たとえ勇者に非ずとも   作:そば茶

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最近PCが怪しい挙動を示していてヤバい。



第三話 くだらない世界

 

先生との組手から数日。

休日の昼下がり、良い天気にも関わらず俺は今日も今日とて地下室に籠り、鍛錬に励んでいた。

 

今日のメニューはサンドバッグ打ちだ。

硬球を使ったボール遊びと違って運動負荷は低いが、その分時間をかけて自分の動きを確かめることが出来る。

先日習った震脚の復習にはピッタリだ。

 

震脚と聞くとなんか凄い足技みたいな感じがするが、実際には歩法の一種である。

解釈は色々あるだろうが、ざっくり言えば踏み込みの力とか体が沈み込む際の慣性とか、そういったもろもろの力を上手いこと拳打に乗っける技術だ。

八極拳あたりの技らしいが、何となくルカリオにも相性が良さそうだ。

波導ってなんか気功とかに似てるし。

 

とまぁ、冗談は置いといて。

実際、そこそこ有用な技術ではある。

 

ルカリオといえばなにかと【はどうだん】をぶっ放しているイメージが強いが、それだけで戦えるほど話は簡単ではない。

アレは基本的に溜めが必要な技なのだ。

事前に波導をチャージしておけば一息に二連射くらいまではなんとかなるが、そんな余裕があるのは戦い始めぐらいだろう。

戦闘に入ってしまえば、身体強化や中心とした近接戦を行いつつ、隙を作って撃つ、というカタチを取らざるを得ない。

 

だが、近接ワザである【はっけい】や【きあいパンチ】も威力相応の波導を消耗するし、身体強化とてタダではない。

波導は、俺の戦いを支える重要なリソースだ。

恒常的な火力を維持するために波導を消費し続けた結果突破力の高い大技を使えなくなるようでは、チンピラはともかく真の強者には勝てない。

 

その点、こういった古来からある技術は波導的にエコだ。

その仕組み上、速さでかき回す俺のスタイルとそこまでかみ合っているかと言われると微妙ではあるのだが・・・できないから使わないのと、使うタイミングじゃないから使わないのとでは訳が違う。

覚えていれば、活かせるタイミングもいずれ出てこようというもの。

それに、震脚自体は使えずとも、この技術を通して学んだ感覚や理念は他の技術の習得に有利に働くはずだ。多分。

 

そんなわけで、先生のアドバイスを思い出しつつ、練習に励む。

 

パンっと音が鳴るほどに強く踏み込み、足裏から伝わる力を拳へと導く。

力は流すが、体は固く。

張る、もしくは固める、体が水で詰まった袋になるような感覚。

先生のやや抽象的な説明を俺なりに解釈した形で再現する。

 

ゴッ、と鈍い音とともにサンドバックが弾かれたように吹き飛ぶ。

 

『ふむ』

 

戻ってくるサンドバックを受け止めつつ、感覚を反芻する。

悪くはない、と思う。

如何せん骨格の形状が大分違うので、先生のものからはだいぶアレンジしているが、波導で読み取った限り、動きはこんな感じだったはずだ。

個人的にも、打撃に体重が乗ったような感覚がある。

 

「フン!」

 

数度、繰り返して感覚を調整する。

時折感じる()()()感覚を体になじませるように、出来るだけ正確になぞる。

 

果たして、前世でこれほど自身の動きを意識したことがあっただろうか?

思えばスポーツ自体真面目に取り組んでいたのは小学生ぐらいまでだった気がする。

俺は、どちらかと言えば本を読んでいるのが好きなインドア派だったからな。

 

そんな俺が、毎日毎日飽きもせず修行をしている。

前世の俺がそう聞けば、目を丸くして驚くだろう。

嘘だと鼻で笑うかもしれない。

 

こうして続けられている理由は、やはりこの体に才能があるからだろう。前世でも、時折体でも鍛えてみようと思い立つことは何度かあったが、大抵半月とたたずやめていた。

直ぐに疲れるからだ。

直ぐに疲れてやめてしまうから自分でもやった気にならず、負荷も足りていないから成果がなかなか出ない。モチベーションなどなく、なんとなくで始めるのだからすぐに飽きるのも当然だ。

 

だが、この体は違う。

バカみたいに体力があるし、力も速さも最初から人並みはずれている。若いせいか物覚えもいいし、波導は万能で応用を考えるだけで楽しい。かつて、ちょっとやってみたいな、と少しだけ憧れたような動きを当たり前のように出来るのだ。

バク宙とかも超余裕である。

 

