9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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白黒の二つ目の力

 

 破裂するような勢いの閃光、それが輝きを弱めた頃には蓮太の赤黒い紋章もその強さが抑えられていた。

 

 弱くはなっている。なってはいるが…………やはり強がっていてもこれが限界だったんだろう。完全に消しきれていない。

 

「ぐっ…………! ぐぐぐ………………!!」

 

「ダメか……!? 天…………ッ!!」

 

 しかし暴走が抑えられている証拠に、蓮太を取り囲んでいた風と鏡も荒れ狂う動きを止め、時間でも停止したようにその場に漂っている。

 

 きっと消滅の力とぶつかり合っているんだ。それほどまでに見えない力で新海 天は戦っている。

 

 歯を食いしばって、決してその力を緩めずに。

 

 オレも何かしなくちゃ……! 

 

 少しでもアイツの隙を作れるように能力を使おうとするが…………ダメだ。()()()()()()

 

 そうだ、オレには契約者が居ないんだ。だから何も力は宿されていない。

 

 …………クソっ! クソっ! せめて…………身体が動けば……! 

 

 と、その時、オレの近くにある階段へ続く扉が勢いよく開かれる。

 

 その視線の先にいたのは、羽のようなヘアピンを髪に留め、白い制服に淡い桃色のニットパーカーを身にまとった女。…………九條 都。

 

「本当に…………ここにいた……!!」

 

 一瞬オレと目が合い、途中までオレの様子を見るために駆け寄ってきていたが…………それを止める。

 

「待てっ! オレよりも先にアイツらを!」

 

「でっ、でも……!」

 

「新海兄妹が蓮太を抑えてる! あれだけ弱った力ならアンタの能力で奪い取れるはずだ!」

 

 心ではまだ迷っている様子だったが、必死になって戦っている2人を見て、覚悟を決めたようだった。

 

「わ、わかりました……! じゃあ竹内くんのアーティファクトを────」

 

「じゃなくていい!」

 

「えっ?」

 

「蓮太の心臓にある紅藤色の液体を取り出せ! それさえ無くなればリンクは正常に戻るはずだ!」

 

 暴走したままのアーティファクトなんかを奪っちまったらお互いにどうなるかわかったもんじゃねぇ! 既にあの暴走は《異常》なんだ、全員が無事で済むとしたら…………それしかねぇ! 

 

「は……はいっ!」

 

 若干後ろ髪を引かれながら、あの兄妹よりも少し前に出て、片腕を差し出すように前方へ出す九條 都。そしてその能力を解放し…………

 

「どれ……? 竹内くんを狂気に走らせたのは…………!」

 

 手の甲から放出された光が導かれるように蓮太の心臓へと向かう。

 

「これは違う……これも…………これでもない…………液体、液体…………!」

 

「…………ッ! あった!」

 

 閉じていた瞼をカッと見開き、開いていた手のひらを引き寄せるようにして閉じる。

 

 その腕は自身の胸の辺りにまで引っ込めていた。

 

「みゃ……みゃーこ先輩…………も、もう…………!」

 

「お願い……成功して…………ッ!! …………………………えいっ!」

 

 九條 都が力強く何かをギュッと握りしめると、突如として蓮太の身体から薄くなっていた紋章が完全に消える。

 

 辺りに漂っていた鏡の欠片もひとつ残らず消滅し、風も吹きやんだ。

 

 そしてその途端にへたりと尻もちを着く新海 天。

 

「どうっすか……? みゃーこ先輩」

 

 はぁはぁと息を切らしながら、新海 天は九條 都に問いかける。

 

 そして……………………

 

「これ……だよね?」

 

 九條 都はその小さな手を開くと、手のひらで作った皿に例の色の液体が収まっていた。

 

 ぽたぽたと床に落ちていっているが、どうせ捨てるものなんだ、それはどうでもいい。とにかく……薬は取り出せた。作戦は成功したんだ。

 

「じゃあ……竹内くんは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《視点切り替え》

 

 

「うっ…………うぅ…………!」

 

 なんだろう? 軋むように身体が痛い。頭もクラクラする。

 

 謎の痛みを我慢しながら俺は顔を上げる。何がなにやら全く分からないからだ。そもそもとして何かが起こっていることすら分からない。

 

 そして辺りを見渡そうとしたその瞬間────誰かから抱きつかれる。

 

「うぐっ──!?」

 

 視界に映ったのは翔と九條さん。そしてその奥にいる《白》ゴースト。

 

 そして力いっぱいに俺を抱きしめているのは…………

 

「天……ちゃん? どうしたんだ?」

 

「ぶえっぶおうおぇ……あぅえぅばべえぅおうぇ!!!」

 

「ごめん全然わかんねぇ……」

 

 俺の肩に顔面を擦り付けながらぐりぐりと顔を押し付ける天ちゃん。…………これさ、泣いてるんだろうけど、多分俺の服に涙とか拭いつけてるよな。

 

「蓮太、さっきまでのこと覚えてるか?」

 

「いや……まったく」

 

 翔から優しく質問されるが……ぶっちゃけ何も覚えちゃいない。俺は確か…………天ちゃんをどうにかして助けて…………ん? 助けたのか? 

