ヘブンバーンズレッド 短編集   作:117

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ヘブバン短編集3話目。
今回は大島姉妹のいっちーと五十鈴っちを登場させてみました。


禁断の果実

 

「茅森さん、少しいいですか?」

「ん?」

 特に目的なくブラブラしていたルカ。誰か暇そうな人を見つけて遊ぼうかなー、と思っていた彼女に声をかける人物がいた。

「おお、いっちーじゃん!」

 31Eの隊長にして、6姉妹の長女である大島一千子。その姿を見て破顔するルカ。

 しかし、その表情を見て顔を曇らせた。

「いっちー…どったの?」

 ルカから見て、彼女は明らかに難しい顔をしていた。

 深刻そうな表情をした一千子は、ルカを真っ直ぐに見て口を開く。

「場所を変えさせて下さい」

 

 やがて着いた場所は葬儀場だった。ほとんど人が寄り付かないその場所にルカを連れてきたことで、よほど人に聞かれたくないことなのだろうと察する。

「……ここまで来ていただいて、ありがとうございます」

 ルカに向かって深々と頭を下げる一千子。

「気にしないでよ。それで、どうしたのさ?」

 微笑みを浮かべて問いかけるルカに、一千子はポツリと言葉を漏らした。

「五十鈴が…」

「五十鈴っちが?」

 はてと首を傾げるルカ。五十鈴は大島6姉妹の5女。鍵開けの名人であり、どこか犯罪臭のする少女でもある。

 あと攻めのレズビアンな様子もあり、ルカとしては身の危険を感じることもある相手だ。嫌いではないが。

「五十鈴が、悩んでいます」

「そうなんだ。ちょっと意外」

 悩むよりも行動しそうなタイプの少女に見えたからこその率直な意見。そんなやや失礼なルカの言葉に関わらず、一千子は難しい表情のままだった。

「悩んで苦しんで、長女として話をしても五十鈴は決して私にその胸を開きませんでした」

「うん、いっちーとしては苦しいよね」

「ええ。ですが、五十鈴はこうも言いました。

 姉妹だからこそ巻き込みたくないのだと」

「なるほど。だからあたしを頼った、と」

 話としては簡単だ。大島姉妹は家族愛がとても強い。だからこそ五十鈴は一千子に迷惑をかけたくなかったのだろうし、一千子は五十鈴を悩みから解消してあげたかった。

 妥協点、といっては失礼だろうが。そこで白羽の矢が立ったのがルカだったのだろう。五十鈴が姉妹の次に信頼する人物、それがルカ。

 そこに気が付いたルカは胸を張る。

「大丈夫、あたしに任せな!」

「本当、ですか…?」

 一千子は弱々しく問いかける。自分では五十鈴の力になれないこと、そして全てをルカに押し付けてしまっていること。

 その罪悪感が彼女をここまで弱らせていた。

 そんな一千子にルカは優しく微笑む。

「いっちーが悩んで考え抜いて、そしてあたしに頼ってくれたんだ。大丈夫、あたしがなんとかしてあげる。

 どーんと大船に乗った気持ちでいればいいさ!」

「そう、ですか……。本当にありがとうございます」

 そう言って、もう一度深く頭を下げる一千子。

 そうして一千子は葬儀場から立ち去っていく。

 五十鈴をここに呼ぶ、そうルカに言い残して。

 

 30分程待ったか。

 やがて五十鈴が葬儀場に姿を現した。

「……っ」

 その姿を見て、ルカは息を呑む。自信満々に余所様の鍵を開けていた彼女の姿そこにはなく、憔悴して怯える少女がそこにいた。

(こりゃ大事だぞ…)

