9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
激しく燃え上がりながら、海の藻屑へと沈みゆく船を眺めて無事を祈る。
聞きたいことは山ほどあるあの女の人と、償うべき罪を持ったあの男の無事を。
「…………」
完全に沈みきってしまうまで、もしかしたらの可能性を信じてずっと待ってはいたが…………あの男も女の人も現れることはなかった。
なんとも言えない気持ちが心の中を駆け巡る。
「きっと……大丈夫だよ。色んなことがあったけれど…………また、会える」
まるで俺の心情を察しているかのようなことを言ってくれる都にビックリとしながら、横にあった俺と比べたら小さな手を優しく握る。
「あぁ……そう信じてるよ」
都はそんな情けない俺の手を力強くも優しく握り返してくれた。
「終わったんだよな……アイツのことは全部」
「…………助かったかな。ちゃんと生きていてくれてる…………かな」
「さぁ。わからないけど…………最後に言ってくれてたみたいに、何らかの手を打って都を解放してくれたらしいし、なんにせよそれを確認してから……だよな」
秘密裏に行っていた。なんて言ってたから、近衛 悠は普段から犯罪に手を染めて複数の罪を犯していたのだろう。
あの発言からも、あの女の人の妹も売ったかのような反応だった。それら全てが露見したということは、オーナーであるアイツ自身はもちろん、会社も生きては行けないだろう。
となると自然と権力や地位は無くなっていき、警戒心を強めたコロナグループも距離を取ってくれると思う。
これで…………よかったんだ。
「…………っ」
すっかりと炎の明かりが消えて、薄らと暗くなる闇に包まれたその時、いきなり都が俺に顔を押し付けて抱きついてきた。
「……………………っ!」
「どうしたんだよ、都。急にそんなことされたら照れる」
「……! 怖かった……! あの人とずっと一緒に暮らしていく未来を想像する度に怖くて怖くて逃げ出したかった……!」
そんな冗談も通じないほどに、都は心の底を見せてくれている。
「でも、会社や家族みんなを潰すって脅されて……! 蓮太くんもみんなも殺しちゃうって言われて……! 逃げ出せなかった……」
そんな都の頭を優しく撫でる。
「大好きな人にあんなに酷い言葉を言っちゃた事が……とっても辛かった……!」
自由に動く左手で、何度も何度も優しく撫でる。
「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
彼女が流すその涙で、どれほどに大きなモノを背負っていたのかが感じることが出来る。自分の行動一つで周りの人たちが絶対的な力の前に為す術なく無くなってしまうプレッシャーなんて……どれほどに辛いだろう。
どれだけ逃げ出したかっただろう。
どれだけ悩んでいただろう。
考えても考えつかない目に見えない恐怖は、彼女をここまで弱くしてしまったのだ。
「都が謝ることなんてないよ。何も悪いことはしてないんだから」
ぽんぽんと頭を撫で終わると、半歩離れて彼女の目を見て気持ちを伝える。
「むしろ……今までよく頑張った。よく耐え抜いた。俺たちのために何もかも背負い込んで、全部引き受けてくれて…………だからおあいこ、引き分けってことで」
「……うっ……! うっ…………!」
「それにしても、都を守れてよかった。満身創痍だけど……今俺の目の前に“自由”を手にした
ある意味ではこれで良かったのかもしれない。
この事件をきっかけに、俺は彼女のことが好きだと理解することが出来たから。
「でも……さ、都が助かる未来を掴む。これだけで俺は嬉しかったはずなのに…………今はちょっと違うんだ」
「建前を言えば、これから先どんな悪い人が都を狙うか分からない。アイツもまたなにかしてくるかもしれない。だからこそ…………なんて言ってみたりする」
「けど本音は……その…………、やっぱり……俺は都のことが好きだから……さ。ずっと隣に立っていたい。今みたいに……これからも」
そして本当に俺の事を好きと言ってくれたのなら、人生で最悪だった一日を、最高の一日に変えてあげたい。
「だから…………」
俺は止まれなかった。
全ての枷が外れた瞬間にこんなことを言うのはお門違いだとも思ったりしたが……様々な想いが溢れてきて、気がつけばひたすらに言葉を紡いでいた。
涙でぐしゃぐしゃになっている都に向かって片膝をつき、姿勢を低くして見上げるように心を伝える。
「九條 都さん。貴女の事が大好きです。どうか俺と付き合って下さい」
俺が話す言葉を途中で薄ら薄らと感づいていたのか、再びうるうると瞳を濡らしていた彼女は、真剣に俺の言葉を聞いてくれていた。
「これからどんな困難があっても、どんな大きな壁があっても、貴女を守り乗り越えてみせます。だから……俺の隣にいて下さい。俺の……彼女になって下さい」
本気の眼差しで都の瞳を見つめる。
今こんなことを言うのは……ちょっとアレだけどこの気持ちだけは、心だけは伝えたかった。
守りたいだとか、救いたいだとか、色々なことを盾に叫んできたけど、やっぱり意地でも助けたかった最大の理由はこれなんだ。
好きだから、大好きだから辛い目にあって欲しくなかったし、笑っていて欲しかった。
でも……その相手は俺じゃないと嫌だったんだ。
俺と一緒に笑ってくれる都が…………
「わっ……! わたっ……しっ…………も…………!」
そんな時、都の口が開く。
耳まで赤色に染めながらも一生懸命に涙を我慢し、何かを紡ごうとするその姿は……可愛かった。
「本当は……! 貴方の事が好きでした……! 何をしてても1番に考えちゃって、思いつくのは貴方のことで……気がつけば毎日貴方のことを考えてました……」
恥ずかしがりながらも、彼女は気持ちを吐露してくれる。
「誰にも負けないくらいに大好きです。だから……その……! お、おおおお、お付き合い……! して下さい……ッ!」
ギュッと目を瞑って絞るように繰り出したその声は、頭の中がパンクしかけているんだなぁと感じ取ることが出来る言葉だった。
俺が告白したのに、まさかの告白し返されたから。
そんな面白い返しにもしっかりと我慢して、
ゆっくりとお互いの唇を近づけていき…………
遂に2つの影は重なり合った。
2つの柔らかいモノが深く重なり、顔をかたむけて合わせ続ける。
緊張のせいで2人とも唇が震え、心音はどんどんと高ぶっていく。そしてゆっくりと合わせた唇を離すと…………1周回っておかしくなったのか、妙に落ち着きのある表情で、お互いに顔を見合せた。
俺と彼女の
俺たちはお互いに心の底を知ったのだ。きっとこの繋がりは、俺たちを強く強く引き付け合うだろう。
どんなことが起きようとも、どれだけ離れようとも。
重なったこの想いは、二度と壊れることはない。
だからこそ、俺たちは心だけじゃなく、言葉も重なった。
「「これから、よろしくお願いします」」
「「ずっと……大好きです」」