9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「ついに…………この日が来ましたね」
「えぇ……来た。いえ………………きて
テクテクと店の方へと歩いていくと、香坂さんと希亜が店の真正面の道の真ん中で靡く風に負けないようにと堂々と立ち尽くしている。
「覚悟は出来ていますか……? 希亜ちゃん……!」
「当然、貴女は?」
「出来ています……!」
というか後ろから近づいてきている俺たちに気がついていないようだ。
それに……なんだ? このゲームのラスボスと戦う直前みたいな雰囲気……つかなんでこんなにも格好よく向かい風が吹いてるんだ?
「では……行きましょうか……………………猫カ────」
「なーにやってんだ? こんな所で」
「ふぇぇぇぇぇっっ!?!?」
「うおっ!? びっくりしたぁ……」
無駄に格好つけている希亜に声をかけると、彼女はビクッ! と身体を縦に伸ばして驚き飛んだ。
もちろんそんな反応されたから俺も同じくらいびっくりした。
そして続けて声をかける暇もないくらいの速度でクルっと少し涙目になった希亜が振り向く。
「…………ッ!」
「あ、あの……いきなり声をかけたのは悪かったよ……まさかそんなに驚かれるなんて…………」
「……今回は背後を簡単に取られた私にも非があるから許す。けれど…………2度目はない」
「それお前のさじ加減じゃねぇかよ……」
なんて会話をしている間に、九條さんと香坂さんは割と楽しそうに会話を弾ませていた。
…………つかいつの間にか香坂さんが意外と普通に喋ってる。
「九條さんも猫ちゃんが好きだったんですね! わ、私もとっても大好きで、今日こそはこのカフェに入ろうって思って来たんですが……どうしても勇気がでなくて……」
「ふふ、確かに初めて入るお店にはちょっと緊張しますよね」
「んで、希亜も猫が好きだから意気投合してここにやってきたと。でもコイツもコイツで全然度胸がないから中々店に入れない……と」
「……。喧嘩……売ってる?」
「いや事実だろ? さっきからずっとウロウロしてんじゃん」
「そっ、それっ……は…………!」
明らかに怪しかったぞ? あの動き。何度も何度も扉の前を行ったり来たりして、中をチラチラと覗き見てみたり、それが終わると仁王立ちしてるし。
「何をそんなにガチガチになってるんだ? 入りたきゃ入ればいいじゃん」
「ま、待って下さい! まだまだ猫様の下僕として未熟すぎる私が何の覚悟も無しに入店するなんて……………………オェッ…………」
ん? なんでいま嘔吐いた?
「いや……下僕かなんか知らないけど、とりあえず落ち着いて……」
プルプルと身体を震わせる香坂さんをなだめながら、改めて店の中を覗き見てみる。すると中には割と可愛らしいたくさんの種類の猫たちが既に入店している客たちと楽しそうにじゃれあっており、猫好きならば憧れを抱くのも無理ないと思う。
けど入ってもいないのに既にここまでやられてたら……入店したら死ぬのでは?
「やっぱり……私たちにはあまりにも難易度が高すぎます……MR500ぐらいのクエストです……」
「すげぇな古龍よりも強いのか……猫って」
しかもよりにもよって《M》の方かよ。
「まぁとりあえずさ、それならあそこに行けばいいじゃん、あの…………ほら人懐っこい猫がいっぱいいる公園」
さっきも九條さんはなんだか猫が好きみたいだったし……みんなで行けば楽しめるんじゃない?
