たとえ勇者に非ずとも 作:そば茶
文体が安定しない・・・。
「なんか凄い個性の子だったね」
凛勇と会合したザ・クロウラーこと灰廻航一とポップ☆ステップことポップ。
猪男を警察が確保するのを確認したのち、彼らは航一の自宅に戻っていた。
「凄いって、さっきの子?」
「そう、あの青毛の犬っぽい子」
航一は助けようとして失敗した子供のことを思い返す。
「ほら、猪の人蹴っ飛ばしたパワーでしょ、テレパシーでしょ、治療でしょ、診断・・・は透視とかかな?四つも。凄くない?」
「・・・確かに、複合型とかしら?最近の子は凄いわね」
思い返すだけでも四つの能力。
親から子へと個性が遺伝する過程で、両親の個性が複合されるケースはままある。
実年齢でいえばポップと凛勇の差は大したものではないが、一世代下るだけでも個性は大きく複雑化する。
応用力の高い複合型の個性。
常識的にポップはそう考えた。
「何?羨ましくなったの?」
「んん~、まぁちょっとはね」
強力な個性への憧れは、多くの人間が持つ普遍的な感情だが、航一はかつてヒーローに憧れ、ヒーローを目指していた。
それだけに、凛勇の見せた強力な個性に惹かれる気持ちを否定はしない。
だが、嫉妬心が湧き上がるほどではない。
ヒーローでなくても、強い個性でなくても、人を助けることは出来る。
そう学んだからだ。
「俺の個性でも助けられる人はいるし。今はそれでいいかなって」
「危うくけが人が出るところだったけどね」
「うっ、そこは今後の努力課題ってことで」
とはいえ航一はまだまだヴィジランテとしてはヒヨッコ。
単純な戦闘能力にしても、ヴィラン発生時の立ち回りにしても、学ぶべきノウハウは多い。
今回は失敗してしまったが、幸い取り返しがついた。
故にこそ、次こそはうまくやって見せると決意を新たにする。
そう、航一が心に誓っていると、バンっと玄関の戸が開いた。
「おう、帰ったぞ」
「あ、師匠」
航一がそう呼んだのは、覆面で顔の上半分を隠し、小汚いロングコートを纏った大男。
本名不詳のヴィジランテ、自称:”鉄拳掃除人”ナックルダスター。
通称、”拳骨ジジイ”。
航一にヴィジランテとして歩むきっかけを与えた師匠、その人である。
「ちょっとオジサン!電話も通じないし何処行ってたの!?こっち大変だったんだからね」
「私用だ。なんだ、ヴィランでも出たのか?」
「はい。それが──」
航一は、猪男に追いかけられたこと、子供がそれを倒したこと、猪男に薬物使用の痕跡があったことなどを話した。
「ヴィランの写真は抑えたか?」
「あ、はいそれならポップが」
「見せろ」
「もう少し頼み方ってものがあると思うんですけど・・・」
不躾に腕を突き出すナックルダスターに、ポップが渋々スマホを渡す。
撮影したのは、猪男の顔と所持していた身分証。
それから男の舌だ。
「・・・初回か、二回目か。どちらにせよ重度の使用者じゃないな」
「空振りですか?」
「だろうな」
現在鳴羽田市内で出回っている
ナックルダスターはその度合いで、猪男が売人と繋がりの強い重度の中毒者ではないと判断した。
「まぁ、こんなチンピラはどうでもいい。だが、お前の傷を治したというガキは気になるな」
「何がですか?」
「いきなり人を蹴り飛ばすようなガキだ、普通ではないだろう」
「「え」」
ナックルダスターは怪しいと思った相手にはとりあえず殴り掛かることから始める非常に手が早い人間だ。
日ごろからそんな彼の後始末をしている二人としては、「オマエもいきなり人に殴りかかるじゃん」と思わざるを得ない。
「なんだ?」
しかし、当人は「悪そうな顔をしているほうが悪い」というどうしようもない考え方をしているので、妙な顔をする二人に訝しるよう視線を向けるばかりだ。
ただ、話に聞く少年の行動とは無関係に少し関心を覚えたようだった。
「しかし、そいつの個性気になるな」
「何がですか?」
「いや・・・、お前を診断した個性が遠距離でも使えるなら、中毒者の識別がはかどると思ってな」
