第六回 ウマ娘短編合作 ウマ娘のお花見 作:BuddPioneer
春、といえば桜。
盛りも散り際も愛でられる、日本人にとってすっかり馴染み深いこの花は日本の春を代表するものの一つだ。
その美しさを楽しみ歌に詠んで愛するか、はたまたその艶姿を肴に飲み食いするのか、いずれにしても愛される花であるのは違いない。
さて、桜のような派手さこそなくとも老若男女、広く多くの人に愛され、慕われる担当ウマ娘から今年の春はある「おねだり」をされていた。
それは新年度を越えて少し経った頃。
「ついたーっ!おー、すごいですよトレーナーさん!桜もお花も満開!」
「おーい、はしゃぐのもいいけど前見て前。君の腕には今何があるのかな?」
「おとと、そでした。えへへー、お母さんたちがすごく張り切って腕を振るってくれましたので。
ほっぺた落ちちゃうかもしれないですから気を付けてくださいねぇ」
「君が作ったのもあるんだろう?ご両親からものすごく気合い入れてたって聞いたよ」
「はわぁ!?どどどどうしてそれを……その、それはその、おいしいの食べてもらいたいですし、その、あのあのあうぅぅぅぅ」
「落ち着いて落ち着いて」
もう彼女との関係も長くなるのだが、あうあうと顔を真っ赤にしながら慌てふためく彼女の初々しさに抱きしめたくなる衝動を必死にこらえながら、花見に良い場所を探す。
片耳にお洒落な帽子を乗っけた、純情定食屋小町の努力家ウマ娘。そして、この花見の提案者。
彼女の名を、マチカネタンホイザという。
もぐもぐ、お花見、ご一緒に 著:嵐山三太夫
事の発端は、山あり谷ありハプニングと悲喜交々の最初の3年間を共に乗り越え、更に2年を経た後のこと。
ライバルだったライスシャワー、ミホノブルボンやナイスネイチャ達のドリームシリーズ移籍と共に彼女も移籍を決め、今後の予定や進路を確認している時だった。
「そういえばトレーナーさん。ここ最近、あんまりお仕事以外でお出かけできてないですよね?」
「ん……確かにそうだな。今やすっかり君もスターの一人だからね、ここ最近取材も続いてたし」
「でへへ~……気づいたらすっかり私もあちこちで声かけられるようになっちゃいましたからねぇ。嬉しいような、ちょっとだけ大変なような~……」
今や彼女も街を歩けばサインを求められ、トレセン学園近所の商店街では買い物の時におまけされるほどの顔なじみ。
地元ではすっかりご当地の英雄扱いで、たまに学校などから講演依頼まで来るように。
そして彼女も求められれば気前よく応じてしまうために、必然的にスケジュールは埋まりがちであった。
「それで、今年からドリームシリーズですから。今までのレースの分少しだけ時間が取れますよね?」
「そうだね。ドロワやファン感謝祭といったのはあるけどスケジュールは調整できると思う。
何か予定があるのかい?」
「えっとですな。……今年のお花見のことについてなんですけどね」
はて、と首をひねる。
今までは友人──ナイスネイチャやツインターボ、イクノディクタスらとそのトレーナー達を筆頭とした面々と花見をしていたので、確かに二人きりでの花見は無かった。
ただ、これについてはツインターボから「皆でお花見したいぞ!!」という強い要望があってのことではあったのだが。
「今年、ネイチャが自分のところのトレーナーさんとお花見に行くんですよ。……その、二人で」
「それは……つまり、そういうことか?」
「はい、もう実質夫婦ですけどねあの二人。まあ、そんなわけで私たちもネイチャに協力する形でそれぞれにお花見しようってことになりまして。イクノはマックイーンさんとメジロ家のお花見に、ターボはテイオー達と、ライスさんはフラワーちゃんやブルボンさん達と行くみたいです」
「……あれ?タンホイザはどうするんだ?フクキタルと行くのか?」
「……その、それ、なんですけどね?」
赤くなった顔をうつむき加減にしながらもじもじと指をさまよわせ、へにゃりと耳を倒して。
「……こ、今年は二人で、お花見デートなんて。その、ドウデショウカ!?」
最後の方は目をぐるぐると回しながらも、はっきりと。
『お花見デート』へのお誘いをマチカネタンホイザは見事に遂行した。
「……い、言った、言えた、言っちゃった……」
……そのままへにょりと垂れた耳を押さえながら真っ赤になった顔を隠すようにへたり込む、と。
「そうだな、そうするか」「え”っ」
あっさりと返された返事に、む”い”!?と擬音が付きそうなほどの勢いで反応するタンホイザ。
