たとえ勇者に非ずとも   作:そば茶

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第二話 強くなるために

凛勇は緊張した面持ちで対峙する男を見た。

鮮血で染め上げたような深紅の武道着を身にまとう長身の男。

凛勇を挑発するようにうっすらと笑みを浮かべ、半身の構えを取っている。

 

男の動きを先読みしようと波導を働かせるも、男は血流や筋肉の力みを変化させることで、自らの行動を読ませまいとする。

個性すらも利用した偽装工作は、実に的確に凛勇の強みを潰していた。

 

自らのアドバンテージが失われた事実に苛立ちともつかない不快感を覚えるも、元より筋肉ではなく体液の流動によって身体を駆動させることを得意とする男の個性に対して波導による先読みは通用しづらい。

先読みに対する対応を強要することで相手の消耗を誘えている――その事実こそが十分なアドバンテージであると思考を切り替える。

だが、その程度のアドバンテージでは踏み出すにはまだ足りない。

故に、更に引き離す。

 

全身を強化している波導の制御をあえて緩め、体外に漏出させる。

その気配を感じ取ったのか、男の眉が興味深いとばかりにピクリと跳ねた。

 

「(もう反応するか)」

 

凡人であれば、なんとなく雰囲気が変わったと気づけるかどうかという程度、わずかな波導からおそらくこちらの次の動きすら読んでのける男の勘の鋭さに舌を巻く。

 

だが、それでこそ、である。

 

漏出させた波導を、操作していく。

気配の変化に、スゥっと男の目が細められる。

 

波導は万物が有する固有の振動であるとされる。

それがどの程度本当かは使い手である凛勇をして不明であるが、あるラインを越えた波導は使い手でないものにも気配として感知される。

そして、その気配とは波導を放つ本人のものに他ならない。

波導使いでないものが放つ波導は、ただ己の意思や状態を垂れ流すだけのものだ。

それは、波導使いにとってもそうか?

 

否である。

波導の支配者たる波導使いは、当然己の波導を制御することでそれらの反応を自在に隠すことができる。

反対に、意図を誤認させることもまた自在。

 

ワザへと昇華されることなく、凛勇と同じ気配を備えた波導を、意図して放出する。

右へ攻めるのか、左へ攻めるのか、あるいは引くか、守りに入るか。

はたまた思い切って突撃するのか。

そういう意図を、相手に()()()()

 

波導を通してワザとらしく伝えられる気配を無視しようと、思考による純粋な予測に集中しようとする男に対し、波導の放出量を上げることで凛勇は更なら妨害を試みる。

テレパシーにもにた思考への割り込みは、男を少しだけ苛立たせたようだった。

 

「(・・・これならいける、か)」

 

予想以上の成果に驚きつつ、読みあいにおいて半ば勝利を勝ち取ったと判断した凛勇は構えを大きく変える。

 

半身から、クラウチングスタートにも似た突撃の姿勢へ。

「今から走って突っ込みます」と言わんばかりの露骨な構え。

もはや気配による欺瞞などとは無関係に、そう動くほかない。

 

カウンターを打って下さいと言わんばかりの態度。

故にその意図も明白。

 

読まれても問題ない。

 

力か速さか、はたまた小細工か。

凛勇の動きを警戒した男はここにきてようやく動きをみせ、ゆっくりと半歩後退。

消極的な後退ではない、半歩の余裕で対応しきるという自信の現れ。

 

それを読み取ったからこそ、凛勇もまた必ず破ると気合を入れる。

 

全身から漏出する波導を徐々に高めつつ、その中で体内の波導を手足に充填していく。

狙いは当然、最速最短の直進からの一撃必殺。

相手がそれを読んでいる以上、その予想を超える一手を打つ。

 

高まる波導により、部屋全体を飲み込む。

それに応えるように、男の闘気もまた膨れ上がる。

やがて互いの気が臨界を迎え、いざ突撃。

 

瞬間、凛勇の波導が消える。

 

「お?」

 

