9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
俺のせいだ。
あの時に俺がみんなを見捨ててしまったからこんな結果になった。
こんな結果にしてしまった。
「…………うぐっ! …………ひぐっ……!」
ぽたぽたと涙が落ちる。この血生臭い遺体からくる吐き気よりも、この身体に刻み込まれた痛みよりも、大切な仲間を失ってしまった悲しみが大きすぎる。
大切な人たちを失う辛さは死ぬほど味わったはずだ。死ぬほど経験したはずだ。
でも……胸がえぐられるように痛い。
そうだ、この痛みが嫌で嫌で…………俺は1人になったんだ。
昔から大切なものを何一つ守れない俺だからこそ、孤独を選んだんだ。
やっぱり間違ってた。誰かと一緒になんか辛くなるだけだ。一緒にいるのが嬉しいからこそ、楽しいからこそ、失った時の刺激は一層激しくなる。
もう何も失いたくない。
そう思った時だった。俺の隣にいた都がおもむろに尻もちをつき、明らかになにかに脅えていた。
「そ、そ…………んな……」
彼女が見ている視線の先を覗いてみると……香坂さんが立っていた。
月明かりに強く照らされて堂々と仁王立ちをするその姿は、どこかおかしい。
いや、おかしい所なんて一目瞭然だった。
首がありえない方向へと曲がっているのだ。
ほぼ真反対を向くように顎を上へと差し出し、無理やり引っ張られた首からは白く細い骨の欠片が飛び出している。
そしてその身体は突如としてとぼとぼと俺たちに向かって歩き出したのだ。
「あ……、あ…………!」
ゾンビのように両腕を伸ばし、おぼつかない足取りで歩き出すその身体。それに驚き怯えていると、俺のすぐ側に倒れていた天ちゃんの足も自立して起き上がり、俺に蹴りかかる。
「…………くっ!」
考えるよりも咄嗟にそれを避け、都を巻き込んでその2人から遠ざかると、さっきまでは香坂さんの影に隠れていて見えなかった場所に記憶にないシルエットが立っていた。
何が起こったのか頭の整理が追いつかない所で、精神的に限界が来てしまったのか、都は抱えられている俺の胸に胃に詰めていたであろう物たちを盛大にぶちまけた。
「おぅぇっ…………!!」
ゴホゴホと咳き込みながらも嘔吐をしてしまった都の背中を擦りながら、状況を整理を試みる。
「無理はしなくていいからな、少しでも楽になるんなら我慢なんてしない方がいい」
トントンと優しく頭を撫でてやっていると、続くようにもう一度その口から嘔吐物を吐き出してしまう。
都は必死に口に手を当てて我慢しようとしているが、無情にも勢いを止められずにびちゃびちゃとツンと鼻に来る香りの物が撒き散らかされる。
「よしよし…………大丈夫、大丈夫」
無理もない。俺だって都がいなきゃ同じようになっていたと思う。
明らかに異形となってしまった仲間たちの姿。初めて見るであろう生の臓物。友達の死。
そんなものが連続して続いてしまったら…………心は折れる。
実際俺だってさっきまで折れていた。けれど都の姿を見た時にギリギリのところで持ち直したんだ。
今、都にとっての心の支えは俺しかいない。この現実から救ってやれるのは俺だけだ。その俺が折れてしまったら、彼女も終わってしまう。
それだけはダメだ。
心を殺してでも彼女を守り通さなきゃいけない。
1度自分の命よりも大切な人を失った俺だからこそ、きっと使命感が生まれたんだろう。
もちろんこんなのは一瞬の強がりだと思う。でも強がりでもなんでも今は折れちゃいけない。
どれだけきつくても、心が裂けそうなほど苦しくても、自分を殺したくなるほど辛くても、俺は全部乗り越えなくちゃいけない。
じゃないと…………全部が無駄になる。
彼女らは決して無駄死になんかしていない。彼女らがいたから、こうして俺たちがこの場にいられる。
だからこそ今怯むな……! 乗り越えろ…………!
今ここで俺と都が死ぬ事が彼女らを《無駄死に》にさせてしまう事なんだ……!!
