9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
《視点切り替え》
「お疲れさん」
俺の理不尽な暴力によってボロボロになっているこの男の首を掴んで持ち上げる。俺と出会った時は既に身体中を怪我していたこともあって連れ出すことも、お礼をする事も簡単だった。
「はっ……! はぁ……! はぁ……!!」
「呼吸をするのも苦しそうだな。まぁしょうがないか、随分と派手に蓮太に殴られてたもんな、お前」
パクパクと口を何度も開かせながら、陸に上がった魚のように瀕死のこの男の首をさらに締める。
「おかげで《オーバーフロー》は目覚めた。もうお前には用はないよ」
「あぐっ…………!?」
「って……あれか、能力を解除しておかないと次のやつに使えないのか。えぇっと……そら、元に戻ったか?」
右瞳の奥から青い光が放たれ、苦しそうに足掻くこの男にかけていた能力を解除する。
ついでに一応の確認の為にソイツを床にぶん投げた。
「ごほっ……! けほっ…………!!」
「返事はできるか? 自分の名前くらいは言えるだろ?」
「ふざ……けるなっ!!」
目の前に倒れ込む男は血を流しながら立ち上がり、慣れていない動作で俺に殴りにかかる。
が、振り上げられた拳が俺に当たる寸前で、《鏡》を出現させて停止させた。
「無駄無駄……お前はこれに負けたんだろ?」
「ふざけるなっ! ふざけるなっ!!!!」
それでもその男は《鏡》にむかって何度も何度も殴り掛かる。
「僕の事なんかはどうでもいい……! 家庭も……人生も……もうどうでもいい……! けれど…………!!」
「都ちゃんに謝れッ!!」
一心不乱に何度も何度も《鏡》を殴る。余程頭にきているのだろう、自分の拳が砕けようともその行為を止めなかった。
「何言ってんだ、九條 都を傷つけたのはお前自身だろう? 俺が謝る理由はない」
「お前が……! 僕の身体を…………!!!!」
その男は遂に涙を流す。ヒビすらも入らない鏡を引きずるように血を残し、土下座でもするかのように縮こまっていた。
「都ちゃん……! 都ちゃん…………!!!」
「能力をかけやすかったから助かったよ、人間の心ってのは随分と脆いからな。特に恋心。あれはいい、最も強い感情だから簡単に俺の能力で
「お前の過去を見てきたが……随分と昔から好きだったんだな、あの女の事を。接触する機会はかなり少なかったことが原因かは知らないが……相手は全くお前の気持ちに欠片も気がついていなかったが」
「でも良かったじゃないか、お前の大好きな女は、今心の底から幸せになっているぞ? お前が悪役になってくれたおかげでさ」
「うぅっ……!」
もう何も抵抗をする気も起きないのだろう。不可抗力とはいえ自分が行ってしまった出来事と、もう望みの見えない未来を考えた時に、絶望しか待っていないことに。
九條 都は竹内 蓮太とくっ付いた。この事実だけでもコイツの心には相当なダメージだろうに……これだから面白い。イーリスのやってる事の楽しさがわかる。
「相当嫌われてるだろうな、お前。直接手を出したりもしたし、薬物に武器の密輸、人身売買、人間奴隷化と散々遊んだからな……元に戻っても生き地獄しか待ってないだろうよ」
「なんで……なんで僕が……! 僕が何をしたって言うんだ…………!!」
「別に? 何もしてない。ただ単純に《オーバーフロー》の覚醒に丁度よさそうなのがお前だったってだけ」
「…………!!」
「でもまぁ良かったじゃん。大好きな女の身体を少しの間だけとはいえ楽しんだんだろ? 別世界じゃあ散々ボロボロにしてるし……むしろ俺に感謝すべきなんじゃねぇの?」
「ちがう……! 違う! 僕は都ちゃんを襲いたかった訳じゃない!!!! ただ一緒に……笑ってたかっただけなんだ……!!」
「ま、俺が全部無駄にしたんだけどね」
人間を主役にした人形劇、コイツは本当に傑作だ。アイツがわざわざ物語を作ってまで《魔眼》を回収しようとする気持ちは俺にもよくわかる。
こうやって最後にネタばらしをするのも最高だが……何よりも面白いのは、何も知らないクセに幸せを感じているあのバカ二人だ。
罪の無い人間を自分勝手に裁いて優越感に浸るあのバカ共が……ははっ……! 考えただけでも高ぶってくる。
「じゃあ何? 今度は
「そんなことはしない……! 都ちゃんが本当に心の底からその人を愛しているのなら……僕は背中を押すんだ……!」
「あの男に全てを奪われてるんだぞ? 今頃は二人で盛んになってるんじゃないか? もしかしたら
わざとに精神を追い詰めるように差し向けてみる。
「だとしても……! 僕は都ちゃんが幸せならそれがいいんだ……! 僕とじゃなくても、本当に笑っているのなら、僕は────」
「つまらん」
しょうもない返答を聞いたあと、時間を無駄にしたと思いながらも能力を使う。
手のひらから映し出される
「そもそもとして生かすつもりもないがな」
ゴンッと意味もなく取れた頭を蹴り飛ばし、背後に置いてある椅子に座る。
「さて……次の世界ではどうなるかな。っと…………もう限界か、そろそろ戻るか」
「おい」
パンッと手を叩き、近くにいるであろう人物を呼び出す。
「なーに? ってうわ! もう殺しちゃったの!?」
「俺はもう戻る。そのゴミを始末しておけよ」
青い髪をクルクルと回すように触るこの人物に適当に令を出すと、俺は元々の世界に
《視点切り替え》
「やれやれ……なんであんなに偉そうなのかな」
そもそもとして僕はアイツの命令を聞く理由はないんだけど。
「ま、いっか。アンブロシアとか借りれてるし」
コンコンと歩く度に靴の響く音が聞こえてくる。そして僕の目の前に倒れているあの男の死体。
僕は汚いものを触るかのように手を伸ばしてズルズルと引きずっていく。
ついでに頭も持って。
「残念だったね、まっ
次回の枝は……?
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新海 天
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香坂 春風
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結城 希亜
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ゴースト