ヘブンバーンズレッド 短編集   作:117

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ヘブンバーンズレッド、配信100日記念として投稿します。
では今話もお楽しみ下さい。


もなにゃんと遊ぼう~フードファイト編~

 

「ギャイアグレーイイボドドドーゥ♪」

 鼻歌を歌いながら通りを歩くルカ。目当ての相手をきょろきょろと探しながらの散歩である。

 いつもの場所に行けば会えるかな。そう思いながら外れに向かっていけば、やはりそこに居た目当ての人物。

「いたいた。もなにゃー……」

 語尾が消えていく。何故ならそこには月城の他にもう一人が居たからだ。

 

「む。茅森か」

「げ。茅森じゃないかい」

 そこに居たのは蔵里見。月城の相棒である彼女は楽しそうに話していたが、ルカの顔を見ると顔を引きつらせる。

 ルカの蔵の顔を見て少しだけ表情を渋くした。

「蔵っちも居たのかよ」

「それはこっちのセリフだよ。なんで月城ちゃんとのひと時にあんたが割り込んでくるんだい」

 そんな2人の様子を見て月城はきょとんとした顔をした。

 

「そういえば我は2人の仲をよく知らないな。仲がいいのか?」

「良くはない」

「良くはないねぇ」

「嫌いって程じゃないけど、蔵っちはちょっとだけめんどくさい」

「嫌っちゃいないけど、茅森は自由過ぎて苦手だねぇ」

 お互いを見ずに月城に告げる2人に、月城は優しく微笑んだ。

「我が見る限り、2人共に仲が良さそうだがな」

「どこがっ!?」

「どこがだいっ!?」

 思わずハモってしまうルカと蔵の言葉を聞きながら、月城はくすりと笑う。

「そんなところもだし、ずけずけと相手の事を言い合える仲というのも悪くはないではないか」

 月城の正論に渋い顔をする2人。

 

 いったん話が区切れて、月城はルカに向き合う。

「さて。ところで茅森が我のところに来たということは」

「そうそう、もなにゃん遊ぼうぜ~」

「なんで月城ちゃんがいちゃいちゃするところを見せつけられなくちゃならないんだい…」

 やってられないと言わんばかりに首を振った蔵はそのまま歩き出そうとする。月城との用事も終わり、プライベートまであからさまに干渉するのは違うということは蔵自身が分かっていることだった。

 だが、歩き出す前に月城が言葉を漏らす。

「ここに蔵がいるのも何かの縁だ。今回は蔵も一緒に遊ばないか」

「蔵っちも一緒? あたしはそれでもいいよ」

「え。あたいもかい?」

 予想外の言葉に蔵が驚きながら足を止める。

「そりゃ月城ちゃんと遊べるならあたいは嬉しいけどさ。遊ぶって何をして?」

「それは茅森が考えてくれる。茅森の遊びは意外性があった面白いぞ」

「今回の遊びは蔵っちも相性がいいかも知れないしな」

 ふふんと自慢そうに胸を張って、ルカは宣言する。

「今回は、フードファイトをしよう!」

 

「フードファイトぉ? あたいは別に大食いじゃないけどねぇ。

 ま、食べ物関連の勝負を持ちかけられたら背は向けられないじゃないかい?」

 得意げな表情を浮かべる蔵。月城は落ち着いた様子でルカに問いかける。

「ふむ、蔵は知っているようだが我はフードファイトを知らん。

 茅森、教えてくれるか?」

「もちろんだよ、もなにゃん。

 フードファイトは審査員に用意した食べ物を食べて貰うんだ」

「え」

 蔵の表情が固まった。

「そして美味しさマズさ辛さ苦さ、なんでもいい。審査員に最も強い印象を残したヤツが勝者さ!」

「あたいの知っているフードファイトと違うっ!?

 フードファイトって早食い大食い大会じゃないのかい!?」

「なるほど、蔵が自信を持つ訳だ。我も蔵に勝つ自信はあまりない…」

「いやいや月城ちゃんの汁物も美味しいからねっ!?