ヴィランとかAFOとか、そういう煩わしいのを抜きにすれば、この体は楽しい。

まぁ、毛づくろいがメンドクサイとか、濡れるとなかなか乾かないとか、箸が使えないとか、不便な部分も数えきれないくらいあるが、それでも十段階評価なら7くらいは付けられる。

 

本当に、後はAFO含めたヴィランどもが全員死んでくれたらハッピーって感じなんだが。

世の中全部が全部上手くはいかないものだ。

 

そんな恨みつらみを拳に込めつつ、サンドバックをぶん殴る。

暫く殴り続けていると、ゴンゴンと扉をノックする音が響く。

 

「りお君、入ってだいじょうぶ~?」

『はい、大丈夫です』

 

美月の声だ。

サンドバッグを受け止め返答を返すと、扉から美月が顔をのぞかせる。

 

『御用ですか?』

「ちょっとお買い物に行ってくるから、おるすばんお願いできる?」

『買い物なら僕が行きますけど?』

「いいのよ、銀行でおかね下ろしてこなきゃだから」

『・・・そうですか?なら留守番しています』

「おねがいね」

 

用事は終わったとみて、もう一回続きをしようかとサンドバックに向かうと。

 

「それから、おやつを置いておいたから食べてね」

 

美月が、そう言い残し去っていった。

 

『おやつ?』

 

意識をリビングのほうに向けると、確かに机の上にパンケーキのようなものが置かれている。

そのまま時計の方に視点を移すと、時刻はもうすぐ16時になろうとしていた。

 

『ああ・・・もうそんな時間か』

 

昼食を取ってから三時間余り、ぶっ通しでやっていたらしい。

しかし、いつもはおやつなど好きに食品庫から持っていくスタイルだったはずだが、あのパンケーキらしきものは手作りか?

 

『これは、少し心配させてしまったかな?』

 

今日はそれほど運動負荷の高いメニューではなかったが、集中して籠りっぱなしになってしまった。

俺は全然平気だし、彼女もそれは分かっているとは思うが、休憩も無しに三時間もぶっ通しで運動されたら心配にもなるというもの分かる。

おやつというのは言い訳で、単に俺に休憩してほしいのだろう。

 

『・・・今日はこのへんにしておくか』

 

折角の好意を無下にはできないし、鍛錬もただ量をこなせばいいというものではない。

用意していたタオルで汗をぬぐいつつ、俺は鍛錬を切り上げることとした。

 

 

 

 

『逃がさんぞ!ヘルカーテイン‼』

『糞ッ、炎が‼』

 

鍛錬を取りやめた俺は、美月の置いていったおやつをお供に、動画鑑賞をしていた。

 

見ているのはNo2ヒーローのエンデヴァーとヴィランの戦闘記録だ。

熱心なファンが編集したのか、定点カメラや野次馬の撮影した動画を切り張りしてシーンごとに切り替えているようで、映像に動きがありなかなか見ごたえがある。

 

あと、個人的にも映画とかは爆発とかする方が好きなので、ド派手に燃えるエンデヴァーの個性は見ていて結構楽しい。

この映像が近場で撮影されたものでなければもうちょい心置きなく楽しめたんだがね・・・。

 

何を隠そう、エンデヴァー事務所はこの家から割と近い地域を管轄としている。

近いと言っても、エンデヴァー自体の活動範囲がめちゃくちゃ広いのであんまりそういう感覚はないのだが、年に数回目にすることがある、という程度には近い。

 

実際にこの目でみると、今のところ原作通り打倒オールマイトに飢えているようで、実にギラギラした波導を発していたのは記憶に新しい。

順調に原作通り進んでいるなぁと、一定の安心感と憂鬱を覚えつつ、裏で轟家が苦しんでいるのを思うとなかなか心に来るものがある。

まぁ、デメリットがデカいし介入する気はないが。

 

多少罪悪感はあるが、アニメではなんかいい感じに収まったっぽいし?本人が納得できそうなら別に俺がなんかする必要もないかなぁ・・・と思っている。

一番キーになる轟君のヤケド事件がとうの昔に終わってるというのも大きい。

 

相談所に電話すれば全部解決、ってなれば話は早いんだけどね。

何処に居るかは知れない轟君に申し訳なさを覚えつつ、

 

「(まかせたぞ、緑谷君)」

 

全てを主人公にぶん投げ、動画に集中する。

 

おやつを貪りながら動画鑑賞。

怠惰な休日を絵に書いたような有様だが、さっきまで散々運動していたので問題はなかろう。

それに、動画鑑賞もまた修行だ。

どこかのOTONAも言っていただろう『男の鍛錬は食事と映画鑑賞と睡眠だけで十分』と。俺はそれでは全然足りないので普通に鍛錬もするのだが、動画鑑賞も立派な修行だ。

といってもただの情報収集だが。

 

