第六回 ウマ娘短編合作 ウマ娘のお花見   作:BuddPioneer

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アプリのNPCウマ娘であるモブウマ娘の二次創作です。総勢十二人のモブウマ娘を小分けにして超短編を四つにした形になります。ネームドのウマ娘以上に妄想率が高いのでご注意を


第二話 桜と楯(モブウマ娘のお話)(作:スコープ)

 花見。桜咲くこの季節ならば多くの人が一度は経験するだろう風習。名所なら屋台が出て子供は菓子を強請り、大人はそれに振り回されるか、或いは酒を楽しむか。

 無論、それは……普段は芝を倒し、砂を踏み抜き走る彼女達、ウマ娘も例外では無い。これはある春の日、誰もが知る訳でも無い、平凡な彼女達が過ごした花見のひととき。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 喧騒と言う程では無いが、人の声が広がる河川敷添いのとある花見スポット。その一角にて一つのウマ娘のグループ、三つ編みが三人とサイドテールが一人、毛色も似通った集団だった。

 

 

「っぷはぁ~ッ!」

 

 

 ラムネ瓶を空にして、ビニールシートの上で仁王立ちする明るい鹿毛の三つ編みウマ娘、デュオスヴェル。そして、その隣で三色団子を座って食べているのは鹿毛をサイドテールにしたデュオタリカーと同じく鹿毛で、三つ編みにしたデュオタージェ、そして黒さが残る芦毛を三つ編みにしたデュオエキュの計四人。

 活発で快活、そんな性格のウマ娘であるデュオスヴェルは「やっぱイッキが最強に美味しいよね!」と笑い、そのまま二本目の栓を開ける。当然のようにグイグイと飲み干すデュオスヴェルを見て髪色も髪型も似たデュオタージェは溜息を吐き

 

 

「スヴェル……この前、そーやって一気飲みをしてトレーナーの目の前で盛大にゲップしたの忘れた?」

「ゔっ……」

 

 

 細められた目から向けられた呆れに思わずデュオスヴェルの喉の動きが止まる。と言うのも彼女はつい十日程前、トレーナーの目の前で……厳密には一人だと思っていた時にトレーナーと鉢合わせ、驚くと同時に盛大に乙女の尊厳を喪ったのだ。その後、彼女はしばらくクッションに顔を埋め、全力のスパートを掛けた様な勢いで脚をバタつかせていた……そんな出来事がこの場に揃う四人の脳内に浮かび上がり……

 

 

「わーわーっ! 忘れろーっ! 全部っ! と言うかそれを言うなら……タージェ! あとエキュとタリカー!」

「えっ?」

 

 

 ビシィッと指を向け、眉間に皺を作ったデュオスヴェルが三人に纏めて仕返しと言わんばかりに

 

 

「私は知ってるぞ! それぞれタージェは【乙女の機密】! エキュは【乙女の機密】! タリカーに関しては【乙女の機密】!」

「「っわぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 

 乙女の機密……大きな声で言うのは実に憚られる内容ではある。さて、全くもって関係のない話ではあるが、世間における肥満とは簡潔に言えば運動不足や食べ過ぎ、と行ったエネルギーの『補給と消費』の間に存在する等号不等号が『補給>消費』になる事で起きる。端的に言えば『食べ過ぎて太った』や『だらけ過ぎて太った』と言うことであり、この『食べ過ぎて太った』と言うのは……ある意味、思春期かつ成長期の少年少女がついお腹周りを気にする原因になるだろう。

 閑話休題。乙女の機密を口に出された三人……の内、二人。デュオタージェとデュオエキュは咄嗟に立ち上がり、デュオスヴェルの愛着しているフード付きパーカーが伸び無い程度に胸倉を掴んで詰め寄り、タージェは自身の手元にあった炭酸、エキュはまだ手をつけていなかった三色団子を手にしている。

 

 

「スヴェル、すっごく炭酸が好きなんだね。耳の中にも注いであげようか……大丈夫、ほら、ちょっとパチパチするだけだからさ、ね」

「スヴェル~! なぁーんで知ってるんですか!? いや、それよりもほら団子あげますからお口チャックして下さいッ!」

 

 

