9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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手にした希望《ネクタル》

 

《アンブロシア》か、《ネクタル》か…………より可能性が高いのは? より危険度が低いのは? 

 

 そんなもの……きっと変わらない。どっちも危険で、どっちも希望が薄くて、どっちも信用出来ない。

 

 だから……だからこそ…………! 

 

「《ネクタル》……!」

 

 俺がそう答えると《白》ゴーストは静かにほくそ笑む。そしてそのまま2つの容器を素早く混ぜ合い、琥珀色だった液体の色を変えた。

 

 静かに絡み合うその液体たちは、容器の中を激しく暴れ回り…………

 

「さぁ、出来たぜ」

 

 紅藤色にその色を変えた。

 

 そいつをポイッと雑に投げられ、遂に手元にやってくる。生きるか死ぬか、救うか消えるか、笑うか泣くかの大博打…………そのキーアイテムになる《霊薬》が。

 

 待ってろよ天ちゃん、俺が絶対消えさせない。絶対に……絶対に忘れさせないから。

 

「…………ふんっ!」

 

 容器を逆さに持ち、後ろにある突起を押すと割と太い針が出てくる。こいつを刺すか、中身を飲むかどっちかすればいいんだ。

 

 でも俺は敢えて刺す。こんなことになったのは俺のせいでもあるから、その積として。

 

 そして……1度でも忘れてしまった自分への罰として。

 

 ……指した場所は心臓にあたる場所。そこから一気に中身を注入する。

 

「…………後は頼むぜ《白》。そんで……大将」

 

 その声が聞こえてきたのとほぼ同時に、《黒》ゴーストは俺の魂に溶け込むように消えていった。

 

「──────ッ!?!?」

 

 そして突如として襲ってくる衝撃。全身の血が暴れるようにばげしく走り回る感覚。

 

 心臓の鼓動の一つ一つが鮮明に感じ取れる。それは明らかな《異常》、芯から湧き上がってくる熱が身体の内部を焼き尽くすように広がっていく。

 

「もう後戻りは出来ねぇぜ。それじゃあ行くか、お友達を助けによ」

 

「…………!!」

 

 ほんの少し意識がぼんやりとしてくる。街並みはゆらりと揺れ続け、身体のバランスが保てない。

 

 だが、そんな俺の身体を《白》ゴーストは支えるように肩を貸してくれた。

 

「なんで……そこまでして…………?」

 

「オレの創造主の命令でもあるし、アンタにゃあ借りがある。それとまぁ……………………いや、なんでもねぇ」

 

 なんでだろう。たった一瞬だけだが悲しい顔をした。

 

 言葉の出だし、コイツの創造主のことを話した時だけ、切なそうな顔をした。

 

「……全部助けるから。天ちゃんも……街も……」

 

「お前も……!」

 

 そしてそのタイミングで、俺たち2人は街中から姿を消した。

 

 飛びそうな意識の中、風を切るような音に紛れて聞こえてきたのはなんだったんだろう? 移動の瞬間に、何かが聞こえてきた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは最初はわからなかった。

 

 移動してきた場所は真っ暗闇に包まれており、明るいところから急に移ったからかまだ目がこの明るさに慣れていない。

 

「さぁ、着いたぜ」

 

 そしてパチッと何かにスイッチが入り、色がついた場所で前方を見ていると…………

 

 部屋の中で静かに涙を流している天ちゃんを見つけた。

 

「……さが、探したぞ……天ちゃん

 

「先輩…………なんで……ここに……?」

 

「決まってんだろ…………忘れ物を取り戻しに来た……!」

 

「……やっぱり、先輩だったんですね。ずっと探してくれてたのは……」

 

「大事な仲間なんだ……諦めるもんか……!」

 

 フラフラな足取りで天ちゃんに詰め寄り、その手をギュッと掴む。

 

「…………!」

 

 彼女は泣き続ける。静かだったその部屋にしゃっくりのような呼吸と鼻をすする音を響かせながら。

 

 そこに存在している為の音を出す。

 

「朝……一緒に学校行ったとき、もう既にこうなってたみたいで……!」

 

「教室に入ったら……だれも返事してくれなくて…………!」

 

「スマホにも反応されなくなってて…………!」

 

「家に帰ったら…………あたしが()()()()……!!」

 

 素直に、彼女の言葉を聞き続ける。

 

 時たま相槌を打ちながら、俺は見えているぞと、君はそこにちゃんといるよって伝える為にしっかりと返事をしながら。

 

「でも……先輩だけがあたしを見つけてくれて……! ずっと……ずっとRINGで追ってくれて……」

 

 ……そうか、あの時は焦ってとにかく連絡を送り続けてただけだったけど…………通知が届くとスマホはタップできなくても起動する。それで確認はできたんだ。

 

 俺が天ちゃんを覚えているってことを。

 

「でも、お兄ちゃんからも消えちゃってたから……先輩からも消えちゃったら……あたし…………あたし………………!」

 

「……大丈夫。翔はもうしっかりと思い出し始めてる」

 

「え…………?」

 

「最後な、翔と別れたとき……言ってたんだ。って」

 

 それに…………最後の瞬間までここにいたってことは、きっと願っていたんじゃないか? 心の奥底では、やっぱり期待してたんじゃないか? 