「くっ……!」
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるかつての仲間たちを想いながら、奥にいるシルエットの人物を睨みつける。
黒い影に隠れたままに、紋章を浮かばせているヤツを。
普通は遺体が動くなんてことはありえない。まず間違いなくアイツが動かしているんだろう。
俺の大切な仲間を……!
今すぐにでも駆け寄って能力を止めさせたいところだが……都がまだ辛そうだ。あの2人からも十分に距離が離れているから、ギリギリまで粘って彼女を休ませてあげて、そこで動き出そう。
「ごめ……! ごめんなさい……! ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
服が破れそうな程に俺の袖を握りしめ、ガクガクと震える都。
多分かつての友達を直視できないのだろう。必死に現実を見ないようにするためか、俺に顔を埋めるようにして離れなかった。
もうこれは、彼女にとって最大のトラウマになってしまっただろうな。
そんな都を少しでも心を落ち着かせようと、できるだけ優しく頭を撫で続けていると、ずっと突っ立っていた影の人物がこちらにてくてくと歩いてきた。
「蓮太……随分とボロボロだな」
「…………」
明らかな低い声、これは男だろう。その人物は仮面をつけていて素顔を隠してはいるが、隠しきれない声で性別は判断できた。
それに……俺の名前を知っている。
「どうも、
「…………都は渡さねぇぞ」
トロトロと亀のように歩いてくる2人とは違って、素早い歩きで俺たちに近寄ってくるタナトスと名乗る人物。
俺はこの声…………どこかで…………
「俺はその嬢ちゃんには興味無いんだけど………… 千紗…………じゃねぇや、ケールがどうしても拉致ってこいって言うからさ、返してもらいに来た」
……なんか小声で言ってた瞬間があったけど、聞こえなかったな。
とにかくこいつの目的は都だってことが判明した。だったら守らなきゃいけない。
「ふざけんなよ……」
もう絶対に離さない。俺の射程圏内に入り込んだ瞬間に、コイツの喉の中で《鏡》を出して首を切り落としてやる……!
「ふざけんなはこっちのセリフだっつーの。ほんっとにそういう所は変わってないな」
ギンっと強く瞳を光らせると、仮面の男はクイッと指を動かす。すると俺の腕は力も入れていないのに自分の首を掴み、締め上げ始めた。
「かっ…………!?!?」
メキメキと俺の指を食い込ませていく力を止めるため、咄嗟に俺と仮面の男の間に《鏡》を召喚し、能力の解除を試みるが…………
「があっ…………!!」
俺の喉を締め付ける力は弱まらない。
しまった…………! 油断しすぎた…………!
苦しい。
呼吸ができない。
何も…………
考えられ…………な…………………………い………………………………
《視点切り替え》
「…………気絶したか」
蓮太の気絶を確認すると、俺は任務遂行の為に隣のお嬢ちゃんも黙らせる。
随分と酷い臭いがするが…………そう言えばさっき吐いてたな。
クリーニング出さなきゃなぁ……この服。
「よっこいしょっ…………と」
米俵を持つように肩にお嬢ちゃんを抱えあげ、用意しておいた車に向かって移動する。
「本当はお前は殺せって言われたんだけど…………まぁ俺とお前の仲だ、見逃してやるよ。あ、嬢ちゃんに関しては心配すんなよ? 殺すつもりは無いらしい」
片手でタバコに火をつけて、1吸いでそのほとんどを灰に変える。
そして思いっきり息を吐いてその吸殻を蓮太に向かって投げ捨てた。
「ま、その代わりに死んだ方がマシだと思わされると思うけどな。悠は性欲のバケモンだ、何されるかわかったもんじゃねぇぜ」
それに今頃は専属の医者に手術してもらってる頃だろうし、あの程度の怪我なら4時間もあれば一命は取り留めるだろ。
そうなりゃ…………地獄の始まりだな。
「ま、そーゆーことで……じゃあな」
気を失った蓮太を放置しながら、改めて車へと歩いていく。
あー……腹減ったな、ケールに飯作ってもらおうかなぁ…………でもアイツ料理下手なんだよなぁ…………