 脅迫と賄賂のダブルアタック。思わずスヴェルも苦笑いしつつ背後に一歩何とか下がろうとする。しかし逃さないと二人がかりでこれ以上何も言うなと寄られる。どんじゃかとした取っ組み合い手前になった時。ふと、三人同時にデュオタリカーが静かな事に気付く。彼女も乙女の機密を暴露されていた。彼女はのんびりとした性格ではあるが、負けず嫌いで意外と好戦的な面が無い訳でも無い。特にこう言った場面……乙女の尊厳にドロップキックかまされた時には率先してバラした犯人(デュオスヴェル)に突撃する……と、そう考えているのだ。しかし、全員がデュオタリカーの方に目を向ければそこには先程と変わらず団子を貪り食う彼女が居た。次いでに目を離した好きに空串は八本増えている。

 

 

「んふ~」

 

 

 モニュ、と串をまた一つ空にしながら団子を頬一杯にして幸せそうな笑顔で食べている。

 

 

「んくっ……おいしいねぇ~」

 

 

 眠気が誘われてくるぐらいに落ち着いた声音でそう三人に語る。体重……では無く乙女の尊厳的にもうこれ以上食べるのはアレだからと実はもう食べる気は無かったデュオタージェとデュオエキュを尻目に元から自分で食べる気だった団子の山をパクパクと減らすデュオタリカー。胃袋の怪物や食堂の総大将と言った異次元的な大食い程では無いが、少ししてスッパリと団子の山は串の山に変化する。

 

 

「ん~? みんなどうしたのぉ?」

「いや、大丈夫ですか……? その、そんなに……」

 

 

「そう、私達は……うん、”アレ“が……こう、増えてるし……」

 

 

 言い淀むデュオエキュ、デュオタージェ。二人としてはデュオタリカーのその後(地獄の減量)を案じての事だったが、デュオタリカーは全く気にした様子もなくふと気が付いた様に手をポン、と鳴らして

 

 

「あっはは~、実はこの前レースで負けた時~、トレ~ナ~が原因はねぇ、『絞り過ぎた』って言っててねぇ~、『一旦大きめに戻して絞り直す』~なんて言ってたんだぁ~」

「な、成る程ね。それなら納得だよ……」

「そ、そうなんですね。頑張って下さい……」

 

 

 同士じゃなかった……! 二人は声には出さずに同時、心で叫ぶ。ある意味でとんでもない裏切りを受けた気分だった。実際裏切りも何も、そもそも仲間(ただのたべすぎ)ですらなかったので見当違いである。

 ガクリ、とデュオタージェは肩を落とし、デュオエキュはゆっくりと天を仰ぐ。尚天は桜の木のほぼ真下なので視界には桜満開桜一色であり、ふとした瞬間の風で舞う花弁は実に幻想的で良い景色だった。絶景の神は居る、でもお腹周りの神は居ない。彼女はそう思った。

 

 

「因みに~、明日はケーキバイキングに行こうかなぁって、思ってるんだぁ~」

「タリカー」

「……? どーかしたのタージェちゃ────」

 

 

 ガシリ、と強く。ニッコリ、と微笑み。

 

 

「腹ごなしにちょーっと運動しよう、タリカー」

 

 

 笑ってない笑顔でデュオタージェはデュオタリカーをビニールシートの外側へと。人の迷惑にならない、桜の隣の開けた芝生に連れ出し……

 

 

「う~ん……運動しちゃうと、すぐ痩せちゃうからぁあんまりってあいったぁぁぁぁぁっ!?」

「大丈夫、プロレスならほら、あんまり動き回らないよ。それに主に私が動くからさ、大丈夫────!!!!」

 

 

 関節技、その中でも優しめのものを一つ二つとキメていくデュオタージェ、その様子を見ていたデュオエキュとデュオスヴェルは後にこう語った────曰く「私だってケーキバイキング行きたかったよ!でも直ぐお腹に来るんだ!元に戻すのすっっっごく大変なんだけど!?」……そんな意思を込めた抗議の関節技の応酬だった、と────

 

 

「……止め、ますか?」

「……もーちょっとだけ後で、ね?」

 

 

「ぬぅぅぅわぁぁぁぁ……たぁすぅけぇてぇ~!」

「……ケー……キィ……ッ!」

 

 

……十五分、それがデュオタリカーを襲った拘束時間だった────

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 場は変わり、時間も巻き戻る。屋台の並ぶこの花見の喧騒、その中心地と言える場所では三人組のウマ娘が行動している。

 

 

「……ふふっ、みんな、楽しそう」

 

 