気配をばら撒くだけばら撒いた後の、隠形。

その落差により一瞬生まれた思考の空白を突くように、凛勇は疾走し男の懐に潜り込む。

 

「ルァアア!!」

 

高速移動による慣性はそのままに、脚力に回していた波導を腕に放つ【きあいパンチ】。

男の目は、凛勇を完全に見失っている。

 

「(決まる!)」

 

勝利への確信。

だが、見えないということは、対応できないということを意味しない。

 

「しゃらくさい!!」

 

男の胸部が、突如として二倍ほどに肥大化する。

血液の充填による肥大化と硬化。

打点をずらされたことで【きあいパンチ】は十全の威力を発揮せず、男をやや後方に押しつつもはじき返される。

 

「(まじかよ!)」

 

はじき返されたことで拳は宙を舞い、上体はがら空きとなる。

男の視線が、凛勇を捉えた。

 

胸部から、左腕へ血液が流動する。

まるでふきもどしのように、血液を吹き込まれた腕は折りたたまれた状態から瞬時に伸びあがる。

高速の貫手。

血液により膨らんだ腕は、10cmばかりその間合いを伸ばしている。

 

至近距離の格闘戦において、致命的ともいえる間合いの変化。

 

だが、凛勇もただやられるばかりではない。

腕に血が送られ始めた時点で踏み込みすぎたと察した凛勇は、壁に張り付く要領で足を地面に吸着させると、人外の筋力で強引に沈み込み、貫手を回避してみせる。

 

「(っぶね)」

「ほう」

 

自然落下より早くはしゃがめない。

そんな物理の法則を捻じ曲げる回避を見せた凛勇に、感嘆の声を送りつつ男は左腕に集中した血液を引っ込め、右足へと集中する。

 

「ルゥア!」

 

そこへ叩きつけられる凛勇の足払い。

常人なら骨がへし折れるほどの力が込められたそれは、しかし、血液の集中により重量と硬度を増した男の足に泰然と受け止められる。

 

一瞬、止まる両者の動き。

先に動いたのは男の方。

後方の右脚を瞬時に胴へと引きつけるように折りたたむと、先の拳打同様血圧を利用して高速で展開することにより高速の前蹴りを放つ。

足先のみで蹴るようなやや不格好な動きだが、しかし多量の血液で肥大化した足はハンマーの如き破壊力を誇る。

 

当然それを食らう訳にはいかない凛勇は、足払いのために地面につけていた腕を起点として【しんそく】を放ち、自身を宙へと打ち上げる。

男は凛勇を視界から外してしまったばかりか、振り上げた足の先端に重量を集中させすぎたためにバランスを崩している。

 

上空からそれを確認した凛勇は、追撃を仕掛ける。

背から波導を放出し、それを推進力とする。

右足を突き出し、急降下する様はさながらライダーキック。

 

『貰った!』

 

再び勝利への確信。

男の右足は上がりきっており、それに引っ張られる形で左足の踏ん張りは効いていない。

回避も迎撃もできない状態で、脳天に向け体重を乗せた蹴り。

普通なら、この状態から巻き返しなど図りようもない。

 

が、生憎と男は超人である。

 

「甘えェ!」

 

つま先の僅かな力で跳ねあがると、突きあげた右足に残る慣性を支えに空中で膝を畳む。

まるで、右足に引き寄せられるようにして、男の体が宙へと浮き上がる。

 

『んなアホな!?』

 

頭部を捉えるはずだった足が、そのすぐ横をすり抜ける。

体液の流動によって自在に重心を設定できる男だからこそ可能な疑似空中機動。

重力を無視した動きに自分を棚に置いて驚く凛勇は、しかしその感知能力故に男が獰猛に笑ったのを捉えた。

 

「(――やられた!)」

 

そう悟ったときには既に手遅れ。

回避と落下の際に使った【しんそく】により、既に空中機動が出来るだけの波導の充填が間に合わない。

地面に足が付くかつかないかのタイミングで、男の足を右から左へ移動する血液。

 

