9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
そしてとうとうたどり着く。強敵だった敵を乗り越え、誰一人欠けることなく全員でやっと到着した。
道中で見かけることがなかった高峰が気になるが……位置情報は発信し続けている。きっと隠れたりしながら上手く足止めをしてくれているのだろう。
そういう意味でも、早くこの問題を解決してやらなきゃいけない。
しかし岸からは中途半端に船が離れており、タラップなんかがまともに使えないような距離じゃない。
俺の能力を使ってそれを踏み台にすれば辿り着けそうだが…………それだと全員いけないな。
「あれが……みゃーこ先輩が乗ってる船…………でっか」
「個人が所有していると考えると相当な大きさだよな、あれ」
そんな気の抜けた新海兄妹の会話が聞こえる。
「それにしても……ここから確認できる場所には、九條さんは見当たりませんわね」
「そうね、あの中を探すとなると…………こちらに不利が働きそうね」
でも、そんな会話すらも安心出来るモノだった。
誰一人、近衛 悠という人物に対して臆していない。下手をすれば命に関わる戦いが起こるかもしれないというのに、誰一人都を助けることを諦めていない。
肝っ玉の座った奴らだ。
「当たり前だ大将。覚悟なんてモンは最初っからできてる。今更みんなを疑うんじゃねぇよ」
「……そうだな」
レナは何を今更と言わんばかりに俺の肩を叩き、フードを外して俺の隣に立つ。
その横には翔と天ちゃんが。俺の反対側には希亜と香坂さんがそれぞれ横並びに立って、ひたすらに船を眺めている。
そんじゃまぁ……呼ぶか。
すぅ……っと大きく息を吸い込んで、俺は叫ぶ。迎えに来たぞと伝えるために。帰ろうと伝えるために。助けると伝えるために。
「みーやーこ────ッッッ!!! 助けに来たぞォォ────ッッッ!!!」
風に乗り、空を駆け巡るが如く響き渡る叫び。
それから2人が姿を現すのはさして時間はかからなかった。
俺たちの見つめる先のデッキに並ぶ2人の人影。その人物は予想通りの悠という名の御曹司様と、都だった。
ゆらゆらと揺れる船の上から俺たちを見下ろしている。
「凄いね君のお友達は、こんな所まで追いかけてくるなんて凄まじい執念だよ」
「…………えぇ」
都の肩に腕を回して、必要以上に密着しているその態度は……見ているだけで腹が立つ。
だけど、俺はまだ答えを聞いていない。俺たちはもちろん都を助けに来たつもりだが…………
「いい加減に諦めたまえッ! 都はもう君の顔なんか見たくもないんだ! だからわざわざ白巳津川から離れる為にこの船を用意したんだぞ! 何時まで僕の彼女を苦しませるつもりなんだッ!!」
「その
あの男の腹の中は十分すぎるほど理解出来た。どれほど腐っているかも、どれほど狂ってるかも。
だからこそ俺はあんなやつからは助けたいと思った。これから先の未来、都がどんな人を好きになっても構わない。
絶対に、今お前の隣にいるソイツとだけは幸せになれないから。
「もうやめてっ!!」
都の少しガラガラになった叫び声が響いてくる。
何度、そうやって叫んだんだ? 何を何度も叫んだんだ? あの時の俺に向かって放った言葉や、今の言葉だけじゃそこまで喉を痛め付けることは無かったはずだ。
……やっぱり、辛いんだろ?
「どうして……そこまでしつこく追ってくるのッ!? 私はもう貴方たちの事なんか忘れたいのにッ! 二度と現れないでと伝えたでしょうッ!?」
「なんで……何度も何度も私の前に現れるの…………!」
強く唇をかみ締めて、祈るような目つきで俺を見る都。
本当に、何かを我慢しているのは丸わかりだった。
そんなの決まってんだろ…………! そんな男と一緒にいてもお前は幸せにはなれないからだ!
一生そうやって自分の心を殺して生きていくつもりのお前をここで見放したら、お前はこの先ずっと泣き続ける!
そんなの…………そんなの…………!!
「好きな人には笑ってほしいじゃねぇかっ!!!!」
「────ッ」
その言葉を彼女が聞いた時、より強く唇をかみ締め、拳をキュッと握り、強ばった顔で真っ直ぐに俺を見つめてきた。
「この先お前が何度俺から逃げようとも、何度俺を拒絶しようとも、何度でも何度でもお前を奪いに行くッ!」
「何年かかろうが何十年かかろうが、ジジイになっても歩けなくなっても、死ぬまでお前を追いかけ続けてやるッ!」
「お前が心の底から笑顔になれるその日まで、俺は絶対にお前に見捨てないぞッ!! わかったか馬鹿野郎ッ!!」
だから言ってくれ。
「ったく……俺じゃなくて
都の本心を。
都の想いを。
もう我慢するな、お前が何を背負っているかは分からないけれど、願ってもいいだろう?
俺達も無事で、背負っているものも無事で、自分の幸せも感じられる……そんな明るい未来も。
ごく普通の誰もが夢見る幸せを。
「後は……お前次第だ、都ッ!! 俺はまだお前の本心を聞いてねぇッ!!」
顔を俯かせ、プルプルと震える体を両手で支えて必死に堪える都。今はきっと戦ってるんだ。自分自身の心と、背負った《何か》と戦う心を。
そんな都からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちているのが見える。
後…………もう一押し……ッ!
「九條……!」
「九條さん……!」
「…………」
「都」
「みゃーこ先輩……!」
「都ッ!!」
すぐにでも駆け出してやる。お前がそれを望んでくれたのなら、俺は、俺は…………!
だから聞かせてくれ、都!
俺は聞き逃さなかった。ひたすらに彼女を信じて、追いかけ続けてやっとそれが聞けたんだ。聞き逃すはずがない。
大丈夫だ、安心しろ。どんな結果になっても、どんな事が敵になっても絶対に見捨てないから。絶対に守り通すから。
絶対に……救ってやるから。
「助けて…………! みんな……ッ!」
……。
「やっと…………言ってくれたな」
簡単にかき消されそうなほどに、か細い声だったけど……ちゃんと俺たちの耳には届いたぞ。
「これで目的はハッキリとしたな、大将」
「九條さんの心の声、
「やっぱりそれが本心なんだな、九條」
「よーし、絶対あたしが助けるからね! みゃーこ先輩!」
「始めましょうか、私たちの仲間を取り戻す為の戦いを」
もう既に御曹司様は紋章を片目の辺りに浮かべせて、戦闘態勢を整えている。こりゃ戦闘は避けられそうにないな。
「あぁ……そうだな」
俺も、いや……俺たちも各々の能力を解放し、その身体に紋章を浮かばせる。
背中や胸、片目や片手にそれぞれの力を。
「待ってろよ都、すぐに行く!!」