9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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脱出

 

《視点切り替え》

 

「…………ッ!!!!」

 

 アイツを殴り飛ばしたあと、ミシミシと軋む腕を我慢してみんなに気づかれないように隠す。

 

「無茶するからだ大将。オーバーフローを80%も使いやがって……しかも感情がブレてて殴った瞬間は140%くらいにまで引き上がってたぞ」

 

「…………くっ!」

 

「明らかに骨を折ってるな。ったく…………やれやれだぜ」

 

 全てお見通しの呆れたような様子を見せるレナと2人で吹き飛ばされた悠の場所まで歩く、するとコイツは思いのほかボロボロになっており、涙を流しながら都に助けを求めていた。

 

「おえがい……! みやほしゃん……! はすけて…………!!」

 

「コイツ……この期に及んで都に助けを求めるたぁ、ほんっとに頭にくるぜ……」

 

「おえがい……! おえがいひます…………!!」

 

 一瞬都と視線が合う。

 

「俺は許したくねぇ。コイツが都にしてきたことは許されることじゃねぇし、許す気もねぇ。けれどそれは俺が決めることでもねぇ。だから都に任せる」

 

 そうして俺は無様にぶっ倒れている悠の顎を抱えて、砕けて外れていた骨をガコンっと音を立てて治す。

 

 その間にも俺たちが乗っている船は小規模の爆発を繰り返しながら激しく揺れ動いていた。

 

「ね……ねぇ! 早くしないとこの船もたないんじゃ……!?」

 

「レナ、天ちゃん連れてみんなの元へと向かってくれ。場合によっちゃあ加勢の必要もある」

 

「……あぁ」

 

 ヒョイっと天ちゃんを持ち上げて、レナは特に俺たちを気にすることなく姿を消した。

 

「おねっ……お願いします……! 助けてください……! まだ死にたくない……!」

 

「…………それを決めるのは俺じゃねぇよ」

 

「都ちゃん……! 本当にごめんなさい……! もう何もしないから……!」

 

 いつまでも口を閉じ続ける都に、悠はひたすらに懇願する。謝罪を重ね、涙を流し、いつまでもいつまでも助けを乞いていた。

 

 そんな都の重い口が少しずつ開いていく。

 

「……立てますか? ここは危ないですから、ひとまずは船から離れましょう」

 

「……やれやれ」

 

 ま、なんだかこんな事になるような気はしてたけどさ。俺が知らない部分でも都は色んな嫌なことされてきただろうに……

 

 でも、確かに見殺しにするのとは訳が違う。許せないからって殺すのもおかしいって判断したのなら……それに従うさ。

 

「一旦避難したら……キッチリ説明と謝罪をしてもらうぞ。警察にも突き出す。それ相応の覚悟をしとけ」

 

 問題は証拠があまりないってことだが……まぁ最悪都たちから身を引くことをさせたらいいか。…………いやダメか? 

 

 なんて考えながら、無事な方の左腕をさし伸ばして悠の身体を起き上がらせる。随分と派手に顔面を怪我しているが、動くこと自体は問題なさそうだ。

 

「あぁ…………ありがとう……」

 

 そして都を連れて岸に向かって歩き出そうとすると────

 

「………………ってんなわけねぇだろッ!!!!」

 

 完全に油断しきって背後を見せた瞬間に後頭部と強く殴られ、その衝撃が脳内に強く響いた。溜まっていた疲労もあり、俺にとって十分すぎるダメージになったそれは瞬く間に俺の身体を怯ませて、思わず前のめりになる。

 

「……ッ!?」

 

 そしてそのまま悠は俺をデッキの床に叩きつけ、身動きが出来ないように跨り、すかさず両腕で俺の首を強く締めた。

 

「一般庶民が調子に乗りやがって! 僕を誰だと思っているッ!!」

 

「かっ…………! っ……!!!」

 

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!」

 

 どんどんと俺の首にくい込んでくる指。

 

 呼吸のできない苦しみ。

 

 それに俺の右腕を踏むように跨られているせいで、砕けた骨が更に傷を負い、その刺激が半端ない。

 

「お前如きに……何故僕が負けなくちゃいけないんだ! 僕はエリート……! 何をしても許されるんだ!! だから死ねッ! 死ねッ! 死ね!!!!」

 

「…………ッ! …………ッ!」

 

 何とかしてコイツをどかそうとできる限りで暴れて抵抗をするが…………体制が悪く、冷静ではいられない状況もあってまともな返しができない。だからこそ俺はなすがままにするしかなかった。

 

「止めて! 悠くん!! その手を離してッ!!」

 

 都が大慌てで駆け寄ってきて、無理矢理にでも俺の首を掴んでいる手を離そうと奮闘するが…………

 

「うるさいッ! 退け! ゴミ女がッ!」

 

 片手を首から離して、悠は都に向かって拳を振るう。

 

「うっ……!」

 

 こいつ……本当にどうかしてる! 別に女の子だからってポリシーは持っちゃいないがそれでも悪意のない人にここまで遠慮なく殴り払うことが出来んのかよ……! 

