第六回 ウマ娘短編合作 ウマ娘のお花見   作:BuddPioneer

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実は遅刻してます、このクオリティで遅刻したのかとか言わないで……


第六話 ウマドル、春爛漫!(作:ミカヅキウサギ)

 スマートファルコン。彼女はトレセン学園に通い、G1レース勝利を目指すウマ娘、その一人。彼女はダートコース、つまり砂場でのレースを得意としていた。

 

「トレーナーさん!私、皐月賞に出たいの!」

 

 …ダートコースが得意なウマ娘なのだ!皐月賞は芝のレースなのだ!

 

 

 

 

 

ただ……結果は残酷だった。

 

 スマートファルコン、皐月賞18着。

 

「そっか、ファル子、ダメだったんだね」

「……すまない、俺がもっと努力していれば」

「ううん、やっぱり、私はダートで頑張るって、これで気持ちにも整理がついたよ!勝てなかったのはもちろん悔しいけど、でも…私も、いつか…あの舞台に立つんだって、改めて気合も入ったっていうか…」

 

 

 …だから、そんな顔しないでよ。……私も、泣いちゃうじゃん。

 

 

 

「………」

 

 その夜、とっくに寮の門限も過ぎた時間。

 スマートファルコン『ねえねえ、地の分でもちゃんとファル子って呼んでほしいな?』…いや変換面倒だし『でも可愛くないじゃん!いいからファル子に統一!みんなに可愛いウマドルって覚えてもらうことも大切なの!』……一応シリアスシーンなんですがあの…まあいいか…

 …ファル子は、こっそりと学園を抜け出していた。

 

「あははっ、トレーナーさんに…フラッシュさんまで。こんなに連絡なんかしなくても、ちゃんと気づいてるってば…」

 

 トレーナーからはもちろんだが、同室のエイシンフラッシュからも、何度も連絡が入っていた。規則に厳しく、また友達思いな彼女のことだ、さぞかし心配していることだろう。

 でも、今は連絡に何か反応をするつもりもなかった。ファル子は…少し、一人になりたかったのだ。

 

 そのまま河川敷まで、なんとなしに歩いてきてしまった。いつも、ファル子がライブをやってる場所だ。

 

「桜も、もうほとんど散っちゃったなぁ…」

 

 もうしばらく前だったら、キレイな夜桜が見れたかもしれない。…でも、すぐに散ってしまうのだ。こうして。

 

「桜花賞に出てたら、キレイなままの桜を見て…それで……何を言ってるんだろうね、ファル子」

 

 ……なんで、負けたんだろう。芝のコースが苦手だから?それもあるだろう。ライバルが強すぎたから?まあ、芝レースのほうが人気なのだ。実力者も集まるというものだろう。

 

「私、どっちで走りたかったんだろう…」

 

 ああ、そうだ。結局自分は、芝レースへの憧憬を捨てきれなかったんだろう。そんな気持ちのままでダートのレースに進むと決めていたのだろうか。

 

「一体、ファル子は何を考えてたんだろ…ダートで一番になるって、決めてたはずなのに…」

 

 

 

「ッ………うぅ……」

 

 自然と、さっきまで出なかった涙があふれてきた。

 やっと追い付いてきたのだろう感情の洪水が、ファル子を襲う。一度認識してしまったら、もう止めることなんてできなかった。ファル子は、さっきまで眺めていた桜の木に、顔をうずめて、何とか声を押し殺す。

 

 もう、どうしたらいいの?

 

 

 

 

 

 

 どれくらい時間が経ったのか。気持ちは全く晴れないが、涙だけは出尽くした、ような気がする。ファル子は目元をぬぐってから立ち上がろうとしたが、まだ力が入らないようだ。結局少し逡巡した後、その場に腰かけることにした。

 

「………」

 

 川の淵には少し、散った桜の花びらが浮かんでいる。ぽつぽつと点いている街灯が、葉桜と川の表面をぼんやりと照らし、しかし遠くは良く見えない。普段のファル子なら『これもこれでいい雰囲気』などと思うところだが、今の彼女には…

 

 綺麗な桜、人が見るところだけ照らされて…いらないところは、夜になれば……何も、見えない。

 

 

 

「……で、そろそろ気持ちに整理はつきましたか?」

「ッ!?」

 

 ぼんやりと景色を眺めていたファル子に、どこかキリッとした木の裏から声がかかった。

 

「ふ、フラッシュ、さん……いつから?」

「……ふふ、いつからでしょうか?」

 

 そこから姿を現したのは、同室のエイシンフラッシュ。性格は真逆と言ってもいいような彼女だが、不思議とファル子とは仲が良かった。ファル子は、恥ずかしさに顔を赤らめながらガバッと立ち上がって、目線を合わせ、姿勢を整えた。

 

「あ、あはは…なんだか、恥ずかしいとこ見られちゃったね!………ごめんなさい。連絡あったのに、ちゃんと返事してなくて…」

「ええ、そうですね。何かある時は連絡をする、それが常識です。…まったく、連絡があったのが分かってるなら、私が心配してたのもわかってたんでしょう?」

「うっ……」

 

 フラッシュの性格は、一言でいえば『几帳面』。規則を重んじ、また自分の決めたスケジュールを破ることを嫌う、真面目な人物だ。

 そんな彼女が寮の門限を破ってまで探しに来たことから、ファル子にも心配の気持ちはよく伝わってきた。それと同じくらい、フラッシュにそれをさせてしまったことを…

 

「……『門限を破ってまで追いかけさせてしまった』とか、考えてません?」

「えっ!?……う、うん。どうしてわかったの…?」

「分かりますよ。どれくらいの期間、貴女のことを見てたと思ってるんですか?」

 