『ーーッ!』

 

高速展開された左のオーバヘッドキックが、凛勇の頭部を捉えた。

 

 

◆  ◇  ◆  ◇

 

 

毒々チェーンソー事件の発生から早いもので一年。

俺は小学5年生となっていた。

 

俺の推測通り、あの後ほとんど間を置くことなくオールマイトの活動が停止した。

流石は重度のオールマイトファン、緑谷出久の言葉はアテになる。

 

活動停止自体は3日、俺が観測した範囲では60時間程度ではあったが、普段のオールマイトは年中無休、昼夜を問わず日本中飛び回り事件を解決している人なので、この空白はかなり目立つ。

掲示板では病気療養だの、バカンスだのと考察祭りになっていたが、全てを知っている俺は「腹に穴の開いた人間の復活にしちゃ早すぎん?」と少し引いていた。

そのあと、依然と変わらぬ笑顔で飛び回る動画をみてドン引きした。

 

まぁ、そんなオールマイト凄過ぎエピソードはさておき、現状が原作をなぞっていると俺は判断した。

 

一応オールマイトがAFOを殺してくれている可能性もなくはないが、それで対策をやめて違ったときが困る。

そもそも、手下のドクターが健在な以上AFOは個性のオリジナルなり複製なりを適当な器に移植して復活してくる公算が高いので、大して変わらない可能性が高い。

雄英高校へのチョッカイは減るかもしれないが、表に出てこなかった分、陰で力を蓄えられたらそれこそ面倒だ。

ハイエンド一体にNo1━━今はNo2だが━━が満身創痍だったのに、あんなのを何体も揃えられたらそれこそどうしようもなくなる。

 

生きててもらった方がありがたいとか、どうかしてるぜ。

 

そんなわけで、俺の修行へのモチベーションも落ちることなく、むしろ原作開始の接近にともない益々強くなっているわけだが、いいかげん我が家の地下室に籠っての修練にも限界を感じ始めていたので、思い切ってプロの指導を仰ぐことにした。

ちょうど、近所に事務所を開いたヒーローが護身術の生徒を募集していたので、渋る美月を一生のお願いという切り札で説き伏せ、応募した。

 

大神凛勇、初めての弟子入りである。

 

因みに、この世界でヒーローが護身術を指導するというのはそれほど珍しいことではない。

 

日本は公共の場での個性使用が禁止されており、ヴィランとの会敵時においても逃走が強く推奨されてはいるものの、俺自身がそうであるように、自衛力を身に着けたいという市民の需要は結構大きい。

大概は護身グッズなんかがそれを満たしているのだが、戦う術を身に着けたいと希望する層も一定数存在する。

 

本来であれば、空手や柔道といった旧時代から続く格闘技達がその需要に応えてくれるはずなのだが、超常により旧時代のスポーツは軒並み大きく衰退している。

一応道場の類は残っているし、スポーツとしても一定の地位を占め続けてはいるのだが、個性により個々人の身体能力が桁違いに大きくなったことで、従来の多対一の指導は非効率かつ危険なものと見なされるようになり、現代では一対一のマンツーマン指導が主流となった。

業界の縮小に伴い指導者が不足するなか、マンツーマン指導をしようとすれば当然受け入れられる数は少なくなる。

習おうと思えばびっくりするくらいの金が要る。

 

そんなお高くなってしまった格闘業界の隙間を埋める形で発展したのがヒーローによる護身術指導だ。

こちらも相当お高いのだが、個性のプロフェッショナルであるヒーローは、戦い方を教える指導者としても、生徒の危険な行動を抑止する監督者としても適格であり、ヒーローを目指す子供の多い現代においては、幼少期からヒーローに触れることが出来る場と考えられている。

加えて、ヒーローの特殊な位置づけがそれを後押しする。

 

ヒーローはヒーロー公安委員会に認められたれっきとした公務員ではあるのだが、その法的位置づけは少々特殊で、固定の給金はなく、収入は完全出来高制で副業が認められている。

