9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
都と結ばれたあの瞬間から、それなりに時間が経過した。
無事に何とかあの仮面の男をとの戦いから生き残ったみんなとも合流を果たし、ことの事情を全て伝えた後にひとまず解散をする形となった。
けれど、結果的に協力してくれていた高峰は最後の最後まで姿を見せず、連絡の一つも返してくれなかった。どれだけRINGでメッセージを送っても、既読が表示されるだけで何も帰ってこない。
流石に画面を開いたままというのは考えづらいことから、一応生きてはいるんだと思う。
最後に確認できていた位置情報を頼りに探しては見たが、戦闘跡が残っているだけで誰もその場にはいなかった。
こうなったのなら仕方ない。これだけ探しても見つからなかったんだから……明日明後日学園に確認しに行くしかできることが無さそうだ。
そう判断して、次に俺が行ったことは都を家に送り届ける事。するとあの人が言っていたとおりに多大な問題が多発したのか、深夜だと言うのに九條家の人たちは慌ただしく働いており、様々な対処などをしていた。
その内容まではわからなかったけど、ただ一つ理解出来たのは、都の両親もお祖父さんも仕事絡みの問題を対応しながらひたすらに心配していたのは娘である都自身の事だった。
彼女の無事を確認できると、涙ながらに彼女を抱きしめて、「よかった」と何度も何度も言葉をこぼしていた。
どうやら近衛 悠の行ってきた問題は本当に露見していたらしく、彼の自宅や関係者たちは、現在非常に厳しく捜査させられているとのこと。都の事も捜索依頼を頼み、警察たちが目を光らせて探している最中なのだという。
そして会話の流れで俺たちの知っている全てを説明し、ついでに都が付き合っていることをうっかり喋ってしまった。
今のこの流れからそれがバレたらまた新たな問題が出てくるんじゃないかとヒヤヒヤしていたが…………俺のボロボロになっている右腕を見て、迷惑をかけた謝罪と、お礼を言われ、「娘を頼む」と彼女の父親からお願いされた。
あんなことがあって、娘は誰にも渡さないと心に決めていてもおかしくはないと思う状況で、俺を認めてくれたのはこの人の器の大きさなのか、それとも都への信頼なのか。
この時は知る由もなかったが、後で都にその理由を聞いてみると、どうやら家庭でちょこちょこと俺の事を会話の中で伝えていたらしい。
明言はしていなかったが、実際にナインボールで見かけた事や、都自身の初恋の相手ということもあって気持ちを優先してくれたのではないか? との事だった。
そしてそれからは俺の右腕の治療、都のお父さんが手配してくれた医師の急患としてまさかの往診してもらうという贅沢を初めて経験した。
ものの数分で駆けつけてくれた医師は、テキパキと俺の腕を様々な方法で診ると外部の怪我の度合いにしては骨は意外と軽傷だということが判明した。
医師曰く、こんなバランスのとれていない骨折を見たのは初めてとの事。そんな結果になった一番の理由は…………おそらくルナだろう。
口や態度は悪いが、あいつはそういう事をしてしまうやつだ。
そんなこんなで入院を勧められたが、単純に療養生活が苦手だった為、やんわりと断り続けていると毎日の検診を条件に自宅では暮らしても良いと判断してもらった。
他にも色々と理由はあったが……とにかくこれで
そしたら片腕とはいえ利き腕が不自由なら日常生活も大変だろうと言うことで、まさかまさかの都が俺の面倒を見るということを理由に怪我をしている間だけではあるが、俺の家で寝泊まりすることになった。
これには……流石にド肝を抜かれた。仮にもあんなクズ男に翻弄されて娘が絶体絶命のピンチに陥っていたというのにこんなことを許していいのか? なんて思ったが…………最大限の信頼の証として受け取った方が良さそうだ。
期間限定の同棲生活、いつまで続くかはわからないが…………せめて彼女が心に負った深い傷を少しでも忘れられるようにしなきゃ……と、強く思う。
それは友達として、人として、男として…………彼氏として。
泣かせる時は嬉し泣きだけにしようと心に誓った。
「鍵は……持ってる?」
「あぁ……このカードをかざせば……」
絶妙に扱いにくい左手を使って玄関の鍵を開け、俺たちは部屋へと入る。
「お邪魔します……」
割と大きな荷物を運んできた都を先に入れ、とりあえずリビングへと移動し、俺たちはちょこんと床に座った。