 白気の多い芦毛を切り揃え、毛先をウェーブさせた彼女、デュオバックラーは、大人に紛れてチラホラと見かける子供達を見てそう小さく呟く。

 他の二人も同意なようで、同じ褐色の肌を保ち、何処となく似た雰囲気を持つ二人……同じく芦毛で、色の濃い芦毛をポニーテールにしたデュオスクトゥムと、色の薄い芦毛を外側に跳ねさせたショートヘアのウマ娘、デュオシパルーがそれぞれゆったりとした雰囲気と共に歩いている。それぞれの手には既にリンゴ飴、にんじんチョコ、にんじんアイスと屋台らしい品ばかりが握られており……いや、デュオスクトゥムに関しては更に色々と抱えており、どちらかと言うと花見では無く夏祭りの様な雰囲気だった。

 かなり沢山の品を抱えるデュオスクトゥム、だが決して彼女があれだこれだと買い込んだ訳では無い。実を言うと……

 

 

「……つーかさ、姉さんはなんでこうも沢山買ってくる訳?」

「え~? だって、美味しい物、大好きでしょ?」

「いや太るわ。こんなに食ったらウマ娘じゃなくてブタ娘路線一直線だわ。アタシ出っ腹三冠取りたくないよ」

 

 

 スクトゥムが”姉さん“と呼ぶ様に、二人は姉妹である。デュオシパルー……彼女は何かがある度に「これがあったよ、スムちゃん*1」やら「これ美味しいんだって、スムちゃん」と……只管甘やかす様にあれやこれやと見せて来るのだ。

 そして、それをスクトゥムが「いや……別に……」と要らなさそうにすると「そっか……ごめんね?」と申し訳なさそうにするのでスクトゥムが「……まあ、欲しいかも」と思わずボヤく……そして紹介してきた品と加えて二つか三つ、買ってくる。この流れが既に十と数回は繰り返されており、隣のデュオバックラーは微笑ましい気持ちと共に苦笑いでその様子を見ている。何にせよ、この花見に集まる屋台で一番経済を回しているのはデュオシパルーであろう事は確かである。

 

 

「因みに、その……お財布の方は大丈夫……?」

 

 

 こそり、とデュオシパルーの耳元にデュオバックラーが小声で訊ねる。隣で見ていて財布の体重が絞られている様に見え、流石に心配になって来る。彼女の質問に対してデュオシパルーはクスクスと笑う。そして心配ないと言う様に

 

 

「良いのよ、趣味みたいな物だから」

「なら良い……のかなぁ……?」

「そう。こう言う時に私は使いたいの」

 

 

 尚、良いとは言っているが大丈夫とは一言も言っていない。それが意味する事は……今、気にする必要は無いだろう。ただちょっとあるウマ娘が少し節約をするだけだ。

 

 

(……今度姉さんに何か奢るか)

 

 

 もっとも、それを一番気にするのは本人の妹である。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りから寸刻し、三人組は五人組へとパーティーメンバーが増えて居る。増えた二人は眼鏡を掛けた芦毛ボブカットのデュオプリュウェンと言うウマ娘と……迷子である。

 デュオスクトゥムの手荷物が更に増えそうになった時、彼女達にとって見知った顔であるデュオプリュウェンがその隣に居るオロオロとした子供に遭遇した為、そのまま全員で子供の家族探しに協力する事になった……と言う訳である。迷子の子供に関してはしっかりと親と待ち合わせ場所を決めているらしい……のだが、肝心の子供がその場所を上手く説明できないので、その場所を一緒に探す事になった。

 

 

「ん、これ食べる?」

 

 

 デュオスクトゥムが手持ちの飴を差し出すと迷子は「ありがとう!」と手に取りそのまま直ぐに舐め始める。にんじん味の飴だがこの子供はお気に召したらしい。

 

 

「欲しいもんあったらウチに言いなよ、そこの姉さんが買った奴沢山あるからさ」

「はーい!」

 

 

 「それで良いよね?」とデュオスクトゥムが目線でデュオシパルーに訊ねると当然の様に頷き……寧ろそう言う優しいお姉さんムーヴをする自分の妹を見て微笑ましそうにデュオシパルーは笑っている。

 

 

「今更ですが、随分楽しんで来た様ですね?」

「いや、まあ、別に」

 

 

 デュオプリュウェンが改めてその手荷物の多さに眼鏡の奥の眼を逸らす。彼女もデュオシパルーがこう言う時にやたらと妹を甘やかす手合いだと理解しているが故に何となく此処までの道中で起きた出来事が察せられた。そして、同時にデュオスクトゥム自身もそう言う姉の行動自体は悪くは思ってない事も察する。

 

 

「ねー、おねーちゃんたちってお名前は?」

 

 

 ふと連れ添ってきた子供が飴を舐めるのを中断して名前を訪ねてきた。そう言えば名前を名乗ってなかった、と四人は思い出しそれぞれ名前を子供に伝える。

 

