9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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反撃の狼煙

 

《視点切り替え》

 

「それが君の言う交換条件かい?」

 

 白巳津川の街中にあるとある高層マンション。

 

 私でもこういった大切なお付き合いじゃないと滅多に来ないレストラン。慣れない所に慣れない理由で来ているのに…………

 

「…………はい」

 

 今は屋外の素敵な夜景が見渡せる特別席で、とある男性と2人きりで話をしている。

 

 なんで……こんなことになったんだろう……

 

 なんで…………

 

「君が理解のある女性でよかった。でも安心して? 君が裏切らない限りボクも君を裏切らない。本当は殺害の依頼をしているんだけど……間に合えば取り消そう」

 

「そ、そんな……! 誰か一人でも手を出したのなら、私はその条件は呑めません!」

 

「わかってるよ、今すぐにでも連絡しよう。えぇ…………と」

 

 目の前の男性は左耳に付けている不思議な機械をトントンと慣れた手つきでタップするように操り、誰かとの通話を始める。

 

「あぁ……ボクだ。プランDに移行してくれ、都は交換条件と言う形でコチラの意見を汲んでくれた。内容も想定どうりのものだ」

 

「但し釘だけ刺しておくこと、まぁ君たちの戦闘力なら問題は無いだろうが……必要であればアレだけしておいて」

 

 この男性、『近衛 悠』さん。コロナグループを今まで支えてくれた大切な協力会社の御曹司。

 

 私は今日から……この方の《彼女》になる。結婚を前提としたお付き合いを1から始めることになる。

 

 目的は分からない。何故こんな事をするのかも分からないけど……この人にとってはきっと必要な事なんだ。だからこそ私は利用されている。

 

 今までに何度か顔を合わせたことはあるけれど……こんな人だとは思わなかった。

 

 悔しくて悔しくて……泣きたい気持ちを我慢してぎゅっと拳を握りしめる。

 

 突如として彼が言い出した言葉は今でも忘れない。この場所に呼び出され、彼が発言した一言目は「自分はアーティファクトユーザー」だということ。

 

 この方と()()()()()()()で身体が痺れたように動かなくなった。その瞳付近には紋章(スティグマ)が浮かんでおり、何かの能力を使用しているのは明らかだった。

 

 そしてその力を身をもって体験させられた後、彼は次々に言葉を発して言った。

 

 

 

 企業同士の立場を忘れて、純粋に私と交際関係になること。

 

 

 

 もちろん彼には申し訳ないけれど、お断りさせてもらうつもりだった。だったのだけれど…………次に彼が言ったのは、今この瞬間に竹内くんが襲われているということ。

 

 最初はそれが嘘の証言だと信じていたけれど、耳に取り付けている機械で音を繋げていたようで、女の人と竹内くんの会話と激しい爆発するような音が聞こえてきた。

 

 それを疑うことも考えたけれど……本当だったのなら実質竹内くんの命は私が握っていることになる。なぜなら、返答次第ではこのままこの戦闘を放置して、友達の無様な姿を晒すと言われたから。

 

 その意味は…………

 

「よかった、間に合ったみたいだよ? 竹内くんと深沢くん、ちゃんと()()生きてるって」

 

 ……深沢くんも? 

 

「それじゃあおさらいは……大丈夫かな? たった今からボクと都は特別になる。君が……いや、都が裏切らない限りはボクは誰も殺さない。お友達も、ご家族も、もちろん…………都自身も」

 

「都の能力だってちゃんと調べているよ。校内火事の件でかなり洗い出せたからね。だから不用意にボクに逆らわない方がいい。ボクも都も、大切な人たちも幸せになる為に……ね?」

 

「……」

 

 私が裏切らなければ、竹内くんを初めとしたみんなは無事に生きていける。

 

 私が他言しなければ、お父さんもお母さんも、お爺様たちも生きていける。

 

 私がこの人と淑やかに過ごしていけば…………みんな無事になる。

 

 その代わりに私が提示した条件がそれ。大切な人たち全員に決して酷いことをしないこと。一切の関わりを持たないこと。

 

「…………はい。これから……よろしくお願いします。悠くん……」

 

「うん。愛してるよ都」

 

 そっと腕を回され、優しくも力強く彼に抱きしめられる。そしてそんな私たちを遠くから微笑ましそうに見ているお父さんたち。

 

 これが最後にするから……1度だけいいよね? 

 

 1度だけ…………

 

「泣かないで、都。彼らを忘れてさえくれるならボクは君を必ず幸せにできるよ」

 

「うっ……! うぅ…………!」

 

「よしよし…………」

 

 

 

 もう私は……戻れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《視点切り替え》

 

 

 

「ゴホッゴホッ…………!」

 

 咄嗟に繰り出した鏡の能力、一方向だけではなく全面に出現させた力で何とかあの爆発を凌ぐことが出来た。

 

 割とギリギリだったがな。

 

「いてて…………流石の無敵の防御でもキツくなってきたかな?」

 

 軽く頭を抑えながら、深沢は上半身を起こして敵を見る。

 

「俺の能力の事も知ってそうだな……」

 

「有名だからね、アイツらの中では」

 

 舞い上がった土煙が徐々に晴れていき、ようやく周囲を見渡せるようになると、あの女はあばら家の屋根の上で片耳を抑え、誰かと会話をしているようだった。

 

「お前、あの女の事を何か知ってるのか?」

 

「まぁね、少しだけ話したことがあるってくらいだよ」

 

「じゃあとりあえず後で全部聞かせてもらおうか」

 

「うわぁ……めんどくっさ…………。でもまぁ、そうだね。アレをどうにかするのは結構面倒だと思うよ?」

 

 痛みが走る身体を無理やり動かし、俺たち2人はその場を立ち上がる。

 

 確かにアイツは強い。能力である爆発も俺が反射出来ないし、《幻影系》でもないから普通に傷つく。でもまぁ…………やるしかないだろ。

 

 こっちは《反射》と一応《幻体》。そんで《瞬間移動》に《槍操作》、そして…………《麻痺》があるか。あの、目を合わせると身体が動けなくなるやつ。

 

「あ、1つ言っとくけど《眼》は使わないからね。色々と面倒だから」

 

「は? 眼ってなんだよ」

 

「ほら、もう気がついてるんでしょ? 目線を合わせたらってやつ」

 

「あぁ…………面倒って何が?」

 

 この状況で使う能力を選ぶなんて選択があるのか? 下手したら即死の状況なんだぞ? 

 

 って……言っても俺もレナとルナには頼る気はないんだけど。

 

「契約者じゃないと分からない悩みってものもあるのさ」

 

 …………冷静に考えると希亜のような条件付きの力って可能性があるのか。だったら仕方ない。

 

「とりあえずは協力してくれ、まずはアイツをどうにかしないと話にならねぇ」

 

「もちろんそのつもりではあるよ、僕もそろそろ我慢の限界だからね」

 

 あの女はやたらと長い会話の途中だ、今攻めれば可能性はある。

 

 トンっと深沢は俺の肩に手を置いて、戦闘態勢を整え始めた。

 

 おそらく瞬間移動を使って一気に接近するつもりなのだろう。俺も何があってもいいように《鏡》の能力を準備して…………と。

 

 

「反撃開始だ……!」

「反撃開始だねっ!」

 

 俺たちは同時に地面を強く蹴って、空中に身を投げた。

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