たとえ勇者に非ずとも   作:そば茶

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最近のアニポケを見ていて、ルカリオって感知と戦闘両立出来ないんだなぁと思う今日この頃。まぁ、生まれて一年くらいのベイビーだしそんなもんか、って感じもしますが。

アニメヒロアカは死柄木も目覚めてドンドン盛り上がって行きますが、こっちはようやく三巻突入。いったい何時になったら原作に到達できるのやら・・・



第十四話 最悪な朝

 

 

事件の翌日。

昨日の今日ということもあり、ランニングは中止した。おかげでいつもより二時間ほど長く寝ていたにもかかわらず、ゆったりとした余裕のある時間を過ごせている。

ここのところ、朝食を終えればそのまま家を出るのが通例であったが、今日はのんびり紅茶を飲む余裕すらあった。

 

『ヒーローの本場、アメリカからあのスーパーヒーローが来日です!』

 

ぼんやりとテレビを見ていた俺の耳に、そんなニュースが飛び込んで来た。

米国からスーパーヒーローの来日。センセーショナルなタイトルについつい目が向かう。

 

『昨日、C・Cコーポレーションの記者会見にて、キャプテン・セレブリティの来日が発表されました』

 

『へー』

 

画面に、金髪をモヒカンにしたケツ顎のヒーローの姿が映し出される。

スーパーヒーローと呼ばれるだけあって、一目で分かる超有名人だった。名をキャプテン・セレブリティ、全米ビルボードチャートでここ10年ほどトップ10にランクインし続けている超一流のヒーローである。個性は《飛行》。コーイチ君の参考になるかと思い調べた資料の中に、彼の名があったのを覚えている。

テレビの映像は記者会見かなにかだろうか?コスチュームではなく、高級そうなビジネススーツで身を固めている。

 

──来日してイベントでもやるのかな?

 

この時の俺はそんな風に思っていた。

 

だが、

 

『私は、この度アメリカを離れ、日本でヒーロー活動を行うことを決めました』

 

『──んなっ!?』

 

次に表示された字幕を見て、思わずカップを落としかけた。

そのくらいビックリした。

画面上でも、CCの発言に対して報道陣からも大きな動揺の声が上がるとともに、大量のフラッシュが焚かれている。

 

──日本でヒーロー活動?CCが?──んな馬鹿な。

 

「どうかしたの?」

 

驚愕で固まる俺に、キッチンから美月が声をかけて来る。

思わずテレパシーを漏らしてしまったからだろう。俺の視線を追い、テレビに目を移した美月はCCの姿を認めると、眉根を寄せた。

 

「・・なに、この人また不倫したの?」

『──えっ、と・・・』

 

どう言葉を繋げたものか。

上手いことばが見つからない。

 

だが、美月の失礼な態度もCC相手では致し方ないことだった。

ことCCというヒーローを語るうえでは、切っても切り離せないものが一つある。”スキャンダル”だ。

米国のトップヒーローともなれば一人の例外もなく超有名人ではあるのだが、CCの場合はとにかく悪評が多い。彼自身の軽薄な態度と言動が原因でこれまで幾度となく炎上騒動を起こししている上、病的なまでの女癖の悪さによって現在両手の指では足りない数の訴訟を抱えている。

故にその通称をキャプテン”お騒がせ”セレブリティ。悪名は無名に勝るというが、彼の場合はその悪名が勇名すら凌駕してしまっている。本拠地から遠く離れた日本でも、ニュースに出れば「またやったのか」なんて反応をされるほどだ。御覧の通り、女性受けは特に悪い。

 

俺は好きでも嫌いでもないが、フォローするには前科がありすぎる。

 

『・・・今回は違うみたいですよ』

 

だが、少なくとも今回は下世話なスキャンダルではない。

ビックニュースではあるが、世界が仰天するちゃんとしたビックニュースだ。

 

『トップヒーローが海外移籍なんて、とんでもないことになりますよ』

 

