9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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都 After
もう一つの恋心


 

 あれから数時間、俺は都のお父さん経由で知り合うことの出来た医者に右腕を診てもらった後、家に戻って荷物を置くと公園をブラブラと歩いていた。

 

 現時刻は約18時半程度、約束の20時にはまだ早い。

 

 結局、深沢に聞き出したかったアーティファクトの事は聞き出せなかった。2人きりかアーティファクトのことを知っているメンバーだけになった時に聞き出そうかと思っていたのだが、意外とアイツは友達が多いようで常に誰かと話しており、そんな機会が巡ってこなかったのだ。

 

 でもまぁ……時間はまだまだある。これからいくらでもそんな機会は出てくるだろう。

 

 となると次に気になるのが高峰だ。アイツ……今日は学園へ登校していなかった。怪我をしていて動けないのだろうか? それとも…………

 

 なんてあの時は考えていたが、なにやら深沢は昔からの高峰の友人らしく、今朝、駅前のパン屋で顔を見たとの事。学園に来ていないだけでちゃんと生きているようでよかった。

 

「よいしょ……」

 

 公園のベンチに座り、これからの動きや生活を考える。

 

 都の会社の問題は俺の管轄外だ、その辺はどうする気も権利もない。彼女はこれからも俺が守っていくとして……次の問題がイーリス。

 

 結局アイツは俺に差し金を向けては来たが……いつの間にかのタイミングで急に攻め入ることをバッタリと止めた。アイツはソフィと同じ異世界人らしいから、ソフィと急に連絡が出来なくなった翔の事も含めて何か別の問題が発生してそうだ。

 

 今はソフィが連絡を行えない事と同期していて、イーリスも何も出来ていないと考えるしかないだろう。

 

 次にアーティファクト集めの件。都が所持しているアンブロシアはたった一つであり、それはハイリスクを背負うという禁忌、言わば最終手段。それを使わないという線を考えると、やはり《奪う》能力を使わざるを得ないだろう。

 

 それには都の多大な労働を強いることになるが…………しょうがない。それしか手段がないのだからゆっくりと少しずつ回収して回ろう。

 

 そして絶対に外せないのが、天ちゃんを襲ったあの────

 

「こんな所で一人考え事なんて、貴方はよっぽど手を余しているのね」

 

 ちょこんと隣に座ってくる女の人。ウチとは違う制服に身を包み、他人とは思えない接し方で声をかけてきたのは…………

 

「ん? おぉ、偶然だな希亜」

 

「三度目よ、声をかけたのは」

 

「あ……すまん、ちょっと考え事してた」

 

 ……二回も声をかけられて全く気が付かないなんてやばいな、俺。

 

「いいわ、別に大した用事はないから」

 

「そうかい」

 

 今日は珍しくこの公園に人がいない。普段なら移動販売のおっちゃんや子供たちが遊んでいたりするのだが……まぁそんな日もあるだろう。

 

 だからこそ、俺たちはこの公園で2人きりになっている。

 

「…………ん」

 

 いきなり希亜が差し出してきたのは少し温くなった缶コーヒー。近くの自販機で100円で売っているやつ。

 

「……? どうしたんだ? これ」

 

「コンビニでキャンペーンをやっていて当たったの。私は要らないから貴方にあげる」

 

 だから温かったのか。なるほど……

 

「そういうことなら貰おうかな、ありがと」

 

 その割には手荷物がないけど、何か食べ歩きでもしたのか? って、別に人のことを注意できるほど俺も行儀は良くないが。

 

 ま、いちいち嘘を言う必要は無いし、カバンも持ってないから家にでも帰ってきたんだろ。

 

「んっ…………んっ…………意外と美味いな」

 

「九條さんは? せっかく交際を始めたのにいきなり放置しているの?」

 

「んなわけねぇだろ、都は今日はバイトだ。今日は休んどけって言っても全然聞かねぇんだよ。みんなに迷惑がかかるからってさ」

 

「それでここにいると言う訳ね」

 

「そーゆーこと。一応夜にあの爆発女との約束があるからナインボールには行くから、そん時に気にしてみようとは思ってるけどさ」

 

「…………そうね、そうしてあげなさい」

 

 なんか……希亜テンション低いよな。元気がない訳じゃなさそうだけど……って。理由は分かりきっている。

 