この世界の異能であるところの個性は実に多彩で、《抹消》のような個性それ自体への対応策がない以上、決まりきった対策は取れない。だからこそ、ヒーロー達には臨機応変に対応できる柔軟性が求められるわけだが、どうにも俺はそういうのが得意ではない。

 

だが、苦手だからと言って目を背けていては死んでしまう。

その場で臨機応変に対応できないのであれば、事前に対策を練っておく他ない。

バトル漫画の主人公のように咄嗟の閃きで全部ひっくり返せれば話は簡単だが、それに期待できない以上は事前に情報収集して、対策を練り、メタにメタを張りまくってぶちのめすのだ。

 

そういう意味で、やはり参考になるのはヒーローの戦闘だ。

彼らは個性の知れ渡った状態で、時にメタを張られつつも勝利しなければならない。

 

特に、エンデヴァーなんかはうってつけだ。

炎というメタを張りやすい能力でありながら、長年に渡ってNo2に君臨し続け、年間の事件解決数はあのオールマイトを凌ぐときた。

当然映像資料は豊富で、なにかと不人気と言われがちだがファンの絶対数は多いので、布教用にまとめられた映像も多く、見ごたえがある。

といっても、エンデヴァーと俺とでは戦闘スタイルがまるで違うので、彼の動き自体はあまり参考にならないのだが・・・。

 

それでもオールマイトよりはかなりマシである。

彼の戦いは基本的に、音速で現場にかっとんで、ヴィランをワンパンで倒し、ファンサして去る、という非常にワンパターンなものだ。

凄いは凄いのだが、彼の動画をみて学べるのは、「ワンパンで倒せれば街も壊れなくていいね」ということくらいだ。

正直参考にならない。

 

ジーニストの《ファイバーマスター》や、エッジショットの《紙肢》など、も個性としてはやや特殊なタイプであり、俺にとっては参考資料足り得ない。

どのみち、見たいのはヴィラン達の個性なので、シンプルに数が多い分エンデヴァーの方が資料向きだ。

 

一応、俺に近い個性の持ち主としてはライオンヒーローのシシドなんかがトップ20くらいに居るのだが、彼はその恵まれた身体能力を生かした素早い動きと立体機動を駆使する戦闘スタイルが持ち味なので、映像ではほとんど残像しか映らない。

こればっかりは必然というか、身体能力に秀でた個性は速さでひっかきまわす戦闘スタイルを取りがちなので、俺が参考にしたい個性の持ち主ほど、参考資料が少ないという結果になる。

見たいものほど見えづらい。

情報収集と一口にいっても、結構難しいのである。

 

そんなわけで、きわめて妥協的ではあるのだが俺の動画鑑賞にはエンデヴァーが選ばれやすい。

 

因みに先生━━エクスパンドはそもそも知名度が終わっているので、映像資料自体がほぼない。

一応、〇outubeで検索すれば、100件くらいはヒットするのだが、被りも多いし、敵はしょぼいし、年齢制限で見れない奴とかも多いので参考資料としては下の下だ。

強くてバトルジャンキーなのに、あんまり活躍に恵まれない人である。

俺としては彼が活躍するときは地元でヴィランが暴れているということなので、永遠に活躍しないで頂きたいところだが・・・。

 

しかし、こうして動画を見ていて改めて思うのだが、首都圏だけあってこの辺りでも有名なヒーローを目撃する機会は多い。

 

エンデヴァーは言わずもがななのだが、この辺りではインゲニウムが走り回っている姿をよく見かける。

我ながら非常に失礼な話なのだが、名前を知っているヒーローを見ると、この辺りで悪いことが起こるんじゃないかという気になり、なんとなく嫌な気分になる。

我ながら難癖だという自覚はあるが、ヒーローが出動しているときは事実ヴィランが出現しているときなので、どうにも身構えてしまう。

まぁ、俺自身は事前にトラブルを察知して離れられるので、困ったことはあんまりないのだけれど。

 

どうにも、”原作”というものを意識させるものを見ると、警戒してしまうのだ。

幸いにして原作で()()()なんて地名を聞いた記憶はないので、俺が余計なことさえしなければ、大きな事件が起きる余地はなかろう。

 

雄英高校━━ひいては1年A組にどういうカタチで干渉していくかは正直まだ決めかねているのではあるが、とりあえず入試の段階までは原作組に積極的に干渉しない限りは話の流れは変わりようがない、はずだ。