 まだ1年一緒にいるかどうかである。フラッシュは別に、『そういえば1年くらいだけど、まあファルコンさんってあまり頭をはたらかs…裏表のない性格だから』とか考えてない。

 

「…だから、というわけではありませんが、こうしたくなる貴女の気持ちもまた、分かってるつもりですよ。罪悪感を抱く必要なんかありません。」

 

「…でも、私たちは友達でしょう?心配くらい、させてください」

 

 そう言ってフラッシュは、少し照れつつも励ますようにファル子に笑いかけた。

 

「っ…フ、フラッジュざん……!!」

 

 そのやさしさに当てられたのだろうか、気づけばファル子の目からはまた涙があふれていた。

 そして、今度は桜の木ではなく、フラッシュに抱き着き、泣きじゃくるのだった。

 

「……よく頑張りましたね、ファルコンさん」

 

 

 

 

 

「……!」

 

 気づけばファル子は、フラッシュにおぶさって道を進んでいた。景色は相変わらず河川敷であることから考えると、そこまで時間は経っていないのだろう。

 

「あっ、ご、ごめんなさいフラッシュさん!今下りるから…」

 

 急いでそう口にして下りようとしたのだが、フラッシュから返事がなく、また思いのほか力が強く振りほどけない。

 ファル子は少しだけ力を込めてもがいてみたが、明らかに抑えられている。フラッシュはどこかを目指しているのだろうか、そのままの速度で歩き続けていた。

 

「あ、あの~、フラッシュさん?下ろしてほしいんだけど…?」

 

 フラッシュからはまたしても何の返事もなかったが、今度はこらえきれなかったのだろう笑いが少し漏れたのか、クスクスという音が聞こえてきた。

 

「あー、今笑った!ねぇフラッシュさーん!」

「さあ、何のことでしょう?……それより、見えてきましたよ」

「え?見えてきたって、何が……あっ」

 

 そこにあったのは、ソメイヨシノ等と比べれば規模は小さいものの、固まってしっかりと咲いている桜が…満開だった。

 

「八重桜……だっけ」

「ええ、正解ですファルコンさん。よくわかりましたね」

「んなっ、ファル子だってこれくらいわかるもん!」

 

 そう、八重桜は通常の桜よりも少し開花が遅い品種が多く、見ごろは四月中旬頃になることもある、そんな品種だった。フラッシュは、わざわざファル子にこれを見せたかったのだろうか、半ば無理やり泣きつかれた彼女を連れてきていた。

 

「…そう、貴女だって八重桜くらい、知ってるでしょう?」

「そりゃ知ってるよ!……まあ、名前くらいだけど」

 

 そこまでで一旦話を区切り、フラッシュはファル子を下ろして、それから桜の方へ、また向き直る。

 

「じゃあ、この桜を見てどう思いましたか?」

「まあ、綺麗だなって…」

「普段見ている桜と、どちらが綺麗ですか?」

「え、それは……どっちもおんなじくらい、綺麗だと思うよ?」

 

 ファル子は、桜のほうをチラチラと見ながらも、どちらかと言えばフラッシュのほうを覗き込みながら会話を続けていた。

 ここまで会話を続けてから一拍おいて、フラッシュがファル子のほうに向きを変え、少しほほ笑んでこう言った。

 

「…ええ、私もそう思いますよ」

 

 ファル子には、まだフラッシュが何を言いたいのか察することはできなかった。

 

「芝レースはかっこよくて、人気があって、綺麗で。…確かにその通りです。私もそれにあこがれているウマ娘の一人ですから。……でも、ダートレースだって同じくらいかっこよくて、綺麗なんです。それを私に気づかせてくれたのは、貴女じゃないですか」

「……そうなの?」

「ええ、そうなんです。八重桜も、身近にないから人気がないだけで、綺麗でしょう?……最後まで言わないと、分かりませんか?」

 

 フラッシュは、微笑みを真剣な顔に変えて問う。

 

 

「……誰かが、ダートレースを身近な存在にすれば」

「誰か、じゃないでしょう」

 

「……ファル子が」

「…まあ、ひとまず合格ってことにしましょうか」

「あはは…手厳しいなぁ」

 

 そっか、ファル子がダートで走りたいって思ったのは。

 

 ダートレースが、キラキラ輝いてたからだった。

 その輝きが、あの八重桜みたいにみんなに気づかれてないだけなんだ。だからファル子が輝かせたかったんだ…!

 だから、私は、ウマドルになろうって、決めたんだ!

 

 

「…フラッシュさん、ファル子、いつかみんなに満開の笑顔を咲かせてみせるよ!」

「ふふっ、そうですね。じゃあ、今日は帰りましょうか」

「うん!…あれ、何か忘れてるような」

 

 

 …………あ。

 

 

「ああー!門限どころかもう寮が開いてるかも怪しいじゃないですか!ファルコンさんのせいですからね!ほら走って!」

「え、てっきりそれを承知で来てくれたんだって思ってたんだけど……」

「そんなわけないでしょう!?ああもう、どうしてくれるんですか!」

「そ、そんなぁー!!」

 

 ……結局そのあと、ファル子のトレーナーに何とか説得をしてもらい、寮を開けてもらったものの、みっちりと怒られた2人。

 その顔には、満開の笑顔が浮かんでいたという。

 

 

 

  ――ダートで輝く、トップウマドル!スマートファルコン、行っくよー!

 

 




八重桜のあのモコモコが好きなんですよね…アヤベさんに誰かお勧めしてくれないかな。それはそうとサトノダイヤモンドが最高にかわいいんだってことだけ覚えて帰ってくださいね、あと他参加者様のSS全部読んでね(強欲)

作者:ミカヅキウサギ
https://syosetu.org/user/286752/

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