9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
ズキン────
胸の奥、心臓ではない見えない何かが痛む。実質3つ目のアーティファクトをとりこんだ瞬間だ。
「あ、あの、だ、だい……じょうぶ……でしょうか……?」
「──ッ、あぁ、大丈夫」
香坂さんの声でふと我に返る。そしてとりあえず俺たちが繋がったのかを確認するために…………
「おう」
「ん」
《白》と《黒》を両方呼んでみた。
外見はそのままに、《白》の方だけ傷が癒えているように隠す。
「……何度見ても慣れないわね。複数の聖遺物と契約を交わすなんて」
「まぁそう言うなよ希亜」
ちょんちょんとあぐらをかいて座る俺の足に手招きするように《白》を呼び、座らせようとする。《白》はその後の俺の考えを読み取ったのか特に抵抗せずに身体を寄せてきた。
「んでざ《黒》、あの方法以外でどうにかして回復してやれる方法ってないの?」
もちろんあの行為をしてしまえば一気に回復に向かうんだろうが……如何せんこの人数に囲まれてするような事じゃない。
しかも原理が分からない上、俺もアホみたいに疲れるからな……やるならベッドの上がいいだろう。
「首筋に手を当ててやりゃあいい。回復速度は比にならねぇくらいおせぇけど、何もしねぇよりはマシだろ」
「へいへい」
フードの隙間からゆっくり手を入れて、髪をかき分け首筋に触れる。すると確かにそこから何かが吸収されているような、何かを失う感覚が。
昔見たラーメン忍者の漫画で医療忍者はこんな感じで治療してたな。
「何してんだ?」
そんな翔の疑問。いや俺が何されているのかを知りたいんだけどさ。
「知らね。俺が協力すれば傷が治っていくんだとさ」
「アーティファクトは魂の契約だ、欠けて傷ついた魂を癒す方法は自然回復か繋がりの強い魂から欠けた部分を補ってもらうこと」
淡々とした《黒》の説明が始まる。
「つまりは大将の魂に宿っている治癒能力を分けてもらってるってことだ。だから分け与える側のアンタも傷つくし、分け与えられる側は傷がみるみる癒えていく」
ふーん……それで1番効率のいいやり方がキスなわけね。
まぁみんな疲れてる様子だし、休憩がてらもう少しここでこうしていようか。
「ま、もうちょい待ってくれよ。ある程度これが済んだら帰ろう」
「だな」
各々が適当な場所に座って、ひたすらにゴーストの回復を待つ。そしてそんな待ち時間の何気ない会話の中、九條さんがある質問をした。
「そういえば……2人のことはなんて呼べばいいのかな?」
「え?」
「だってほら、竹内くんは2人に《ゴースト》って呼んでいるでしょ? お名前が同じだったら混乱しちゃわないかなって」
「あ〜確かにそうですね、先輩はその……魂? で繋がってるから分かるかもだけど、あたし達は全然わかんないし」
「そうだな、俺と天が2人とも《新海》って呼ばれる様なもんだろ?」
確かに紛らわしいな。同じ呼び名で呼んでいると周りが混乱しそうだし……特にこの事情、アーティファクト関連を知らない人に説明する機会があった場合、ゴーストですって言うのはちょっと痛いよな。
「らしいよ? どうする? 2人とも」
「オレは別に今の名に未練はねぇし、変えるなら勝手に変えてくれ」
「オレもだな、呼びやすいようにすればいいんじゃねぇの?」
……うん。早急に決めるか。いざそう考えてみるとマジでどっちが何を言ってるかわかんねぇ。
にしても名前…………か……せっかく一生に一度の特別なものなんだから、真剣に決めないとな……
「ちなみにさ、みんなならどんな名前がいいと思う? この2人を見て」
姿形は簡単に変えられるけど、彼女たちのイメージがもうこの姿に当てはまっちまってるから今更姿は変えたくねぇし、この見た目のイメージに合う名前を考えてみよう。
そしてしばらくこの場にいる全員が名前を考え始める。そして一番最初に意見を言ったのは翔だった。
「《レナ》ってのはどうだ?」
《レナ》? え? これが…………世界!?
「レナ……レナ…………?」
まぁ漢字変換してもおかしな名前にはならないっぽいし、本人たちがそれでいいのなら別にいいけど……なんでレナ?