 

「えっと……わたしは、デュオバックラーって言うの」

「で……でおばっくらー!」

 

 

 おどおどとした様子ではあるが出来るだけ目線の高さを合わせ、自分の名前を伝える……が、子供にとって外国語に近い発音であるウマ娘の名前は言い難いらしく、デュオの部分に関してはもう発音し切れていない。が、それでも元気よく自分の名前を呼んでくれた子供に対して笑顔で頷く。

 

 

「私はデュオシパルー、デュオは言わないでその後だけで呼んで大丈夫よ」

「わかった、しぱるーおねーちゃん!」

「────」

 

 

 続いてデュオシパルーだが、実際にお姉ちゃんな事もあり発音し難いであろう冠名(デュオ)は切り捨ててそれ以降の名前だけで良いと子供に伝え、それに対して同じく元気に返してくれた子供にお姉ちゃんスイッチが入り掛け甘やかしそうになる。が、過去の思い出に旅立つ事で耐えた。

 

 

「ウチはスクトゥム」

「すくと……くつ……すくつむ!」

「ん、いいよそれで」

 

 

 発音に悩む様子に微笑み、片手を空けて子供の頭を撫で、それに子供も笑う。

 

 

「では最後に私ですか。私はプリュウェンと言います」

「ぷ……りえ……ぷ……?……??????????」

 

 

 残念な事に、流石に彼女の名前は子供にとって全体的に難しいらしく、子供の表情は スンッとなってしまった。その様子にこの中で名前言い辛さランキング一位になってしまった彼女は思わず「やはり子供には覚えて貰えないのですか……」とガクリと肩を落とす。名前の由来自体は子供……それも男の子には人気がありそうなデュオプリュウェンではあるが、どうにも名前の発音の難しさ故に子供からは変な名前のお姉ちゃん程度の認識であるし、そもそもウマ娘の名前で変な名前のお姉ちゃん評価のウマ娘は少なくは無いので、残念な事に多くはないが確かに居る彼女のファンの中でも特に少ないのは子供である。

 

 

「えっと……メガネのおねーちゃん」

 

 

 そして子供のファンが出来たとしてもこの様に子供的妥協ラインで大体は眼鏡のお姉さんになるのだ。それを見かねて助け船を出したのはお姉ちゃんスイッチが入り掛けてつい過去の出来事に想いを馳せて居たデュオシパルーである。

 

 

「ふふ、メガネのお姉ちゃんの小ちゃい頃のあだ名、プリンちゃんだったのよ~だからプリンお姉ちゃんって呼んであげて」

「ちょ、それは……!?」

 

 

 もっともその船はデュオプリュウェンにとっては三途の川の渡し船、彼女にとって今では少し恥ずかしく感じるあだ名であり、その命名理由は『プリンが凄く好きだから』だった。当時には『プリン大好きなプリンちゃん』と呼ばれ、未だ家族の間では『プリンちゃんの大好きなプリン買ってきたよ』なんて言葉と共にプリンを買って来られるのだ。それはそれとしてプリンは味わうし今でも好きなのには変わりはないのだが。

 

 

「じゃあ、プリンのおねーちゃん!」

「……! は、はい……プリンお姉ちゃん……ですよ……!」

 

 

 閑話休題。何方にせよ子供にとって分かりやすい呼び方が手に入った為にもうその呼び方で定着したのはどうしようも無いので、ぎこちないながらも笑顔でそれに応える。子供はぎこちなさの無い良い笑顔になる。デュオシパルーも良い笑顔になる。デュオプリュウェンはイイ笑顔でデュオシパルーにも笑いかけた。

 

 

「……えっと、多分この辺り……じゃ、ないかな?」

 

 

 ふとデュオバックラーが足を止めて辺りを見渡す、子供の言っていた待ち合わせ場所らしい場所はこの辺りだった筈だ……と全員でそれらしい場所を探す。

 

 

「あっ、あそこー!」

 

 

 子供が一つのモニュメントを指差す。そこには一人の女性が辺りを見回しており……女性も此方側に気付くとホッとした表情を見せる。どうやら母親で間違いない、と彼女達は安心し、そのまま母親の元に向かう。

 

 

「もう、離れちゃダメって言ってたのに……良かったぁ……お父さんにも連絡入れとかないと……あっ、皆さんが連れてきて下さったんですよね? ありがとうございます……!」

 

 

 深々とした礼、それに慌てて「そこまで大した事は……」と謙遜を入れるも、素直に感謝の言葉は受け取り、軽く挨拶もしてその場を後にする。子供も少し残念そうにしたが「おねーちゃんみんなありがとー!」と笑ってそれを見送る。お互いに手を振り合いながら、それぞれの花見を楽しむ為に人混みに紛れていく……

