たとえ勇者に非ずとも   作:そば茶

11 / 16

久々の投稿。
長くなったの分割です。



第十話 蜂の巣をつつく・前

 

季節は7月も半ば。

 

曇りがちな梅雨も終わり、晴れ間の広がる夏日が続く今日このごろ。

何気に前世で世界的な問題となっていた温暖化は先人達の努力により一応の解決を見たようで、俺の生きた時代から一世紀半ほど過ぎた超人社会の夏は前世のそれと比較すれば穏やかと言える。

 

だがしかし、悲しいかな俺にはその恩恵を肌で感じることは敵わない。

呪わしきは毛皮纏いし我が肉体、はたまたタイプ相性か。

先人達の努力にも関わらず、夏の暑さは変わらずこの身をさいなんでいる。

 

さて、夏と言えばこのムシムシした湿気や熱でカビだの蟲だのが湧いて出る季節であるが、はたしてジャンキーも夏になると増える性質でもあるのか、このところ鳴羽田の治安悪化は著しい。

 

平日・休日を問わず突発性ヴィランが現れるのもそうだが、時折機動隊がヒーローを伴って街中を駆けずり回っている姿を頻繁に見かけるようになった。

幸にして死者の報は今のところ耳にしていないが、けが人や町への被害は広がるばかり。

なんとも物騒な世の中になったものだ。

近所のご老人方も、オールマイトが登場する前の治安が劣悪だった過去を思い出すと顔の皺をさらに深くしている。

 

なんとも恐ろしい話である。

 

しかし、この治安悪化はどうにも奇妙だ。

警察も本格的な捜査に手を付け始め、そうでなくとも俺がナックルダスターにチクったジャンキーの数はそろそろ三桁の大台に乗ろうとしている。

既に相当数のジャンキーがお縄についているはずだ。

だと言うのに、日々の調査活動でジャンキーが見つからない日はない。

やや郊外とはいえ首都圏だけあって鳴羽田の町の人口は多いが、果たしてジャンキーというのはこうも無限に湧き出るものだろうか?

この超人社会、個性コンプレックスを抱えた人間は五万といるが、その全てがトリガーに手を出すわけでもあるまいに、いったいどうやってそんな心の弱い人間を見つけ出しているのだろう?

出戻りが居るにしたって、ちょっと多すぎやしないだろうか?

 

そもそもの頒布数が俺の想定をはるかに超えているのか、はたまた流通組織が上手なのか。

全く、鬱陶しいったらありゃしない。

 

お陰で朝のランニングを止めるにやめられず、早起きのために俺の睡眠時間は二時間も削れている。

ただでさえ暑さで睡眠の質が下がっているというのに、勘弁してもらいたい。

 

「ふぁ~」

 

特に最近はコーイチ君の訓練プランを練るための参考動画漁ったり資料作ったりで就寝時間が天辺を超えることもしばしば。

肉体の疲労は波導でどうとでもなるが、脳の疲労となると流石に睡眠以外に治療法は無いようで、ランニング中に気を張っていることもあってか登校の時間になると眠くなって仕方がない。

 

大口開けてあくびをしていると、後ろでクスリと笑い声が聞こえた。

 

「ふふふ、大きなあくびね」

『ん?』

「おはよう、大神君」

 

振り向けば、我らがクラス委員長、赤外さんがそこに居た。

特に驚くことはない。

家が近所という訳でもないが、同じ学区の人間が通学路を歩いていればこういうことはままあるものだ。

 

『ああ、おはよう委員長』

「随分大きなあくびをしていたみたいだけど、夜更かしでもしたの?」

『まぁね』

 

適当な相槌を返し、並んで歩く。

 

「ねぇ、短縮授業になるかもって話聞いた?」

『初耳だね。何処情報?』

「先生。まだ決まった訳じゃないけど、最近事件が多いから下校時間早めた方がいいんじゃないかって会議で話してるらしいわ」

『へぇ。授業が減るのか・・・そりゃあいいね』

 

単発のヴィラン事件でならともかく、トリガーの流通という原因のはっきりした事件ならそういう対応もあるか。

まぁ、解決の見通しも無い段階でそういう措置を取るのはなかなか難しそうだがな。

 

だが、そうなってくれると自由な時間が増えてありがたい。

 

