9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「……激しい発汗、何かの能力だとしても身体に負担がかかるだけじゃなくて?」
「それと引き換えに手に入れた力だ」
今の出力は……大体40%くらいか。後はこの力を揺らがないように意識を常に集中させて…………
「大将、わかってると思うが言わせてもらうぞ。それ以上の力をもう出すなよ。40%でさえコントロールがズレて一点に力が集中しちまったら骨が折れる」
「あぁ。そこは理解してる」
「それと…………出来れば一撃で終わらせろ。その力はあまりにもリスクが大きすぎる」
「……任せろ」
右腕を脇あたりの高さまで上げて、身体を少しヒネりパンチの体制を整える。
激しい発汗に身体中の水分を奪われながらも、この力は一切弱めたりしない。
「私をたった一撃で倒す宣言をするなんて……それほどまでにその技に自信があるのね」
「んなもんねぇよ。扱い方だって、さっきの
「でも、近づかなきゃ攻撃できないわよ? こんな風に遠距離から攻撃されちゃったら…………どうするの?」
そして女がやってきたのはあの爆発する光を放つ技だった。
それを確認すると、レナが俺の前に立ちはだかりその光を避けると同時に何かを切り離すように腕を振るい、光を消した。
「なっ!」
「テメェのその厄介な爆発を見ててよ、気づいたことがあるんだ。テメェは移動の時や蹴りを繰り出す時は、勢いを加速させるために爆発をよく使って戦ってるけど、その爆発そのものをあまり攻撃に多用しない」
パンパンと服を叩き、埃を落とすような動作をして語り続けるレナ。
「なんでそんなクソ強い技を何度も使わないか考えてた。んで思ったんだよ。お前、オレたちが会話している時に能力発動の為の力を溜めてるだろ」
「……へぇ?」
「殺し合いの中で作戦会議や討論をわざわざ待つ理由はねぇ。でもお前はそのチャンスが巡ってくると決してそれを邪魔したりしない。普通に考えておかしいだろ」
……
…………
え? マジで?
そんな理由があって爆発技を多用しなかったのか? え? てか言われてみれば…………直接爆発で俺たちを攻撃してきたのって…………数えられるほどしかない。
……うん。その推理通りだと一応辻褄が合う。
「もし溜めた分だけしか能力が使えないのなら……規模が小さくて済むブースト用に使うのが効率はいいよなぁ」
「あら、貴女……意外と勘がいいのね」
「そりゃそうさ。なんたってオレは大将の幻体だからな」
まぁ当の本人は全くそんなことに気がついていなかったんですけどね。
「とにかく、あの爆発に制限があることはわかった。そんで仮に爆発攻撃をされても……お前なら対処できるって考えでおk?」
「その辺は任せな、爆発する前に導火線代わりになっている細い光を断ち切れば簡単に不発爆弾に変えられる。その役目はオレがしてやるよ」
「それならしょうがないわね。能力での攻撃を攻略されたのなら…………風ごと空間も裂く私の最大の技で一瞬で終わらせてあげる。貴方たちも早期決着を望んでいるのでしょう?」
「望むところだ……!」
力いっぱいに脇を締め、爆発的な速度で迫ってくるであろうあの女を全神経を注いで集中する。
今の俺なら…………きっとあのレベルでもなんとか……!
「…………ふっ!」
深く深呼吸をした爆発女は、一瞬残像が見えたような速度で真っ直ぐに俺に迫ってくる。
それは読めていた。爆発の反動を使う移動をする以上は直線でしか移動できないからだ。
よく見ろ。
目を離すな。
僅かな相手の動きでさらに一歩先を読め!
もう拳を繰り出すと相手を顔を殴れるような距離になった瞬間、違和感を覚えた。
周りの音が一切聞こえず、認識できる色が消え、白と黒のモノクロの世界へ入ったかのような感覚。
けれど相手の動きは鮮明に理解出来ており、その動きはかなりスローモーションに見えた。
まるで時間の流れがゆっくりになったかのような感覚の中、いや、だからこそだろう。敵の足元に小さく煌めく1つの爆発の合図が確認できる。
バカ正直に速度で勝負しに来ない。
「なんちゃって♪」
そして予想通りに足元の光は相手の身体を浮かせるように爆発し、一瞬視界が閉ざされる。
しかし、見えないはずなのに敵の位置は鮮明に理解していた。
「後ろだ大将ッ!」
まだ……! まだ耐えろ!
