9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「…………っ」
思わず息を呑んでしまう。それほどまでに俺の知っている深沢とは
明るく、裏表のないような元気いっぱいの声。
いつものように笑い、砕けたような体制であの謎の女と会話しているその姿にも違和感を感じた。
「あらそう、2人ともお友達だったのね」
「は…………?」
どの流れから俺たちが友達だと判断できるようになったのかは知らないが、とりあえず深沢にも攻撃するつもりのようだ。
「戦場で生き残るには圧倒的な力を持つか、呆れるほどに臆病になるかの2択よ。1人勇敢な者……勇者は死ぬと相場は決まってるわ」
カツカツとヒールの音を鳴らしながら、ゆっくりと俺たちの方へと向かってくる女。
「お、おい! 深沢は逃げろッ! アイツはとにかく危険で────」
「あー、そういうのいいから。まずはあの《IO5》の女の人止めなきゃいけないでしょ」
「止めれるものなら……是非お願い」
その瞬間に目の前に流れるように迫ってきていた小さな光。まるで1粒の火花が散るように飛んできていた。
それは電気でも発しているかのようにバチバチと熱を弾いており、そのまま…………
俺の《遠く》で轟音と共に爆発した。
「……っ!?」
「もー、何ボーッとしてんのさ。死んでも知らないよ?」
軽口を叩く深沢と俺は、あのボロボロのあばら家の屋根の上にいつの間にか移動していた。先程まで俺たちがいたところは黒い墨を塗りつぶしているように真っ黒に焦げており、それを見かけた時に背筋が凍った。
何が怖いって、
「な、なんで…………俺……!?」
「詳しく話す気は無いよ。アーティファクトについてのことならお互いに知ってるでしょ」
「……! お前まさかッ!」
なんて会話をする時間も与えて貰えずに、10メートルはあっただろう距離をあの女はものともせずに詰めてくる。地面なんて続いていなくて、こっちは屋根の上にいるってのに、空を飛ぶように真下から舞い上がってきた。
「仲良くお話なんてしている暇はあるかしら?」
そして言葉に続くように巻き起こる小規模の爆発。それはあの女の足元付近から発生しており、その爆風によって加速されたただの蹴りは俺の頭を潰そうとするように襲いかかる。
「あっぶ────ッ!」
ギリギリのところでその蹴りを躱すと、仰け反る時に暴れた俺の前髪の一部が蹴りに当たっていたらしく、パラパラと数本離れていった。
「惜しい……もう少し踏み込んでいれば頭ごと真っ二つだったのにね」
なんなんだよなんなんだよ……! 強いなんてレベルじゃないだろ……!
なんて心の中で焦っていると、左頬がズキズキと痛み出してくる。そこに触れると真っ赤な血が流れており、気がつけばその箇所は縦に真っ直ぐ大きな切り傷のようなものができていた。
焼かれたわけでもない、ちぎれたわけでもない……これってもしかして…………
「かまいたち…………マジかよ……」
っつーことはあの蹴りは速度も相まって真空状態を作り出すほどの威力ってこと。あんなのまともに当たったら…………考えただけでも恐ろしい。
「うわー……今のよく反応できたね、竹内って意外と反射神経高いんだね」
どこまでもお気楽なコイツもアーティファクトについて知っていた。しかも実物を手にしていて見かけてからならまだしも、相手の不思議な能力を見てから慣れているかのように立ち振舞っている。
おそらく現れた時の発言も自分が持っているからこその言葉だろう。
しかも戦い慣れていそうだ。
「鎌風だ」
「ん……? なに?」
「あの女がやったことは
「たった1回でそこまで冷静に分析するなんて、予想以上……かな?」
今の深沢を見ていると何故か焦りの気持ちは無くなってくる。余裕がある訳じゃないがあの異常なまでのお気楽さは何かヤバい予感を感じさせるからだ。
「この高度まであの女が直ぐに迫っきたのもッ!」
聞こえてきた爆発音に合わせて、まだ姿の見えない敵に向かって勢いをつけた後ろ回し蹴りで対応…………したつもりが、上手いこと連続で能力を使われて起動を横にずらされた。
「小さな爆発で自分自身の身体を飛ばしてきたんだ」
爆竹のような音を何度も何度も奏でるように空を舞い、俺たちと同じ屋根の上に着地する女。
「ご名答。やっぱり簡単には殺させてくれないわね?」
「ったりめぇだ……! 誰の差し金かは知らねぇけど、こちとら何度も命を狙われてるんだっつーの」
にしてもただでさえボロボロの建物の上、しかもよりにもよって瓦屋根の上だ。足場が悪すぎる……
どうするべきか……
「誰の差し金って…………貴方のお友達から聞いていないの?」
「は?」
なんだ? 俺の知り合いにこの戦闘の意味を知る人がいるってのか?
「あら、一応忠告だけはしておいてねって伝えておいたのだけれど…………間に合わなかったのね
……!? 娘!?
その言葉に反応し、意味を問いただそうとした俺の真後ろから、真っ赤な槍が女を貫こうとビュンビュンと飛びかかる。
「全く……あの黒眼鏡のお嬢────」
女は何かを語りかけていた途中で、その槍をいなすように身体を捻らせ、次々と襲いかかっている赤い槍を避け続ける。
「ありゃ? 油断した隙にやれると思ったのにダメだったか」
「人の話は最後までちゃんと聞かなきゃダメよ?」
「生憎そんな余裕は僕たちには無ーいの」
タンっと屋根を蹴って自分の身体を浮かび上がらせると、あちこちにその姿を瞬時に移動させ、ありとあらゆる所から赤い槍を射出する深沢。
これって…………《白》ゴーストの時の……!
間違いない。あの槍も、今アイツが使っている瞬間移動も、全くアイツと同じだ……!
じゃあ深沢がルナの心を傷つけた張本人……?
俺はその場に立ち尽くすしかできなかった。俺が今まで探していた超危険人物はこんなにも身近にいた恐怖とその事実に、どうすることも出来なかった。
心から湧いてくるのは怒り。
今は共闘関係になってしまっているが、どれだけルナが傷つこうと放置し、愛情を注がなかった男が目の前に。
そんな憤怒の気持ちに心を支配されていると、今までよりも一際大きな爆発音が鳴り響く。
視界を覆う煙の中から力なく地面に落下していったのは制服がボロボロになった深沢だった。
「じゃあまず……邪魔者からね」
「…………ッ!」
追い討ちのトドメを刺そうと倒れた深沢に襲いかかる女を見て、自然と身体が動いた。
確かに憎い。
俺にとって大事な家族を酷い目に遭わせた奴だと思うとぶん殴りたくなる。けれど…………
素早くその場をダッシュて駆け下り、女の準備が整うまでになんとか深沢の側まで駆けつけれた俺は能力を使う体制を整える。
「ふふっ……、じゃあね? さようなら」
どうするどうする!? 俺の反射の力はさっき無効にされたばっかりだ。深沢にダメージを与えたレベルの威力で来られたら、空中よりも熱や風の逃げ場の無いこの場所じゃあ下手したらマジで死んじまう!
どうする……! どうしたらいい……っ!?
爆発を利用して高速で迫ってくる女を睨みながら対処の方法を考える。
その時に脳裏に過ったのは初めてこの能力を使った日のこと。試行錯誤しながら能力を試していたあの光景。
そうだ……あの時、鏡の形を変えられていたッ!
成功しろよ……ッ!
「