たとえ勇者に非ずとも   作:そば茶

2 / 16

一話目から結構時間が空いた割に話も進んでいないけど、見切り発進なので許せ。

次回は家から出したい。(予定)



第一話 現状

「あなた、わたしのところにこない?」

 

そう言って、彼女は手を差し出した。

 

期待していなかったといえば噓になる。

 

前世と比べて、この世界では圧倒的に孤児が多い。

貧困や天涯孤独。

理由の本質は前世とそう変わりないが、やはり個性に由来するものは違って見える。

 

突然変異、手に余る危険な個性、あるいは異形。

この世界では、それが親が子を捨てる動機となる。

 

異形差別、異能差別。

超常黎明から一世紀あまり、混沌とした当時の状況と比べれば大きく減退したもののその思想は未だ息づいている。

そもそも、社会というフォーマット自体が人間というカタチに合わせてできているのだ。

想定から大きく外れるものは、どうしたって振り落とされる。

超人社会となったことで、その定義は大きく緩和されても、変化がそれを越えてしまっている。

 

全身獣型の俺も、セーフかアウトかの二択ならアウトだろう。

手の構造上人間が使う道具の多くが使用できないし、人型とは言え骨格構造は異なるので多くの点で制限を受ける。

将来のことを考えれば、全身に毛が生えている以上、食品や医療など衛生管理が求められる場に携わることはほぼ不可能。

 

簡単に言ってしまえば、ハンディキャップがある。

無論、世の中には俺と似たレベルの異形で普通に暮らしている者も多いが、それでも明らかな傾向というものはある。

里親には、シンプルな人型が好まれる。

 

それが現実であり、それは同窓生達の顔を見れば明白だ。

完全異形である俺は、火中の栗だ。

 

誰も拾わない。

 

故に、期待はしても、正直ないと思っていた。

だが、そんな火中の栗を拾う奇特な人物がいた。

 

《狼》の個性を持つ、音のない女性。

大神美月と名乗った彼女は

 

「わたしもおおかみなのよ」

 

自分の頭部の耳を指さしながら

 

「おんなじね」

 

不思議なイントネーションでそう言った。

 

その日から、俺は大神凛勇となった。

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆

 

 

僕のヒーローアカデミア

 

かつてアニメという形で見ていたその世界は、緑谷出久という少年を中心とした非常に狭い視点で語られたものだった。

当時から、よく社会が回っているものだと思っていたものだが、その中で生きてみれば分かる。

 

この社会は、回ってなどいない。

致命的な破綻を、どうにかこうにか引き延ばしているだけだ。

 

分かりやすい歪みのカタチが、ヴィランだ。

 

作品を見て、不思議に思わなかっただろうか。

何故、そうも簡単に犯罪者が生まれてしまうのか?

 

ヴィランなどとポップな呼び名をしているから誤魔化されがちだが、彼らは明確な犯罪者だ。

 

誰もがそう思うだろうが、悪いことをするのは勇気がいる。

 

バレなきゃ犯罪じゃない。

赤信号、皆で渡れば怖くない。

〇〇だから仕方なかった。

 

普通はそういう言い訳がないと、人は罪を犯せない。

だが、ヴィラン達はこの世に法と言う名の秩序があると知りながら、引かれた一線を容易に踏み越えていく。

 

テレビでは、オールマイトという圧倒的ヒーローの存在により、日本は先進国でもダントツの、世界的に見ても優秀な治安誇っていると盛大にほめそやす。

 

違うだろう。

 

見るべきは減った方じゃない。

オールマイトという絶対に勝ち目のない抑止力が現れたのに、まだ止まらない奴らの方だ。

 

彼らには何が見えているのだろうか。

オールマイトに歯向かってまでする行為の果てに、彼らは一体何を得るのか。

 

AFOの場合は、魔王として世界に君臨することだった。

オールマイトは、彼にとって脅威ではあったが、決して打倒できない壁ではなく、それ故に夢をあきらめる理由にはなり得なかった。

 

死柄木弔はどうだろうか?

彼は全てを壊すと言った。

彼にとってはオールマイトを殺すこと自体が一つの目標で、オールマイトの強さなど問題ではなかった。

ただ、そうすると決めていて、リスクなど眼中になかった。

 

彼らは、心の天秤にオールマイトという極大の重りを乗せてもなお、自分の目的を肯定することができた。

他の者たちも、そうなのだろうか?

 

絶対に負けると分かっている相手が敵でも、それでもなお秩序に挑むだけの価値を彼らは見出していたのだろうか?

 

 

・・・考えすぎだという自覚はある。

 

誰もが、考えて行動するわけじゃない。

この世の中には想像もつかないような愚かな真似をする人間などいくらでもいる。

単に見積もりが甘いだけだ、と。

 

だが、それでも確かにいるのだ。

力では抑止できない本物のヴィランという奴が。

 

彼ら自身がそう意識しているかはともかく、彼らはその生き様でありありと浮かび上がらせる。

社会の歪みを。

 

彼らは革命家だ。

AFOは言わずもがな、デストロ、張間歐児。

超常黎明期に名をはせた伝説的なヴィラン達、その全てが社会に問いを投げかける。

 

何故、彼らはヴィランとなったのか。

彼らが一定の支持を集めているのは、それだけ社会がため込んでいる不満が大きく、共感を集めているということだ。

 

ため込まれた不満は、何時か必ず爆発する。

 

AFOがそうさせる。

きっとその時、この国は平和ではいられないだろう。

 