「小学生ですよ?」
「駄目に決まってるじゃないそんなの!」
小学生をヴィラン退治に駆り出そうと考えるナックルダスターに二人して突っ込む。
ヴィジランテという人種は法より己が正義感を優先する人間が多いのは語るまでもないことだが、中でもナックルダスターは、良識的に超えてはいけない一線を容易に超えすぎるきらいがあった。
「何故だ?」
「「ええ・・・」」
そのため、まだ良識を残している二人とはだいぶ感性がずれて居る。
やっぱこの人ヤバい人だ、と二人はナックルダスターの人柄へに対する評価を新たにした。
無論、下方修正だ。
「まぁ、なんでもいいが、そのガキの名前は聞いたのか?」
「ガキって・・・。急いでたみたいなので名前とかは・・・言ってなかったよね?」
「うん。まぁ多分この辺の小学校の子だと思うけどね。カバン的に」
「・・・そうか」
ポップも聞いてはいないようだ。
それにしても、やけに子供について気にしているな、と航一は思う。
「なにか気になるんですか?」
「いや、なんでもない。気にするな」
「?」
気になることがあるなら襟首掴んで振り回してでも聞き出す。
いつもの師匠ならそうするはずと思っている航一は、なんだか変な態度だなと首を傾げる。
ただ、子供の家まで突撃しにいくようなことにはならなそうでちょっぴり安堵?もした。
「だが、そうだな。治療系の個性は貴重だ。顔を繋げるなら繋いでおけ。いざというとき役に立つ」
「だからそういうの良くないですって師匠」
やっぱりこの人に師事したのは間違いだったかもしれない。
航一はそんな今月何度目かの後悔をした。
◆ ◇ ◆ ◇
道場にて
航一達の元から去り、無事道場にたどり着いた凛勇はエクスパンドの指導を受けていた。
そこで、ヒーローネットワークなら何か情報が転がっていないかと思い、エクスパンドに突発性ヴィランについて質問していた。
「あ?ヤクザがトリガーの
『はい。半グレでもいいですけど』
教えて貰った型をなぞりながら、ざっと自分の推測を語る。
薬の流通範囲の狭さ、薬が金儲けに向かない強力なものであること。
そんな不信な要素を一つ一つ挙げていく。
「まぁ、確かに不審だわな。・・・しかし、お前いつもそんなこと考えてんのか?」
『考えてないと不安な質でして』
「難儀な性格してんなぁ。小学生だろ?もっと楽しいこと考えろよ。どうやって上級生をボコるかとかよ」
『それが楽しいのは先生くらいです』
言われずとも自分が神経質なのは理解していた。
どうなのかと視線で先を促す。
「あーはいはい。ヤクザ、ヤクザね。この辺を仕切ってるヤクザなら天忠會だが・・・アイツラが薬を扱ってるって話はトンと聞いたことがねぇな」
『そうなんですか?』
「ああ。元々武闘派揃いだし、個性ブースト薬になんぞ頼るタイプの連中でもねぇ。そりゃまぁ殺しもやるロクデナシには違いねぇが、シノギのジャンルが違うわな」
『任侠という奴ですか?』
「それそれ」
『勢力拡大に積極的な若頭が居たりとかは?』
「居ねぇよ。お前ドラマの見すぎだろ」
オーバーホールという実例がある手前、任侠だからという理由で疑いが晴れるわけではない。
しかし、逆を言えばオーバーホールのような人物が居ないのなら、組織の方針を曲げてリスキーな真似ができるような組織ではない。
加えて、もともと薬物と繋がりが無いというのであれば候補としては若干弱いか。
『では半グレは?』
「基本このあたりは天忠會の縄張りだ。そういうのはだいたい潰されるか吸収される。だが、まぁ薬ならホッパーズだな」
『ホッパーズ、ですか?』
「
『足りませんか』
「さてな。溜め込めば別だろうが」
個人輸入レベルとなると、当然コスパは悪くなる。
見つかれば捕まる危険性のある薬物を長期間かけて大量に溜めこむとなれば、抱えるリスクは相当なもの。
確実な利が見込めなければそんな真似は普通できない。
現状ではどう考えても採算があっていない。
では、どんな利があるのか?