”トップヒーローの海外派遣”であれば珍しくない。対テロ戦や災害救助を目的とした短期の派遣であれば、実例は過去に多数存在する。だが、”派遣”であればそこには明確な作戦目標があるし、目的が達成されれば本国に戻るものだ。単に海外に出向くのと、活動拠点を海外に移すのとでは意味合いが全く違う。

 

そもそも、基本的に国家はヒーローの海外流出を嫌う。

それは主にヒーローに成るような優秀な個性の持ち主を国外に逃がしたくないという理由からだが、その対象が凡百のヒーローではなく、トップヒーローと呼ばれるような上澄みの場合には別のもっと深刻な理由が付随する。

居なくなると滅茶苦茶治安が悪化するのだ。

 

原作でオールマイトが引退した後、日本の犯罪率が激増したのと理屈は同じだ。

彼ほどに象徴的(アイコニック)な存在でなくとも、トップヒーローと呼ばれるような連中は悪への抑止力として絶大な影響力を有している。CCの場合それが顕著だ。彼はエンデヴァーと同じく人気票よりも事件解決数などの貢献度によってランキング上位に居るタイプのヒーローだ。一年あたりの事件解決数は千を超える。

彼が他所へ行くと言うことは、極端な話彼が今まで解決していた事件数がそっくりそのまま野放しになるということだ。彼の存在を恐れ、今まで息を潜めていた連中にとってはパラダイスだろう。

いずれは米国が配置換えなりなんなりで調整するだろうが、必要十分なヒーローが揃うまでにどれほどの死者が出ることか、・・・・米国のヴィラン犯罪はとにかく規模がデカい。三桁に収まれば御の字ではないだろうか?

 

恐ろしいのは、これをアメリカ政府が許可しているということだ。

海外派遣でさえ七面倒臭い手続きを経なければ許可が下りないのに、本拠地の海外移転となれば政府が絡んでいないはずがない。どういう理由か知らないが、CCが管轄区を放棄して日本で活動すること、ひいてはそれによって引き起こされる被害をアメリカ政府は許可したのだ。

それはつまり、そうするだけの意義をコレに見出したということではあるまいか?

 

それは一体なんだろうか?

 

会見映像ではCCが『ハハハッ、心機一転して日本で自分の力を試してみようと思ってね』みたいなことを言っているが、普通に考えてそんなふざけた理由で許可は下りないだろう。俺がヒーロー公安委員会の人間なら胸倉掴んで殴ってる。

心機一転のために人が死んでたまるか。

 

何だか、嫌な予感がしてならない。

 

「考えすぎじゃない?」

『だといいんですけどね・・・』

 

そう不安を吐露すれば、美月は何か可哀そうな物を見るような目で俺を見た。

 

・・・やめてくれよ。それじゃあ俺がまるで陰謀論者みたいじゃないか。

治安云々を抜きにしたって、トップヒーローを国外に出すのは軍事的にも色々問題だし、マジであんな理由な訳ないんだって。

向けられる視線に居心地悪さを感じつつ、内心でそう自己弁護していると、

 

()()()()で進められているCCコーポレーション事務所の改修工事は来月の竣工を予定しており、キャプテン・セレブリティの来日はそれ以降となる見込みです』

 

『ハァ!?ふざけ──熱っつ!!』

「あ、もう何やってるの」

 

今度こそ、カップを落っことした。

熱々の紅茶が足にかかり、思わず飛び跳ねる。

 

「ほら、これで冷やして」

『あ、ありがとう』

 

美月が持ってきてくれた濡れタオルを腿に当てる。

水道水の冷たさがヤケドした皮膚に染みた。常人より遥かに頑丈なこの肉体だが、ほのお()は効果抜群だった。

 

『いってぇ・・・』

 

ヒリヒリとした痛みに変な汗が出る。

幸いヤケド自体は大したことはない。治療も始めているし、数分後には痛みも無くなる。

だが、紅茶が掛かったせいで俺は濡れたし服も汚れてしまった。既に登校の準備を終えていたというのに・・・着替えなおしだ。

折角の余裕ある朝の時間が、急に慌ただしくなってしまった。

 