 

 俺も気がついた時は驚いた。たった一度しか来たことないけど、最近のことだから覚えてる。

 

 ここは翔の部屋だ。

 

 テーブルやベッドやノートパソコン、必要最低限で済まされた娯楽の少ないこの空間は、間違いなく翔の部屋。

 

 多分待ってたんだろ、アイツが来るのを。

 

 だから考えを変えた。天ちゃんの心の願いがそうなんなら、俺はそれを叶えたい。きっとそれが…………俺の起こすことが出来る《奇跡》なんだ。

 

「翔は必ず思い出す! 絶対に絶対に思い出している! だから…………諦めないでくれ、生きることを、進むことを、夢を見ることを…………翔に会うことを」

 

「うん…………!」

 

 だから……今こそ目覚めてくれ。

 

 ほんの少しでいい。1分でも2分でも……! たったそれだけでいい。

 

 暴走しろ…………! 俺の力……! 

 

 

 

 

 

 

 

を救えッ!! 

 

 

 

 

 

 

「《オーバーフロー》ッッッ!!!」

 

 その瞬間に身体中から溢れ出る無数の光。

 

 蒼色に染まったその輝きは、あちらこちらへと暴れるように輝きを放つ。

 

「へぇ…………これが《奇跡の力》、やるじゃん」

 

 なっ……!? なんだこれ…………!!! 

 

 力が……、抑えきれな────ッ!!!! 

 

「た、竹内先輩!? 紋章(スティグマ)が全身に…………!」

 

「……能力は上手く引き出せたみたいだな。あの嬢ちゃんの事も何とかなったみたいだ」

 

「え? …………え?」

 

「オレの創造主がアンタを思い出した。新海 翔には妹がいるってことをな」

 

 …………だめだ! 

 

「あが……! あがががごごががぎぁ………………!!」

 

 声にならない声を発してしまう。それだけ胸の内から溢れ出る魔力に為す術もなかった。

 

「まぁ、アンタの問題はどうにかなったと思うぜ? その答えはきっとすぐ分かるだろ。ほんじゃま、オレはオレの仕事をしますかね」

 

「……があっ……!? ぐっ…………ぐるしぃ…………!!!!」

 

「じゃあな、中々貴重な時間だったぜ?」

 

「ちょっ、ちょっとゴーストさ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《視点切り替え》

 

 

 翔の妹に適当な別れを済ませたあと、オレは蓮太に触れて能力を使う。

 

 もちろん使用した能力は《瞬間移動》だ、そしてやってきた場所は人気のないビルの屋上。

 

 人気のないってか昔オレがコイツと戦った時に使っていた場所、廃ビルの屋上だ。

 

「さて…………と」

 

 テクテクと歩きながら蓮太から離れて、奇妙な声を絞り出しているアイツと対面する。

 

「やっぱりそうなっちまうよなぁ……いくらアンタでも厳しかったか」

 

「ぐがあああぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 

「まるで化け物だな、せっかく男前だったのに…………勿体ねぇ」

 

 トントンっと靴のズレを直していると、アイツは精神に限界が来たのか白目を剥き出しにして能力を完全に暴走させる。

 

 次第に紋章は蒼色から真っ赤に変わっていき、それだけ精神状態が不安定だということを感じることが出来た。

 

「乗りかかった船だ、《黒》とも約束してるし…………ちゃんと守ってやるから安心しろよ?」

 

 ひたすらに叫び続けている蓮太は空間を破り捨て、その欠片を《鏡》に変えて辺り一面に飛び散らかす。

 

 まるでオレを逃がさないと言うように。

 

「明らかに既存の能力の限界を超えてるな、2mなんてもんじゃねぇ、こりゃあ…………このビル全体くらいは範囲に入ってそうだな」

 

「ハァー……! ハァー……!」

 

 今にも叫んだりして奇行を行いそうなほど理性を失った蓮太は、獲物を見つけた獣のように這いつくばり、オレを睨む。

 

「しかも能力を暴走させるだけじゃなく、体まで動くのかよ………………ったく、オレは《黒》と違ってちっとも傷が癒えてないんだぜ? オレの創造主サマはそんなこと気にもしてなかったからな」

 

「つっても約束は約束だ。少々手荒だが、ちょっとの間眠ってもらうぜ? 悪ぃけどそれ以外にアンタを止める手段がねぇんだ」

 

 見た感じ能力が暴走しているのは《反射》の能力、つまり…………《鏡》の力と《奇跡》の力。アイツが出てきてないことを考えると…………幸い《幻体》の方は無事っぽいな。

 

 でもまぁ……主人がこうなっちまってるんだ。アイツが出てきたとしても厄介になるだけか。

 

「グルルルル………………」

 

 とにかくまずは気絶させるとこからだな。流石に完全に意識を失えば能力も解除されるだろ。

 

 あんまり期待できないけど…………まぁ最悪ここなら被害は出ないし、思う存分やらせてもらうとしますかね。

 

「まぁ、今のオレがちゃんとアンタを()()()()()だがな」

 

 さっきコイツを殴っただけで、正直拳が震えるほど痛かった。走り回るとズキズキ響くし、見た目を変えられて姿は綺麗だけど、本当はまだボロボロだ。

 

 動けているのが異常なくらいに。

 

 正直、勝つのは無理だと思う。でも、勝てないからって挑まない理由にはならないよな? 元とはいえ()()が認めた創造主(パートナー)なんだ。

 

 …………そろそろやるか。

 

「じゃあ……約束通り、コイツを止められたら交渉してくれよ? オレも()()()に行けるようにさ、《黒》」

 

 そしてオレは、指を軽く鳴らして数本の赤い槍を出現させる。

 

《魔眼》は絶対に使わない。オレの中の殺意を押し殺す為に。

 

 

 

 

「さて……あん時のリベンジ戦といきますか」

 





こんにちは主です。
運命の選択ありがとうございました。選ばれた霊薬を手にしたあと、どんな結果になるのかお楽しみ下さい。
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