この出来高制というのがネックで、ヒーロー飽和社会とも言われる現代においてヴィラン退治の報酬は殆ど取り合いに近い。

そのため、ヒーロー稼業のみで食っていけるだけの収入を得ているのは、全体の3割程度だと言われている。

残りの七割は実家が太かったり、副業や地域のイベントなどの報酬で食っているのが現実だ。

 

そんなわけで、大半のヒーローはなんらかの副業で稼ぎを得ているのだが、その副業としてよく選ばれるのが護身術の指導者なのだ。

特に新しく技能を身に着ける必要もなく、自分の都合で働くことが出来、事務所と道場を一体にしてしまえば自分の鍛錬スペースを割安で確保・維持することもできる。

また、市民との密なコミュニケーションの場となるため、自身の岩盤支持層の獲得にもつながる。

 

とまぁ、一石二鳥にも三鳥にもなる仕事なのだ。

実際、俺の住んでいる地域でも調べれはあと二・三個似たような道場が見つかる。

 

ただ、経緯が経緯なだけあって、ぶっちゃけ護身術を指導するヒーローのレベルは低い。

なにせ本業で稼げるぐらい強い奴は副業をやる必要がない。

流石に一般人よりは強いが。

 

じゃあ指導を受ける意味ない、とかつては俺も思ったものだが何事にも例外と言う奴はある。

副業は、必要に迫られてやる奴もいれば、好きでやる奴もいる。

 

俺が門を叩いたのも、そういうヒーローの事務所だった。

 

 

『痛いです、先生』

 

後頭部が、物凄く痛い。

思いっきり蹴りすぎだろうと抗議の視線を向ければ、赤服の男はカラカラと活快に笑って見せた。

 

「痛いで済ませてやったのだ。避けれん方が悪い」

 

血闘ヒーロー、エクスパンド。

体液を自在に流動させ、肉体を膨張・硬化させる個性《怒張》の使い手にして、真紅に染まったケバい拳法家のようなコスチュームがトレードマークの自称:戦いに生きる男だ。

 

『あんな変態機動の避け方は習っていないのですが・・・』

「む?それもそうだな・・・こりゃ指導者として怠慢か?アッハッハッハ」

 

技のタネは分かっている。

浮いた右脚が落ちるより早く、体を持ち上げただけ。

 

脚が沈むより先に次の足を出せば宙を走れる。

 

そんなバカの理屈を実際にやってのけたのだ。

個性による慣性と重心の制御あってギリギリ成立、というレベルの曲芸じみた空中機動。

まさかそれを訓練とはいえ戦いの中で実際にやって見せるとは。

胆力というか、自身の技術への自信が凄い。

 

「だが大神よ、お前もなかなか妙な動きをしてただろう。一気に沈む奴、アレは良かったぞ。うん」

『どうも』

 

沈む奴、というと貫手を回避するためにやったあれか。

やってることは生まれつき出来たレベルのワザとも言えないなにかなのだが。

 

「超人社会といっても、人の頭は旧時代とさして変わっちゃいねぇ。どう頑張っても常識で物の動きってもんを予測しちまう。だからこそ、常識を外れた動きができるってのはそれだけで武器になる」

『先生の奴みたいに、ですか』

「そう、俺みたいにだ」

 

別にそういう意図があった行動ではないのだが、言われてみればそうかもしれない。

アニメなんかでは咄嗟の不意打ちをしゃがんで避ける、なんてシーンが割とあるものだが、アレは現実にはちょっと難しい。

 

なぜなら、人間の足が地面から生えているのではない以上、どれだけイカレタ筋力があろうと体を下に引っ張ることはできないからだ。

仮に音速で走れる人間だろうと、猛スピードでしゃがんだら慣性で足が浮く。

自然落下以上の速度でしゃがもうと思ったら、重力を増やすとか、頭上の大気を殴りつけるとかそういう工夫が必要になる。

俺の場合は、地面に張り付くことでその課題を解消した。

 

だから、恐らく首のあたりを狙っただろう先生の貫手は空降ったわけだ。

 

「あれなら、間合いに飛び込むと見せかけて急停止するとか、そういうのも出来るだろう」

『ああ・・・それは有用そうですね』

 

あれには予備動作がない。

走りよると見せかけて急停止、というのはカウンター狙いのガン待ち野郎とかには有効そうだ。

走り寄る姿勢のままビタッととまることになるので、ヴィジュアル的にはなかなかシュールだが・・・逆に後退すると見せかけて、というのもありかもしれない。

・・・難しいか?