「いや、どうせなら静かに花見ができるところがいいと思ってさ。ほら、普段だとファンに囲まれたり
してるし、大人数で集まらないならちょっとお忍びで行くのがいいかと思って」
「……あ、あぁ、なるほどぉ~……あっさりすぎてびっくりしちゃった」
驚きからほっと息を吐いて、どこか少し残念そうなようで安心したような表情になるタンホイザ。
その間に一度跳ね上がった尻尾はへにゃりと元気を無くしていたが、取りあえずトレーナーはその事を気にしないことにした。
女性──それもティーンエイジャーの年代だ──に対しては細かいことを聞かない方が良いこともあると、多感な時期のウマ娘達と交流してきた彼は経験則から理解していた。
「……それじゃあ、どの辺で行きます?あ、でも桜の時期は結構忙しいですねぇ……ムムムム」
持ち歩いているスケジュール帳を取り出し取材等の予定を確認すると、検討を始めたタンホイザ。
しかし、トレーナーはおもむろに壁のカレンダーへ向かうとそれをめくった。
「タンホイザ。一つ提案なんだが──桜と他の花が同時に楽しめるかもしれないとしたら、どうする?」
「……ほえ?」
こてん、とはてなマークを浮かべてタンホイザは首を傾げた。
そうして5月──新入生も迎え学園のイベントが一通り落ち着いた後、2人は山間の町へと来ていた。
時期的にヤマザクラや八重桜がまだ咲いており、他の花も多く見られるこの時期は天気さえ良ければ絶好の花見の時期である。
「おおー、桜もキレイだけど他の花もキレイですね!これはツツジでー、これはシャクナゲでしたっけ?」
「そうそう、そっちの地面から生えてるのはシャガだな。ほら、藤の花もあるぞ」
「ほえー、いっぱいありますねぇ。あ!この花の真ん中が膨れててぽわぽわしてるのもしかして!」
「……良い目してるなー、お察しの通り野いちごだよ」
「やったー!うーん、でも食べられるようになるのはもっと後になりそうですねえ」
「八重桜ってこの時期まで咲いてるんですね、今が満開って感じ」
「その年にもよるけどソメイヨシノより少し遅くに咲くからね。こういう山間なら今ぐらいがちょうど時期なんだ。ちょっと遅い時期だけど、こういうのも悪くないだろう?」
「うんうん、これだけいい景色でお花見できるのはいいですなー。なのにいるのは私たちだけ!わっはは~い♪」
お花見、お花見、ホホイホ~イと即興の歌を口ずさみながら重箱やトートバッグを持つタンホイザ。
ウマ娘らしく何重にもなっている重箱には、彼女とご両親が協力して用意した料理がぎっしり詰まっているはずだ。
「おぉ、中身が気になりますか?開けてからのお楽しみですけど、トレーナーさんが好きなものもた~くさんありますよぉ」
「ほほう、それは楽しみだ。……すっかりタンホイザに好みを知られちゃったな」
「えっへへ~、もう5年のお付き合いですから。実家にも何度も来てもらいましたし、試作メニューの試食だってしてもらいましたし?」
「嫁入り修行とか言われてなかったか、あれ」
「いやあ、その節はご協力ありがとうございました。あれ私の跡継ぎ試験みたいなものでして。お父さんとお母さんを納得させられる味とクオリティで創作料理って、今考えても結構ご無体だった気がしますけど……トレーナーのおかげで無事完成しましたし!」
──彼女と出会い、担当になることが決まって、トゥインクルシリーズに挑戦を決めた日から5年。
ドリームシリーズまで辿り着いたこの瞬間まであっという間だったようにも、とても長かったようにも思えるのはいくつもの出来事を、自分たちに出来る一つ一つを幾重にも積み重ねたからなのだろう。
(──いやはは~、やっぱりダメですね。こうして隣にいてくれるだけでなんだか、幸せに感じちゃうんですよねぇ……)
「ん、どうかしたか?」
「い~えっ、なんでもないですよう!」
隣のトレーナーを見上げながら、マチカネタンホイザは花のように笑った。
それから歩くこと少し、2人は桜とツツジとシャクナゲが寄り集まるようにして咲く場所を見つけた。
「よし、あの辺にシートを広げようか」
「お、良いですねぇ。むっふふーん、お楽しみ、お弁当の時間ですぞー」
トレーナーが持参したシートを広げ、四隅に適当な石や靴を載せて風で飛ばないようにするとタンホイザが
いそいそとトートバッグからタッパーと取り皿を取り出し、重箱を開けて広げる。