『(ダメだ。わからん)』
市民を利用したヴィラン事件。それが単発であれば、本命を隠す陽動として使うといったやり方もあるだろう。
だが、連続して。時には同時多発的に突発性ヴィランを生み出すことに何の意味がある?
それではヒーローの警戒を煽るだけだ。
現に、最近は近隣のヒーローの注目が鳴羽田に集まりつつある。
『(鳴羽田に注目を集めるのが目的?だとしたら無駄に金をかけすぎてる)』
単に注目を集めるだけなら、爆破予告なり犯行予告なりを連投する方が楽だ。
見せ札にしても、突発性ヴィランなど二・三件で事足りる。
流通網なんて弱点を抱えていればいずれは母体にたどり着かれる。何度も事件を起こせば捜査にも力が入るし、なにか大きな計画の陽動にしては、煙幕が薄すぎる。
『(金銭目的でもなく、陽動でもない。・・・なにか読み違えてるのか?)』
態々一般人がヴィラン化するような薬をばら撒いているのは確か。
そこだけ抜き出してみれば社会を混乱に陥れるのが好きな愉快犯の犯行とも思えるが、単なる遊び感覚でやるには金も時間もかかりすぎてるし、やることが小さい。
混乱が目的なら経口タイプではなく、吸飲するタイプのを人の密集するタイミングでまけばいい。
そういった種類の薬が手に入らないのだとしても、やはり犯行予告を使わない理由がない。
『(だめだな、情報が足りなすぎる)』
手持ちの材料では答えが出せそうにない。
原作に組み込まれたイベントなら、登場人物なんかからメタ読みが可能だが、原作外となるとお手上げだ。
『(これ無理だろ)』
「オイ、止まってるぞ」
『へ・・・あ、すいません先生』
思考にふけり過ぎて動きが止まっていた。
エクスパンドの注意を受け、慌てて型をなぞる。
だが、気もそぞろだったのだろう、やれやれといった様子で先生は提案した。
「そんなに気になるなら調べといてやるぞ?」
願ってもいない提案。
『いいんですか?』
しかし、バトル以外はものぐさな先生には珍しい言葉。
パトロールも最小限で、警察からの出動命令以外ではほとんどヒーロー活動をしていない先生が一体どんな風の吹き回しで。そんな失礼なことを思ったが、
「俺も多少気にはなっていたしな。それに市民の不安を取り除くのは仕事の内だ。可愛い生徒の頼みなら猶の事、な?」
『おお!』
続く言葉で速攻掌を返す。
先生!カッケェ!
そう思うなら普段からパトロールすればいいのに、とも思ったが、当然お願いするに決まっている。
『ぜひお願いします』
「オーケーオーケー。分かったから、続きやれ」
『押忍!』
とりあえず情報だ。
それがなければ、放置すべきかどうかも判断がつかない。
これでひとまず安心、と思ったがここでもう一つ気になることがあったことを思い出す。
『あ、そうでした』
「ん、まだなんかあんのか?」
『先ほど、オールマイトパーカーを着たヒーローを見かけたのですが、先生はご存じですか?』
ついさっきあった青年のことだ。
「あ?オールマイトパーカー?」
『はい。新規参入だとは思うのですが、随分若いヒーローだったので気になりまして』
「お前細かいこと気にすんな」
『性分なもので』
つい数十分前、遭遇したオールマイトパーカーの青年。
彼は見覚えのないヒーローだった。
イレイザーヘッドのように徹底的にメディア露出を避けているのでもなければ、新たなヒーローの情報はローカルの情報局で取り扱われるが、それで見た覚えもない。
となると、出張か新規参入か。
そして、ヴィランをトレインしてきたあの醜態からすると、経験不足の新人だろうというのが俺の推測だが。
「オールマイトパーカーね、・・・そりゃコイツか?」
そう言って、先生はスマホを操作するとどこかのSNS上の写真を俺に見せてきた。
写真は・・・ファンサ中のものだろうか?女子高生の横で人の好さげな笑みを浮かべながらさっきの青年がピースしている。
新人ヒーローだと思っていたが結構人気ものなのか?