 心の中で警戒ランクを一段上げるルカ。

「あ、茅森、本当に居た…」

「よう五十鈴っち。大分お疲れだねぇ」

 あまりに普段の様子から離れた五十鈴に、ルカは努めて明るく声をかける。

 そんなルカの気遣いに気が付いているのだろう。五十鈴は弱々しく笑った。

「すまないね、あたしの為に、こんな……」

「言いっこなしだぜ、五十鈴っち。あたしと五十鈴っちの仲じゃないか!」

「そう。茅森に頼っていいのか、茅森を巻き込んでいいのか……」

 たったそれだけの事で悩む五十鈴。相談するだけでも大事。それを理解したルカだがしかし、彼女も生半可な気持ちでここに居る訳ではない。

「なあ、五十鈴っち」

「なんだい…?」

「いっちー、凄く心配していたよ」

「…………」

「あの調子ならさ。ニーナも、みのりんも、よっつんも、ムーアも。みんな心配しているんじゃないか?」

「……ああ、そうさ。あたしは大切な家族を心配させているダメな奴さ」

 自虐の笑みを浮かべる五十鈴に、ルカは力強く笑う。

「でも大丈夫! あたしが相談に乗るよ。だから五十鈴っちは遠慮なくあたしを頼ってくれていいのさ!」

「いいのか…? いやしかし、これはいくら茅森でも……」

 ぶつぶつと呟く五十鈴。どうしたらいいのか、彼女は自分の中で必死に整理をつけているようだった。

 しばらくの時間、自分と向き合い続けていた五十鈴はそれでもやがて顔を上げる。その表情は、先ほどまでと違って悲壮な決意に包まれていた。

 

「茅森、最終確認だ。これは本当にヤバい話なんだ。ここで断ってくれてもあたしは茅森を恨まない。

 それでも――あたしを助けてくれるのか?」

「もちろんさ! 五十鈴っちは何も心配しないであたしを頼ってくれていいんだよ」

 ひたすらに真っ直ぐな茅森を見て、聞いて。五十鈴はようやく覚悟を決めたらしい。ぽつぽつと話を始める

「きっかけはいつもと同じように、軍の中の秘密を暴いている時だったよ」

「うわ、いきなり犯罪の告白が来たよ」

 知っていたとはいえ、五十鈴はやはり犯罪行為に手を染めていたらしい。

「そして厳重なロックがかかった先にあったソレを、あたしは手に入れてしまったんだ」

「そして流れるように共犯にさせられる」

 とはいえ、ここまではいつも通りだ。

(……ここまでがいつも通りって普通にヤバいよな)

 ふとそんな事に気が付いてしまうルカだが、まあ今は置いておくしかない。五十鈴の次の言葉を待つ。

「だが、その機密はとんでもないものだった。金にならず、ただただ危険なだけ。そんなものをあたしは手に入れてしまった……」

「なるほど。その処理に五十鈴っちは困っている。そういうことでいいかな?」

「その通りだ。茅森、もしもあたしを助けてくれるなら、この機密を見てくれるかい?」

 縋るような目で、五十鈴はルカに1枚の紙を渡す。

 ごくりと唾を呑みながら、ルカはその紙に目を通した。

 

 

 今日の気分はパウンドケーキ 甘い甘いお天気模様

 

 私の心もランランラン 今日はお休み いったい何をしようかな?

 

 とっておきのお茶にしようかな 可愛いお人形と遊ぼうかな

 

 表をスキップで歩こうかな それともみんなとお喋りをしようかな

 

 どれもこれも素敵なアイディア 砂糖菓子みたいに甘くて素敵

 

 ころころキャンディーをお口に含んで 今日もご機嫌パラダイス

 

 ピカピカ光る空の下 私の気分はランランラン

 

 とっても素敵な素晴らしい日 今日は思いっきり楽しんじゃうZO☆ 

 

 

「……ポエムだね」

「ポエムだろ?」

 いやまあ、読んでいてちょっと落ち着かなくなるメルヘンチックなポエムだが、これがなんだと言うのか。

 頭に疑問符を浮かべるルカに、黙って最後の一文を指さす五十鈴。そこにはたった短い署名が載せられていた。

 

 手塚 咲

 

「手塚司令官――――!!」

「そうなんだよ、手塚司令官のポエム発掘しちゃったー!!」

 思わず絶叫するルカ。合わせて絶叫する五十鈴。

「え、これ手塚司令官が書いたの? あのクールな手塚司令官が!? これを、このメルヘンを?」

「そうなんだよ! 手塚司令官の白歴史黒歴史を発掘しちゃったんだよ!