その元凶は、カメラに向けてキザったらしいキメ顔を披露している。

 

──前言撤回だ。やっぱり俺は、コイツのこと嫌いかもしれない。

 

八つ当たり気味に、そう思った。

 

 

◆  ◇  ◆  ◇

 

 

一度嫌なことが起こると、後に起こること全部が悪いものに見えることがある。今朝の出来事は此度の俺の人生においても稀に見る最悪な始まりだった。

 

CCがこの鳴羽田を襲う事件における登場人物だということであれば、俺は当然彼に匹敵するヴィランを想定する必要がある。原作がある以上、それがどんな凶悪ヴィランだろうと最終的には倒されたはずで、それ自体は大きな安心材料ではあるのだが、この世界が元のお話通りに進んでくれる保証は一切ない。

敵にしろ味方にしろ、個体の能力が高ければ高いほどに些細な変化が未来に与える影響は大きい。バタフライエフェクトなんて言葉もあるが、CCの場合下手すれば自力で竜巻くらい起こしかねない強さだ。彼がその日の朝ごはんに何を食べたか・・・・なんて些細な違いでこの町の趨勢が決まりかねない。その些細な違いの切っ掛けを、俺が与えていないと誰が言い切れるだろう?

 

考えるだけで無限に憂鬱になれる。

その度にあのキザったらしいチャラついた笑顔がチラつくせいで、無性にイライラする。

──人の気も知らないで!と言うやつだ。

まぁ、ただの八つ当たりだが。

 

同じように、無神経な奴には腹が立つ。

 

「なぁなぁ大神!どんなヴィランだったんだよ!」

 

挨拶もそこそこに好奇心を全面に押し出すクラスメイトを半眼でねめつける。

例えば、昨日強盗で出くわした人がいるとして、その友人が「なぁなぁ、強盗ってどんな奴だったんだ?」と好奇心全開で聞いている風景を見たらどう思うだろう?俺ならそいつとは関係を見直すべきだと助言する。

 

無論、彼の心には不幸な俺を嗤ってやろうなんて意思はこれっぽっちもない。波導使いである俺の目にはそれが良く分かる。彼の心にあるのは、至極純粋な好奇心だけであり──ようするに単に無神経なだけだ。

それだけに、救いようがないとも言える。

 

『ヴィランとなんか戦ってないよ』

 

とはいえ、怒るようなことではない。

彼のような反応を示す者は、この世界では少なくない。

 

ヒーローという治安維持システムの構造的欠陥だ。

彼らが活躍してしまうと、どんな凶悪事件もたちまち勧善懲悪のエンターテイメントに変わってしまう。事件背景や生じた被害に目が行かなくなるのだ。

今回の事件で言えば俺がそのヒーロー役。彼らは俺の活躍には興味深々だが、被害にあった6名には一ミリも興味を持っていないし、それが学校と目と鼻の先で発生した事件であることや、犯人が未逮捕であることなど完全に考慮の外だ。

 

これを愚かしい、と切り捨てるのは簡単だ。

だが、俺のように常日ごろからヴィランの発生を意識していたら誰だって正気では居られない。彼らは俺と違って隣人が悪人かどうかなど判別つかないのだから。平和ボケした態度は正常な防衛反応なのだ。

・・・傍からみると、馬鹿で無神経に見えるのが困ったところだが。

 

彼らを見ていると、今も必死こいて悩んでる自分がなんだか見当はずれのことをしているような気分になる。

 

今直ぐにでもコイツを鳴羽田の廃ビル街に放り込んでこの世界の狂った現実を体感させてやりたくなるが、『相手は子供、相手は子供』と念じて怒りを引っ込める。

朝の件で、どうにも気が立っている。ストレスが溜まると荒っぽくなるのは俺の悪い癖だ。

 

「委員長がヴィランだって言ってたぞ」

『委員長の勘違いだよ。俺がやったのは蜂退治で、ヴィラン退治じゃない』

「ええー」

 