 

「しかし、最初のアレはダメダメだな。ちょっとはビックリしたがそんだけだ」

『一番自信あったんですが、そんなにダメでしたか?』

「ああ、ダメだね」

 

気配で威圧し、俺の存在を印象付けるだけ印象付けてからの隠形。

気配のギャップにより一瞬相手に俺を見失わせる、という我ながらナイスなアイデアだと思ったのだが。

 

「コンセプトは悪くねぇ。が、お前の力量が足りなさすぎる」

『力量、ですか』

「隠形のせいで力の練りが足りてねぇんだろ。移動が遅ぇし、パンチも弱ぇ。不意打ちでぶっ飛ばすのが目的なのに、肝心の一発が弱けりゃ話になんねぇだろ?俺が防げる一撃じゃ、タフな異形型には通じねぇぞ」

『なるほど』

 

言われてみればそうだ。

気配を消すために波導の行使を抑える都合上、隠形中は利用できる波導が極端に制限される。

その不足を補うため、事前に波導をため込んでいたわけだが、それでもあの移動も決めの【きあいパンチ】も俺の全力には程遠い。

対ヴィランを想定した時、最も会敵する可能性が高いのはやはり異形型だ。

先生も大概タフなほうではあるが、異形型のタフさは不意を討とうが変わらない。

異常型に通じないのであれば、決定力不足という誹りも致し方ない。

現状、隠形を維持したまま多くの波導を練るという矛盾した操作ができるほど俺は波導使いとして習熟していない。

力量不足とはそういうことだろう。

 

「あとは失敗した後のリカバリーな。今回はうまく回避したが、敵の懐で棒立ちなんざ最悪もいいとこだ。神速だったか?最低でもあれが出来るくらいの余裕は残しとけ」

『・・はい』

 

自慢の策だったのだが、思った以上にボロクソ言われた。

まぁ、実際初見殺しの技なのに、初見で対処されてる時点で言い訳のしようもないが。

波導の操作とか、駆け引きの部分も含めてレベルアップが必須だな。

 

「まぁ、何度も言うがコンセプトは悪くねぇ。初見殺しに近いが、わかってもひっかかる奴は多いだろう。お前の力量が追いついて、動きのバリエーションが付けば十分強ぇ技になる」

『はい』

「今のお前ならいっそ気配は隠さずにそのまま突っ込んだ方がマシだな」

『それだと動きが読まれませんか』

「予測の邪魔なら、最初にやってた奴があるだろうが」

『・・・む』

 

気配を隠すのではなく、気配をばら撒いて、こちらの動きを欺瞞し接近する。

いや、接近するだけでなくデコイとしてもいいだろう。

多少波導を食うが、隠形よりははるかに扱える波導の余裕が大きいし、なにより俺は手札が多い。

嘘を、時に真実を相手の脳に吹き込み、常に複数の選択肢への対処を強いることができれば、・・・なるほど、これは鬱陶しい。

 

『流石です、先生』

「フ、よせやい」

 

芝居がかった仕草で流しているが、実際凄い。

入門時に個性については一通り伝えているとはいえ、一度体験しただけでここまで的確な指導をしてのけるとは、・・・これが才能と言う奴か。

所詮はパンピーの俺とはわけが違う。

伊達に戦いに生きる男を自称してはいない。

 