「さよなら」
ギリギリまで相手の蹴りを引き付けて、もう当たると判断したその刹那────
「今だッ!」
皮膚にギリギリ当たるレベルで紙一重にこの蹴りを躱し、振り向く反動を付けて加速させた拳を相手の顔面にぶち当てる。
「────ッ!?」
しかし殴り抜くことはせずに、拳を当てたその瞬間に全力で五指を弾くように一斉に広げる。
すると大きな火薬銃を撃った時のようにパァンッ! と大きな破裂音を放ち、その衝撃に耐えるために俺は咄嗟に身体を後方へと逃がした。
「キャァッ!?!?」
最後にか弱い女の子の叫びのような声を上げて、爆発を扱うあの女は勢いに流されて激しく吹き飛んでいく。その姿を遠巻きで見ながら、俺も比例するように離れていく。
そしてお互いに地面に身体を打ち付けて、激しい痛みを我慢しながら何とかその場を立ち上がる。するとレナがしてやったりといった表情で、悪役のような笑みを浮かべながら歩いてきた。
「はぁ……! はぁ…………!」
「ったく、無茶しすぎだぜ大将。相手が女だからって加減すんなよな」
「うっせ…………俺だって色々と思うところがあるんだよ」
ジンジンと痛む右拳を抑えながら、徐々に身体強化に使っていた能力を解除する。
ゆっくりと心を落ち着かせながらあの爆発女に向かって歩いていくと…………彼女は起き上がることなく完全に気を失っており、静かに眠っていた。
「特にアンタにゃ恨みはねぇが、俺たちの目的を邪魔するなら払い除ける。だがまぁ………………なんだ、敵としてじゃなくて……男として謝っとく。悪かったな」
彼女を抱えあげて、近くの岩場に背中を寄りかからせ、投げ捨てた上着を上から羽織らせる。
「行くぞ、レナ」
「アンタどんだけ女に甘ぇんだよ…………こりゃ都は苦労しそうだな」
そうだ都だ。とにかく急いで向かわないと本当に間に合わなく────
「待ちなさい…………」
気絶したと思い込んでいた爆発女を後にしてその場を一刻も早く去ろうとしていたら、弱々しい声で声をかけられ止められた。
「なぜ……私を殺さないの……」
「…………俺がお前を殺す理由がない」
「私は君を殺そうとしたのよ? それにお友達にも手をかけようとした。1歩道を間違えれば誰かが殺されていたかもしれないのに……」
「そうだな、お前がやろうとした事は正直俺も癇に障るよ。実際に目の前で誰かを殺されなんかしたら、間違いなく躊躇うことなく俺はお前を殺していたと思う」
「じゃあなぜ……!」
「うっせぇな……俺はもう人は殺さねぇ。ただそれだけだ」
決して振り向くことをせずに、最後の会話を終えて俺は仲間たちの元へと進む。
「…………よかったのかよ大将。せめて動けねぇようにでもしとけば安心なんじゃねぇの?」
「俺はそんなSMプレイには興味無いんだ。俺が縛られる側なら喜んで受けるがな」
「気持ち悪っ」
「おい」
そこからみんなと無事に合流して、とにかく走って追いかけようと決めた時に、またあの爆発女が声をかけてくる。
「あなたはっ!!」
「んだよアイツしつけぇな……やっぱ黙らせとくか? 大将」
「やめとけ」
ポンっとレナの頭に手を乗せて、ダメだと躾けるようにくしゃくしゃっと髪を乱す。するとレナは嫌そうに頭を振り、軽く髪型を整えた後にフードを被り直した。
「あなたは……近衛 悠を倒しに行くの?」
「…………勘違いすんな、俺は戦いに行くんじゃない。大切な人を取り戻しに行くだけだ」
「……もし、近衛 悠との会話でチャンスがあれば、
なんだ? この変わり様は……さっきまでのオーラとは全く別人のように態度が変わったが……
「オイオイオイオイ……テメェ頭沸いてんのか? 散々オレたちを殺す気で襲っておいて負けたら頼みを聞いてくださいだぁ? 随分と調子がいいこと言い出すじゃねぇかあぁ? コラ」
「わかってる……! 今ここで私があなた達にどんな罰を与えられても構わない、だから……どうかこれだけ…………! お願いします…………!」
「……罰を受けるのは当然の責務。貴女はそれ相応の罪を犯した。それに敵である貴女の願いを聞く理由もない。私たちを騙すのならもう少しマシな嘘を吐く事ね」
「おい希亜……」
「油断を誘い込んで不意打ちを狙うのは戦場では最も基本、それが原因でかつての人々が繰り返してきた戦争では何人もの命が奪われた。敵に同情をしていたら蓮太が殺されるわよ」
「希亜の言う通りだぜ大将、あんなやつの頼みなんていちいち聞く理由もねぇ。さっさと都を助けに行くぞ」
俺たちよりも先陣を切るように先頭に立つレナは、心から興味なさげな態度であの女から背を向ける。
「心を鬼にしなさい。貴方には何よりも救わなければいけない人が待っているのだから」
それに続くように希亜も歩く。
「先輩……あの人のこと気になるのはわかるけど…………あたしは流石に……今回ばかりは結城先輩たちの意見に賛成する……かな」
天ちゃんも若干後ろめたそうに、2人に続いて先を行く。
「蓮様、
エデン香坂さんも、意見をはっきりと俺に言った後にみんなに続くように歩き出していった。
「蓮太、ここはお前に任せる。俺的には話を聞くぐらいはいいんじゃないか? とも思ってはいるんだが………………全てが終わってからでもいいだろう。俺は九條の救出を最優先に考えるよ」
そう言って走り出す翔を筆頭に、みんなが俺を待ちながらもゆっくりと歩いていく。
確かに信用……というか、疑う気持ちは分からなくもない。あの戦闘は完全に失敗してたら俺たちは殺されていただろうし、間違いなく敵だ。
でも…………あの顔を見ていると、敵の姿が嘘なんじゃないかとも思ってしまう。
…………話を聞くぐらいはいいか。
「いいからお前はそこで寝てろ、もし次に会うことがあれば…………答えを教えてやるよ」
そう俺は言い残して、先を急ぐみんなの元へと走り出した。
背後からは「ありがとう」と聞こえた気がする。
そしてみんなに合流してからの第一声は…………
「呆れるほどの愚者ね貴方は。いつかその優しさが自分にとって悪い結果を作ったとしても……知らないわよ」
「そん時は……またそん時考えようぜ。もし本当に何か理由があってあんなことを頼んできたんなら、その方が可哀想だ」
「本当……貴方は優しすぎる。まぁ……それが良い所でもあるのだけれど」
なんて希亜の言葉だった。