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあスムちゃんのカッコいい所に免じて何か買っちゃおうかしら!」

「いや流石にもう良いって!?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 緩やかな”食う“花見、賑やかな”歩く“花見、それらとは違うもう一つの花見がその場所にあった。

 

 

『さあ、これで最高得点更新の96.7! 流石はトレセン学園の在校生、ライブ曲はバッチリだー!』

 

 

 それは”歌う“花見。他の花見の集団から離れた場所では栃栗毛のふんわりとしたポニーテールを持つウマ娘、デュオアスピスがマイクを片手に歌い終わった余韻に浸りつつ、司会進行役の声に耳を傾け、自分の得点に満足そうにしていた。

 

 

「ふぅ~……」

 

 

 カラオケ機材がある。賑やかな祭りがある。ならば何が行われるかって? そんなものは決まっている……そう、カラオケ大会だ。

 

 

 テーマは”春“に関する曲である事、それ以上の縛りは無く各々が自由に歌い、中には「春にデビューしたバンドの曲」とゴリ押しでデスメタな曲を歌う者さえ居る。そして同時にウマ娘にとっても”春“と言えばクラシックレースの最初の冠、或いは大阪杯に天皇賞、はたまたマイルGIレースや高松宮記念と言った短距離から長距離まで著名で重要なGIレースが存在する時期、当然……多数のウマ娘が参加し、ヒトも『ウマ娘と対等に競える機会』の一つである為に挙って参加する。普段はレースを見るだけの人間だって、時にはウマ娘と競い合いたい物なのだ……

 

 

『さあ、次の挑戦者は誰だ! 今年のカラオケステークス、誰が得点一着による栄冠を……賞品であるこの最新式家電一式を手に入れるのか!』

「「「うおおおおお! 家電は私/俺のもんだぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

 

 訂正。どうやらただ家電を求める家庭の勇士が集っている様だ。たった今デュオアスピスが出した点数に怯えも怯みもせずにマイクを取りに行く、その姿は間違いなくGIレースのラストを競り合うウマ娘にさえ匹敵する気迫がある。

 

 

「もう、寮生活なのに本気で点取りに行ってどうするのよアスピス」

「え~? 良いじゃない私だって欲しいのよアレ」

 

 

 デュオアスピスが観客側の席に戻ると一人の長髪の芦毛ウマ娘、デュオクリペスが呆れた様に迎える。因みにデュオクリペスの点数は91.4点であり一度は最高点を更新した*2ので他人の事は言えない。

 

 

「何処に置くのよ、もう*3

「ん~……実家に置いといて、後は一人暮らし始めた時にでも……」

 

 

 演歌を歌い出した挑戦者を横目に、人差し指を頬に当てながら悩む様子を見せ、真面目に置き場所を考える。「う~ん……」と唸り、目を閉じて数秒、「あっ、そうだ」と名案が浮かんだとばかりに笑い

 

 

「トレーナーの家に置くのはどうかな?」

 

 

「卒業したら同棲でもする気なの?」

 

 

「……い、今のはナシね!」

 

 

 本人なりには大真面目かつ名案……だったが、デュオクリペスの一言でそう言う意味に捉えられかねない事に恥ずかしくなり、顔を赤くしながら取り消す。妙な空気になり掛けるも、挑戦者の演歌がサビに入るのを切っ掛けにその空気は無くなる。ふと、デュオクリペスがその歌に耳を傾けて、呟く

 

 

「……卒業、か」

 

 

 ”春“は出会いと別れの季節である。誰かがそう言って、事実多くの出会いと別れを経験する。春に生まれる者が多いウマ娘にとっては、特に。そして春をテーマにした歌の中には出会いと別れを謳う物も多く、その内容を色々と思い出しては自分達に当てはめてしまう。

 

 

「……あとどれぐらい、走れるかな」

 

 

 トレセン学園だけでは無く、レースの世界からの卒業……即ち引退の事を考える。嫌でも、まだ残りたいと思っても、才能か、衰えか、環境か、諦めか、節目か……或いは脚か。何かが原因で、必ず引退(そつぎょう)する。

 歌い切った挑戦者が出した点数は僅かに届かず。挑戦者は悔しそうにしながら観客席に戻り、また別の挑戦者が現れる。その様子に二人は何となく、いつの日か……いや、いつにだって見る『最後のレースで勝てず、悔しさのままレースから去るウマ娘』を思い出す。それぞれ別のレースで、別の場所で、別のウマ娘が、同じ様に去る姿を見た事はある。いや、寧ろ見たことのないウマ娘の方が少ない筈だ。