 って、違う! あたいの叫びはなんで誰にも届かないんだい!?」

「蔵っち、うるさい」

「蔵、騒がしいぞ」

「あたいが悪いのかいっ!?」

 絶叫する蔵がそこにいるのだった。

 

「しかし、その審査員にはいったい誰を?」

「そこだ。何を食べさせられるか分からない審査員、命の保証はない」

「あんたはいったい何を審査員に食べさせるつもりなんだい…」

 呆れる蔵を無視してルカはくわっと目を見開く。

「そこであたしは不死身と言われた友達に審査員を依頼した!

 どんな戦場からも生還した彼女なら、きっと今回も無事に生還してくれるはずさ!」

「なんで遊びって言っているのに戦場からの生還スキルを重視しているんだい…」

「おお。我も不死身とは言われていない。会うのが楽しみだな」

「月城ちゃんもつっこんでいいんだよ?」

「じゃあ今から電話して予定を聞くから」

「まだ依頼してないんかいー!」

 デンチョを取り出して操作する茅森に、必死になってツッコミを入れる蔵だった。

 

 ◇

 

「うふふふふふふふふふふふふふ。

 ルカがシャロと会いたいなんて…情熱的過ぎる……」

「なんか黒くないかい? この子?」

「でモなんデホかのひトもイるのデしョうか?」

「なんか黒くないかいっ!? この子っ!?」

 待ち合わせのカフェテリアに3人が行けば、そこにはぬいぐるみを抱えた色白美少女の姿が。

 蔵と月城を呪い殺さんばかりの視線を向けながら、グリンと首を傾ける彼女は普通に怖い。

「あ、早いねシャロ」

「もちろん。ルカの呼び出しなら地球の裏側までも瞬間移動するから」

「デフレクタの残量が持たないと思うが……」

「シャロのルカへのあイにケちをつケるおまエはだレだ」

「……背筋にゾクっとしたものが奔ったぞ」

 セラフ部隊最強の2人が全力でひいていた。

「うん、シャロはちょっと過激な子だから」

 心無しかルカも申し訳なさそうだった。

 

 仕切り直して、シャロへ今回の審査員についてのお願いをするルカ。

 そしてそれを快諾したシャロ。

「もちろん。ルカが用意したものを食べられるなら、残飯を食べるのくらい我慢する」

「あたいのグルメが残飯呼ばわりされるのはプライドに障るねぇ……」

「言うな蔵。年長者の余裕を見せろ」

 月城もやや表情を引きつらせていたが、自制はできているらしい。

 と、そこでふらりと姿を見せた者が1人。

「む。蔵に月城、それに茅森か。もう一人は31Xのシャルロッタだったかな?

 こんなところでどうした?」

 蔵と月城の隊長、30Gのユイナである。

「白河ちゃんかい。いやなに、茅森と遊んであげているのさ」

「そうか、仲がいいのだな」

「…………」

 ふふっと慈愛のこもった笑みを浮かべるユイナに、蔵はなんとも言い難い表情を浮かべる。

 

「ところで白河は何をしているんだ?」

「うん。今日は用事があって朝食を逃してしまってな。ブランチを食べようと思って来たところだ」

 月城の疑問にそう言うユイナ。それを聞いた蔵は閃いたと言わんばかりに口を添える。

「じゃあ白河ちゃんも審査員をやるかい?」

「ん? 何の話だ?」

 かくかくしかしかと簡単に経緯を説明する蔵。それを聞いたユイナは目を丸くした。

「今から食べても白米とお新香くらいしかないから私としてはありがたいが、いいのか?」

「もちろんだよ。白河ちゃんにはあまりご馳走したことなかったし、1食つくるのも2食つくるのも手間は変わらないさ」

「我も構わぬ」

 30Gの2人がOKが出たことで、ユイナは軽く笑みを浮かべた。

「では私もご相伴に預かるとしようかな」

「いいけど……。ユイナ先輩、死なないでね?」

「だからあんたは白河ちゃんに何を食べさせるつもりなんだい」

 