「もう・・・大神君ってテストの点は良いのに授業は結構不真面目よね」

『心外だなぁ、ちゃんと授業は受けてるよ』

「受けてるだけで聞いてないでしょ?」

『・・・そんなことないよ?』

「嘘ばっかり。いつも個性で遊んでるの見えてるんだからね」

『むむ』

 

委員長の言うとおり、ぶっちゃけ授業は半分も聞いてない。

小学生の学ぶ内容なんて一世紀半たったところで何か変わるものでもなし。一応真面目に受けようと思っていた時期もあったが、流石にレベルが低すぎて集中を保つにも限界があったのだ。

となると授業中はぼんやりただ座っていることになるのだが、流石にそれは暇すぎるので、こっそり波導の操作訓練をしている。

一応光ったりして他の迷惑にならにように手元に隠すか体内での操作に留めて居たはずだが、バレていたらしい。

確か委員長の個性は《赤外線》だったと思うが、体温変化とかで見抜かれているのかもしれない。

良い目をしていやがる。

 

『今後はバレないように気を付けるよ』

「遊ぶのは止めないんだ・・・」

『点数下がったらね』

 

呆れたような反応を委員長には悪いが、当分態度を改める予定は無い。

生前からして小・中・高と勉強に困ったことはないしな。

 

第一、雄英高校への進学を視野に入れて、ちまちまとだが準備を始めている俺にとって、今更小学校の授業から学ぶようなものはない。

俺が真面目に授業を聞く姿を彼女が見ることは今後ないだろう。

 

適当に雑談を続けながら、学校へ向けて歩いていく。

 

そんな時だった。

 

『──ん?』

 

不意に、何か不快な感触が脳裏を掠めた。

はたと、足が止まる。

 

「どうしたの?」

『ゴメン、ちょっと待って』

 

振り返った委員長を制止し、気配のした方向に向け感知領域を伸ばす。

 

『(これは・・・)』

 

気配の正体は、意外にも近い場所にあった。

直線距離にすれば150m程、通学路からはやや外れる位置だが、俺の感知能力なら少々意識を傾ければ見える程度の距離である。

だが、人と話して歩いている最中に感知できるほど近くもない。

それでもこうして俺に感知されたということは、向こう側の発信がそれだけ強いということだ。

 

所謂助けを求める声。

 

それを頼りに俺が見つけたのは二人の人間。

住宅街の一角、何処にでもあるような一軒家のリビングに倒れ伏す男女の姿。

 

今一状況はつかめないが、酷い衰弱状態のようだ。

 

『(・・・どうしたものか)』

 

人の思考や感情を読み取るなんて能力を持っているせいで、こういう面倒ごとを感知した経験は大小数えきれないほどある。

いじめだの恐喝だの、そういうのが近くであると特に。

だが、俺がわざわざそれらに対処した経験はそれほど多くない。

 

面倒ごとに首を突っ込んで被害を被りたくないし、目に見える問題を潰すだけの対処療法にいまいちモチベーションが湧かないからだ。

それに、暴力以外の解決手段を持たない状態で、いじめや恐喝の現場に踏み込んでも、大抵碌な目には合わない。ボコるのは簡単だが、それで俺が怒られるのはあまりにも馬鹿馬鹿しい。

 

だから、大抵の場合は周囲の大人をけしかけるとか、身を隠した状態でテレパシー越しに脅しつけるとか、我ながら少々情けない手段を取るのだが、今回のようなパターンは特に対処に困る。

 

公衆電話でも使って救急車を呼べればいいのだが、悲しいかなテレパシーは電話越しの会話には一切対応していないので、俺は痛電しか出来ない。

その辺を歩いてる通勤途中の大人を捕まえて電話させてもいいが、果たして家という隔離空間の中に人が倒れていると伝えて、素直に対応してくれる都合のいい善人が見つかるかどうか。

俺なら無視して会社に急ぐ。

 

なんとなく、委員長の顔を見る。

 

「?」

 

衰弱した人間を真夏の室内に放置しておけば、まぁそこそこの確率で死ぬだろう。

俺は、コーイチ君のような根っからの善人を気取るつもりも無いが、電話一本で救える命を見捨ててへらへら出来るほど人の心を捨てた覚えもない。

それに、通学路を通るたびに「あぁ、あそこの家の人死んだんだなぁ」とか思いながら通るのも嫌だ。

多少学校には遅刻するかもしれないが、俺の安らかなスクールライフのためには仕方がない。

 

