9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「それで、にぃやんのファイナルビルダーズのデータ消してやったんすよ!」
「容赦ねぇな……」
いつもと変わらない日常。いつもの変わらない光景。現段階でアーティファクトによる事件が起きているだなんて、自身が経験していない限りは信じもしなかっただろう。
まぁ、この日常もアーティファクト事件のおかげで手に入れられたと言っても過言では無いのだが。
ただ、気になることが出来た。
「それとね────」
「危ねぇッ!?」
俺と天ちゃんが並んで歩いているところで、遠慮なく天ちゃんにぶつかるように通りすぎていく自転車。これでもう3回目だ。
「大丈夫か?」
大慌てで腕を引き、天ちゃんを抱くようにして身を寄せる。もうこれが数回起きているからか、天ちゃんはどこか怯えるように過ぎ去った自転車を見つめていた。
「うん…………ありがとうございます……」
「最近は変な輩が多いんだな。人が歩いているのに速度も落とさねぇで通過するなんて」
でも不思議なのがどうも悪意があってああいうことをした訳じゃなさそうな所なんだよな。なんつーんだろ……それが当たり前って言うか、普通って言うか。
「…………」
天ちゃんは無言のまま、俺の服の袖をキュッと強く握る。
そして小刻みに震えているかのようにも見える彼女は、じーっと塀しかない場所を見つめていた。
いや……決してそこを見ている訳では無いのだろう。何かを真剣に考えているようだった。
《記憶をインストールする》
「うっ…………っ!!」
その瞬間にズキンと脳が膨張するかのような痛みが頭に走る。思わず目を瞑り片手を抑えてしまうほどの激痛だ。
しかしそれは一瞬で止まり、何事も無かったかのようにすんなりと痛みは引いていった。
「先輩……?」
そして第一に思ったことは…………
「天ちゃん、今日は俺と一緒に学園サボろうぜ」
「……え?」
「なんか面倒になってきてさ、どうだ? ゲーセンでも行くか?」
俺が感じたことが本当なのか嘘なのか、夢なのか現実なのかわからないが、強く心の底から思ったことがある。
このまま天ちゃんを学園に連れて行っちゃダメだ。
きっと……彼女は深く傷つく結果になると思う。モヤモヤと頭の中に渦巻く直感がその答えを出したんだ。
「で、でも……学校行かなきゃ……」
「1日くらいいいって、
半場強引な形ではあるが、嫌なことが続いているこの子を楽しませる為に、手軽に遊べるような場所を探すように手を引っ張って歩く。
その先はもちろん学園とは反対方向へと向かうどこかだ。
「ま…………まぁエロパイがモック奢ってくれるなら行ってあげようかなぁ〜!」
最初こそは疑問を感じ戸惑っていた天ちゃんだったが、気持ちを切り替えるかのようにいつものような元気な声を出して歩く。
「天ちゃん何でもかんでも人に奢らせすぎじゃね?」
「いい女は財布を持ち歩かない」
「じゃあなんで天ちゃん財布を持たないの?」
「ひどい」
それからは会話を途切れさせることなく、ひたすらに話題をコロコロと変えつつも言葉のキャッチボールを続けた。
全然関係の無い事や、勉強やバイト。わりかし大事なことも。
ひたすらに話し続けた。
…………
……
……
「いらっしゃいませー」
手にしているカバンを邪魔だとも思いながら、割とモックの話しかしない天ちゃんと一緒に店に入る。無愛想な店員の挨拶を聞き流し、メニューを確認するが……
「そっか、今の時間帯は朝モックか……」
俺朝モックって何があるのか知らないんだよな、そもそもモックにあまり来ないから……何にしようかな。
「あたし……マフィンがいいかな〜」
「ん〜……じゃあ俺もそれでいいや。そういやアイツらって何食うんだろ」
「アイツらって、ゴーストさん達のこと?」
「そ、前に一度テリヤキとシェイクを口にしてたけど、今の時間帯は無いからな。まぁ来てから頼めばいいか」
アイツらだって好みぐらいあるだろ。好きなの食わせりゃいいや。
「すんません、このタマゴの……エッグ? のやつをセット2つ分お願いします。サイドは────」
なんて言葉じゃ分かりづらいだろうから、頼みたいものを指で差して店員に伝え会計を進める。
「天ちゃんは座ってていいよ、後で俺が持ってくから。つーか席確保しといて」
「うぃ〜っす」
てくてくと歩いていく天ちゃんを横目に会計を済ませ、注文した物が出来上がるのを持っていたら、店内が静かだからかレジの奥側の会話が聞こえてくる。
「凄いね、あのお客さん。朝からあんなに食べるなんて」
……?
「でも後で連れの人が来るらしいですよ? なんか「あいつら」って言ってたんで、その人たち用じゃないですか?」
「まぁどちらにせよお金を頂いている以上はしっかりとしなきゃね」
「はーい」
朝だとはいえそんなに珍しいだろうか? 人によっては全然頼む量だとは思うんだが……にしても、何だか違和感を感じる。
盗み聞きをしていた訳じゃないが、聞こえてきた会話に引っかかるんだ……
「お待たせしました」
「どーも」
「ドリンクの方は直ぐにお客様の席にお持ち致しますので、少々お待ち下さい」
「あい」
そして、マジで人が少ない店の中を歩いて周り、天ちゃんが座っている席を見つけるとその場所へと俺も向かう。
「ほい、これが天ちゃんの分」
俺が来るまでスマホとにらめっこしていた天ちゃんは慌ててスマホをカバンの中にしまうと、いつもの無邪気な笑顔で食べ物を受け取った。
「モックモック〜」
「おかげで早速千円も使っちまったよ」
お釣りが返ってきたとはいえこれと同じくらいの値段でナインボールのハンバーグ食えるぞ。あーあ、なんかもったいね。
「あれ? コーラは?」
「後で店員が持ってくるってさ、まっ、そんな時間はかからないでしょ」
「ふーん。エロパイは何頼んだの?」
「ん? いや、同じやつ頼んでんじゃん」
「ちーがーう! 飲み物!」
「ミルク」
「ミルク……?」
若干微妙そうな顔をする天ちゃんを見ていると、ツカツカと店員がこちらに歩いてきて、両手に手にしているミルクとコーラを2つとも俺の前に置いた。
「お待たせしました〜」
そうしてテンプレのような言葉を並べてそそくさと戻っていく。
……?
「ほい、天ちゃんのコーラ」
そう言って手渡したコーラを受け取った天ちゃんは、またもやほんの少し曇った表情をしていた。