 もう、これ、あたしはどうしたらいいのか……!!」

 狼狽する五十鈴。そりゃ狼狽もしよう劇物である。

 どうしたらいいのか。どうしたらいいのか。頭を抱えるルカだが、ハっと気が付く。

(そうだ。あたしはこの秘密を独りで抱えてしまった五十鈴っちを助けてあげなきゃいけないんだ)

 それを思い出せば、解決策はいくつもない。

 よく考えればルカにしかできない解決法も確かにある。むしろこの流れはそれをしなくてはならないだろう。

「五十鈴っち!」

「どうした、茅森! あたしはどうしたらいいんだ!」

「心配するな、五十鈴っち。あたしに考えがある!」

「ほ、本当か!?」

「本当だ! だから一週間、後一週間だけ耐えて欲しい。あたしがなんとかするから」

「そ、そうか。ありがとう。茅森、本当にありがとう!」

「じゃあ五十鈴っち、一週間後、カフェテリアに来てくれ」

「分かった。期待しているからな、茅森!」

 そう言ってその場は解散となる。

 

 それから一週間、五十鈴は怖いような期待するような、そんな複雑な心境で日々を過ごした。

 それでもルカが何とかしてくれる。それを希望にして長い長い一週間が経過した。

 そして約束の日のカフェテリア。

 

『みんなー、来てくれてありがとー!』

 五十鈴には茅森の意図が分からないまま。

 茅森はカフェテリアでライブを披露していた。31Aのメンバーが集まった、いつも通りのライブだった。

(これがいったいどうなるんだよ、茅森)

 不安に駆られながら五十鈴はバンドの観客席にいた。前口上は耳に入っているが、しかしなかなか内容までは彼女の頭に入ってこない。

 そしてやがて曲が始まる。

『今日の気分はパウンドケーキ 甘い甘いお天気模様』

 どこかで聞いたことがある、絶対に秘密にしなくてはいけないそのポエム。

 それがルカたちのバンド、シーレジェの歌詞として流れていた。

(まさか…まさかっ! 茅森、お前まさかっっ!!)

 唖然として歌詞を聞いていく五十鈴。秘密の歌詞が、大勢の観客に向かって大声で歌われていく。

『ころころキャンディーをお口に含んで 今日もご機嫌パラダイス』

(やりやがったぁ!! 茅森、アイツ、やりやがったぁぁぁ!!!!)

 秘密にしなくてはならないポエム。それをみんなの前で大暴露するという、何もかもぶっ壊すような自爆技。

 もちろん歌詞がどこから来たのか知らない観客たちは、シーレジェのライブに大盛り上がりだ。ダラダラと冷や汗を流しまくっているのは五十鈴だけである。

『とっても素敵な素晴らしい日 今日は思いっきり楽しんじゃうZO☆』

 〆の歌詞と共に、ライブが終わる。

 そして歌っていたルカは静まり返った会場に向かって、最後に一言添えるのだった。

『スペシャルサンクス、手塚司令官』

 意味が分からない観客たちは、それでもここにはいない手塚司令官に向かって拍手を送る。

 大盛り上がりで終わった今日のライブの事は、きっと手塚司令官の耳に入るだろう。

 このライブで歌詞にされた手塚司令官のポエムは、多くの人が知ることになった。五十鈴が独りで抱え込むことはなくなったと言っていい。

 だが、それでも。

(茅森、お前ロック過ぎるだろ……)

 爆弾を処理するのにミサイルを撃ち込むようなその所業に、五十鈴は戦慄を覚えざるを得なかった。

 

 ◇

 

 その後の話をしよう。

 五十鈴はルカと手塚司令官の間に何があったのか知らない。怖くて知ることができなかったと言っていい。

(茅森に大きな借りを作っちゃったな)

 そう思いながら、今日も今日とて五十鈴は鍵開けに邁進するのだった。

 

 ◇

 

「茅森ー! また手塚司令官の秘密を発掘しちまったー!!」

「ちょっとは懲りようよ、五十鈴っち!!」

 この騒動の結末は、また別のお話である。

 




今回もネタの提供をいただきました。
『手塚指令のグラビア写真よりも恐ろしい秘密』です。
アイディアはいつも募集しています。

どうかよろしくお願いします。
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