勝手にガッカリされても困る。第一そこは俺的には譲れない一線だ。

許されたとは言え、あの行動を俺がヴィラン退治など喧伝することは許されない。俺の行動は功名心に駆られた愚か者の所業ではなく、止む得ず行った自衛でなくてはならないのだ。誰がなんと言おうと俺は蜂を殺しただけ、それが公式見解でありそれ以上でもそれ以下でもない。

実際、昨日の騒動では蜂の使い手とは相見えてすらいないのだし。

委員長がどういう説明をしたのか知らないが、後で言い含めておかないとな。

本当のところを言えば、話を広めること自体を止めて欲しいんだが・・・まぁそれは悪手か。

 

「蜂のヴィランと戦ったんじゃないのかよー?」

『全然違う』

 

ちゃんと広めないと、尾鰭がついて泳ぎ出しかねない。

発信源に近いはずのクラスメイトのこいつでさえコレだ。断片的な情報を繋ぎ合わせて勝手にお話を組み上げてしまっている。

こんな()()が生徒指導の耳に入って見ろ、俺がどうなるか分かったもんじゃない。

まぁ、こういう時のために常日頃から教師たちにいい顔して信用を積み重ねて来たわけだが・・・信用は溜めるのが大変な割に減るのは一瞬だからな。温存できるときは出来るだけ温存しておきたいものだ。

 

「大神、待ってたぜ!」

「来たねヒーロー、昨日の話を聞かせて貰おうか!」

 

教室に入れば、そこかしこから声がかかる。直接声をかけて来るものも居れば、興味をもって遠巻きに見ているものも居る。だが、多かれ少なかれ、全員が俺に興味の視線を向けていた。

どいつもこいつも、好奇心を胸いっぱいに詰め込んでやがる。

 

──まったく、人の気も知らないで。

 

『あーはいはい。宿題の提出終わったらね』

 

ため息は言葉に出さない。

こうも盛り上がってしまった空気をぶち壊しにしてしまえば、大ヤケドは免れない。

 

小学生相手と言えど、・・・いや、むしろ小学生が相手だからこそ、大人が気を遣らねばならないのだ。

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

『皆して「どんなヴィランだった?」「どうやって倒したんだ?」って。同級生が事件に巻き込まれたんだから、普通は心配が先に立つものだと思わない?』

 

言葉に滲む苛立ちと呆れ。

人目がなければ頭でも搔きむしっていそうな友人の怒り様に、可視子はたまらず苦笑を浮かべた。

 

昼の休み時間、凛勇に話があった可視子は図書館を訪れ、日当たりの良い窓辺の席で本を読む凛勇を見つけた。

『人がたくさん居る場所が嫌い』と自称する凛勇は休み時間になると必ず教室から居なくなってしまうが、多くの場合図書館に居るというのを可視子は知っていた。

校舎の端にあるために利用者が少なくて静かだからだ。

 

『笑うなんて酷いな、これでも結構傷ついてるんだよ?』

「ふふふ──ごめんなさい。でも、大神君がそんなに怒ってるところ初めてみるから」

『俺だって怒るときは怒るさ』

 

可視子が知る限り、大神凛勇という少年は非常に理性的な人間だ。

心の中がどれほど荒れていようと、それを俯瞰する冷静な自分が常に内側に居るタイプ。だから、滅多なことでは怒りを露わにしない。特に、人目があるような場所では。

加えて言えば、凛勇はそもそも”怒りを覚える”ということ自体が少ないように見えた。揶揄われたり、馬鹿にされたり、普通の小学生男子であれば罵り合いや殴り合いの喧嘩に発展してしまいそうな場面でも、凛勇は声を荒げたり、雰囲気を固くすることがない。なんなら自身を罵ってくる相手に対してさえなんとも言い難い生暖かい視線を向けるくらいで、一人で怖い顔をしていることはままあるが、怒りをこうも露わにする姿というのは想像もつかなかった。