 

「都に何してんだァッ!!」

 

 隙ができた悠に対して左腕で何とか打撃を与え、よろけたその身体に複数回の追い討ちをかけて馬乗りになっていたコイツを突き飛ばす。

 

「ゴホッゴホッ…………! だ……大丈夫か!? 都!」

 

「私は大丈夫……、少し当たっただけだから、それよりも蓮太くんは……!」

 

「都のおかげで助かったよ、ありがとう」

 

 だらんと力なく垂れ下がる右腕を尻目に、残った左腕で都を抱き寄せ、悠がいる方向へと視線を向けた。

 

 やばい……

 

 何がやばいって、俺は今《オーバーフロー》を自分自身に使って突き飛ばしたつもりだったんだが、とうとうスタミナが尽きたのか能力が全く発動しなかった。

 

 考えて見りゃそうだ。レナやルナをほとんど1日出現させておいて、爆発女との連戦、それからこれだ。明らかに今までにないほどの無理な能力の使用頻度だ。

 

 このまままた勝負に持ち込まれたらまずい……! 

 

「蓮太くん……もしかしてその腕……!」

 

「問題ない問題ない、ちょっと力抜いてるだけ」

 

 どうするどうする!? どうしたらいい!? 

 

「もう諦めろ!! お前らも気絶させて売り飛ばしてやるからよ……! あの死んだ女の妹のように!!」

 

 

 

 と、打つ手がなくありとあらゆる作戦を試行錯誤して考えていた時、連続して小さな爆発のような音が鳴り響き、俺たちの前にあの場に置いてきたはずの爆発女が舞い降りるように着地した。

 

「随分とボロボロね、竹内くん」

 

「お前…………爆発女……」

 

 長い髪を払うように片手で靡かせて、俺の上着を羽織ったまま俺に背中を見せていた。

 

「爆発女……そんな呼ばれ方だったのね。私の名前は千紗。覚えておいて」

 

「千…………紗……………………ッ!?」

 

 これは偶然か……? 

 

 なんでお前はあの人と同じ名前なんだ…………!? 

 

「おいケール! 戻ってきたのならソイツらを殺せ! さっさとしろっ!」

 

「もう貴方に従う理由はないわ。妹がもうこの世にはいないのならば……ね」

 

 ……その一瞬で理解出来た。コイツの立場と関係性が。お互いに信頼関係なんてあった訳じゃない。きっと人質に近い形で利用され続けていたんだ。

 

 コイツも……被害者だったのか。

 

「それはそうと2人とも、この船長くは持たないわよ? さっさと逃げた方がいいと思うのだけれど」

 

「逃げるっつったってお前……!」

 

「安心しなさい。既に先の手は打ってある。近衛グループが秘密裏にしてきたことは全て露見させた。証拠も十分すぎるほどに揃えてある。今、この場で起きている戦いも、彼女が経験した傷も、全て事実としてもうばらまいている」

 

「この事件で残りで必要なものは当人の証言だけ。ま、そうでなくても近衛 悠が今までやってきた事を考えると……あの人は生き残っても、もうまともな人生は送れないでしょうけど」

 

「なんで……そんな事をしてくれたんだ?」

 

 理由があったとはいえ俺とお前は敵対関係だった。直接戦いを経た事で多少なりとも恨みや憎しみがあってもよかったはずだ。

 

 もちろんその関係性が望ましい訳じゃないが…………

 

「……さぁね」

 

「あんた……! もしかして千紗姉────」

 

 

 

 ドカンッ!! 

 

 

 

 俺の言葉を遮るように、すっかりボロボロになってしまった船が一際大きな爆発を上げる。

 

 今にも壊れて沈んでしまいそうだ。

 

「早く行きなさい。あの子は私が責任もって面倒見るわ」

 

「……! 後で話があるから、今日の夜20時にナインボールへ来い! 絶対だぞ!」

 

「……行けたらね」

 

 そんな最後の言葉を聞いて、都の手を掴んで船の外へ出るために2人で走る。

 

「蓮太くん! これでいいの!?」

 

「わかんねぇよ……! 俺だって急なことで何がなんだか……!!」

 

 死んだはずの千紗姉が生きてるかもしれないなんて…………思ってもみなかった。

 

 自然と涙が溢れそうになる。

 

「でも、託された。俺はお前を死んでも守るッ!」

 

 左手で都を抱きかかえて、手すりを足蹴に海に向かって飛び逃げる。このままだと海に落っこちちまうが……

 

「レナッ!」

 

「おうよっ!」

 

 スタミナの消費が微量で済むレナを空中で出現させて、レナの足に乗るように体制を整える。

 

「後のことは知らねぇぞ……! オレももうそろそろ限界だッ!」

 

「最後まで悪い! 終わったら存分に休んでくれ」

 

「ほらよっ!!」

 

 明らかに岸へと足りていないこの距離を、レナの強化された蹴りに乗って弾丸のように飛ばしてもらう。

 

 この勢いなら何とかたどり着けそうだ。

 

 そうしてレナを魂の中に戻すと、背後の船から今までで1番激しく大きい爆発が起き、その爆風によって更に加速した俺は都を包むように抱きしめて、ゴロゴロと岸の地面を転がっていく。

 

「おっ! ぐっ! おふっ……!」

 

 何度か勢いよく地面にぶつかってバウンドする体を全て俺が受け、ひたすらに都を守る。

 

 その代わりにすっげぇ痛い。

 

「はぐっ!?」

 

 最後に壁に背中を激突させて勢いが死ぬと、すぐさま都が無事かどうかを確認した。

 

「だ…………大丈夫……? みや……こさん……」

 

「痛た…………何とか……大丈夫です」

 

 腰を抑えてその場を立ち上がる都の状態を軽く確認して、俺たちはさっきまで立っていた船の方に視線を向けると…………

 

 激しく燃え上がりながらどんどんと海の底へと沈んでいっていた。

 

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