って、毎年お花見会をやってるの?」
「そうだよ。ここ数年はレースで忙しかったから参加してないけど。でもなんでそのことを知ってるの?」
「この手紙に、そのお花見会に参加しないかと書いてあったんだよ。ライスとしては俺に来て欲しい?」
「う、うん!ぜひ来てほしいな!」
「わかった。連絡しておくよ。」
「あ、お兄様。着替えとかは用意しておいてね。」
「わ、わかった。」
4月7日
「お兄様、ここだよ。ここがライスのお家だよ。」
「ここがライスの…。広いね…。」
「えっと、確かここら一帯の土地はみんな所有してるって聞いたことがあるよ。」
「すごいなぁ………。」
俺はライスの実家に来ている。来ているのだが…でかい。とにかくでかい。具体的にはレース場のトラックが3個程入りそうなくらいの大きさだ。ライスは実はとんでもないお嬢様だったのか………。
「お兄様のお部屋はここだよ。」
「ありがとう……部屋?俺の?」
「そうだよ。お花見会は3日間やるから、お兄様のお部屋を用意してもらったんだ。」
「そういうことね……。」
「さ、お兄様。行こうか。」
ライスに連れられて中庭へ行くと、ライスの両親とたくさんの親戚の方々がそろっていた。その中にはウマ娘もちらほらと見かけることができた。
「ライス、あれってもしかして………」
「うん、マルゼンお姉さまだよ。」
‘‘スーパーカー’’マルゼンスキーと親戚関係だったのにはひどく驚いた。まさかあの伝説とそんなつながりがあったとは………。
「ハァ~イ!ライスちゃん!元気にしてた?」
「うん!マルゼンお姉さまも元気だった?」
「あたしはいつだってチョベリグよ!で、あなたのトレーナーをちょっとばかり借りていくけど、いい?」
「う、うん。いいよ?」
「オッケ~!それじゃ!ちょっとこっちに来て!」
そういうと、マルゼンスキーは中庭の隅の方に俺を引っ張ってきた。
「さて、ここならじっくりお話ができるわね。まずは、お礼をいわなくちゃ。ライスちゃんを担当してくれたことへのね。」
「よしてくれよ、俺はあの子の背中を押しただけさ。」
「それでもよ。あなたがあの子と繋いだ縁は、新しい風となってあの子の力となった。今のあの子には私でも負ける可能性があるわ。それくらいあなたの存在は大きいのよ。私だってそうだった。あの人とのトリッキーな出会いは、やがでうっきうきの日常になって今も私の人生をワンダフルに彩ってくれてるのよ。」
「そうか………。」
「あの子はね、あまり期待されてなかったの。もちろん、親からの愛情はあったわよ。でも、レースに関してはずっとおびえてて。トレセンに行くのだってみんな反対してたわよ。けど、あなたのおかげであの子は変われた。だから、私はあなたにとっても感謝してる。何か相談したいことがあったら可能な限り聞くわよ。」
「わかった。実はライスの進路についてなんだが、この先レースを引退するか、それともドリームトロフィーリーグに移籍するか、悩んでいるみたいなんだ。何かいい解決法はないか?」
「そうねぇ……。一つ聞きたいんだけど、あなたはあの子のことをどう思ってるの?」
「どうって……。大切な担当ウマ娘だが?」
「言い方を変えるわ。トレーナーとしてじゃない、一人の人間としてあの子のことをどう思ってるの?」
「それは………………。」
「あなたの本音を聞きたいの。それがあの子のためにもなるから。」
「俺は、ライスと一緒の景色が見たい。例え見える景色が違っても、ハッピーエンドをライスと見届けたいんだ。」
「うんうん!今のあなたとってもいい顔してるわよ!鬼も笑うとはこのことね!」
「おい、誰が鬼だ。」
「知らないの?あなた表情が異様に硬くて怖いから鬼って呼ばれてるのよ。」
「知らなかった……。」
「それはともかく、あの子のところに行ってあげなさい。」
「あぁ!ありがとう!」
そして俺は、ライスの元へ向かった。これからのために。
ライスは、お兄様のことが好き。
いつからかなんて覚えてない。けど、この気持ちは紛れもない本物。入学したとき、ライスは他の子を不幸にしてしまうからって選抜レースに出走するのを拒んでた。でも、お兄様はそんなライスに向き合ってくれた。
『ライスシャワー、一緒に歩もう。君がみんなを不幸にするというのなら、そんなものひっくり返してしまおう!』
『ミホノブルボンに勝ちたい?いいじゃないか。とてもエキサイティングな挑戦だ。』
『いいかライス?君がやったことは間違いなんかじゃない。正しき行いだ。だから元気をだせ。ミホノブルボンの三冠を阻止したくらいで騒ぎ立てている彼らの方に非があるんだ。』
『春天に出るのか。わかった。阪神のターフに、青き薔薇を咲かせて来い!』
『ファイナルズ優勝おめでとう!ライスは俺の誇りだよ!』
お兄様はライスにたくさんのものをくれたんだ。だから、今度はライスがお兄様にたっくさんのものをあげるんだ。
「ライス、今いいか?」
「ふぇ!?お兄様!?ど、どうしたの?」
「大事な話があるんだ。」
「う、うん。ライスもちょうど大事なお話があるんだ。」
「そうか。ライスから先にいいぞ。」
「いいよ、お兄様のお話の方が大事だし。」
「わかった。なぁ、ライス。卒業した後、一緒に暮らさないか?」
「え、お兄様。それって………?」
「ライスと一緒に過ごしたこの日々が、俺にとってはかけがえのないものだったんだ。一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に努力して。だから、これからもライスと一緒にいたいんだ。」
お兄様も一緒だったんだ。ならライスも遠慮しなくていいよね。
「お兄様。ライスもね、お兄様と過ごす何気ない日々がとっても幸せだよ。だからね、お兄様。私、ライスシャワーはあなたのことが好きです。どうか私と添い遂げてください。」
「ああ。喜んで。俺の一生を君に捧げよう。」
あぁ………。うれしいはずなのに、うれしいはずなのに、なんで涙が止まらないんだろう……?お兄様のお顔がよく見えないよぉ………。
こうして、二人は結ばれた。その旅路の先はいまだ誰も知らぬ道。それを祝福するように、桜は静かにゆらりと揺れていた。その後、お花見会はいつの間にかライスの旦那お披露目会となった。トレセンを卒業した後、彼らは籍を入れて結婚式を挙げた。ライスシャワーは、大層美しい純白のウエディングドレスをまとっており、ところどころに青薔薇があるそのデザインは、祝福を体現したかのような印象を参列者に抱かせたという。
青薔薇書店
ここは、とある夫婦が経営している小さな本屋。今日もまた、一人の客が訪れる。
「いらっしゃいませ。本日は、どんなハッピーエンドをご所望で?」