話の流れさえ変わっていないのであれば、後は主人公たちがなんやかんや頑張ってAFOをぶっ飛ばし、なんかいい感じにことを収めてくれる。はずだ。

 

まぁ、それを信頼しきれないからこうして鍛錬漬けの憂鬱な日々を過ごしているわけだが・・・。

主人公達はそういう役を押し付けられただけの人物だ、それに俺が当たるのは流石に筋違いというものだろう。

 

ただ、理論上彼らを上手いこと動かすことができればAFOは倒せるようにはなっているはずなので、なんかこう上手い具合にリスクを押し付けつつ、スムーズにAFOを仕留めるよう仕向けられればいいんだが。

コレと言えるような策はなかなか思いつかない。

 

「(轟君をあと十人くらい作ってくんねぇかな、エンデヴァー)」

 

行き詰ると、ついつい糞みたいな考えが浮かんでしまう。

糞な上に、どのみち原作には間に合わないので無意味だ。

 

『あー、まじで糞!』

 

なぜ、俺がこんなに思い悩まねばならないのか?

前世ではなんも考えず生きていても、老後まで安泰(予定)だったのに。

今はほんの5・6年先で口を開けて待っているカタストロフに怯えている。

この世界は、本当に糞だ。

 

「(オールマイトに全部話したら、最強のOFA作ってくれるかな?)」

 

最低でもイレイザーヘッドの【抹消】さえ取り込んでくれれば、俺も割と大船にのった気分でいられるのだが・・・。

今の俺は、バトル漫画にありがちな再現性の低い一度きりの奇跡に全賭けするような危うい勝利を歓迎できる立場じゃない。

友情パワーとか、絆の勝利みたいなのはどうか忘れてもらって、敵の能力は徹底的にメタって、数の暴力でもなんでもいいので、余計なフラグを立てさせないうちに、速攻で確実に倒して欲しい。

そう、常々願っている。

 

たが、売れっ子漫画家がそんな結末を描くはずもない。

ネットで読者はさんざんああしろこうしろとツッコミ、こうしたほうが面白いだの、こうすりゃもっと早いだのと訳知り顔で語っていたが、他ならぬ俺達読者がそういう展開を望んじゃいなかった。

願われるのはいつだって、ギリギリの熱いバトルだ。

 

『フンッ、これで終わりだ』

『ギャァァアア‼』

 

今見てるような圧倒的な勝利は、望まれていない。

 

『・・・下んな』

 

数年後に訪れる崩壊も、所詮ラストを盛り上げるためのちょっとした()()に過ぎない。

そのために、この国は破壊されるのだ。

そんなものために、俺は一喜一憂しているのだ。

 

本当に下らない。

 

『・・・ゲームしよ』

 

名前のよくわからないパンケーキっぽいお菓子を食べきり、テレビをゲーム用に切りかえる。

ゲームはいい。

 

少しだけ、嫌な現実を忘れられる。

 

この糞みたいな世界に数少ない救いを見出すとすれば、100年以上後の世界の作品を楽しめるということだろう。

それも、よくある名前をちょっと弄ったパチモンではなく、本物である。

当然、シリーズが続いてる奴は凄い。

〇ラクエなど二桁後半に入っている。

これには俺もいちオタクとして歓喜の声を上げたものだ。

 

まぁ、何故かポケモンは無いんだがな。

 





ストイックに見えて元が凡人なので、さぼるときはさぼる系主人公。
原作ありの転生ものだと、主人公が全部解決して当然みたいな考えが多いけど、まじめに考えるとそういうトラブルが起きるのって読者を楽しませるためだから、読者のせいみたいなところあるよなぁ、と気づきややヘラっている。

この世界の創作事情
普通こういう作中世界の創作物ってなんかどっかでみたような名前のそっくりさんになるもんですが、B組の演劇なんかを見てもわかるように、ヒロアカはなぜかパロネタの出典を誤魔化さずにそのまんま出してくスタイルみたいなので、二次元はリアル世界から地続きということに。ただし、話がめんどくさくなるので、ポケモンは存在しない。

能力はあるけど思想がアレな万年No2
この人のやらかしで荼毘がヴィラン落ちしたし、ヒーローへの信頼が大きく減退したが、OFAを倒すために必要なのは市民の信頼ではなく純粋な戦力なので、轟君を生んだことで±プラスだと思います。個人的にはこういう理想を前に力及ばず道を踏み外したってキャラは結構好きです。轟君が生まれたときの顔とか最高すぎて変な笑いが出ました。


鳴羽田
知っている人は知っている町。
()()()()関係ない。

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