第六回 ウマ娘短編合作 ウマ娘のお花見 作:BuddPioneer
「柳に小野道風、柳に燕、短冊とカス、桐に鳳凰、カスが3枚......ふぅ、全部揃ってたか」
「トレーナー、なにしてんだ?」
「ちょいと落とし物を集めててな、枚数が揃ってるか確認したかったんだ」
たまたま通りがかった普段使われていない空き教室の扉が空いていたので覗き込むと、無造作に机の上にカードの束が広げられていた。おおかた不良ウマ娘が遊んでそのままだったんだろうが元来の性格かなんとなく放置せずにはいられなくて整理してしまったところだ。
「それトランプか?」
「いや花札だよ」
「花札か」
「知らない? 日本の古いカードゲームさ」
「......聞いたことないな」
トランプゲームや賭け事に精通したフェスタが花札を知らないと言って少し驚いた。日本古来の賭け事といえば多くの人がこれを思い浮かべるだろうし、数年前のアニメ映画ではこれを使って敵と対決するシーンがあったはずだ。って、フェスタがアニメに興味もあるはずもないか。
少し考え事をしている時間にもうフェスタがせっかく揃えた山を無造作に崩してカードを見比べ始めニヤリと口角を吊り上げている。
「その言い振りじゃあ遊び方は知ってるんだろ、折角だし勝負やろうぜ」
「いいけど、流石にルール説明くらいは聞いてくれるよね」
「当たり前だ」
「わかった。今回は2人だし『こいこい』で遊ぼう。このゲームの目的と勝利条件なんだけど──」
「と、こんな感じだな」
「なるほど。で、何を賭ける?」
「何を賭けるか、か」
「何か賭けるものがなくちゃ面白くねえ、そうだろう?」
いつものように賭けを提案するナカヤマフェスタに対し少しだけ考え込む。初心者で不利がつくフェストのために軽いものがいいだろうが、どうしたものか。そうしていると開いた窓から何かが舞い込んでくる。フェスタが拾い上げたピンク色のそれは春の風物詩と呼べる桜の花びらだ。
「ん、桜か」
「桜......お花見か。そうだ。負けた方が花見の準備をするのはどうだ? 日程決めとか、場所決めとか」
「花見か、悪くねえな」
「じゃあそれで行くか、まずは親決めからだね」
「おう」
何かが彼女を駆り立てるのか本人は常日頃から「ヒリつく勝負が好きなんだ」と言っていた。ウマ娘は元来勝負好きな性格ではあるがウマ娘が競走を好むように肉体的な勝負を好むことが多く、賭け事に使われる頭を使ったゲームを好きだというのは珍しい。
山札から配られた2枚の札の片方をフェスタが捲ると
「アンタが親だな」
慣れた手つきで捲った札を山札に混ぜ、手札と場札を配ってくれたフェスタ。トランプをよく遊んでいるからかフェスタのカード捌きは惚れ惚れするくらいに滑らかだ。
配られた手札を8枚場札8枚を見比べながら戦略を練る。
こいこいの戦略は大雑把にいえば「役を作ること」「役を作らせないこと」の2点に尽きる。同じ絵柄の札を重ねて取り、その中で役を作るのがこいこいの基本的なルールであり、要するに「手札が若干透けるポーカー」のようなものだ。
手役を確定出来る札をある程度手札に残しつつ、相手の狙いそうな役に必要なカードを狙い打つ......シンプルゆえに奥深く、運任せゆえに一発逆転があり得るゲーム。
「じゃあ、コイツからだな」
「へぇ」
場札に手札から1枚重ねて、山札の1枚目を捲ると合う札がたまたまあったから手元に置いた。フェスタも同じように手札から場札に1枚重ね、山札の上の札を捲る。
レース前のように目を細め、合わなかった絵柄の札を場に置くフェスタ。どんな細かなことも見逃さず、全てを勝利に繋げようとする勝負師の目──俺は彼女のそんな目に魅かれた。
「......じゃあ、コイツ」
「なるほど、私はこうしようか」
「うーん、わからん」
「あんたがそう言う時は大抵強え札持ってるくせに」
「バレたか」
数巡後、手堅く役を揃えてあがったのは俺の方だった。
「青短、あがりで」
「次だ」
悔しがるでもなく淡々と札を集めて切り直すフェスタ、だが若干の手つきの荒さが彼女が悔しがってくれることを教えてくれる。
そして次のゲーム、上がり続ける限り親は変わらないからまた先行は俺からだ、配られた手札は......