 次の挑戦者の曲は、桜が散り、何時かまた、花開く様な内容。少しだけ、寒くなった心が温まる気がした。

 

 

「……この曲、良い曲だね」

「うん……次は、勝てると良いなぁ」

 

 

 空を仰ぐ様にしてデュオアスピスはそう呟く。前走の敗北……いや、前走だけじゃ無い。勝ち星よりずっと負け星の方が多いから、寧ろいつもの敗北……そう言うべきだろう。

 

 

「アスピスならね、きったまだまだ行けるの」

 

 

 デュオクリペスが目を閉じて、隣に座る彼女の肩に顔を乗せる。その言葉の外側には「私と違って」と言う少しの自虐と、期待が入っている。

 ……彼女、デュオクリペスはもう勝ちを望めない。それが彼女自身とトレーナーの見解であり、まだ公表して居ないが、誰もが来年の春の前には引退するだろう……そう確信している。出られるレースだって少なくなってきたのだから、潮時なんだと納得している。今挑戦者が歌う曲のサビ、再起を歌う内容とは真逆の凪いだ諦めの感情。

 

 

「……」

 

 

 反して、デュオアスピスはそれに悔しそうに唇を噛む。彼女にとって、デュオクリペスは間違い無くライバル”だった“。だがレースを走れば走る程残酷な差が生まれ、少しすれば同じレースに出る事自体が無くなっていく。それは出るレースを分けると言う意味では無い。単純な実力差で同じレースに出る選択肢が取れなくなった……それだけの事であり、それ故にどうしようも無いと思ってしまった。

 

 

「アスピス……」

「……」

「私、多分次が……」

 

 

 聞きたく無い、そう思った。だけど……ライバルとして、親友として、聞かないといけない。

 

 

「ラストランなんだ」

 

 

 サビを歌い終え、今までより力強く桜の花が咲き誇る────そんな歌の終わりに紛れて彼女の声がデュオアスピスの耳に届いた。

 震えている。何より、諦めているけど、隠せない程に……悔しい。それが伝わる痛々しい声だった。

 

 

「……そう、なんだね」

 

 

 やっぱり、とは付けたくなかった。それは彼女のある種の意地であり、ささやかな反抗心の一つである。親友がターフから去る、それを当然の物と受け入れたくない。それに対してのそんな子供染みた反抗。意味なんて無いが、それでも……

 挑戦者が出した点数は98.9点……更新された点数を見て、観客は大きく盛り上がる。司会はこれに敵う点数を出せる方は果たして現れるのか!? と、煽る様にマイクを観客に向ける。『脅威の98.9点、一位になるには99点以上必要です!』と。再挑戦も大歓迎です、と。

 

 

「……それでもさ」

「……アスピス?」

 

 

 それでも、と。司会がそれでも勝てる、勝ちたい、歌いたいと思う方はどうぞ前へ、と。

 

 

「次は────勝とう」

 

 

 次の挑戦者、それを求める司会に対して勢い良く立ち上がり、デュオアスピスは前に出る。

 

 

「それでも私は────」

 

 

 無茶でも、無謀でも、無理でも。勝てないとしても、何が何でも。何度もマイクを持って、何度も声を枯らして、何度も負け続けて。

 だとしても……

 

 

 

 

 

 それでも私は、まだ歌い(はしり)たいんです。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 河川敷、その傍には明るく色づいた桜並木。咲き誇るその桜の花弁は時折風に誘われ、揺れながら地面に落ち、時に川の流れに乗り下流へと攫われて行く。

 晴天の青と疎に散らされた桜色に一つ、芦毛の髪と穏やかな瞳が反射した。

 

「やっぱり……川沿いは良い風が吹きますね」

 

 

 芦毛を揺らす風に目を細める彼女、チーム〈ファースト〉の一員であるデュオペルテは花見に乗じた屋台すら無い場所に足を運び、桜の根元に腰掛けた彼女は遠くを見つめる様にして呟く。桜の伱間から覗く陽光を受けつつ、膝を抱え、耳を垂らす彼女。その彼女に射していた明かりを一人の影が遮る。

 

 

「ペルテってば、まーだ引き摺ってんの?」

「ジャヌイヤ……」

 

 