と、思ったがどうも違うらしい。
「こいつはヒーローじゃねぇ。ヴィジランテだ」
『ヴィジランテ、ですか』
ヴィジランテ。
免許を持たぬまま個性を振るい、ヒーロー活動を行う者。
超常黎明の混乱期に自然発生的に誕生した市民の手による法に乗っ取らない治安システム。
故に、
まぁ、カッコよさげな名前をしているが普通に犯罪者である。
「ちょっと前からこの辺でボランティア活動みたいなのをしてた奴でな、”親切マン”なんて呼ばれてたんだが、聞いたことねぇか?」
『・・・いえ、ないですね』
「まぁ、お前んとこの学区だとちょっと外れるか」
そんなダサい名前なら、逆に覚えてると思う。
しかし、ボランティア活動か。
なかなか関心じゃないか。
「最近はヴィランとの戦闘にも首を突っ込んで、”苦労マン”なんて名乗ってるらしいな」
『へぇ』
あの青年、
だが、あの経験不足感というか、ガバの理由は分かった。
しかし”苦労マン”とは、またダサいな。
『先生は対処なさらないので?』
「逮捕権ないからな。現行犯ならともかく捜査は警察の仕事だ。ま、協力依頼があれば別だが」
『そういうもんですか?』
「顔を隠しちゃいるが、個性も見せてんだ、きっちり聞き込みすりゃ身元なんてすぐ割れる。警察がそうしてないってことはそんなに問題視されてないってこった」
『なるほど』
まぁ、そりゃそうか。
さっきのSNSの写真、がっつり顔写ってたし。
それがなくとも、背格好や年ごろ、個性など対象を絞り込む材料はいくらでもある。
警察が彼を捕捉していないということは、その気になって調べていないからに他ならない。
「そんなのを態々探しにパトロールなんて俺はゴメンだね。弱そうだし」
『本音は最後のですね』
「否定はせん」
でしょうね、と内心で相槌を打つ。
実際先ほど見た立ち回りは酷いものだったし、診察した限り体も左程鍛えられてはいなかった。
性格も、およそ暴力に向いているものではない。
エクスパンドの期待にそぐう相手ではないだろう。
『(しかし、ヴィジランテね)』
原作ではついぞ登場しなかった存在。
ここが
アニメの中で、市民は概ねヒーローの足を引っ張る存在だった。
では、ヒーローとヴィランの中間に位置するヴィジランテの役割はなにか?
崩壊した日本では多くのヒーローが諦め、職を辞していったと聞くが、ヴィジランテたちはどうだろうか?
ヒーローと同じように諦めたのか?それとも己が正義を胸に最後まで戦い抜いたのか?
前者であれば所詮は個性を振り回すことに魅了されただけの愚者。
だが後者であれば、そいつは本物の英雄だろう。
『(彼は、どっちかな?)』
見た限り、その心根は純粋にして善。
行いからみても、利他の精神で一歩を踏み出す英雄の卵と言えよう。
で、あるならばあるいは。
『(・・・考えすぎかな)』
良き精神を持とうと、力が無ければ何事も為せぬ。
だが、彼には力を渇望するだけの覇気が感じられなかった。
なにもせずとも成長する子供と違い、大人は確かな意思と目標が無ければ成長しない。
肝となるのは、彼がそうするだけの意義を見出せるかどうか。
だがまぁ、他人の進路など、俺の預かり知らぬことだ。
『(ま、この辺のヴィランを一人でも減らしてくれるなら儲けもの、かな)』
思考に区切りをつけ、型稽古に気持ちを入れた。
ナックルダスター
個性:なし
航一をヴィジランテの道に引きずり込んだ人。巧みな戦闘ロジックを有し、強化型の個性相手にも真正面から殴りかかって勝つほどの戦上手。強いがその分良識が欠如しており、航一の家の窓を割って居座ったり、「顔が悪そう」「なんとなく怪しい」くらいの理由で道行く人に殴りかかったりする。たぶんこの人なら小学生だろうと使えるもんは使う、と考えるはず。
凛勇の話を聞き、「複数個性・・・まさかな」みたいなことを考えてる。
波導による善悪の判定
ルカリオの”悪人には決して懐かない”という性質を引き継ぎ、相手の善悪をおおよそ見分けられる。人が害あるものをまずい、臭い、醜いと感じるように進化したように、凛勇は波導で悪人を感知すると本能的に不快感を覚える。ただし、純粋にあいての性質のみを判定するので、実際に悪事を働くかどうかはその時になってみないと分からない。