9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「それで? いきなり顔を出してきてどうしたんだよ」
天ちゃんと2人で俺の家へと移動し、突如として現れたソフィにそう質問する
。ソフィはソフィでさっきのことに怒っていたようではあったが……まぁ別に気にはしない。
「どうしたもこうしたもないのよ、アナタのせいでどれだけ苦労したことか」
「苦労ってなんだよ」
「まずは謝罪をして欲しいところではあるのだけれど、まぁいいわ」
毎度の如くふてぶてしい態度で俺たちの前を飛ぶ人形は、コロコロと様々な色に姿を変えながら会話を続ける。
「本当に厄介なことになっているわよ、アナタのその能力」
「いきなり何の話だよ……」
「……?」
「奇跡の力を制御できていない。暴走では無いけれど…………そうね、例えるのなら小さな穴か空いている風船に空気を入れ続けている状態。とでも言えばいいかしら」
ぴょこぴょこと無駄に可愛らしく小さな手を振りながら、ソフィは説明を続ける。
「単刀直入に聞くけど、ソラ、アナタ《ネクタル》を打ち込まれて能力が暴走していたでしょう?」
「……は!?」
「なぁに? 何も気がついていなかったの? ソラが拘束されてアナタ達が助けに行ったあの日、ソラは間違いなく《ネクタル》を打ち込まれていたわ」
「そうなのか!? 天ちゃん!」
ギクリとほんの少しだけ身体を震わせて微妙に反応を見せる天ちゃんは、細々とした声で教えてくれる。
「実は……背中の
「────ッ!?」
それで今日1日おかしかったのか……! 思い返せば全てが天ちゃんのことを無視しているかのような1日だった。機械からも反応されず、店員からも相手にされず。
結局俺が想定していたよりも事は深刻だったってことかよ……!?
「で……でも、先輩は何故か覚えててくれて、それで……」
……確かにそうだ。俺は別にただの1度も天ちゃんの事を忘れたりなんかしていない。天ちゃんの能力が存在感操作なのなら、その力の先……ソフィは暴走って言ってたな。もしそれが起こったとするのなら、存在感は…………消滅してしまうことだと思う。
忘れるを通り越して、消滅。
それは人々の記憶から、数々の人の中から、世界から。
「でも、俺は一瞬も忘れたりなんかしてないぞ!? ずっと覚えてたし、何も起きなかった」
「それが問題なのよ。カケルとの強いキズナがあってもかき消されてしまう程に強い力をもアナタは越えてきた。そして、もうソラの記憶は皆に戻ってきているわ」
「戻る? 思い出してるってことか?」
「そうよ。きっと長期に渡ってレンタと接触していたことで、奇跡の力がほんの少しだけソラを救ったのね」
……そういえばさっき天ちゃんはスマホを使って連絡をとっていた。コンビニのセルフレジをタップすることは出来なくて、自動ドアにも認識されていなかったのにスマホに反応されるのはおかしい。
「なんでなんだ……? そのさっきからソフィの言ってる奇跡の力ってなんなんだよ。アーティファクトの暴走すらも止めることの出来る力って」
「……ま、いいでしょ。オーバーオールを探すためだものね。最低限教えてあげる。アナタ……レンタに宿されている奇跡の力、名前は《オーバーフロー》。使用した対象の進化を可能にする力」
《オーバーフロー》……進化。
それもアーティファクト……なのか?
「アナタが選ばれたのは《魔鏡》だけではなく《オーバーフロー》にも反応されたのよ。世界をも壊しかねない補助の力にね」
「…………。《オーバーオール》がどうのこうの言ってたな」
言い方は違うにしろ、とりあえず俺は2つのアーティファクトに選ばれたってこと。まぁ選ばれたって点で言えば
「そう、全てのアーティファクトの頂点に立つ3つの力。王の素質を持った力の中で最も害悪な力。《オーバーオール》。それを見つけて欲しいの」
「見つけろっつったてなぁ……」
いきなり出てきたかと思えば特定のアーティファクトを優先して見つけろだなんて……無理言うなよ。
「今すぐになんて思ってはいないわよ。現在の問題を解決しつつ並行作業でお願い」
……ま、コイツにしては珍しく下手に出てるからいっか。
「それで? そのアーティファクトの特徴は?」
「知らないわ」
「は?」
「見たこともないのに知ってるわけないでしょ」
「は??」
何言ってんのコイツ。どゆこと? 本人でさえも知らないものを取ってこいと? アホなの?
「でも能力は知ってる。《オーバーオール》の能力は“吸収”よ。能力の吸収。だから怪しい人がいたのなら、その人物を教えなさい調べてあげるから」
「調べてあげるつったってお前…………まぁいいや。それっぽい人がいたら伝える」
「ええ、よろしく。あと、一応伝えておくのだけれど、ソラ」
「え? あ、はい」
「アナタの能力の暴走はまだ収まってはいないわ、レンタの力で辛うじて進行が遅れているだけ。そのまま放っているとアーティファクトに精神がやられてしまうわ」
声のトーンは相変わらず変わらないままで、ソフィは淡々と説明を続ける。その言葉を聞きながらも内心感じていたのは、もしあの時に俺が天ちゃんと学園に行って離れてしまったら……一体どうなっていたのだろうということだった。
「これからはできるだけレンタの近くにいること。そして進行が遅れているうちに心を強くして何とか力を抑えなさい。私もできるだけ急ぎで《霊薬》を作ってあげるから」
ただでさえあんな状況になっていたんだ。もしも俺すらも天ちゃんのことを忘れてしまっていたのなら…………
想像しただけでもゾッとする。
「つか何? 霊薬を作るって?」
「現在現物として残っている《霊薬》アンブロシアは本来アナタ達の身体には合わないものなのよ。だからこの世界の人間に適応できるレベルの霊薬の開発を急がせてる。それを打ち込めば比較的安全にアーティファクトとの契約を解除できるわ」
……なるほど。
「暴走した能力は抑えることの出来ない力……って事なのか」
「そうね。例えアナタの奇跡でも完全に消すことは出来ない。0に等しい1を残すことは出来るけれど……それだと時間が経てばもう一度暴走するでしょうね。それこそ何度も何度も能力を使用すると……」
そう答えるソフィの声は、ほんの少しだけ感慨深そうだった。まるで経験談を語っているのかのように酷く悲しい声は、その重さを感じさせる。
「……わかった。とにかく俺は天ちゃんと一緒に入ればいいんだな?」
「そう、小一時間程度なら離れてもいいでしょうけれど、油断しない事ね。半月もあれば完成すると思うからそれまでは何とかしなさい」
「了解……」
「じゃね」
最後にぴょこぴょこと片手を動かして、軽いのノリで空間を拗らせて出現させた狭間に吸い込まれて、その姿を消すソフィ。
ソイツを見届けた後、俺は天ちゃんと改めて話すことにした。
これからについて。