 未だに黒さが残る芦毛を持ち、同じくチーム〈ファースト〉に所属するウマ娘、デュオジャヌイヤがデュオペルテの横に立ち、溜息を吐きつつ乱雑な勢いと共にペルテの横に腰を下ろす。気遣いが無いと言うわけでは無く、敢えてそうしている……それがデュオペルテには分かった。

 まだ、引き摺っている……それは、アオハル杯決勝戦の事だった。チーム〈ファースト〉は、チーム〈キャロッツ〉に対して……敗北した。完膚なきまでに……と、言うわけでは無い。二勝三敗にて、敗北したのだ。

 

 

「負けたの、責任感じてる?」

「……うん、やっぱり、ね」

 

 

 二勝三敗……三敗内の一つは写真判定にまでもつれ込んだ大接戦の敗北。そして写真判定にまでもつれ込んだレース……それは、短距離部門。即ち……

 

 

「やっぱり、私のせいって思っちゃうな」

「……ん、聞くよ」

 

 

 彼女、デュオペルテは……キャロッツにハナ差にも満たない僅かな差で、二着となった。

 ……確かに、自分達が尊敬する理事長代理の想定以上の結果を出したと言える。けれど、それ以上に……負けたのが、悔しくて堪らない。もっと、差を作れていれば……もっと、上手くコース取りを……もっと良いスタートダッシュをと、悩む事なんて増えて行く。だが、たらればやあの時こうしてたら、何て言うのは意味がないと真っ先に理事長代理に言われた事であり、デュオペルテ自身も思っている事だ。なら、何を引き摺って、何をそこまで責任に思うのか……それは……

 

 

「……私、負けた事、ちょっとだね……良かったって……思っちゃったんだ」

 

 

 敗北の悔しさと同時に……安心してしまった。それが彼女の抱える物。

 

 

「負けたから、チームは解散にならない。きっと、もっとみんなで……一緒に走れるって、そんな風に」

 

 

 それから一言、二言と増えて行き、どんどん溢れ出る様に懺悔に似たような言葉が彼女の口から溢れてくる。

 実際に今もチーム〈ファースト〉は存続している、だからこその後ろめたさ。もしかしたら負けたらチームが続くかもしれない……そんな意識があったから自分は負けたんじゃないか。と、大きくまとめてしまえばそんな内容。それに対して、デュオジャヌイヤは……

 

 

 

 

 

「……グゥ」

「っ、えぇ……」

 

 

 寝てた。流石にこれにはデュオペルテも陰鬱とした表情が吹き飛び苦笑いになる。緊張感(シリアス)はどうやら盛大に掛かってスタミナ切れで垂れた様だ。デュオペルテは思わず後方のバ群に沈んでいくシリアスを幻視した。

 

 

「ちょ、ちょとぉ……」

「んぇ」

「もう、起きてよジャヌイヤちゃん……聞くって言ったのジャヌイヤちゃんじん……!」

 

 

 揺すられて気の抜けた声と共に目を開けるデュオジャヌイヤ、一つ伸びをした後、耳の裏をポリポリと掻きつつ溜息。

 

 

「……取り敢えずまあ、何と無く聞いた範囲でだけどさ、良いんじゃない、別に?」

「ええ!? ぜ、絶対良くないって……」

「いやさ、なーんて言うのかなぁこれ」

 

 

 まさか特に問題ない、と言われるとは思っていなかったデュオペルテは狼狽え、思わず手を右へ左へと動かす。そんな彼女を尻目にうんうんと的確な言葉を脳内に存在する最高(自称)の語彙辞典*4から引き摺り出そうとする。

 

 

「……こう、アレなんだよね。あーいうさー!」

「お、落ち着いてジャヌイヤちゃん……!?」

「ぬぉあー! よーし、もう良いイチから話す!」

 

 

 グワッと勢い良く立ち上がり、指を目の前に突き出す。落ち着きのない様子に思わず肩を跳ねさせるデュオペルテに構わず、デュオジャヌイヤはこの意見に何の欠点もない、と自信満々な表情で口を開く。

 

 

「先ず、ペルテは案外バカだから「え!?」、レース中にそんなあーだこーだ考えてられる余裕なんて無い! よって、あのレースは間違い無く全力だった! んで負けた!」

「いや最後は言わなくても良いよね!?」

 

 

 デュオジャヌイヤ*5からの唐突な罵倒に思わず色々と言いたくなるデュオペルテ*6。更に続けて

 

 

「それに、ペルテは優しいからさ。負けたらみんなが悲しむって分かってるから絶対全力だった」

「……そう、かな」

「そうなんだって、って言うか私だって『負けたー!』って時にこれでファーストが続くなぁって思ってたけどさ、それってやっぱり『ファーストのみんなとトレーナーが好きだから』って事じゃん」