そんな凛勇が珍しく憤慨していると思ったら、それが”皆が心配してくれなかった”などという()()()()()()理由だと言うのだから、可視子が笑ってしまったのは無理もない。

皆が心配しない理由など、誰の目にも自明なのだから。

 

『大神君だから、皆心配してないだけだよ』

『俺は心配する価値も無いって?』

「ううん、そうじゃなくて・・・大神君ならきっと大丈夫だって皆思ってるんだと思う」

 

凛勇の実力はクラスに留まらず、学校中の人間が知るところにある。

一年時の一斉個性診断ではプロヒーローにも勝る個性を披露し、目立つ一年生を虐めてやろうと勝負という名のリンチを仕掛けて来た上級生に対しては一切手を下すことなく屈服させ規格外の実力を示した。

半ば伝説のように語られる凛勇の逸話は、入ったばかりの新入生にさえ語り継がれている。

あまりにも隔絶した強さ故に、”未来のトップヒーロー”などと呼ぶものも少なくない。可視子もまた、それが荒唐無稽な妄言だとは思って居なかった。

 

──あの大神凛勇なら、ヴィランなんかに負けるはずがない。

 

皆がそう思うのも当然。

それが可視子の偽らざる感想であり、実際、事件後に登校した可視子に対しては、普通にクラスの皆から身を案じる言葉が投げかけられたのだ。

・・・それを敢えて凛勇に言うほど残酷ではないが。

 

『買いかぶりすぎだね』

「そう?」

『そうだよ。現に昨日はギリギリだった』

 

当の本人はそう言うが、仮にあの場にヒーローが居たとして、同じように対処できたものがどれほどいただろうか?

そう考えてしまえば、凛勇の言葉はただの謙遜のように思えてならない。

本人の表情を見ればそれが冷静な判断に基づくものだと察せられるが、可視子には些か厳しすぎる評価のように思えた。

 

『まぁ、それはいいや。委員長、俺に話があるんじゃなかったっけ?』

「あ、そうだった」

 

言われて気づく。

凛勇を発見した際、いつもと違う荒れた様子に気を取られ本題を忘れていた。

可視子は凛勇に話をしに来たのだった。

 

「えっとね、昨日お礼を言うの忘れてたと思って」

『は?──お礼?』

「うん」

 

改まったお礼に気恥ずかしさを覚えながらそう言えば、何故か凛勇は目を丸くした。

可視子は持ってきた包みを机の上に置く。

 

「昨日、私を助けてくれたでしょう。だからこれ。私・・・っていうかお母さんからだけど」

『え、いやいや、良いのにこんなの。ていうか昨日のはむしろ俺が謝るくらいだし』

「大神君が?どうして?」

『どうしてって、俺が委員長に声かけなきゃあんな事件に巻き込まれずに済んだだろ?本当なら俺が頭下げに行くべき話だ、お礼なんて貰えないよ』

 

凛勇は慌てたように机上の包みを押し返そうとする。

それを反対から可視子は抑えた。

 

「私は、昨日のこと巻き込まれたなんて思ってないの。私のやりたいことをやっただけだから」

『────』

「だから、気にしないで」

 

確かに、昨日の事件で可視子は恐ろしい思いをした。

だが、凛勇に言われ、手を貸すことを決めたのは他ならぬ自分自身であると、そう誇りに思って居た。

結果は伴わなかったが、それでも人のために動こうとしたのだと。

 

それを、”巻き込まれた”などと一方的に決めつけられるのは()だった。

 

少しだけ語気を強めた可視子に戸惑うように凛勇はしばし目線を彷徨わせると、少し間をおいて小さくため息を吐いた。

 

『───そっか、君も変わってるね』

「そうかな?」

『うん。かなりね』

 

何を思ったのか、納得したように数度首肯すると凛勇は包みを受け取った。

 

『じゃあ、これは有難く貰っておくよ。これは・・・お菓子かな?』

「うん。確かクッキーだったと思う」

『ふーん』

 

凛勇は包みを脇に避けると、先ほどまで呼んでいた本を持ち上げていった。

 