(相変わらず点数は望めそうにないなぁ)
先ゲームと同じ、速いが軽い点数しか望めなさそうだ。予想通りにゲームは進行し、数順回して手札を何枚か残した上でまたあがったのは俺だった。
「三光、あがりだ」
「......次」
さらに次のゲームはお互いに決め手を欠きあがりなしでゲームを終えるが、
「......なるほどな」
「?」
意味ありげにフェスタが呟いていたのに首を傾げつつ次のゲームへ。使ったカードを切り混ぜながらふといつ終わるかを聞いた。
「ところで終わりはどうするよ」
「次でいいんじゃねえか? こんなもんだろ」
「珍しいな、勝つまでやると思ってたんだが」
「勝算があるんだ、次で終わらせてやるよ」
次で終わらせるの宣言通り、親が変わって先手を得た彼女のゲームは支配的だった。息をするように俺の札を的確に腐らせつつ、
「猪鹿蝶、こいこい」
「タン、こいこい」
「四光、こいこい」
「カスであがり。何点になる?」
「俺の負けだな」
「相変わらず勝負っ気のない奴だな......もう1ゲームだ」
「次で終わらせるんじゃなかったのか?」
「勝負を投げてる奴に勝っても面白くねえよ、本気で来い」
「......なんだかな」
「ほらよ」
カジノディーラーのようにカードを手元に飛ばすように配り始めたフェスタを見て、苦笑いしながら配られた手札を握った。本気でやれと言われればこっちも考えがないわけじゃない。長く二人三脚で歩いてきたんだ、あまり推奨されないが身内読くらいは覚えてしまう。フェスタの細かい癖......耳と目線の動きで握っている手札の価値はある程度は透けて見える。
数枚に対して反応すると言うことは高い点数につながるタネ札は何枚か握っている。なら繋がる絵柄を積極的に潰す......とはいえこっちの手札もあがり目は薄い。五光あたりの高い手が欲しいが、フェスタの様子を見る限り素材はあっちの手の中だ。
相手がゆっくり手作りする間に、細かく重ねていくしかない。
「コイツからだな」
「......じゃあ、これだ」
ゲームでクラスメイトやゴールドシップとヒートアップするフェスタを見ることは多いが、俺の前でそう騒ぎ立てることはない。あくまで勝負に徹するフェスタは静かに、淡々と、それでいて熱意は秘めたプレイングをする。レースでも彼女はそうだ。クールで、冷徹で、ずっとつまらなそうな顔をして、しかし勝負には人一倍懸けているものがある。
フランスでの彼女が本来の彼女なのだろう。
1度目の凱旋門賞、彼女はたったの4分の3バ身を詰められなかった。日本では一番世界に迫った、とか、日本初の偉業とか囃し立てられたが2度目の凱旋門では見る影もない11着、彼女が世界の頂を掴むことはなかった。
負ければ不機嫌に飴を齧って勝てば愉快と大きく笑い、悔しさを滲ませることがなかった彼女が、はじめて泣いていた。
「悔しいなぁ......」
身体能力のピークを過ぎ、勝てる見込みの薄かった最後の凱旋門、日本をラストランにすることもできたはずなのに彼女がトゥインクル最後に選んだレースがフランスだったのは、あのフランスの敗戦と深い芝を忘れられなかったからなのか。
フェスタがあの時に思っていたことはもうわからない。フェスタは語らなかったし、俺も聞こうとは思わなかった。信頼されていないと言われればそれまでだが、俺は、フェスタが語りたくないならそれでよかった。
フェスタは多くを口にしない。
だが、そんな彼女が俺は好きだ。
カードの擦れ合う音だけが聞こえる。いつのまにかお互いに息を潜め、相手の一挙動すら見逃さないほどに目を凝らす。
「......猪鹿蝶、こいこいだ」
「おう」
運良く役がそろったが、足りないなら続行するしかない。数順、淡々と手番が回る。よくある膠着状態で、打破するには運がいるような状況。
「......」
一瞬、山札に手を伸ばすフェスタの手がブレた気がした。
「......あがりだな」
「桜に幕、菊に盃。花見で一杯、あがりだ」
「来週の土曜だ。用意しておく」
勝負が終わるとすぐにガラリと椅子を弾き、いつものようにポッケに手を突っ込んで去っていくフェスタ。
「ありがとうな、相棒」
「......楽しかったぜ、相棒」
彼女は多くを語らない。彼女が語るのは勝負の中でのみ。
そして案外義理堅い。
「......イカサマなんか覚えて、まぁ」
若干反った「桜に幕」を見て笑ってしまった。
素直じゃないところがフェスタらしいや。
思いつきのネタでしたが期間中ヒーコラ言いながら書いてました。嘘です半分くらい花札で遊んでました。
作者:通りすがる傭兵
https://syosetu.org/user/103740/
代表作:諦めはウマ娘を殺しうるか?
https://syosetu.org/novel/254108/