 

 

 

 

 

「……そっか、うん。そうだね、私もみんなの事、好きだから……そう言う事なんだね」

 

 

 彼女の歯に衣着せない、そんな言葉だからかその言葉はストンと胸の中に落ちてきた。胸に手を当て、その言葉を噛み締める様に頷く。

 最後に、「まあ、それでも不安なら……トレーナーと話し合ってみたら? 私達ともっと向き合うって言ってたじゃん」とデュオジャヌイヤは付け加えて……

 

 

「……ゔぁ」

 

 

 遂に彼女の脳がショートした。どうやら脳内辞書の頁が足りなくなったらしい。再びデュオペルテの真横に音を立てて座り、頭を抱えて悶え始める。

 

 

「なんか……なんか自分の柄じゃない事やった気がする……っ! すっごい恥ずかしくなってきたぁ……!」

「締まらないなぁ、もう」

 

 

 友人の為。とは言え慣れない役回りを自覚して一気に顔を赤くして脚をバタつかせて悶えるデュオジャヌイヤを笑って眺める彼女は「さて」と今度は彼女が立ち上がり

 

 

「お腹、空いちゃったから何か買ってくるねジャヌイヤちゃん」

「わ゛か゛っ゛た゛ぁ゛……」

「何かリクエストはある?」

「……かき氷、練乳いちご……」

「じゃあ、行ってくるね」

 

 

 羞恥に悶えながらもしっかりと自分の欲しい物は言う辺り、欲望には正直である。そんな自分の友人のオーダーを聞き届けた彼女はゆっくりと屋台のある場所へ向かい始める。

 

 

「……ありがとう、ジャヌイヤちゃん」

 

 

 ぽつり、と後ろのデュオジャヌイヤに言葉を置いて、そこからは少しだけ駆け足になり直ぐに人混みに紛れて行く。

 一つ、深呼吸を挟み一度羞恥から抜け出したデュオジャヌイヤが彼女が紛れた人混みの方を見つめ

 

 

「……どういたしまして」

 

 

 同じぐらいの声量で呟く。彼女なりのやり方ではあるが、デュオペルテの事を心配して居たが故に慣れない事をした。

 

 

「……次は勝つ!」

 

 

 空を、頭上の桜を見上げて誓う。チーム〈ファースト〉の中でマイル戦でのあの敗北……それを思い出し、悔しさと同時に感じる熱。自分がトレーナーの担当で恥ずかしくない様な勝利をする為に……一先ず、今日だけは美味しい物を食べて、桜を眺めてゆっくりと休息を取ろうと、デュオジャヌイヤはデュオペルテが戻ってくるまでの間、昼寝を敢行する為に瞼を閉じた。

*1
"ス"クトゥ"ム"の略であり愛称

*2
その後主婦に94.7点で更新された

*3
他人の事は言えない

*4
彼女を良く知る者曰く総二十五頁

*5
先日のテスト78点

*6
先日のテスト92点




出てきたモブウマ娘達
以下冠名省略

エキュ/スヴェル/タリカー/タージェ
テーマ:花より団子
余談:エキュはメインストーリー最終章前編の阪神大賞典にて自キャラの隣の枠番なので見た事がある人は非常に増えていると思われる。


バックラー/スクトゥム/シパルー/プリュウェン
テーマ:食べ歩き
余談:妄想度が非常に高い話。同じ冠名で同じ芦毛で褐色となると姉妹にしか見えなくなった筆者の被害モブウマ娘がスクトゥムとシパルー。バックラーに関してはもう少し出番を上げたかった。


アスピス/クリペス
テーマ:カラオケ+卒業
余談:同じ短距離適性だがアスピスは先行かつ短距離Aに対してクリペスは追込かつ短距離C、それと上のテーマを合わせたら一気にシリアスし始めた。だけども、ネームドとは違うモブである彼女達にはもっとも身近な別れの形になると思われる。


ジャヌイヤ/ペルテ
テーマ:桜の下の告白
余談:露骨な百合路線は避けたがこれ実質百合では?百合で良いな(確信)。TSシナリオによりある意味出番が減ったチーム〈ファースト〉の二人。筆者は未だにココンとグラッセに勝って残りのモブウマ娘に蹂躙される事が多い。個人的に、三勝二敗の辛勝でこんな考えになる世界線もあるかなと書きたくなった。妄想率が高い話。


まとめ:デュオ家はいいぞ。モブウマ娘はいいぞ。

作者:スコープ
https://syosetu.org/user/206984/
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