「この段がおにぎりで~、これとこの段がお肉の段で~、ここはお野菜の煮物や胡麻和え白和え、プチトマトに温野菜!デザートにフルーツも持ってきてるから絶対お腹一杯にしちゃいますよぉ」
「おお……すごく頑張ったんだな、感謝して食べないと」
「えへへ、どもども。お母さんたちも感想聞きたがってたので是非ともたくさん食べてくださいねぇ。ささ、どーぞどーぞ」
「ありがとう。じゃあ、お返しにジュースをどうぞ」
「やや、これはどうもご丁寧に」
紙コップにジュースを注ぎ、取り皿にタンホイザが料理を取り分けて。
「それでは、かんぱーいっ!」
「おっとシンプル」
「……その、お腹空いちゃったので。てへ」
「やっぱりハンバーグもエビフライも美味しいなぁ……」
「その辺りのおかずはお父さん達の監修ですよぉ。……まだまだ味は追い付けないんですよねぇ、どこにコツがあるんだろう」
「お、煮物は出汁が良く利いてるな。かぼちゃもほどよい甘さだし、この春巻もうまい」
「そ、そですか……えへへぇ、良かったぁ……」
「なるほど、この辺はタンホイザが作ったんだな」
「へ?あ!……バレちゃいました!」
「ふき味噌うまいんだけど……やっぱり酒が欲しくなるな」
「あ、やっぱりそうですか?ウチではお父さん達が花見する時に欠かせないんですよ~、お酒のおつまみでにんじんスティックつ摘まむのに良いって言ってて」
「まあ今日はおあずけ、だな」
「ふっふっふ、その分たっくさん料理はございますぞ~、ささこれもこれも!」
のんびりと飲み食いしながら、風に流れる花の枝を時に見つめ、思い出を語り、気づけばあれだけあった料理はすっかり無くなっていた。
「美味しかった……ごちそうさま」
「えへへ、お粗末様でしたっ。やー、食べきっちゃいましたねえ」
「おかげさまでお腹一杯だよ」
「むっふふー、作った側としては嬉しい限りですねぇ」
重箱を片付け、魔法瓶に詰めてきていたほうじ茶で一息。
温かさに2人の顔がほわりと弛む。
「……なんだかこうしてるとあれだな、年を食った気になるよ」
「えぇ~、トレーナーさんまだ若いじゃないですか、おじいちゃんになるにはちょっと早すぎますよぉ?」
「君らイマドキの子から見たらもうおじいちゃんだろうに」
「そんなことないですよぅ、まだまだお若いですよ~」
「ありがとう。……でも、君とトゥインクルシリーズに挑んでもう5年、なんだよな」
「ですねぇ。……気づいたら私もドリームシリーズ移籍だなんて。これはやっぱり、トレーナーさんのおかげですよね」
「そりゃ違うさ、君の努力があったからだよ」
「ええ、トレーナーさんの指導のおかげですよ!私だけじゃここまで来れてないですよ」
「いーや、タンホイザは凄い子なんだからきっと来れてたさ」
「いやいやトレーナーさんが……あれ、これもしかしてずっと続きますね?」
お互いに見つめあって、思わず吹き出す。
「くくくく、似た者同士だなぁ俺達!」
「くっふふふ、もう~!はーおっかしい……」
ひとしきり笑って、タンホイザは身体をトレーナーの近くへ寄せる。
「……トレーナーさん。今日、2人で来られて良かったです」
「そうか、楽しんでくれて良かった。リフレッシュ出来たか?」
「それはもう。……来年も、お花見行きましょうね」
「その時は2人じゃないかもしれないけどな。またツインターボ辺りが人を集めるだろ」
「そうですねぇ、2人っきりではいられないかもですね。それはそれで楽しいから良いんですけど」
「まぁでも……俺は来年も再来年も、君と花見が出来たら嬉しいよ」
「……!」
その言葉に思わずタンホイザはトレーナーの顔を見上げる。
トレーナーの視線は花を見つめているようで、しかし少し赤に染まった耳が先程の言葉が幻聴でないことを示していた。
「うん……うんっ!絶対行きましょう!私、またお弁当作りますから!
来年も、再来年も、この先も!一緒にお花見しましょう、トレーナー!」
「おわっと、勢いつけたら危ないって」
「えへへー、そこは頑張って受け止めて下さいっ」
まだ少し冷たい空気の残る春の空に、約束1つ。
寄り添い1つになった影は夕陽が傾くまで、しばらくそのままだった。
トレセン学園生は4月があまりにも忙しすぎるので、花見はずらすよねってところからスタートしました。GWのお花見も良いぞ。マチタンは絶対人気者で良いお嫁さんになると思う。
作者:嵐山三太夫
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