なんて疑問に思っていると、天ちゃんが横からボソッと質問をした。
「
「あっ! こいつ……! 気づきやがった……!」
「兄妹らしいやり取りね、わかるように話して欲しい」
あ、ナイスツッコミですよ希亜さん。俺もついていけない感じだったし。
「あぁ……だから……天が産まれた時、ウチのおかんが悩んでたんだよ。天って書いて《ソラ》にするか、月って書いて《ルナ》にするかで」
「いやね、天って書いて《ソラ》にするのもどうかと思いますけどね、月と書いて《ルナ》になんてされていたらもうそれは裁判ですよ、産まれて直ぐに改名の裁判かけてますよ? あたしゃあ」
そうか? 言うほどルナって名前悪いかなぁ? 俺は普通に可愛いと思うんだけど…………俺だって月と書いて《ライト》って呼んで欲しいし。そしたら新世界の神目指すわ。
「で、でも! 可愛いと思いますよ!」
「そうっすかねぇ〜《ルナ》って名前にするなら、にぃには《トリガー》ってすべきでしょ」
それどこの探偵?
なんて考えてしまうような会話をする香坂さんと月ちゃ────天ちゃん。
…………ん?
「ちょっと待って、妹に付けられるはずだった名前をつけようとするなんて……翔、お前まさか2人のゴーストを妹のように思ってるってことじゃあ…………?」
「違ぇよアホかよ」
と、ここで希亜の更なる追撃。
「シスコン?」
「違う! 断じて違うッ!!」
必死になってる所が怪しさを増させますよ? 兄貴。
あー、ほら見て、このゴーストの冷ややかな目を。もうほんっと冷たい目をしてる。心の底から気持ち悪いと思ってる目だこれ。
そっかぁ……翔がシスコンかぁ…………うん、まぁ…………うん。
「ほらっ! とっと、とにかく他の案は!? なんかないの!?」
「なんだよ〜! 妹のこと大好きかよ〜!」
「違ぇよ! バカ!」
「素直になれよ〜!」
「死んでしまえ」
「ひどいっ!?」
…………仮にもさっき消えかけてた相手にそれ言っちゃいますかね。
まぁ……本人たちは冗談のつもりだろうし、周りもそれをわかってて笑ってるっぽいし、あんまり深くは気にしない方がいいのかな。
天ちゃんも嬉しそうだし。ドMなのかな?
なんて考えていると、香坂さんが恥ずかしそうにもう一つの案を出した。
「じ、じゃあ《すーこ》ちゃんは────」
「「却下」」
「はぅっ〜…………」
即答っ!? それ酷くね!? あ、いや、すーこもだいぶ酷いけどさ!? お前ら2人結構キツいのな!?
「俺は可愛いと思うよ!? すーこって名前も! な!?」
そう言って九條さんに助けを求めるが…………
「え!? あ……ぁ〜……う、うん! か、可愛いと……思いますよ!」
お前どんだけ嘘下手くそなんだよ! 前に成瀬センセが言ってたことが何となくわかったわ!
「じゃあ希亜は────」
「二つの共有体……《白》はタナトス。《黒》はヒュプノス。あえてそれぞれを連想させるイメージを入れ替えることで、お互いに必要不可欠な存在だと────」
「はーいもういいでーす」
「ぅ…………、そ、そんな言い方っ」
このタイミングでそっちのスイッチが入るのはマズイ。下手したらマジですごい名前をつけられそうだ。
「じゃあ逆に蓮太はどうなの? 貴方ならどんな名を名付けるの」
「えっ? 俺? えぇーっと………………」
名前……名前…………
「星の白金と世界?」
「「ふざけんなっ!!」」
ゴーストたちから怒りの2連撃を食らう。《白》からは後頭部でヘッドバット、《黒》からは普通にゲンコツ。
この子たち契約相手に容赦ねぇ……
「じゃあセックス・ピスト────」
「セッ……! セック…………!!!」
「セック○☆×%!?」
俺がそれを言いかけたその時に素早い反応速度で九條さんと香坂さんが呟いた。
てか香坂さんに至ってはほぼ叫んでた。
「…………」
なに? この明らかな過剰反応。別にそういう意味じゃないよ? 俺の知ってる漫画のキャラクターの名前がそうなだけで、別に変な意味じゃないんだよ?
「とっ、とととととととにかく! 《レナ》ちゃんでいいの? エロパイ!」
「俺に聞くなよ、つかエロパイ言うなよそう捉えたのアイツらだろ」
はぁ……と軽くため息を吐いたあと、改めて2人のゴーストに聞いてみる。
「どうなの? なんかみんなこんな感じだから、希望があるならそれにする」
ラインナップが微妙だからな、俺は別に《レナ》と《ルナ》でいいと思うけど…………
2人は顔を見合わせて、なにか意思疎通をしたように頷き、ある言葉を口にした。
「「大将の文字をくれよ」」
「…………は?」
主人公の恋人は?
-
九條 都
-
香坂 春風
-
結城 希亜