そうなったとき、俺はどうすべきか。

 

そうなると知っている俺は、どうすべきか。

 

俺にどうにか出来るのか。

 

俺はどうしたいのか。

 

俺は・・・

 

俺は、

 

俺は

 

「りお君、ごはんよ」

 

深く沈みこんだ思考は、その声で引き戻される。

ふりかえれば、台所から美月が鍋を運ぼうとしていた。

 

『俺が運ぶよ』

「そう?ありがと」

 

調べものをしていたPCを閉じ、席を立つ。

 

「何か、かんがえごと?」

『え?』

「こわい顔してたよ」

『よく言われる』

 

よく見ている、と思う。

自分の顔なのに、俺はあまり表情が分からないというのに。

 

つい先ほど、PCで定期の情報収集を行っていたら、待ち望んでいた情報がヒットした。

待ち望んでいた、といってもあまりポジティブな感情ではない。

あまり当たってほしくない俺の推測が正しいかどうかを図る指標程度のものだ。

 

ずばり、俺は何時頃生まれたのか。

 

物語のある世界に生まれたのであれば、当然気になるポイントだろう。

だから、俺は動けるようになってからというもの、その指標となるイベントをずっと探していた。

 

現作開始前であるということは、過去の記事や雄英体育祭を見て居れば分かる。

だが、アニメ勢であり、原作を読み込んでいるわけでもない俺に、原作開始前の時期を特定できる情報は少ない。

 

オールマイトの在学時期や、その師匠、グラントリノのことは調べられても、じゃあそれが原作開始の何年前なのかを推測するのに役立つかといえば、年表を見たわけでもない俺にとっては全く意味のない情報だった。

 

ただ、俺にも一つだけ当てがあった。

かなり独特なワードだったからだろう、見たのは転生の数年前の一度きりだが、なんとか思い出すことができた。

 

――毒々チェーンソー

 

それは、オールマイトが自身の衰えた現状を主人公である緑谷出久に明かした際、その犯人として緑谷出久が推測したヴィランの名前。

結局、そいつはオールマイトの腹の傷とは全く無関係——オールマイトに言わせればあの程度のチンピラにはやられないーーだったわけだが、コイツの存在は原作開始時期を絞り込める数少ないチャンスだった。

 

そのシーンにおいて、オールマイトは腹の傷を五年前に負ったものだと語っている。

そして、五年前という言葉を受けて極度のオールマイトオタクである緑谷出久が口にしたのが、毒々チェーンソー。

 

つまり、毒々チェーンソー事件が発生すれば、それは必然原作開始の五年前ということになる。

 

そして、つい先ほどその名が検索に引っ掛かった。

大手のニュースサイトなどではない、全国のオールマイトファン達がその日オールマイトの目撃情報をシェアする【今日のオールマイト】というスレッドだ。

その中で、今日戦ったヴィランに付けられる名前の候補の一つに、毒々チェーンソーの名が挙がった。

まだ候補の段階だが、遠からず固定化されるだろう。

 

そして、数か月か下手をすれば数週間以内にオールマイトの活動が一時休止する。

AFOとの闘いのためだ。

AFOとの戦いで重症を負った彼は、確実に活動を休止する。

覚えているシーンから推測するに、かなり無理をして早期に活動を再開したようだが、腹に穴が開いているのだ。

リカバリーガールの治癒があっても二日か三日。

その程度は固い。

日に数件は必ず事件を解決するオールマイトの活動が停滞すれば嫌でも分かる。

 

そうなれば、もう疑いようもなく確定だ。

この世界は原作の流れをなぞっていて、現在は開始五年前だと。

 

そして、俺は現在小学4年生。

五年後は中3。

まぁ、なんとなくそうだろうとは思っていたが、ばっちり原作組と同学年。

 

怖い顔にもなろうというものだ。

 

ただ、そんな不安も彼女が知る必要もない。

 

『今日のメニューは何ですか?』

「きょうはね、お隣さんにじゃがいももらったから、にくじゃがにしたの」

 

たとえ、苦難が先に待っていようと、それを不安に生きる必要などない。

元より、彼女には関係のないことだ。

 

「おいしいわよ」

『へぇ、それは楽しみです』

 

悩むのは、俺だけで良い。

 

それが、数年後には壊れてしまうかもしれないとしても、今は。

 

今が平穏であるのなら、それで。

 





大神美月(37)
凛勇の保護者(里親)。個性は《狼》。普段は耳や尻尾がある程度だが、気合を入れると獣度が増す。
先天的な感音性難聴であり、音が聞こえない。
凛勇を引き取ったのは、個性がちょっと似ていて親近感がわいたのと、テレパシーで自分と会話できる子だったから。という設定。
凛勇のことは「りお」、もしくは「りお君」と呼ぶ。


悩むのは俺だけでいい系主人公
現作はアニメまでだが、ネット情報で何となく先を知っているので慢性的に憂鬱顔怖いマン。
そうでなくても、旧人類目線で超人社会をみると、危うい場所が目につきすぎて、原作なくてもあと百年もたないだろ、とか思いながら黄昏てる。
美月は恩人なので、出来るだけ幸せでいて欲しいなーと思っている。
本棚に個性終末論が置いてあるのは内緒。

原作開始時期。
一応原作は読み返したが、計算あってますよね?
試験時期的に中3のはずのかっちゃんが漫画だと14歳って書いてあるせいでめっちゃくちゃ悩まされたが、多分4月の初旬だったんでしょう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。