「そういう訳でよろしく頼むよ、シャルロッタ。私は30Gの白河ユイナという」

「ルカの食べ物が減ってしまう。けど残飯を処理して貰えるなら嬉しい」

「……この子はとても失礼なことを言っている気がする」

 カフェテリアのオープンテラスに2人を残し、調理の為に中に入っていく3人。

 そのままイートエリアを通り過ぎ、調理場へと向かう。と、そこで呼び止められた。

「あの、ここから先は立ち入り禁止ですよ?」

「うん?」

「だから、立ち入り禁止です」

 カフェテリアの職員にそう言われて、不思議そうにルカを見る蔵と月城。

 視線を受けたルカは真顔で答えた。

「あたしは別にカフェテリアの使用許可を取ったとは言ってないよ?」

「この勝負を持ちかけるなら最低限そのくらいの下準備はしておくべきじゃないかい!?」

 きわめてもっともな蔵の叫び声が静かなカフェテリアに響くのだった。

 

 結局、固定ファンもいる蔵の頼みもあり、厨房の使用許可が下りた。

 しかし当然ながら食材もロクなものがなく。端材で作るまかないの更に端材と、調味料とお米しか使用許可が下りない始末。

「これで料理を作れって、なかなかの無茶だねぇ」

「そこも腕の見せ所さ」

「全部合わせての勝負ということであろう」

「あたいは月城ちゃんほど前向きになれないねぇ」

 ぶつぶつ言いながら調理をしていく蔵と、黙々と調理をしていく月城だった。

 小一時間で調理が終わり、審査員2人の元に戻る3人。

「待たせたねぇ」

「ああ、もうお腹がペコペコだ」

「空腹は最高の調味料であろう」

「その通りだね」

「ルカの料理ルカの料理ルカの料理…」

 約1名がちょっと壊れているが、これで準備が整った。

 

 まずは蔵が料理をサーブする。

「今回、あたいが作った料理はこれだよ」

「これは……パエリアかっ!」

「その通り。今回は食材にちょっと恵まれなかったけど、魚のアラとかはあったからね。

 ダシをとって野菜と合わせて炊き上げる。審査員に外国の子もいるし、お米はお米でも外国の料理にしてみたのさ」

「シャロにとってはパエリアも外国の料理です」

「…………」

 ちょっとダメな子だったシャロから直球ど真ん中の正論を吐かれて蔵が撃沈・沈黙した。

「ま、まあいただこう」

 流石にフォローできなかったユイナは引きつった笑みを浮かべて話を進める。

 そしてスプーンで料理を掬い、口に運ぶ。

「これは…美味いな」

「もちろんさ。あたいは料理をするなら絶対に手を抜かないからね」

 絶賛するユイナとは別に、シャロはハァと溜息を吐く。

「ダメです」

「ほぉう。その心を聞こうじゃないかい」

 バカにされた蔵がケンカ腰でシャロに問いかける。

「そもそもパエリアという料理はライスに魚介の旨味を閉じ込める料理ですそれなのにこれにはあまりに魚介の使用量が少ないそれを補うように野菜の旨味を使っていますがそもそもそれはパエリアという料理から外れているそして何よりもこのライスがダメですパエリアは魚介の旨味を楽しむ料理であるからライスの美味しさがあれば魚介の旨味を邪魔してしまうそれなのにこんなに美味しいライスを使ってしまえばパエリアとして台無しですライスも野菜の一種なのですからこの料理に込められた旨味はもはや野菜のみですそれをパエリアというなんて面の皮が厚すぎます今すぐスペインと私とルカに生きていてごめんなさいと土下座をして謝るべきです」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「と、ルカが言っています」

「あたしっ!?」

「いえ、この子です」

 そう言ってシャロは胸に抱いたぬいぐるみを顔の前に掲げた。

「ああ、そういえばその子にあたしの名前つけていたよね、シャロ」

 なんとも言い難い表情でそう言うしかないルカだった。

 