 俺は…………希亜から告白をされていた様なもんだ。

 

 気まずさを出さないようにはしているが……何も思っていないわけじゃない。

 

 

 

 

 

 俺……希亜に好きって言われたんだよな。

 

 

 

 

 なんて声をかければいいのかわからない。どんなフォローが必要なのかも、何をすべきかなのかも。

 

 普段通り、いつも通りに接することしかできない。

 

 そんな時だった。アレを思い出したのは。

 

「希亜」

 

「何?」

 

 スっとポケットから黒色のヘアピンを取り出し、希亜の手のひらに乗せるように渡す。

 

「これ、預かってたやつ。返すよ」

 

「……そう言えば貸していたわね」

 

「これのおかげで勇気が湧いてきた。だから助かったよ、ありがとう」

 

「貴方の力になれたのなら……それでいい」

 

 相も変わらず希亜の態度は変わらない。どこか距離を置くような……なにか一枚の壁を挟むようなそんな距離感。

 

 誰よりも仲が良かったのに、誰よりも遠く感じる。

 

「貴方……これから時間はある? ほんの少しでいいのだけれど」

 

「え? あぁ……まぁ」

 

「なら行きましょう」

 

「え……!? あっ……おいっ!」

 

 強引に会話を進ませ、俺を導くように希亜はベンチから腰を上げてスタスタと歩いていく。

 

 返事を待たず、振り向かず。

 

 ひたすらに歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい……! 希亜!」

 

 行こうと言っておきながら全く俺を待たない希亜に不思議に思いながらも俺は彼女が進む道の後ろをついていく。

 

 そうして辿り着いた場所は、過去に二度俺が訪れたことのある建物。廃ビルだった。

 

「ここは……」

 

 希亜はまだ歩みを止めずにただただ無言でその建物の中へと入っていく。

 

 そして階段を上り、辿り着いたのは屋上。

 

 ここも今となったら懐かしい。暴走した俺をみんなが止めてくれた場所だ。

 

 その屋上の歩けるギリギリの場所まで歩くと、彼女はずっと黙ったまま足場のない先を見る。

 

 俺も隣に追いついてその視線の先を見てみると…………

 

 いくつもそびえ立つマンションや家。そして数え切れないほどに様々な場所を通る車。高速道路や大きな駅。

 

 賑やかな街を優しく照らす夕日。

 

「…………綺麗だ」

 

 ここってこんなにも景色が良かったのか。風も心地よく通っており、この建物自体が高い場所に建てられているせいか、この白巳津川の街を隈無く見渡すことが出来る。

 

 本当に……美しい景色だ。

 

「あの時から気に入っているの。私と貴方が初めて出会ったあの日から」

 

「初めてあった日ってお前……」

 

 あの時、希亜は学校に行ってた訳じゃなかったのか? この屋上にきて、上から俺とレナのことを見てたり……とか? 

 

「あの日から、怖いことがあった時や心に喝を入れる時はここに来ていた。この場所へ来るとあの日を思い出して勇気が湧いてきたから」

 

「希亜……」

 

「貴方にとっては辛いことがあった場所だったかもしれないけれど、私にとっては一番嬉しいことがあった場所。もちろん暴走の件じゃないわ」

 

「…………あぁ」

 

 それは、今分かった。

 

 さっきからずっと気になっていたことがあったし、その謎も解けたから。

 

 希亜が言わんとしようとしている気持ち。そしてこの違和感。多分……全部繋がっているんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいたよ。希亜が俺の事を“蓮太”って呼ばないこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「辛くなんかない。よりみんなと仲良くなれた思い出の場所だ」

 

 俺は……どうしたらいいんだろう。なんて返せばいいのだろう。

 

 もしも、彼女の心の声を聞いてしまった時は。

 

「私にとっても思い出の場所。初めての……思い出……」

 

 クルッと希亜は俺の方へと身体の向きを変えて、真っ直ぐに俺に瞳を見つめて、悲しいような嬉しいような、苦しいような、切ないような。

 

 優しい顔をしてほんの少しだけ笑顔になった。

 

 

 

「初恋の……思い出の場所」

次回の枝は……?

  • 新海 天
  • 香坂 春風
  • 結城 希亜
  • ゴースト
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