やや困惑した表情でこちらを見る委員長に向け、お願いする。

 

『悪いんだけど、救急車呼んでもらっていい?』

「え?」

 

少々面倒に巻き込むことになるが、仕方がない。

便利な大人が居ないなら、心優しい小学生に力を借りよう。

 

 

 

 

 

 

 

委員長に事情を説明し、救急車を呼び終えた俺は、彼女を伴い件の家の前を訪れた。

 

「ホントね、二人倒れてるわ」

 

通学路からやや外れた住宅街の一角。

何の変哲もない二階建ての戸建て住宅を、委員長が個性で覗き込んでいる。

 

個性《赤外線》

極めて短い波長を有する赤外線は薄い布程度なら透過する。

常人を越えた領域の光を捉える彼女の目を持ってすれば、カーテンを閉め切られた窓越しに室内を見るなど造作もないことだ。

 

カメラのピントを合わせるように、瞳孔を拡縮させ室内から発せされる赤外線を感知していく。

 

「でも、カーテン越しだと体温までは正確には分からないわね・・・状態までは見えないわ」

『あんまり人の家の中覗き込まないほうがいいよ?』

「あ、ごめんなさい。そうよね」

 

普段のジャンキー捜索といい、今回のことといい、しょっちゅう人の家の中を覗いている俺に言えた話ではないが、俺だって必要以上に人の家をのぞき込んだりしないし、そもそも道のど真ん中で人の家を覗き込むというのはあまり品のある行為では無い。

少し嗜めれば、委員長は照れた様子で個性の使用を止めた。

 

だが、その後も手持ち無沙汰なのか辺りをうろうろとしている。

こういう状況は初めてだろうし、まぁ気持ちは分かるけどね。

 

俺はと言えば、通報が済んだ時点で既に興味もないので、交通分離帯に腰を掛けくつろいでいる。

差し迫った状況なら、俺自ら窓を破って侵入し治療の一つもしてやらんことも無いが、見た感じ直ぐに死ぬと言う訳ではなさそうなので特に焦る必要はない。ついでにやることもない。

今この場に残っているのも、通報した者として救急隊の誘導やら状況を説明が必要だろうな、という判断から致し方なくしているものだ。

万が一の折り返しの電話がある可能性もふまえると委員長と返すわけにも行かず、巻き込んでしまって大変申し訳ない想いだ。

 

『ごめんね、委員長。迷惑かけちゃって』

「迷惑だなんて。人助けだもの、ヒーロー志望ならこれくらい当然よ」

『そう言ってくれるとありがたいけど、多分一時限目は遅刻確定だよ?』

「ち、遅刻!・・・それはちょっと困るけど・・・で、でも困ってる人を置いてはいけないし・・・・どうしよう、学校にも連絡しておいた方がいいのかしら?」

『あぁ、それは忘れてたな。お願していい?』

「わ、わかったわ」

 

普段なら遅刻もそこまで厳しくもないが、最近は町の治安状況もあって教員もピリピリしている。

無断で遅刻して保護者に確認の連絡とか入れられても面倒だしな。

俺が無断欠席なんて美月が知ったら、仕事をほっぽり出して捜索しかねん。

 

既に説明がまぁまぁメンドクサイ状況なのに、これ以上事態をこじれさせるのはゴメンだ。

委員長にお願いし、学校の方に連絡を入れてもらう。

 

その様子を横目に、ぼんやりと道行く蟻を眺めていれば、数分もしないうちにサイレンの音が聞こえてくる。

腰を上げ、道に出て誘導を行う。

やがて、家の前に二台の救急車が止まった。

 

『ご苦労様です』

 

降りて来た隊員達に簡潔に事情を説明した。

 

「通報してくれてありがとね。それじゃあ、作業するので君たちは少し下がっていてくれるかな?」

『はい。下がろう委員長』

「うん」

 

指示に従い、隊員達の動線を塞がぬようにしつつ、よく見えるポジションに移動する。

周囲には、何事かと気にする通りがかり達が徐々に野次馬と化し始めていた。

 

「なんだ、誰か怪我したんか?」

「おい、窓割ってるぞ」

 

救急隊員達は窓を破って室内に入ることを決めたようで、バールのような器具で窓を割っていた。

その様子を見て、委員長はほっと一息ついたようだった。

 