 

 なんて考え事をしていると、とっさに九條さんが両手を後ろに回して、何かを隠すようにした。

 

「……?」

 

 そんな事を不思議に思っていると、雑に開けられた扉から香坂さんと希亜が大慌てでこちらに走ってくる。

 

「竹内さんはっ!?」

 

「どうにかなったようね」

 

 未だに焦り続けている香坂さんに比べ、俺を一目見ると顔色を変えて妙に落ち着く希亜。軽く深呼吸をしたあと彼女は倒れているゴーストに肩を貸し、俺のとこまで歩いてくる。

 

 なんで……ゴーストはこんなに疲弊してるんだ? 

 

「無事かよ、アンタ」

 

「あ、あぁ。なんとか」

 

 やれやれと言った感じで、ゴーストは俺を見下ろしてくる。その目には輝きはなかった。

 

「なぁ、なんでお前……そんなに怪我してるんだ? 腕とか腹とか…………」

 

「かすり傷だ、気にすんな」

 

 いや、そんなわけない。吸い込まれそうな程に黒く残った傷跡には何かに貫かれたような痕跡がある。

 

「かすり傷ったって…………」

 

「だからなんもなかった」

 

「んなわけあるかよ! と、とにかく早く治してもらえ! 言いたくなきゃそれでいいから、まずは一旦主人の元へと帰れ!」

 

 コイツも誰かの幻体なんだ、きっと俺と同じやり方で傷を癒すことができるばず! 

 

「……そうだな、オレは還るよ」

 

 ゆっくりとゴーストは目を閉じていく。まるで今すぐにここで寝てしまうように全身の力を抜いていく途中で、希亜が声をかけ止めた。

 

「待ちなさい」

 

「……あ?」

 

 そうしてゴースト似て渡すのは何かの《容器》。あれ……どっかで見たことあるな。たしか……《黒》を取り込んだ時に飲んだやつだ。

 

 じゃあ……アーティファクト? 

 

「お前……これ……なんで?」

 

「私たちが遅れた理由、それはある人物を追っていたから。そしてなんとかその人物にたどり着いたあと、私がその人物とほんの少しだけ会話をしたの」

 

「その時に言っていた。「使い物にならないから要らない」って。その時に捨てていった物を拾っておいた」

 

 ……? どういう事だ? つまりはこのゴーストの契約者と対面したってことか? 

 

「希亜、なんでそんなことを……?」

 

「この廃ビルを嬉しそうに見ていた怪しい人物。問ただせば得るものがあると踏んで九條さんにこの場を任せた。香坂さんと2人だったけど、相手の《槍》の能力で少しの間分担されたの」

 

「そしてその中でさっき言った流れでこれを手にした。そしたらその人物はそれがアーティファクトと言ったから、前に蓮太の言っていた情報と照らし合わせて、貴女の物という可能性が高かったから渡したのだけれど……違う?」

 

「いや……オレのだ」

 

「その人物って?」

 

「名前は分からない。ただ覚えているのは、青色の頭髪に紅い瞳、そして少し小柄な男性だったわね。ハッキリと姿が見えたのは分担されてからだから……私しか目撃していないのが残念だけど、正直この街じゃあそんな人はかなりいるわ。あまり当てには出来ないかもしれない」

 

 まぁたしかに……髪色を変えている人や瞳の色が赤い人なんて結構いる。未だに泣きついている天ちゃんみたいに銀髪の子だっていくらでもいるし……まぁでも貴重な情報ってことには変わらない。

 

 ってそれよりも…………

 

「それじゃあお前……契約者がいないのか?」

 

「…………」

 

 少しずつ瞳に色がもどりつつあるゴーストの返事を待っていると、感情をなんとか落ち着かせた天ちゃんが、見上げるように俺に顔を向ける。

 

「あ、あのね……ゴーストさんが1番頑張ってたんだよ? あんな大怪我までしちゃっても、ずっとずっと…………先輩を守って頑張ってたの、あの……だから…………」

 

 ……誰かと戦っていたりしたのか? 

 

 俺の気絶している間、ずっと守ってくれた? 《白》が? 

 

 あの《白》が? 

 

「契約してあげてください……!」

 

「えっ……?」

 

 意外な言葉だった。軽くとはいえ、俺とこの《白》ゴーストとの関係は一応みんなには伝えてある。殺しあっているような仲だということも、助けたい相手だということも。

 

「先輩の幻体も元々一つだったんでしょ? だったら一緒にいた方がいいと思うの……!」

 

 え、あ、いや……そりゃそうだが……

 

 なんなんだ? この異様な懇願というかなんというか……なんでこんなに必死なんだ? 

 

「それは俺が決めることじゃなくてだな……」

 

「……ん」

 

 本人に聞いてみないと、っと言いかけた時に《白》ゴーストから例のアーティファクトを手渡される。

 

「……まぁいいか、どうせ俺も味方にスカウトしようと思ってたしさ」

 

 言葉数自体は疲労のせいなのか少ないが、あの会話の流れでこれを手渡したってことはそういうことだろう。

 

「じゃあ……ウチに来るか?」

 

 ポンっと蓋を投げるように外して、その中身を飲む直前で再確認する。

 

「あぁ」

 

 初めて見る《白》の少し大人びた静かな笑みを見て、その覚悟を受け入れる。

 

 そして液状になったアーティファクトを飲むように体内に入れ込み…………

 

 身体に能力が馴染み始めると、俺に吸い込まれるように《白》は消えていく。

 

「これからよろしくな、蓮太」

 

「これからよろしくな、ゴースト」

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