というか、正直ここまであっさり負けるのは予想外だった。

普段の組み手で力量が高いのは察していたが、個性ありなら俺の方が上だと思っていた。

部屋を壊さないために【はどうだん】や【はっけい】といった破壊力の高い技を制限するという条件下ではあったが、制限があったのは先生も同じ。

 

この条件なら、速度でまさる俺が機動力で削り勝ちすると思っていた。

敗因は、未検証の技をブッコんだとか勝利を急ぎすぎたとか色々あるが、予想以上に先生が強かった。これに尽きる。

 

『やっぱ強いですね、先生』

「ッたりめーよ。誰に向かっていってやがる」

『そうですよね』

 

スペックに甘えて、少しプロというものを舐めすぎていた。

まぁ、ここまで格闘に入れ込んでる人はプロでも少なかろうが。

何せ、この人は拳と拳のぶつかり合う戦いが三度の飯より好きというマスキュラーや乱波の親戚みたいな人だ。

アイツラと違って趣味より良識を優先できるまともな倫理観が備わっているが・・・。

ヒーローにはまま居るタイプだ。

 

「次はどうするよ?余裕あるなら、もう一回やってもいいが?」

『いえ、基礎訓練でお願いします。リベンジはもう少し技を盗んでからで』

「盗むと来たか、生意気な奴め。いいぞ、なら基礎訓練だな」

 

だが、言い訳にはならない。

 

戦いに生き、戦いに死ぬ。

先生はそういう生き物で、そう生きることが出来るだけの力と技がある。

 

だが、この人でさえ、この世界では頂点には程遠い。

上澄みではあっても、敵はそれを掬い取り貪る超越者なのだ。

俺は、この人を簡単に倒せるくらい強くなる必要がある。

 

「今日はあれだ。震脚を教えてやろう」

『なんですかそれは?』

「踏み込みの力をな、こう拳の方にだな―――」

 

敗北は死だ。

俺は死にたくない。

だから負けられない。

負けないために、強くなる。

 

そのあとは、二時間ほど震脚と組手を行った。

衰退したとはいえ、数千年研鑽され続けてきた武術から学べることは多い。

原作の進行度からして、ヒーロー社会の崩壊(カタストロフ)までは概ね五年。

なんとしても、それまでに俺は俺を完成させて見せる。

 





血闘ヒーロー:エクスパンド
本名:潤身 張児(うるみちょうじ)
個性:《怒張》
オリキャラ。戦いをこよなく愛するバトルジャンキー。折角ヒーローになったのに出会うのはチンピラに毛が生えた程度のヴィランばかりで満足できず、数うちゃ当たると都会に出てきた。しかしこのヒーロー飽和社会にのんびり戦う時間などあるはずもなく、しゃーなし有望そうな若者を囲って育てよう、と思い至り道場を開設した。種まきと割り切って腰を据えたところに、ハンデありとはいえ自分とまともに殴り合える優秀な門下生が登場しホクホクしている。だから個性ありの組手もしちゃう。
《怒張》の個性は通常時は自身の体液のみを用いるが、必要に応じて水分等を接種することで、全身を巨大化・硬化することが出来る。
シンプルな強化系でもよかったが、それだと得られる学びが少ないのでトリッキーな使い方ができる個性にしました。

ヒーローの金銭事情
勝手な妄想ですが、地下アイドルみたいなもんなんだろうなーと思っています。トップ層はウハウハで、底辺層は実家が太いかバイト兼ねる――みたいな。
夢の舞台は世知辛いのです。

【きあいパンチ】
波導を込め、強化したパンチを放つワザ。それ以上でもそれ以下でもない。
バレットパンチとかグロウパンチのほうがルカリオっぽい気はしますが、気合パンチの方が波導感あるかな、と。
この三種が具体的にどう違うワザなのかがいまいちわからない。

【しんそく】
波導を推進力として放出し、高速移動を行うワザ。
予備動作無しの加速や空中機動が可能で便利ため、咄嗟に使えるくらいに凛勇も習熟している。
筆者の記憶の中にアニポケの描写が無かったので、スマブラベース。




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