「次は我の料理だ」

 サーブをするのは月城。ほかほかと湯気があがる御椀だった。

「武骨ですまないが、みそ汁だ、ただのな」

「いや、月城の真心がこもったお味噌汁だ。ありがたく頂こう」

「ルカ以外の心なんて雑味でしかない」

 息を吐くように罵倒するシャロはさておいて、御椀を口に運ぶユイナ。

 ほぅ、と落ち着いた息を吐く。

「ああ、美味しいな。心が安らぐ味だ」

「うむ。作り手としてその賛辞をありがたく受け取ろう」

 にっこりと笑うユイナに、月城も満足そうに答える。

「私も感想を言っていいですか?」

「……謹んで遠慮しておこう」

 シャロの言葉に、月城は顔に冷や汗を流しながら丁重な断りを入れるのだった。

 

「最後はあたしだな」

「あたいは普通に不安だよ…」

 自信満々なルカに諦めたような表情を浮かべる蔵。

 そしてルカはドンと審査員の前にそれを出した。

「シュールストレミング」

「貴様またかーーーー!!」

 思わず絶叫する月城。

「もなにゃんとの思い出の食べ物だからね。インパクトも凄いし」

「インパクトしかないだろうがーーーー!!」

「ほい開封」

 パンパンに膨れ上がった缶詰を躊躇なく開けるルカ。

 同時にむわりと広がる異臭。

「くーさーいー!!」

「貴様が開けたんだろうがーー!!」

「これはもはやテロじゃないかい!!」

「ユイナ先輩、どーうーぞー!!」

「貴様は鬼かーー!? 白河に恨みでもあるのかーー!?」

「こ、これを食べるのにはキャンサーと戦うよりも勇気がいるな……」

「白河ちゃん、こんな劇物食べなくていいよ!!」

「後輩からのお願いだよー。食ーべーてー、ユイナ先輩ー!!」

「か、茅森からのお願いなら……」

 恐る恐る缶詰へと手を伸ばしたユイナの前で、パっとそれが消えた。

 奪ったのはシャロ。陶酔した表情で開封されたシュールストレミングを見つめている。

「はぁ、はぁ…。これが夢にまで見たルカが用意した料理」

 呆然とする一同を気にも留めずにソレを口に運ぶシャロ。

「ああ、感じる…。ルカを感じる。ルカが料理した時に流した汗を感じる」

「いや、あたしはそれを料理した訳じゃないけど」

「この香り、この匂い、この味……。これがルカの愛……」

 流れるような美しさでソレを口に運び続けるシャロ。すぐに食べ終えて、妖艶な流し目をルカに送りながら宣言する。

「勝者、ルカ」

「えー」

 勝者宣言を受けたルカの出した声はそれだった。

 

「うん、蔵のパエリアは美味しかった。魚介じゃなく野菜の旨味が多いパエリアというのは斬新で面白かったな。魚介の旨味もちゃんとあったし。

 月城のお味噌汁も優しい味だった。ほっとする料理はそれだけで日本のホスピタリティを思い起こさせた。舌ではなく心に響く料理だ。

 茅森のは私は食べていないから分からないが……」

 最後だけ言いにくそうにするユイナだが、すぐに笑顔で打ち消す。

「蔵の料理も月城の料理も素晴らしかった。茅森はシャルロッタが評価したみたいだし、今回は引き分けでどうだ?」

「我は構わぬが……」

 月城はちらりと横にいる蔵を見る。

「あたいのグルメが……あんな劇物と引き分け……」

「ま、まあまあ。ここは先輩として度量の大きさを見せよう」

 不服そうな蔵をなんとか宥める白河。

 その一方で、ルカに詰め寄っているのはシャロ。

「ルカの愛、受け入れました。ですからシャロの愛もルカは受け入れてくれますね?」

「シャロ、近い近い」

「それはそれとして。

 シャロいがイとのオもいデヲのコすナンてルカはどうしテそんナことヲスるの?」

「シャロ、怖い怖い」

 シャロに言い寄られているルカ。その2人を遠くから見つつ、31Xの3人は微笑みを浮かべるのだった。

 頭にでっかい冷や汗を流しながら、ではあったが。

 




今回は頂いたリクエストから執筆してみました。
原形は残っていませんが『食戟の蔵』です。
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