「あの噂の?」
「学園でチラッと聞いたんだよ、なんか地域猫が多い……みたいな? ここからなら遠くないし……そっちに行ったら?」
「ねこ……さま……」
…………
……
……
市内で最近噂になっている猫が沢山多い公園。噂通りにそこかしらに大きい猫やら小さい猫やらがにゃーにゃーと沢山いる。
石像を見つけた公園よりも倍くらいの広さがあり、真ん中に噴水が設置されている。軽いデートスポットにでも割と良さそうだ。俺が誰かと付き合うなんて想像も出来ないけど。
とまぁそんな雰囲気が良い公園を歩く4つの影。
「あのさ……なんで俺まで?」
「蓮太が薦めたのでしょう、この公園なら……と」
「まぁ金かからないからいいけど」
とりあえず近くのベンチに座りたくてテクテクと歩いてその場に座る。そしてみんながいる方にチラッと視線を向けると、早速香坂さんがたくさんの子猫たちに囲まれて捕まっていた。
「の、のののの! 希亜ちゃんっ! ね、ねね、猫ちゃんがこんなに……っ!?」
「なっ!? は、春風! そのままよ! そのまま────」
元気いいなぁ……って好きな動物が目の前にあんなに沢山いたらテンションも上がるか。
ま、楽しいなら何よりだ。希亜が近づいた瞬間にみんな逃げてったけど。
…………明らかに落ち込んでる。ははっ。
「楽しいの? 竹内くん」
あの2人をボケーッと眺めていると、いつの間にか隣に座っていた九條さんが1匹の猫を可愛がりながらそう声をかけてきた。
「ん? なんで?」
「ちょっとだけ笑ってたから」
おっと……表情に出てたのか、気をつけとかないと……
「まぁ……うん。楽しい」
「ふふっ」
九條さんは軽くそう笑うと、ずっと撫でていた猫を自由に逃がして、どこか思い耽るように空を見ていた。
「やっぱり、今日みたいな何も無い日が私は好き」
「何も無い? テストがあったじゃんか」
「そうじゃなくて、なんて言うんだろう? 当たり前のように学校へ行って、お勉強をして、バイトをしたり、友達同士で一緒に遊んだり、そんな《普通》の日常がなんだか久しぶりに感じて」
「あー……まぁ、ココ最近は結構切羽詰まってたからな。…………いや、今もまだ何も解決してないんだけどさ」
軽く目標が出来ているくらいで根本的な解決なんてまだ何も出来ていない。あのアーティファクト所持者の集団の中に《魔眼》のユーザーがいる可能性が高いだけだ。確証もないし対処のしようも……今はたった一つの《アンブロシア》か九條さんの能力しかない。
「でも、たった1日だけどこの1日を護ることが出来た。それは竹内くんのおかげ」
「……?」
「なんで? って顔してるね」
「俺は別に大したことしてないからね、どっちかって言うと周りの足を引っ張ってばかりだ」
「そんな事ないよ、気がついていないだけで竹内くんはたくさんの人を救ってる。天ちゃんの件もゴース……レナさんとルナさんの件も、結城さんの事も香坂先輩の事も。そして…………私も」
「わかんねぇな、それらは全部成り行きの偶然だし、希亜と香坂さんに関してはマジで俺は何もしてねぇ……っつーかあの2人には何かあったの?」
九條さんはともかく、天ちゃんとレナルナに関してはまぁ……思い当たるところはある。けど後者の2人に関しては何か問題があったことすら知らないし。
「結城さんはね、名前を知ったのは最近だけどずっとお店に来てくれている常連さんだったの」
……へぇ、希亜が。まぁあの店は学生ならほとんどの人がお気に入りだろうし別におかしな話ではないよな。
「あの頃は全然笑ったりもしてなくて、ちょっと冷たい人だなって思っちゃってたんだけど……竹内くんと話す時は楽しそうに笑うの」
「そうか? あんまり変わんねぇだろ」
「ううん、全然変わってるよ?」
「へぇ……」
……アイツ笑ってるか? 大体怒らせてばっかりだからそんなイメージ全然ないんだけど。
いつも謝ってる俺しか思い出せねぇ。さっきも謝ったし。
「香坂先輩もね、最初に声をかけた時は男の人が怖かったみたいで、その影響か私と天ちゃんにもちょっとぎこちなかったりしたんだけど……新海くんと竹内くん相手にはあんまり緊張しないみたい」
「まだ若干ぎこちなさは目立つけどな」
「ふふっ、でもすっごく変わったよ2人とも。そのキッカケには全部竹内くんが絡んでる」
「気のせい気のせい」
軽く足を組んで、両手で頭を抑えるように腕を回し、俺も顔を上にあげる。
今日は本当に天気がいい。雲ひとつない晴天だ。
風が心地いい。
「でも、そんな《日常》をこれからも味わう為にも、やっぱり探さないといけないよな。あのユーザーたちを」
「……そうだね。今の私たちに出来ることはまだ少ないけど……時間の猶予も無限にある訳じゃない。次の犠牲者が出てくる前になんとかしてアーティファクトを回収しないと」
力をつけてから挑みたいけど……力をつけ終わってから捜索を始めるもの違う。やっぱり同時進行していかなきゃいけないよな。
「明日は時間ある? いったん都合が合う時にこれからの方針を改めて話し合っときたいんだけど」
「あっ……明日は…………ごめんなさい。とっても大切な用事があるの」
「そっか、ならまた別に日に変えるか」
