9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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“わからない”

 

「はぁ……はぁ…………ッ!」

 

「随分辛そうだね、竹内くん。大丈夫かい?」

 

 そう言って敵であるこの男は疲労のあまりに片膝を着いてしまっている俺に向かって手を差し伸べる。

 

「ふざけん……ッ!」

 

 明らかなその挑発を振り払うようにすかさず拳を振り上げる。が……

 

「はい残念♪ 当たらないよ〜」

 

 と遊ばれるようにいなされ、俺の攻撃が透かされるのと同時にボコボコと殴り蹴られる。

 

 もう何度こうして一方的にやられただろう。何度俺は負け続けるのだろう。

 

 コイツには俺の心理を読まれている以上は行動の全てに対応されて、完璧な防御で弄ばれ続ける。

 

「散々格好つけてこれかい? 俺が奪うだの、守るだの、救うだの……そう言うことはちゃんと力を持ってから言わなきゃ」

 

 俺がこんなに疲弊してしまっている理由は分かりきっている。明らかに能力の使いすぎなんだ。

 

 爆破能力者の女との戦いを皮切りに連戦に次ぐ連戦。途中で休憩はあったにしろとうに俺の限界は超えていた。

 

 レナやルナをほぼ常時出現させていて、身体も心もボロボロにされて、やっと手にしたチャンスなのに…………

 

 俺はまた掴めない。

 

 目の前で誰よりも大切な人が助けを求めてくれたのに、どんな物よりもかけがえのない人が涙を流していたのに、力が足りない……! 

 

 こうして倒れている間にもレナがどんどんと能力を使って…………? 

 

 あ、あれ……? 

 

 レナの気配が…………消えてる……? 

 

 いや……消えていると勘違いしてしまうほどに弱まっているんだ。そりゃそうか、主である俺がこうなんだから……

 

「反論する力も残ってないのか、やれやれ……本当に無駄な時間を過ごした」

 

「ぐふっ!?」

 

 動けない俺に追い打ちをかけるように顔面にしこたま蹴りを入れる悠。それは1度のみならずに転がる俺に追いつくともう一度、そしてまた追いかけてもう一度とサッカーボールのように何度も何度も蹴りつける。

 

「もう能力も使う気すら起きないよ」

 

「かはっ……ッ!」

 

 何度も。

 

「力も価値も地位もない庶民が手を出していい山じゃないんだ」

 

「ごほっ……!?」

 

 何度も。

 

「弱い奴は何も変えられない」

 

「ぐふっ…………!!」

 

 何度でも。

 

「君は誰一人救えない」

 

「ごっ……!?」

 

 最後にとびきり大きく振りかぶった脚で強く蹴り飛ばされ、船のデッキのギリギリまで身体が移動してしまう。

 

 あとほんの少しでもズラされれば海へ落ちてしまうほどに。

 

 そしてそんな俺にトドメを刺そうとテクテク歩いてくる男の頭上を、何かの人影が飛んでくる。

 

 それは《爆音》と共にだった。

 

「マスター、プランD及び緊急処置である反逆者一同の処理、A地区内は終了致しました」

 

 慣れた動きで能力を操り、あの男の隣に立つ人は…………()()()

 

「うん、ご苦労さま! 何か収穫でもあったかい?」

 

「はい、彼女が所有していた能力である新たな《アーティファクト》を糧とすることが」

 

 …………は? 

 

「へぇ〜どんなの? ちょっと使って見てよ」

 

「そうですね…………では、都様に」

 

 待て……、お前はレナたちと戦ってたんじゃないのかよ…………! なんで今()()()()いるんだ……!? 

 

 そ、そんな……! だって…………! 

 

 動揺する俺の心とは無関係に、あの爆破女は()()()()()()()()()()、都に向かって能力を発動させる。すると壁に張り付くように身体を固定されていた都は、力を失ったように簡単にその壁から離れることに成功した。

 

「へぇ…………僕の能力が消滅した。付与した《磁気》が完全に消えてる」

 

「どうやら指定したモノ、及びその周辺の任意の存在を操る能力ですね」

 

 おい…………! それって……………………!!! 

 

「天…………ちゃん…………」

 

 間違いない、それは天ちゃんが宿していたアーティファクト能力だ。指定したモノの《存在感》を操作する力。

 

「あら? 貴方……まだ生きてたの?」

 

 カツカツとヒールの音を鳴らして俺に迫り来る女。軽く血がこびりついているその姿に嫌な予想を連想させられながら…………それが間違いであることを確認するために質問する。

 

「お、おま……え……! 天ちゃんに何した……!!」

 

「天……天…………、あぁ! この能力の()所持者のあの子ね。その質問に答える必要はあるかしら? 私がこの能力の()()()()という事実が全てを物語っていると思うのだけれど?」

 

 …………ッ!!!! 

 

 そ、そんな……! じゃあ…………あの2人は……! 

 

「こ……香坂さんはどうした……! レナはどうした……ッ!?」

 

「香坂……?」

 

「残りの2人はどうしたって聞いてんだッ!!!!」

 

 不思議そうな顔をする女に、力の限りに怒鳴りつける。

 

 もう…………何が何だか分からなくなってきていた。

 

「可哀想……心配してあげているのは3人だけなのね。なるほど…………結構便利ね、この能力」

 

「いいから答えろッ!!!」

 

「だから、答えなくても私がこの場にいる時点でわかるでしょう?」

 

 ……そんな、そんな…………! 

 

 まさかみんな…………もう……! 

 

「それと私からも一つだけ質問…………貴方の前髪に付けているその髪留め、一体誰のかしら?」

 

 …………

 

 考えるよりも先に、俺は血だらけの震える腕を額に持っていき、言われた箇所にある()()()()()()()()()()()ヘアピンを手に取る。

 

 いざそれを手に取って疑問に思った。そもそもそれをつけていたこと自体俺が知らなかったのと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ…………これ………………」

 

 質問の答えが分からなかったことに。

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