『委員長の用事はこれで終わりかな?できれば休み時間中にコイツを読み終えたいんだけど』

「あ、そうね。ゴメンなさい、読書の邪魔しちゃって」

『いや、用があるなら構わないよ。じゃあ、そういうことで』

 

言い終わるや、凛勇は本に目を落とした。

表紙には英語で”The Racketeering”の文字。意味は分からなかったが、

──また難しそうな本読んでる。

そう思いながら席を立つ。

 

「じゃあ、また」

『ん、また』

 

凛勇は本から目を上げることなく、右手を振った。

 

 

◆  ◇  ◆  ◇

 

 

少女の背が図書室の戸の向こう側に消えるのを確認して、顔を上げる。

 

『・・・子供の成長は怖いね』

 

良く言われる言葉だがこうしてみると良く分かる。特に、女子のそれは男子の比ではない。彼女達のメンタル面の成長速度と来たら・・・目を見張るほどだ。まぁ、急激に成長するからこそ大人からすると危うく見えたりもするわけだが・・・・、彼女は昨日の事件を上手いこと自分の中で消化したようだ。

 

あれほど怖がっていたと言うのに・・・立派なものだ。

 

ヒーローへの憧れが、彼女を奮い立たせたのだろうか?

あんな目にあってまでなお憧れを抱けるような職業だとは到底思えないのだが・・・それを言うのは無粋というものか。

幼い頃であれば、──まだヒーロー玩具を片手にゴッコ遊びに興じていた頃の俺ならば理解できたのかもしれないが、今の俺では百度生まれ変わったところで彼女達の想いに共感することは出来ない。

 

だが、それが善いものであることは分かる。

ならば、ひとまずはそれで良しとしよう。

彼女への返礼は・・・ひとまず運動会の活躍で返すとしようか。

 

『しかし、クッキーか』

 

貰った包みを透視してみれば、チョコレートクッキーと思しきものが入っている。見るからに上等なものだ。

少なくとも、スーパーで売っている類のものではない。

 

だが、・・・困ったな。

 

『甘いの、苦手なんだよな』

 

委員長とそのお母さまには悪いのだが、どちらかと言うと甘いお菓子は苦手な俺だった。

 





名前:キャプテン・セレブリティ
個性:《飛行》
デビュー以来10年間、全米ビルボードチャートトップ10ランクインという超々実力派ヒーロー。《飛行》と言いつつ、実態は空も飛べる『窒素装甲』みたいな個性なので、豪華客船を片手で持ちあげる超パワーと、ヴィランの攻撃を完全にシャットアウトするタフネスを有する。一応弱点はあるがこの時点では誰かに弱点を突かれた試しがないので、凛勇目線ではまず勝ち目のない超格上。米国ヒーロー界のスキャンダル王であり、世間の評価はすこぶる悪い。だが、そんな状態でもトップ10に入ってるあたり、実力だけなら米国でも5指に入るヒーローなんじゃないですかね?


甘いものは苦手な陰謀論者R
米国トップヒーローが突如来日?そんなの裏があるに決まってんだろ馬鹿野郎!という本人的には至極正当な理由で警戒心を尖らせている。なお、真実は「CCが抱えてる訴訟が多すぎて米国に居ずらいから」とかいう超しょうもない理由なので、傍から見る限りただの陰謀論者。
多分訴訟嵩みすぎて人間不信になりかけたCCを慮って・・・みたいなやり取りが米国ではあったのでしょう。政府的にはアメリカ嫌いになって完全に出て行かれる方が困るでしょうし。
CCの来日を受け、世界的な麻薬カルテルの存在を警戒して勉強中。

委員長
凛勇の知らないところで勝手に成長中。
本当はこの子の閑話を入れようとしていたけど、女子の心理描写って難くない?となった結果筆者の一週間は無に帰しました。
良い子過ぎる気もしましたが、いい子過ぎるくらいじゃないと凛勇君が仲良くする訳ないので致し方なし。


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