みんながみんな毎日が暇なわけが無い。そういう時間すらも限られているんだ。無意味に集まるだけじゃなく、ある程度考えをまとめて話し合った方がいいな。
「んー……じゃあ一応集まれる人間だけでこれから相談する予定だけど、RINGで結果を伝えとくよ、夜なら大丈夫?」
「あー、うーん……どちらかと言えば夜が1番忙しい……かな?」
「つか何があるんだ? 明後日まで続くことなら、もう明明後日の月曜に学園で伝えるけど」
「え? あっ……どう言ったらいいのかな? お父さんのお仕事関係のお得意様とのお食事会…………?」
「いやなんで俺に聞くんだよ……」
つか会社が関わるような親睦会的な催しにも参加してるのかよ。やっぱ企業がデカいとそういうこともあるんだな。
社長令嬢も大変そうだ。
「昔からお互いに協力し合って街を発展させていった仲らしくてね、小さい頃からたまにこういうことがあったの。私が参加するのは初めてだけど……」
「ふーん……でもお父さんの為にも会社の為にも変な失敗は出来ないわけだ」
「そう、だね……」
緊張するだろうな……相手への粗相が許されない世界なんてまだ俺たち学生には早すぎる気はするんだが……彼女はそうも言ってられないのか。
「でも、話がちょっとおかしくなってて…………お父さんが電話をしている所を偶然聞いちゃった事があってね、その時に『都はまだ誰とも付き合ってない』って言ってたのを聞いてから変な事を考えちゃって……」
「冗談の一種なんじゃないの? それだけ仲がいい人同士ならそんな会話をあるんじゃない?」
「でも、お父さん『相手の息子さんはとってもいい子だ』って言って、『都もそろそろ彼氏でも作ったら?』って言ってて……なんだかいつの間にかお食事会の目的も本当にそういう方向の……お見合い? みたいになっちゃってて」
多分彼女はあまり乗り気じゃないんだろう。さっきからちょっとだけ表情が暗いし、声のトーンも落ちてる気がする。
きっと自分の立場や、父親同士の仕事の事、そして会社のこれからを考えた時に、明日のたった一度の食事会をミスすればどれだけの影響が出るか《わからない》から辛いんだ。
オマケに相手と仲がいい関係を保つには、恋愛話になっている今のこの状態を前向きに捉えるか、上手く掻い潜って話題を逸らすかの2択に絞られる。
しかも相手はそんな親睦があるほどの大切な企業。
……………………この歳でこれかぁ。
「九條さんは彼氏が欲しいなんて思わないの?」
「え? わ、私は…………! …………この人がいいなって人なら…………」
……!
へぇ〜、知らなかった。九條さんって誰かに恋してたんだ。でも多分その言い方はそのお得意さんの息子ではなさそうだな。
つかそりゃあそうか。もしそうならこの事で悩んだりはしないだろう。別の男が好きだからどうしたらいいかわからないんだ。
「ふーん……。じゃあ上手く掻い潜るしかないな。大丈夫大丈夫、自分の意思をちゃんと伝えればみんな分かってくれるって」
「う、うん…………」
そういう問題じゃないことくらいは分かってるけど、こうとしか俺は言えない。九條さんが誰を好きになっているとはいえ、その人と結ばれる未来に辿り着くためには絶対にこの件は上手くやり過ごさなきゃいけない。
そんな大きな問題に俺なんかが下手な事言えない。
でも、やっぱり友達としては、相手は知らないけどちゃんと好きな人と結ばれて欲しいし、幸せになって欲しい。
会社や大人の都合で振り回される彼女は見たくはない。
「はい、これ」
俺はスっと自分の掛けていた黒い伊達メガネを取って、隣に座る彼女に手渡す。
「……? 眼鏡……?」
「いま俺に渡せるものがこれしかないから。それ貸してやる、俺の1番大事なヤツ」
「竹内くんの1番大切な……」
「ま、御守り代わり。1人じゃプレッシャーに押しつぶされるかな? って思って、それがありゃ俺たちの事思い出せるだろ」
「…………うんっ!」
俺に出来ることなんてたかが知れている。これに大した意味が無いことも承知の上だ。
でも、ほんの少しだけでも彼女の背負っているものが軽くなったのならそれでいいと思った。
一般庶民の俺から手渡せる最大限の心の気持ち。どんな大きな悩みや壁があってもそれに立ち向かっているのは1人じゃないという証。
言うならば心の逃げ道。そんなものしか俺は用意してやれない。
でも…………それでも彼女の心の霧がたった少しだけでも晴れたのなら……それだけでも意味はある。
こんにちは主です。
現在行っているアンケですがおそらくもう順位の入れ替えは起こらないと判断し、次回投稿時に終了させて頂きます。
予定では明日…………は難しいと思いますので、明後日を予定していますが、予定は未定ということでどうか一つよろしくお願いします。
では次回、?√突入です。
主人公の恋人は?
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九條 都
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香坂 春風
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結城 希亜