彼女がこの部屋の中にいることに違和感を感じながらも、頭の中では本当に色んなことが駆け巡る。
あの人たちの安否や仲間たちのこと、これからのコロナグループの未来やレナとルナの状態、都の心情や俺の右腕、腹も減ったし風呂も入っていない。
それよりも大きく感じたのは────
「ふぁぁぁ…………」
絶大な眠気だった。
普段からは考えられないほどに身体を動かしたし、頭おかしいほどに能力を多用した。
その反動もあってか何も考えたくないレベルに眠たい。
「……ふふ。大きな欠伸だね」
「悪い……ちょっと気を抜きすぎてたかも」
時刻も深夜三時を過ぎている。明日学園に行かなきゃいけないことを考えても……六時……いや、六時半には起きておきたい。…………逆算したら二時間半しか寝れねぇ……
「ううん。そんな事ないよ、確かにたくさん考えちゃうこともあるけど…………今は大丈夫じゃないかな? 休んでも」
トコトコと俺の隣まで歩いてきて、横並びになるように都は近くに座ると身を任せるようにして寄り添ってくる。
「それに、今日一日は本当に頑張ってくれたから、休んで欲しいな。本当に、本当にたくさん頑張ってくれたから……」
「……頑張った甲斐はあったよ、都
こんな時に、いやこんな時だからか、まるで今この瞬間だけは色んなことを忘れるように甘えてくる都。
……考えても見ればそうかな。ずっと押し殺してきた気持ちをやっと隠さなくてよくなったんだから、満足するまで受けていよう。
彼女の素直な気持ちを。
「でも、流石にこのままはまずいよな。付けてもらったギブスはしょうがないとして…………オーバーフローを使ったせいで汗の匂いが凄い……着替える前に軽く流すか」
異常なほど汗が出たからな。滝かと勘違いするほどだった。
洗うのは朝でいいとしても……さすがにこの状態で寝たくはない。
「都も流す? シャワー使うなら先に入っていいよ。その間に布団の準備しておくから」
「え……? いや、でも……」
「大丈夫大丈夫、別に変な事しないから。あっそれとも……後に入られる方が気になる? それならパパっと済ませて直ぐに変わるけど」
世の中には色んな人がいるからな、誰かが使ったあとは嫌って人もいれば、自分が使った物を使われるのが嫌って人もいるだろうし、都がどっちか分からない以上は聞くしかない。
「そ、そういう事じゃなくて……! その右腕の怪我が……」
「あぁこれ? いいよいいよそこまで気にしなくても、料理とか手伝ってくれるだけで大助かりだから気にしないでくれ、布団くらいなら片手でも十分に────」
「で、でも! 片手だと……上手く洗えない…………と思うの」
「……………………ん? 洗う?」
手洗いうがいの事?
確かにさっき片手じゃ上手く洗えなくて結構時間がかかったけど……なんで今それなんだ?
「そ、そう……、それに、私は蓮太くんのサポート係だから…………!」
あ、いや、うん。色々と助けてあげてとご両親に言われてここに来てるから……まぁ、うん。
「……? うん」
「へ、変な意味じゃないよ! ただ単純に心配だから……あの……その…………」
なんか急にモジモジし始めましたけど…………え? どしたの?
「……どうした? なんか居心地悪そうな感じが……」
「も、もう! と、とととにかく先に入ってて! お布団の準備は私がしておくから!」
「え? あっ、はっ、はいっ!」
もどかしい何かを振り払うように、若干何故か照れながらも優しく都は俺を脱衣所まで連れていく。
な、何が起こったんだ? なんか都……情緒不安定じゃない? もっと優しくすべき……か?
やっぱり辛いことがありすぎて精神がちょっとブレたとか……俺の知らない精神病みたいなものがあって彼女を取り乱しているのだろうか?
いや、でも無理している様子も特になかったし……なぁ……
一応手早くシャワーを済ませて、彼女を確認してみよう。そんでもっともっと彼女に気を使ってリラックスしてもらって心を休ませてあげよう。
それくらいしか俺はできない。
そう言えば都、布団を準備するって言ってたけどどこに直してるのかなんて知らないよな? それに服とかの着替えを入れている大きめのカバンを開けてたし、まずは持ってきたものを整理でもするつもりなのだろうか?
だとすれば、本当に汗を流すだけで済ませたら俺の方が早く事を終えれるかも?
なんて考えながら風呂場に入って不器用な左手でシャワーでお湯を被っていると…………
脱衣所の扉が開いた音がした。