「よかったわ。これで安心ね」

『そうだね』

 

俺もそれに同調する。

これで、余計な肩の荷が下りた。

 

後は隊員の人達にもう行っても良いか聞いて、問題なければ早急に学校に向かいたい。

 

ストレッチャーを抱えつつ、室内に踏み込んでいく隊員達を見る。

 

『・・・流石に今は無理だよな』

 

忙しそうだ。

下がる前に聞いておけば良かった。

 

そんなことを思ったときだった。

 

「「うわぁぁアア!!」」

 

室内から、隊員達の悲鳴が聞こえた。

 

『あ?』

「なにかしら?」

 

何事かと波導の探知を広げようとすると、直ぐに窓から一人の隊員が飛び出して来た。

 

「蜂だッ!」

 

その言葉の意味を、咀嚼することが出来たものはこの場に何名いただろうか。

 

その言葉が具体的に脳内で像を結ぶ頃には、既にそれは現れていた。

 

それはもう、大量に。

 

「きゃあ!」

『おいおい、なんだあれは』

 

それは、大量の蜂だった。

十や二十ではない。ともすれば百を超えるほどの群れ。

 

だが、ただの蜂ではない。

オオスズメバチもかくやという巨大蜂であり、まるで尾部を注射器に取り換えたような異形の蜂だった。

 

名づけるならば、”注射蜂”。

 

飛び出して来た救急隊員、そして家の前に待機していた他の隊員達がその蜂に襲われる。

 

「「「ウワァァァアア!!」」」

 

飛び交う蜂の中で、隊員達が滑稽な躍りを踊る。

 

いや、それは隊員達の必死の抵抗だったのだろう。

彼らの感じた恐怖が、波導を通して伝わって来た。

だが、複数の蜂に取りつかれた以上彼らの抵抗に大した意味があるはずもなく、瞬くまに全身を刺され、糸が切れるように地に臥せった。

 

ショッキングな光景に、動揺し恐怖する野次馬達。

だが、その足は竦み、一つとして動いていない。

そこに、蜂が襲い掛かる。

 

「チィ!」

 

咄嗟に、一歩踏み出し、叫ぶ

 

『逃げろ!』

 

腕を突き出し、波導を放出する。

 

【まもる】

波導を浸潤させ固定した大気の防御壁に、注射蜂の毒針が突き刺さる。

当然、親指サイズの蜂が体当たりしたところで破れるほど壁は脆くない。

 

だが、全体を守れるほど広くも無い。

もう一度叫ぶ。

 

『逃げろ!!』

 

張った壁を蜂が回り込み野次馬に迫る。

 

「うわぁぁぁああ!!」

「逃げろォォオオ!!」

 

堰を切ったように走り出す野次馬達。

 

流石、ヴィランが蔓延る世界だけあって、大人達の動きは速い。

 

だが、子供達はそうもいかない。

大人程に場慣れしておらず、足も遅い。

 

まして、野次馬の囲いのもっとも内側に居たものはどうしても出遅れる。

今回であれば、最前列に居たのは俺と委員長

 

「きゃあ!」

『委員長!』

 

少女の背に、蜂が襲い掛かった。

 

 

 

 





何をしてても他人のピンチを感知してしまう男凛勇
波動使いじゃなくても波導は発しているので、強烈な思念は優れた波導使いにとっては大声で叫んでいるのと変わらない、という理屈。凛勇にその気が無くても勝手に受信してしまうスパムメールみたいなもの。実は悪意の次くらいにストレス。
人助けより保身の方が大事なので大体は無視・黙殺するが、人死にとか大怪我しそうな感じなのは流石に後味悪いので一応救助を試みる。
地味に電話が使えないというのが足を引っ張っている。


赤外さん
ざっくり真面目で頭良さそうという印象でキャラづけ。
感知系なので凛勇が授業中暇して遊んでいることを知っており、「こいつ授業中いつも遊んでんな」と思って見ている。同時に、「ヒーロー目指すならそれくらい個性鍛えた方が良いのかしら?」とも思っている。


【まもる】
大気に波導を浸潤させ、分子を固定することで壁を作るワザ。(バリヤードリスペクト)
ただ、この理屈だと連発した方が密度高くて強い壁作れるのでは?と思わなくもない。
まぁ、バトルのバランス的な都合でしょうけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。